私には、会社のプロとして、ストーリーの登場人物になる覚悟がある——Goodpatch 高野葉子 #私の職業哲学

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社会人としてのキャリアを歩む上で、プロを目指すのであれば、自分の職業への理解が必須。しかしながら、社会人になるおよそ20年の間に、職業について理解を得る機会はそう多くありません。

社会の第一線で活躍するビジネスパーソンの先輩は、どのような仕事論を持ち、日々の仕事に取り組んでいるのでしょうか。トップランナーの「職業哲学」を紐解き、私たちが、私たちらしく働くためのヒントを探っていきます。

今回編集部が注目したのは、「デザインの力を証明する」をミッションに掲げ、デザインの価値向上を目指すデザイン会社・Goodpatchの広報、高野葉子さん。

高野さんは広報の仕事を「会社をデザインすること」だと語ります。代表の土屋尚史さんから役割を受け継ぎ、“ストーリーの登場人物”としてGoodpatchの歴史をつくってきた彼女が考える広報PRの真髄とは——ビジョナリーな視点の裏にある「デザインの力を証明する」広報戦略についてお話を伺いました。


広報PRの仕事は「会社をデザインすること」


—— 高野さん、今日はよろしくお願いします。同連載は、広報PRを本業とされている方に、広報PRという仕事がどのようなものであるかをインタビューするものです。


過去のインタビューでは、「利害関係のない営業」「思想やサービスの共感者を増やすこと」といったご意見がありました。まずは、高野さんが考える、広報PRの定義を教えていただきたいです。

私には、会社のプロとして、ストーリーの登場人物になる覚悟がある——Goodpatch 高野葉子 #私の職業哲学

高野 葉子:株式会社グッドパッチ / 経営企画室

千葉大学大学院工学研究科 博士前期課程修了。学生時代にデザイナーを目指し、高度デザイン教育プログラムに参加。デザインマネジメントやUI/UXデザインを学ぶ。卒業後、ベンチャー・スタートアップ企業にて新規事業開発・事業推進を担当。2016年1月より株式会社グッドパッチに広報として入社。現在は経営企画室にて「デザインの力を証明する」というミッションのもと、Public Relations & People Experienceを担当する。


高野葉子さん(以下、高野さん):私は、自分にとっての広報の仕事を「会社をデザインすること」だと考えています。少し長くなりますが、その理由についてお話しさせてください。

そもそも「会社」とは、一つの目的であるビジョン・ミッションを実現するための共同体です。目的を実現する手段として、事業と組織がありその中でそれぞれに役割(職種)があります。

中でも「広報=Public Relations」は、企業を取り巻く人々との「Relation=関係」を築き上げるという意味です。企業には顧客・ユーザー、従業員、株主、社会、メディアなど、さまざまな関係があります。

私には、会社のプロとして、ストーリーの登場人物になる覚悟がある——Goodpatch 高野葉子 #私の職業哲学

「広報」とひとくちに言っても、カスタマー・リレーションズ / Customer Relations、エンプロイー・リレーションズ / Employee Relations、インベスター・リレーションズ / Invester Relations、ガバメント・リレーションズ / Government Relations、コミュニティ・リレーションズ / Community Relations、メディア・リレーションズ / Media Relationsなど、さまざまなステークホルダーとの関係構築が含まれている


関係を築くためには、まずは起点となる自分の会社を理解し、相手を理解した適切なコミュニケーションが必要です。適切なコミュニケーションを積み上げ、関係性をデザインすることがPublic Relationsの役割だと思っています。

たとえば、人間関係も同じですよね。自己理解、相手への理解なくして、良い関係構築はできません。人格も人間関係の積み重ねによって構築されるように、企業も関係構築によってつくられるものだと考えています。なので、「会社をデザインしている」となるわけです。

ここで一度、「デザインしている」という言葉の認識を合わせたいのですが、みなさんが何か物事を成し遂げる際には、試行錯誤をしていますよね。試行錯誤にもさまざまな方法があると思いますが、私の根底にあるのは「デザイン思考」です。

私には、会社のプロとして、ストーリーの登場人物になる覚悟がある——Goodpatch 高野葉子 #私の職業哲学

デザイン思考プロセス


デザイン思考プロセスとは、デザイナー的な考え方。抽象と具体を行き来きして問題解決する考え方なので「会社をデザインしている」とよく表現しています。ちなみに私が所属している経営企画室は、英語では「コーポレートデザイン」と訳しているんですよ。

—— つまり、高野さんが行ってきたことは、いわゆる広報PRの仕事として連想されるMedia Relationsといった、特定の業務に限らないと。

高野さん:おっしゃる通りです。もちろんメディアリレーションも広報に求められる重要な役割ですが、あくまで役割の「一つ」だと考えています。

私の場合、手段を考えることよりも、会社の目的であるビジョン・ミッションを果たすことに重きを置いています。そのために、誰よりも会社を理解した“代弁者としての役割”を全うする、つまり「会社のプロ」であることを常に意識してきました。

—— “代弁者としての役割”を果たすために、具体的にはどのようなことを…?


高野さん:創業者である、代表の土屋(土屋尚史さん)を理解することに徹していました。なぜなら、土屋は“歩くGoodpatch”だからです。スタートアップの多くはそうだと思いますが、会社は創業者の想いを実現するためのもの。「土屋の中に宿る想いこそが、Goodpatchだ」と思っていたので、まず彼の想いをインストールすることからはじめました。

土屋が出席する全てのミーティングに同席していましたし、土屋のスケジュールを確認し、「どんなことに時間を割いているのか」を自分の頭で考えることもしていましたね。土屋が発信しているものはもちろん、読んでいる本なども全て目を通しています。

—— とにかく土屋さんの想い(=Goodpatchの想い)を理解することに時間を費やしていたと。


高野さん:そうですね。入社してから3年間は、私自身がGoodpatchを理解すること、そして組織と“Goodpatchらしさ”の認識を合わせ醸成する、Employee Relations(社内広報)にまずは力を入れていました。

—— 「社外とたくさん接点を持つことが大事」という意見もありますが、いかがでしょう?


高野さん:フェーズによりますが、成長期のスタートアップの広報が、外ばかりに目が向いている状態は健全ではないと思います。まずは、社外の方にお話を聞いてもらえる地盤があるのかを確認すべきです。

たとえばGoodpatchは、広報の成果を「かけ算」で考えています。会社の成果は一つの変数から導かれるものではないので、いずれかの変数がゼロの場合、成果はゼロになってしまいますよね。だからこそ、外だけではなく、中を見ることを大事にしているんです。

先ほどのMedia Relationsを例に考えてみましょう。もし関係値のある記者さんがいたとして、創業ストーリーを記事にしていただけるとしても、語るに足りる魅力的なストーリーがなければ、失礼だと思うんです。書く人も、読む人も、そして私たちも幸せになりません。

私には、会社のプロとして、ストーリーの登場人物になる覚悟がある——Goodpatch 高野葉子 #私の職業哲学


—— なるほど。まずは会社の地盤となるアピールポイントを見つける・育てることが大事になるわけですね。とすると、広報という仕事は、会社への愛や共感がないと難しい仕事かもしれません。

高野さん:会社の規模感やフェーズによっても異なりますが、成長期のスタートアップであれば、会社のビジョンや思想に心底共感している“WHY型”の人材が活躍しやすいと思いますよ。

成長期のスタートアップって本当に色々なことが起こります。そういう中で強い意志を持って「会社をもっとよくしていこう」「話を聞きたいと思ってもらえる会社をデザインしよう」と、会社で起こる課題を自分ごととして考えられることが大事だと思います。

会社のストーリーは「登場人物になる覚悟」によって紡がれていく


—— 以前、株式会社ビースタイルの広報・柴田菜々子さんに、「広報の仕事は『営業の仕事』に似ている」と教わりました。「自社の情報を提供し、メディアの『読者にとって価値のある情報を提供したい』というニーズに応えることが仕事」であると。高野さんがおっしゃる「話を聞きたいと思ってもらえる会社をデザインする」というお話にも、通ずる考えだと思います。

会社に既にあるストーリーを相手のニーズに合わせて伝える、もしくは、新しいストーリーをつくりだすために、どのようなアプローチをすればよいのでしょうか?

高野さん:「ストーリーの登場人物になる覚悟」と「ストーリーをつくるために、行動を起こす力」が大事だと思っています。

どの企業にも「創業ストーリー」がありますよね。共同創業しない限りは、既に存在する創業ストーリーの途中で入社するものです。じゃあどのようにして、このストーリーを伝えていくべきなのか。客観的ではなく、まずは自分がストーリーの登場人物になるんです。

『ワンピース』を想像していただければ、分かりやすいと思います。創業メンバーがいて、後から仲間が集まってきます。ただ、その仲間たちも主人公です。それぞれが「なぜやるのか」「どのようにしてやるのか」というストーリーを持っていますよね。

私の場合は“会社の成長期編”から登場したキャラクター。組織が50名から100名になるストーリーの担い手として、新たなストーリーを共につくる覚悟を強く持っています。

私には、会社のプロとして、ストーリーの登場人物になる覚悟がある——Goodpatch 高野葉子 #私の職業哲学


—— その覚悟を持った上で、今度は自分がストーリーを生み出していくと。

高野さん:おっしゃる通りです。私であれば、広報という役割。Goodpatchという企業の関係性を取り巻くことすべてに成長期の登場人物として、当事者意識を持ち、会社のデザインに携わってきました。

中でも創業ストーリーに欠かすことができない、Goodpatchらしさを表す企業文化、コアバリューの言語化と浸透などには、特に直近注力しています。コアバリューは構築と浸透に一度失敗したこともありましたが、今ではほとんどの社員が納得感を持った上で再構築を行い、大切にし始めています。

Goodpatchにおける「魅力的なストーリー」とは、創業者のアイデンティティや掲げるミッションに連動したコアなストーリーです。つまり、コアの理解なくして、魅力的なストーリーを紡ぐことなどできません。

もちろん失敗してしまった過去も、Goodpatchの「創業ストーリー」です。こうして新たな歴史をつくることができたのは、私以外にも多くのメンバーが「ストーリーの登場人物になる覚悟」と「ストーリーをつくるために、行動を起こす力」があったからだと思います。

手段に踊らされない練習が、天職にたどり着く最初のステップ


—— お話を伺い、広報の仕事の全貌がつかめてきました。特にスタートアップの広報は、創業者と一体になり、会社の歴史をつくっていく魅力的な仕事なんですね。


高野さん:なので、「広報になりたい」ということが目的になっている手段重視、いわゆる“HOW型”には向いていない可能性もあります。適性があっても、会社に共感できなければ、苦しくなってしまうと思うので。

—— とはいえ学生の多くは職業経験がなく、キャリア意識を醸成する機会に巡り会えないため、個人のWILLを確立できず、職種ベースでキャリアを考えてしまいがちです。


高野さん:手段にこだわりすぎると、苦しくなってしまいますよね。私はGoodpatchの広報になったところで、その事実に気づきました。なので学生時代は、同じように職種ベースでキャリアを考えていたひとりです。

私はもともと、デザイナーになりたいと思っていました。でも当時、私が志していた、サービスの体験をデザインするUI/UXデザイナーやサービスデザイナーの募集が、メーカー以外にほとんどなかったんです。

またデザイナーを目指す理由の一つに、「何者かになりたい」と強く思っていたことも関係しています。分かりやすい肩書きを探していたんです。ただ、何者かになった先の目的意識が弱かったんですよね。

そのとき考えたおかげで、自分がなぜそれをやりたいのかという目的——つまり“WHY”を考えるきっかけができました。結局デザイナーになる夢は諦め、「私のやりたいデザインはどこでもできる。総合職でデザインをしよう」とマーケティング会社に総合職で入社しています。

私には、会社のプロとして、ストーリーの登場人物になる覚悟がある——Goodpatch 高野葉子 #私の職業哲学


手段に踊らされキャリアに悩んでいた大学院在学中に「私がしたいのは、いわゆるウェブやプロダクトだけのデザインではなく、広義のデザインである」と気づき、社会人として働くうちに「自分が信じているデザインができていれば、手段(職種や肩書き)はなんでもいい」と感じるようになったんです。

—— では高野さん自身、「広報になりたい」と入社したわけではないんですね。

高野さん:そうですね。Goodpatchに惹かれた理由は「いつか大好きなデザインに総合職として携わりたい」と漠然と考えていたからです。それでGoodpatchの広報の募集を見て「広報って総合職だよね」と応募しています。それまでは広報の経験がないので、応募してから広報という職業について調べました。

私が実現したかった「デザインの価値がたくさんの人に理解されている世界」と、Goodpatchのビジョンである「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」、そしてミッションである「デザインの力を証明する」は合致しているので、極論明日から広報という職種でなくても、全然いいんです。


Goodpatchが何かをするの源にはいつも、私が共感している「デザイン」があるので、どの職種に就いても幸せに働けるのだろうなと。

Goodpatchには、私が学生時代に「こんな存在になりたい」と考えていたデザイナーが100名以上います。彼らと一緒に同じ目的に向かって走り続けられることが、何より嬉しいんです。入社前に、土屋に私が送った「天職だと思います」というメッセージの通り、今は目の前の仕事が楽しく、人生が充実していますね。

私には、会社のプロとして、ストーリーの登場人物になる覚悟がある——Goodpatch 高野葉子 #私の職業哲学


—— 個人のミッションと会社のミッションが一体になっていると、幸せな働き方ができるんですね。最後に読者の学生に向け、メッセージをお願いします。

高野さん:学生のうちに「手段に踊らされない練習」をしてほしいと思います。たとえ話ですが、職種にこだわるのは、「大阪に行きたいのに、新幹線で行くのか、飛行機で行くのか、その手段で迷っている」のと同じことです。


目的が明確なのに、手段に踊らされていたら、消耗してしまいます。つまるところ、大事なのは大阪に着くことです。

「なぜなのか」というWHYを真剣に考えた結果の行動であれば、たとえ失敗しても、必ず可能性と選択肢が広がっていくのだと思います。



この記事を書いた学生ライター

オバラ ミツフミ
オバラ ミツフミ
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1994年、秋田県出身。co-media編集長。ご連絡はツイッターより。

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