この記事はジェームズ ダイソン財団の協力のもと執筆されました。 |
若手のエンジニアや科学者の育成に取り組む、ジェームズ ダイソン財団が主催するダイソン国際エンジニアリングアワード2023 (James Dyson Award 2023) 。co-mediaでは世界の若き発明家たちの挑戦を、連載特集として取り上げていきます。
前回の記事:【特別人道賞】自分の強みを人助けに - ポーランドの発明家Piotrさんインタビュー
今回はサステナビリティ賞を受賞された、香港の発明家RonaldoさんとJovialさんへ取材させていただきました。RonaldoさんとJovialさんの作られた「E-COATING」という作品は、建物が受ける太陽熱を送り返して室温を下げ、冷房に使う電力を抑えることができる外壁塗料です。
このE-COATING、なんと素材は廃ガラスだそうです!
廃棄物から再生したもので省エネが実現する、というまさに持続可能な世界の実現に近づかせるソリューションで、見事サステナビリティ賞に輝きました。
そんな環境に優しく費用削減にもつながるE-COATINGを、彼らはどのように思いつき制作したのか、今回の記事では皆様にお伝えできればと思います。
Hoi Fung Ronaldo Chan さん James Dyson Award 2023にてサステナビリティ賞を受賞した、香港の発明家。E-COATINGの開発メンバー。 |
Can Jovial Xiao さん James Dyson Award 2023にてサステナビリティ賞を受賞した、香港の発明家。E-COATINGの開発メンバー。 |
インタビューは英語で実施しました。翻訳したものを記事には掲載しております。(インタビュアー:岡田元)
E-COATING:2つの問題を1つで解決するソリューション
サステナビリティ賞の受賞、おめでとうございます!
まず、“E-COATING”について簡単に教えてください。
E-COATINGは自然空調効果を持つ外壁塗料です。つまり、電気を使わずに建物の室内の温度を下げることができます。
その原理を簡単に説明すると、E-COATINGを建物の壁に塗ることで、壁が太陽の光を反射しやすく(日射反射率が高い)なり、その結果熱を放射しやすく(熱放射率が高い)なることで、室内温度を下げることができます。
E-COATINGは、コンクリート壁に熱を吸収または蓄積させる代わりに、太陽熱を送り返すことができ、室内にいる人たちの快適性を確保しながら、冷房のために消費される電力を削減することができます。
さらに、製造に廃ガラスを使用することで、より手頃な価格で製造・販売することができ、埋立地の都市廃棄物を減らすことができます。
分かりやすく説明していただきありがとうございます。
つまり、E-COATINGは
① 建物が受ける熱を減少させることで室内の温度が下がり、冷房の使用を少なくする。
② 廃ガラスを材料として利用することで、埋め立て廃棄物を減らすことができる。
という二つのメリットがあるソリューションということですね。
では、このアイデアは、どのようにインスピレーションを受け思いついたのか教えてください。
私たちは、環境の持続可能性と建物のエネルギー効率という二つの課題に対する関心を持っており、そこからE-COATINGのアイデアを思いつきました。
多くの地域では、総電力消費量の約20%が冷房に使用されており、またガラスのような多くの廃棄物が埋立地を占拠し、環境に負荷を与えています。そこで私は、放射冷却技術に関するこれまでの研究成果に基づいて、廃ガラスを外壁冷却コーティングに変えるE-COATINGというアイデアを思いつきました。サーキュラーエコノミー※の原則に従ってE-COATINGの原理を設計することで、都市廃棄物を削減できるだけでなく、建物の室内温度を下げることで建物のエネルギー消費も削減できます。
※サーキュラーエコノミー:設計段階から廃棄物を出さないような製品やサービスをデザインする考え方。
冷房の消費電力の大きさから思いついたのですね。
ちなみに、コンクリート、木材、鉄骨など様々な建材がありますが、E-COATINGはどの建材に使用できますか?
E-COATINGは建築に広く使用されているコンクリート面に最も適するように作られています。現在、その適合性を拡大するための研究を重点的に行っています。私たちはE-COATINGを様々な建築に汎用できるようにすることを目指しており、木造や鉄骨など、他の素材にも効果的に接着できる新しい配合を積極的に開発し、テストしています。
今後について:持続可能なサプライチェーンの構築
↑ E-COATINGの原料となる廃ガラス
E-COATINGを世界中に普及させることを考えると、大量のE-COATINGの生産が必要になります。この場合、そのような大量の廃ガラス(およびその他の材料)をどのように集める予定ですか?
E-COATINGの流通がグローバルに拡大するにつれ、廃ガラスやその他の必要な材料の需要は確実に増加するでしょう。
この需要に対応するための私たちの戦略として、地方自治体や廃棄物管理会社と協力して強固なリサイクル・プログラムを確立することが挙げられます。廃ガラスの回収拠点を設置し、地域社会がリサイクル活動に参加するインセンティブを付与する計画です。さらに、副産物として廃ガラスを発生させる産業との提携を模索し、既存の資源を利用する予定です。私たちの目標は、E-COATINGの生産を支えるだけでなく、廃材を再利用することでサーキュラーエコノミーにも貢献する、持続可能なサプライチェーンを構築することです。
ガラスのリサイクルプログラムの開発など、サプライチェーンの構築まで考えられているのですね。
↑ E-COATINGのサンプルを塗布している様子
今後、この技術がより多くの建物で使われるために、どのように普及させていく予定ですか?
E-COATING技術の普及を促進するため、私たちは多面的なマーケティング戦略を行っていこうと考えています。
まず、E-COATINGの有効性と利点を実証するため、業界の主要企業と試験的プロジェクトを開始していく予定です。これらのプロジェクトが成功することで、ターゲットを絞ったマーケティング活動において紹介することができます。また、見本市や産業展示会に参加し、建設・製造部門の担当の方々に私たちの技術を紹介させていただく予定です。グリーン・ビルディング認証プログラムとのコラボレーションにより、持続可能性格付けの追加ポイントを付与することで、工場や施設が当社の技術を採用するインセンティブをさらに高めることができます。さらにエネルギー効率に重点を置く政府機関やNGO(非政府組織)とのパートナーシップを確立することで、公共政策や環境提言に当社の技術を組み込んでいただける可能性もあります。こうしたチャネルを活用することで、E-COATINGをエネルギー効率の高い建築手法の標準として業界に広く普及させることを目指しています。
取材へのご協力、ありがとうございました!
Ronaldoさん、Jovialさんの技術でサステナブルな社会が実現されることを期待しております。
ダイソン国際エンジニアリングアワードとは?
では、今回RonaldoさんとJovialさんがサステナビリティ賞を受賞されたダイソン国際エンジニアリングアワードについて少し紹介させていただきます。
ダイソン国際エンジニアリングアワード (James Dyson Award) とは、世界的な家電メーカー・ダイソン社の創業者であるジェームズ・ダイソン氏(左上の写真)の財団が主催するエンジニアリングアワードです。社会課題の解決のための新しいアイデアを賞し、発明家の卵たちを育成することを目的としています。
本アワードに応募される作品は、全て学生自らが身の回り、あるいは世界が抱える社会課題をデザインやプロダクトの力で解決しようと開発したものです。彼らの作品が今後改良されながら世の中へ広まっていくことを支援することで、ひとつずつ社会課題を解決し、誰もが生きやすい社会づくりを実現できることが、本アワードの存在意義となっています。
ダイソン国際エンジニアリングアワード (James Dyson Award) のウェブサイト
↑ RonaldoさんとJovialさん(右)とテレビ会議で話すジェームズ・ダイソン氏(左)
ジェームズ・ダイソン氏はE-COATINGに関して、次のように述べています。
「RonaldoとJovialは、廃棄物をはるかに価値のあるものへと変える巧みなアイデアを思いつきました。E-COATINGでは、再生ガラスを使って外壁に塗るコーティングを作り出します。これによって太陽光を反射し、建物の冷却に必要な電力をかなりの割合で節約できます。環境に優しく、しかも費用削減にもつながる、二重に優れたソリューションです」 。
まとめ
いかがでしたでしょうか。若手の発明家たちが作った画期的な技術で、サステナブルな社会が実現できると良いですね。
より詳しい情報は以下のリンクより見ることができます。
◆ ダイソン株式会社のプレスリリース「ダイソン国際エンジニアリングアワード2023、国際最優秀賞3作品が決定」
◆ ダイソン社ホームページ「2023 James Dyson Award Global Winners announced」
また、以下のJames Dyson Foundation(ジェームズ ダイソン財団)の公式YouTubeチャンネルの動画では、E-COATING開発チームのラボでの様子や、ジェームズ・ダイソン氏からのインタビューなどを観ることができます。ぜひご覧ください。
公開日:2024-01-18