幼少期に本や漫画、アニメなど、様々なジャンルの日本のコンテンツの虜になった佐伯英毅さん。そんな彼が働き先として選んだのは、一風変わった出版社「コルク」だった。「好き」を仕事にした彼から学ぶ、就職活動のヒントとは。
1.海外にいたからこそ、日本のコンテンツが好きになった。
――まず、いつ頃から本や漫画が好きになったか教えてください。
佐伯:小学校4年生くらいまで、親の海外転勤でオランダとロンドンに2年ずついたのですが、日本の漫画を凄く好きになったのは、海外から帰国してからでした。
当時は、外国人に対するいじめが激しかったんです。オランダ時代に通っていたブリティッシュスクールでは、僕がおにぎりを食べていたら、「こいつ、スパイダー食ってる!」と言われ、トイレにおにぎりをバーンと投げられたこともありました。翌日母に「サンドイッチとリンゴにしてくれ」と頼んだのですが、翌日リンゴも投げられて。食べ物の問題じゃなかったんですよね(笑)
なので、現地にいた日本人とばかり遊んでいて、近所の中学生のお兄ちゃんに、よく漫画を借りたりしていました。
海外では、漫画の単行本はいっぱい売られているんですが、当時ジャンプのような漫画雑誌はほとんど流通していなくて。だから僕は、ジャンプで連載されたものが単行本になっている仕組みを知らなかったんです。日本に帰国して、ジャンプに自分の知らない数話先が載っていることに衝撃を受けました。その時の、「ここが漫画の源流なんだ!」という感覚が嬉しくて、帰国してからは漫画をよく読むようになりました。
――大学に入学してからはどのように過ごしていたんですか。
佐伯:伊坂幸太郎さんの『砂漠』と森見登美彦さんの『四畳半神話大系』、その2つの作品の影響で、大学生活への憧れが強くありました。だから入学当初は複数のサークルに入って、分かりやすく大学デビューしたんですよ。最初はイケイケな先輩しかいないような、スノーボードサークルに入りました(笑)。
ある日、先輩の家での宅飲みから帰ってきた朝、その前に先輩の家で宅飲みしたのが先々週だったのか先週だったのか、何曜日だったのか分からなくなって……。「ずっと続いてるぞ、ループしてるぞ」と思いました。森見登美彦さんの『四畳半神話大系』は、何度も何度もループして大学生活をやり直す話なんですね。その時「これを4年間続けていたら、やばそうだな」と。
そこで「なんとか研究会というサークルのに入れば、就職に有利なんじゃないか」というかなり単純な理由で、片っ端からいろんな研究会を見ていって、結局広告研究会に入りました。でも、メンバーと揉めてしまって、やめちゃったんです。その後は、映画サークルに入りました。
――なぜまた映画サークルに?
佐伯:映画が好きだったので、一度撮ってみようと思って。でも、すごく苦手でした。映画を撮影する側って、撮影中は気配を消さないといけないんですよ。絶対静寂。それがあまり性に合わなかったんですよね。唯一楽しいと思ったのが脚本を書くことで、「これは想像していたのとは違うな」というのが実地で撮影してみて分かりました。その時、自分はおもしろいものや人を見つけるのはすごく得意だけど、0から1を生み出すクリエイターではないことを自覚しました。
――コルクのインターンに応募したきっかけは何ですか?
佐伯:クリエイターになるのではなく、普通に就職しようと考えたときに、漫画の編集者か映画のプロデューサーになりたいと思ったんです。ところが、大学3年の夏に受けた東宝のサマーインターンに落ちてしまって。
急に夏休みが暇になったところで、「島キャン」という、人口100人くらいの南の島「加計呂麻島」にある塩工房で働くインターンがあることを知りました。島暮らしに憧れがあったので、そこでひと夏過ごすことにしたのですが、4日くらいで海や自然に飽きてしまいました。(笑)ずっと同じカレンダーをめくっている感じで、景色が変わらないのが嫌でした。
そのとき、暇で暇で死にそうより、忙しくて死にそうな方が、自分は向いていると思いました。その晩に、他のインターン生のパソコンでWantedlyを始めて、島からログインして仕事を探しました。
出版業界も気になっていたので、いわゆる業界研究をすることにしました。調べてみると、出版業界の規模は小さくなっているのに、出版点数は上がっていたんです。それって怖い構造じゃないですか。数打つしかない、という。出版の制度が100年間くらい変わってないのにも驚きました。調べれば調べるほど、出版業界への不安が大きくなったんですね。
そこで、出版社に就職した先輩に業界のことを聞いたら、コルクのことを教えてくれたんです。媒体より個人、クリエイターに力がどんどん集まるような時代になってきていると思っていたので、コルクのサイトを見て、共感すると同時に、すごく面白そうだと感じました。「もうここしかない!」と思って、そのまま応募して。面接では「入社希望のインターンです」と言って入りました。
――インターンとして働いてみて、どうでしたか?
佐伯:まず、どういう会社か、どういう人がいるのかを知りたかったから、とりあえず「たくさんここにいよう」と思ったんですね。オフィスにずっといて、他の社員さんのお手伝いをしているうちに、誰がどういう仕事をしているのかが分かってきました。
それから徐々に仕事を任せてもらえるようになってきて、『テンプリズム』の担当になりました。担当を任されると同時に、「社員として、これからがんばってほしい」と言われたんです。確か、大学3年生の1月くらいのことだったと思います。
――ずっと働いて行くであろう会社をその時点で決めるのは、早いようにも感じますね。即決だったんですか?
佐伯:即決でしたね。だって、入れるのは1社だけじゃないですか。だから僕が強く入りたいと思った会社に「働いていいよ」と言われて、チャンスだと思いました。「ここで違う選択肢とったら嘘になりそうだな、あとあと後悔しそうだな」と、ちょっと想像しただけでも感じたんです。
――具体的にどんなお仕事をされているんですか?
佐伯:今はテンプリズムに関するほぼ全てのことが仕事です。例えば単行本が出る時に出版社に行ったり、デザイナーさんとやりとりしたりという作業、毎週更新されるWEB連載、公式サイトやTwitter、Facebook、LINEブログInstagramなどのSNS運用管理ですね。サイトや特設ページ制作のディレクションをやったり、書店さんへの営業もします。営業していると、ものすごい数の漫画を読んでいる書店員さんから「今回の新刊、おもしろいですね」と言ってもらえたりして、嬉しいですね。書店員さんには、たまにプロモーションや販促物の相談に乗ってもらったりもしています。
――佐伯さんご自身の、長期的なビジョンはありますか?
佐伯:最近よく「面白い!!」と思った作品が、思ったより評価されていないことがあります。漫画でも、映画でも。それは、世にある情報やコンテンツが多すぎることによって、本来その作品を楽しめるはずの人に、情報が行き渡っていないからだと思っていて。作品を楽しむ人を増やす施作を、常に、たくさん打てるようになりたいですね。
これから時代が大きく動いていく中で、色々な手が打てると思うので、そこに対応しながら、成長していきたいと思っています。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
佐伯:今僕が担当している「テンプリズム」の話をすると、3巻までが序章で王道ファンタジーっぽいんですけど、4巻をこえてから、恋愛の要素がかなり混ざってくるんですよ。すごくおもしろいのが、4巻からは主人公の敵国側にいる、ニキという女の子の視点で始まるんです。そのニキが、最大の標的である主人公に恋をしてしまうことで、物語はダイナミックに動いていって。国への忠誠をとるか、芽生えた初恋をとるかで、自分の価値観を問われるんです。
この「価値観を問われる」という機会って、就活のときに多いと思うんです。
どの企業にも価値観があって、そこに自分が合うかどうか、どうフィットさせるかを考えるのが、入社するということですから。
だから今、ESを書いたり、面接を受ける中で、価値観を問われて「自分はこれから、何を一番大事にして、生きていくんだろう」とモヤモヤ考えている時に、テンプリズムを一気読みしてみると、就活のヒントになるかもしれないです!
参考リンク
・『テンプリズム』連載中の特設ページ
・曽田正人公式サイト
・曽田正人公式Twitterアカウント
・『テンプリズム』公式Twitterアカウント
・株式会社コルク インターン採用ページ