“究極の売り手市場”ともいわれる昨今の新卒採用マーケット。企業規模を問わず「採用に困っていません」という人事の方に出会ったことがありません。
自社の要件定義に合う学生になかなか出会えない、入社承諾を得られても内定辞退されてしまう、内定後すぐに辞めてしまう…。“採用強者”と呼ばれる企業であっても「入社後の活躍が思わしくない」など、悩みは尽きないようです。
そんな悩める人事の方々に向け「長期インターンを活用した即戦力人材の採用育成術」をテーマにイベントが開催されました。
長期インターンとは、短期のインターンとは違い、3ヶ月以上に渡って企業内で就業体験を行うこと。学生は会社のカルチャーを肌で感じながら実務経験を積むことができ、企業は早期に学生との接点を持つことができて、会社の魅力を伝える機会になっています。
イベントのゲストは、長期インターンを活用し、優秀な人材の採用に成功している人事のみなさま。長期インターン採用の第一想起であるキュービックの荒木珠里亜様、社員同等のレベルで学生が活躍するLoco Partnersの岡田友宏様、学生から圧倒的な人気を誇るC Channelの近藤幸子様に、普段はなかなか聞けない、採用の裏事情まで詳しくお話を伺いました。
—— これまで、長期インターン求人サービス「Infra」では、100社以上の企業様に、インターン採用のノウハウについてヒアリングを行ってきました。採用・育成に成功している企業とそうでない企業は、くっきりと明暗が別れている印象があります。
なかでもキュービックさん、C Channelさん、Loco Partnersさんは、長期インターンの採用・育成に大成功されています。学生さんとの出会いから育成まで、どのようなフローで行われているのでしょうか。
岡田:採用チャネルは、求人媒体とリファーラルが基本です。弊社はそもそも、代表の篠塚に続く二人目のメンバーがインターンでした。彼が活躍するに連れ、彼の周りに学生が集まるようになり、リファーラル採用の基盤ができてきたんです。媒体を利用する以前から“インターン先”としての認知を獲得できるようになり、サービスの名前が広がる以前から採用に成功していました。
荒木:求人媒体を利用することもありますが、リファーラルと自社サイト経由が大半です。インターンで構成する採用チームがあり、まずは彼らが採用活動に当たっています。インターンが多い分、彼らの知人に興味を持っていただけることが多いんです。
近藤:弊社もリファーラルによる採用と求人媒体からの応募が基本です。母集団の形成には成功しているので、出会いよりもスクリーニングに重きを置いています。
—— みなさん、リファーラル採用が少なくないんですね。お話を伺っていると、インターンの活躍が次なる採用の肝になっている印象があります。育成で意識していることはありますか?
荒木:前提として、エントリーマネジメントを大切にしています。インターンで構成される採用チームは、「選考」ではなく、「面談」を行います。大学1〜2年生は将来についてしっかり考えられているわけではないので、彼らのキャリアを考えた上で、キュービックで働くことが本当にプラスになるか相談に乗るところからはじめています。
そこでお互いにマッチしそうだなと感じたら、今度は実際に一緒に働く社員が面接をします。その際は、入社後に従事してもらう仕事を丁寧に説明したうえで、本人としっかり期待の合意を取り、かつ弊社が基準とする出勤条件を満たすことが確認できたら採用します。最初に期待値調整を行うことができれば、活躍が早くなる印象がありますね。
育成に関しては「CCPC(CUEBiC CAREER PRE COLLEGE)」という独自の育成プログラムを新人インターンに向けて実施しています。入社から約60時間は、マナー研修や技術的な指導、理念の浸透など、活躍の基礎となる部分の教育を人事主導で行うんです。そのプログラムを終了してから、実務に入っていきます。
—— 「理念の浸透」にも時間を割くのですね。インターンであっても、採用時にカルチャーフィットを大切にされているのでしょうか?
荒木:最も大事なことだと思っています。むしろ、インターンだからこそカルチャーフィットを重要視するべきです。中途採用であれば、ある程度スキルを求めますが、働いた経験のない学生さんは、ポテンシャル採用が基本になります。だからこそ、ポテンシャルを発揮してもらうためにも、社風に合っているかを注意深く見ています。
過去を遡っても、入社後の活躍は「キュービックのカルチャーに合っているか」が大きな変数になっています。会社としても、彼らが活躍できる土壌づくりに力を入れていて、社員同等の業務や福利厚生を提供するよう心がけています。
—— Loco Partnersさんは、最初のインターンが活躍したことが、採用の基盤になったとおっしゃっていました。活躍の要因には、どのようなことが関係していると思いますか?
岡田:キュービックさんと同様に、代表が掲げる思想やカルチャーにフィットしていたからだと思います。特に大事にしているカルチャーは、とにかくフラットな組織であること。インターンと社員の扱いを区別せず、いちメンバーとして仕事を任せていたので、やはり成長スピードが速かったですね。
—— C Channelさんは、育成に関して、何か大切にしていることはありますか?
近藤:そこまで教育に力を入れているわけではないですが、過去の成功事例を振り返ると、インターンが主体的に活躍していける環境づくりに成功していたと思います。
たとえば、ライターを務めるインターンのチームを束ねるのは、社員ではなくインターンです。同じインターンであっても、キャリアに段階をつけることで、「もっと頑張りたい」というモチベーションが湧きます。組織の中にインターンのリーダーを置くのは、非常に有効な施策だったと思います。
—— 採用基準に関して、より詳しくお伺いさせてください。技術職であればある程度のスキルを求めると思います。総合職に関しては、どのような観点で見極めを行うのでしょうか?
近藤:求人媒体のプロフィールや履歴書を注意深く見ています。採用者がどのような視点で学生を見ているのかを理解し、それをプロフィールに盛り込めている学生が面接対象です。そうした学生は得てして、入社後に活躍してくれる可能性が非常に高い。プロフィールには、相手のことを考えられる地頭の良さが反映されるんです。
荒木:こちらもカルチャーフィットを重要視しています。フィットしているかどうかは、弊社のクレドを参考にしています。弊社では、会社が目指す姿から逆算してクレドをつくっています。つまり、クレドを体現する人材は、会社にとって必要な人材です。カルチャーは、ともすると“ふわっと”してしまいがちなので、精緻に言語化しておくことが大切だと思います。
岡田:弊社もカルチャーフィットを何よりも大事にしていますね。「Locoship」という、弊社で働く上で持つべき価値観(バリュー)を体現できるかどうかで、採用可否を決定しています。
キュービックさんがそうであるように、弊社も会社のビジョンを達成するためにバリューをつくっています。バリューを体現する人材は会社をビジョンの達成に導くので、スキルは二の次です。
—— 育成に関しても、より詳しくお話を伺います。会場の方から「インターンの成長を促すには、一つのチームに複数人のインターンを所属させるのか、もしくは一人にコミットするのとでは、どちらがよいですか?」という質問をいただいています。みなさんは、どのようにして組織を設計されているのでしょうか?
荒木:弊社では、1人の社員に対して複数名のインターンが部下としてつく体制を取っています。
過去の失敗談として、同じチームに学生の長期インターンが1名だったために組織に馴染めず、退職してしまったケースがありました。このような経験から、複数名を同じチームにアサインし、切磋琢磨し合える環境をつくるようにしています。
近藤:もちろんフェーズによって変わるとは思いますが、弊社も1つの部署に対して複数名のインターンを配属した方がいいと思っています。
過去に、目をみはるほど能力の高いわけではなかった学生を、とても優秀な学生が在籍するチームに配属したことで、一気に成長するケースがありました。会社としても嬉しいことですし、インターンをする学生からしても、自分を成長させてくれる仲間がいることは大きな意義になります。学生と企業、双方の観点から、仲間がいる環境をつくることをお勧めしますね。
—— 昨今、長期インターン経由の新卒採用が増えているように感じます。3社ともに事例があるそうですが、メリットやデメリットについてお伺いさせてください。
岡田:デメリットはほぼないと思います。というのも、僕たちは採用基準に、「スキル」「ポテンシャル」「ロイヤルティ」の3つをおいていて、そのなかでも、特にロイヤルティを大切にしているからです。
僕らにとってロイヤルティとは、「苦しいときに、頑張れるか」を意味します。ベンチャー企業は環境の変化が激しいですし、その分期待値のギャップが生まれることもあります。そうした環境でもやり抜くためには、やはりロイヤルティが求められます。
長期インターンを経由して採用した学生は、ある程度会社の状況を理解してくれているので、その分納得感を持って会社選びをしてくれる。つまり、ロイヤルティを持った状態で入社してくれます。主体性を持って会社を選んでくれているので、活躍するメンバーが多い傾向にあります。
近藤:弊社のサービスは、外から見ると「キラキラしている」印象を持たれがちですが、もちろん泥臭い仕事もたくさんあります。なので、新卒や中途を問わず、期待値調整をすることが採用のポイントです。そうした実態を知った上で入試してもらえるのは、長期インターンを経由して採用することが大きなメリットになります。
一方で、「長く働いているがゆえの甘えが生まれてしまう」ということがあるかもしれません。長く働いている分、自分の仕事や会社のことを理解していますが、とはいえ新卒でビジネスマナーが身についていないことが往々にしてあります。仕事に慣れていることと、ポータブルスキルが不十分であることのギャップが生まれてしまうことは、“あえてあげるなら”程度のデメリットかもしれません。
—— デメリット以上にメリットがたくさんあるんですね。長期インターンは学生にとってスキルを磨く機会になるため、数年働くと、即戦力レベルになる人材もいるでしょう。ただその分、他社からも引っ張りだこになると思います。自社で働いていた学生を新卒採用につなげるために、どのような工夫をされているのでしょうか?
荒木:以前は役員陣が直接声をかけることもありましたが、現在は学生の意思に任せています。長期インターン採用と本採用を紐づけることはしていないので、本選考を開始した時点で、選考に参加したい場合に限ってエントリーしてもらう体制を取っています。
もちろん長期インターンでの成果が本選考に寄与することもありますが、基本的には全く異なる選考フローになっています。長期インターンで結果を出していたからといって、本選考の指針に合わない点があれば不採用になることもありますし、逆に長期インターンではまだ結果に結びついていなくても、ポテンシャルを見込んで採用につながることも多々あります。
近藤:弊社も同様に、こちらから声をかけるということはありません。今のところ、長期インターンをしていた学生から「新卒採用を受けたいです」と言われた場合に限り、選考を行う形です。
ただ、つながりを保ち続けることはしています。新卒採用には至らなくても、他社に入社した後に転職してくれるケースもあるので、定期的に連絡を取り合うことはしていますね。
荒木:キュービックも、OB・OG会を開催するなど、卒業後のつながりを大切にしています。卒業生が数年後に戻ってきてくれるケースも何度かありました。
岡田:Loco Partnersは声をかけるケースがあります。採用したいと直接的に伝え、選考を受けていただく形です。もちろん無理に引き込むということはせず、率直に意志を伝え、お互いにとって良い形になるよう相談をするイメージです。
まだ事例はありませんが、2社のように卒業生が戻って来てくれる可能性は十分に考えられますよね。一緒に働いてきた仲間なので、どこで働くことになっても、納得できる選択をしてもらうことが大事。先々を見据えた上で良い関係性を築き続けることが、幸せな採用活動につながるのではないかと思います。