【特別人道賞】自分の強みを人助けに - ポーランドの発明家Piotrさんインタビュー - ダイソン国際エンジニアリングアワード

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  この記事はジェームズ ダイソン財団の協力のもと執筆されました。

若手のエンジニアや科学者の育成に取り組む、ジェームズ ダイソン財団が主催するダイソン国際エンジニアリングアワード2023 (James Dyson Award 2023) 。co-mediaでは世界の若き発明家たちの挑戦を、連載特集として取り上げていきます。今回は、今年初創設の特別人道賞(Special Humanitarian Prize)を受賞された、ポーランドの発明家Piotr Tłuszczさんを取材させていただきました。Piotrさんの作った”The Life Chariot”という牽引用オフロードトレーラー救急車は、実際にウクライナの医療従事者によっても使用されており、医療従事者たちからのフィードバックを通じて設計が改良され続けている点も評価されたそうです。

この記事では、ダイソン国際エンジニアリングアワードのご紹介と、Piotrさんへのインタビューをお届けします。


ダイソン国際エンジニアリングアワードとは?

【特別人道賞】自分の強みを人助けに - ポーランドの発明家Piotrさんインタビュー - ダイソン国際エンジニアリングアワード

ダイソン国際エンジニアリングアワード (James Dyson Award) とは、世界的な家電メーカー・ダイソン社の創業者であるジェームズ・ダイソン(左上の写真)の財団が主催するエンジニアリングアワードです。社会課題の解決のための新しいアイデアを賞し、発明家の卵たちを育成することを目的としています。

本アワードに応募される作品は、全て学生自らが身の回り、あるいは世界が抱える社会課題をデザインやプロダクトの力で解決しようと開発したものです。彼らの作品が今後改良されながら世の中へ広まっていくことを支援することで、ひとつずつ社会課題を解決し、誰もが生きやすい社会づくりを実現できることが、本アワードの存在意義となっています。

ダイソン国際エンジニアリングアワード (James Dyson Award) のウェブサイト

ジェームズ・ダイソンは受賞者たちに関して、次のように述べています。

「この若き発明家たちは、私たちが直面する問題について傍観するのではなく、自らが取り組み、テクノロジーとデザインを通じて解決しようとしています。世界を良くしようとする情熱と決意に、大きな感銘を受けます。今回の受賞が成功への足がかりになることを願っています」。


The Life Chariot - 人の命を助けるトレーラーとは

特別人道賞を受賞された”The Life Chariot”を作られた、ポーランドの発明家Piotr Tłuszczさんにお話を伺いました。(インタビュアー:岡田元 翻訳・執筆:深津昂生 インタビューは英語で実施)

今回取材させていただいた方

  Piotr Tłuszczさん
James Dyson Award 2023にて特別人道賞を受賞した、ポーランド出身の発明家。

【特別人道賞】自分の強みを人助けに - ポーランドの発明家Piotrさんインタビュー - ダイソン国際エンジニアリングアワード

特別人道賞(Special Humanitarian Prize)の受賞、誠におめでとうございます!
初めにThe Life Chariotについて簡単な紹介をお願いします。

The Life Chariotは、医療救助隊が手の届きにくい現場から負傷者を避難させるために開発されたオフロードトレーラーです。この車両には、頑丈なスポーツサスペンションに担架を載せるための台や、医療従事者用の2つの座席が備わっています。車体の上半分は防水・防火シート付きのスチール製ケージで、転倒や悪天候から乗員を保護することができる構造になっています。トレーラーは、ATV(全地形対応車)やオフローダーで牽引することができ、狭く曲がりくねった道や山道を走行することも可能です。このMEDEVAC※タイプの車両は、戦場の最前線での使用だけでなく、山岳救助隊員の日常活動や自然災害時にも使用することができるため、厳しい地形での避難が必要なあらゆる状況で役立ちます。

※ MEDEVAC : メディカルエバキュエーション(medical evacuation)の略語。事故現場や戦場から負傷者を医療機関へ搬送する際などに使われる乗り物のこと。 医療処置のできる装備を持ち、救命士や医師などが同乗する。

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隣国の危機による使命感、自分の強みを活かした発想

​この作品を作ることになったきっかけを教えてください。
ジェームズ・ダイソン・アワードのウェブサイトによると、ロシアのウクライナ侵攻がこのトレイラーを制作するきっかけになったと書かれていましたが、もう少し詳しい状況・エピソードを教えてください。

隣国の危機により、何か行動しなければならないという使命感に駆られながらも、戦争が始まって最初の数週間は、私たちは国境で難民を受け入れる人々や、現地に食材や装備を届ける人たち、さらには自己犠牲の覚悟でウクライナに車で向かう友人を見守ることしかできませんでした。そんな中、私の得意分野であるデザインを活かして何か行動を起こせないか考えました。父のCristopherと協力して取り組んでいたオフロードトレーラーを、ウクライナの衛生兵が使用していた民間車両にうまく活用できそうで、迅速なリサーチと試行錯誤を経て、戦場での装甲された救急車不足の課題が浮かび上がりました。その解決策として初めて避難トレーラーが考えられました。この時点で私が次の段階に進むためには、コンセプトを作成し、実際に最前線で活動してる人々と議論することでした。最初はとても抽象的なアイデアでしたが、時間をかけてスケッチを描いていくうちにアイデアが明確になり、さらに私は、バーチャルリアリティーを使って3D図面を作成し、それを1:1縮尺に変更することで、完成図をよりイメージしやすくしました。その後、コンセプトが完成して、ユーザーシナリオと説明文ができたところで、ドネツク州で活動するウクライナ軍の部隊長にアイデアボードを送りました。すると、すぐにそのような車両が必要だという返答があり、それが作品の全ての始まりでした。そして私は父と会社を設立し、資金提供者を探すなど、実現に向けて動き出しました。

この救命トレーラーの製作費を教えてください。

救命トレーラーの価格は約20,000ユーロです。これまで、このトレーラーはプロトタイプとして単独で製造されてきましたが、今では近いうちに量産を開始できる準備が整っており、これにより総コストの削減が見込めます。アメリカからこのトレーラーに関するいくつかの問い合わせがあったので、輸出費用や規則については既に熟知しています。


戦時中のウクライナを救ったThe Life Chariot

ウクライナの戦場では何台のThe Life Chariotが使われているか教えてください。

2台のThe Life Chariotが製作され、ウクライナ前線の衛生兵に届けられました。1台目はウクライナの軍部隊に、2台目はダミアン・ドゥダの財団「W Międzyczasie」に所属するポーランドの有志衛生兵に提供されました。ポーランドの衛生兵はウクライナのバッハムート近郊でトレーラーのテストを行っていましたが、今回、前線に向かう衛生兵を訓練するために、トレーラーをポーランドに持ち帰ることになりました。ウクライナの医療関係者や病院から、もっとThe Life Chariotを作ってほしいという要望が寄せられているため、このトレーラーの製作に協力してくれる他の支援者を探しています。

【特別人道賞】自分の強みを人助けに - ポーランドの発明家Piotrさんインタビュー - ダイソン国際エンジニアリングアワード


負傷者のためを思い、細部までまでこだわり抜いた救命トレーラー

戦場での救命に関して、あなたの作品はどのような既存の問題を解決できるか教えてください。(既存の車両のトランクに負傷者を乗せることとの違いも教えてください。)

【特別人道賞】自分の強みを人助けに - ポーランドの発明家Piotrさんインタビュー - ダイソン国際エンジニアリングアワード

The Life Chariotは使用する車両に関係なく、避難チームのために細部まで改良されており、担架に乗せた負傷者を1人多く乗せるスペースと、体重の軽い負傷者や救助者が乗車中に患者の世話をするための座席を2つ提供します。このトレーラーは、戦場の前線(またはその他の災害現場)と安全地帯の間の困難な地形を容易に走行することができます。前方の車両はさまざまな用途に使用されるため、搬送するものがどんな物でも、車両のフックに取り付けてすぐに使えるMEDEVACモジュールを完備しています。この特殊なトレーラーは、スポーツサスペンションが使用されているため、実際、負傷者にとって車のトランク内で搬送されるよりもずっと安全です。ポーランドの山岳救助隊が強調するこのトレイラーの利点は、徒歩で現場に向かわなければならない救助隊員を一度により多く連れて行けることです。内部には医療品を入れる防水ボックスが2つあり、上部には予備装備を収納するルーフラックまで完備しています。さらに、耐火カバーシートは、汚れ、水、低体温症から乗員を守ることができます。

【特別人道賞】自分の強みを人助けに - ポーランドの発明家Piotrさんインタビュー - ダイソン国際エンジニアリングアワード


私が人生でやりたいこと、”デザインプロセス”

最後に、今回の受賞を受けて、今Piotr さん自身が思うことを教えてください。

初めは、私の開発したオフロードトレーラーが、戦争中の人々を救うのに役立つとは思ってもいませんでした。このような評価をいただいたことで、この開発をこの先も続けたいという気持ちになります。ジェームズ・ダイソン・アワードの特別人道賞を受賞したことは予想外でしたが、私の仕事の世界的なプレゼンスを高め、また会社の地歩を固めるのにとても役に立ちました。私が人生をかけてやりたいことは、デザインプロセスです。デザインプロセスとは、世界を変えることができるコンセプトを創造することです。

ありがとうございました。Piotrさんの作品とデザインプロセスが、今後も世界の多くの人を救うことを願っています。


公開日:2023-12-31

この記事を書いた学生ライター

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