社会人としてのキャリアを歩む上で、プロを目指すのであれば、自分の職業への理解が必須。しかしながら、社会人になるおよそ20年の間に、職業について理解を得る機会はそう多くありません。
社会の第一線で活躍するビジネスパーソンの先輩は、どのような仕事論を持ち、日々の仕事に取り組んでいるのでしょうか。トップランナーの「職業哲学」を紐解き、私たちが、私たちらしく働くためのヒントを探っていきます。
今回編集部が注目したのは、“踊る広報”としてメディアで取り上げられる機会も多い、株式会社ビースタイルの柴田菜々子さん。
柴田さんは、「広報PRのプロは、営業職の顔、経営者の顔、編集者の顔を持っている」と語ります。ダンサーとして、広報として、異なる2つの領域をつなぎ合わせるプロフェッショナルの「仕事の流儀」に迫ります。
—— 本日は“踊る広報”としてメディアに取り上げられた経験もある柴田さんに、「広報PRの仕事」についてお話をお聞きしたいと思っています。
職務経験のない学生の多くは、「広報」という仕事に対して「キラキラしている」といったイメージを持っていることが少なくありません。なんとなくですが、若い女性が多い印象があります。
しかし実際は、経営者視点が求められる仕事であり、ある意味“泥臭い”ものであるという意見も耳にします。広報としてご活躍されている柴田さんは、広報の仕事をどのようなものだと定義しているのでしょうか。
柴田菜々子(以下、柴田):私が務めるビースタイルのような、中小ベンチャー企業に限った話かもしれませんが、広報の仕事は「営業の仕事」に似ていると思っています。
—— もう少し、詳しく教えてください。
柴田:営業とは、自社の商材を使って顧客にソリューションを提供する仕事です。たとえばビースタイルは、人材サービスを展開する会社なので、商材は「派遣サービス」や「人材紹介」。これらのサービスを用いて、たとえばクライアントの「人材不足」という問題を解決します。
一方広報は、自社の情報を提供し、メディアの「読者にとって価値のある情報を提供したい」というニーズに応えることが仕事です。
つまり、「自社の情報全て」が商材であり、「メディア」が顧客。自社の商材を用いて、顧客の問題を解決するという構図において、同じなんです。
ただ、会社とメディアは対等な関係であり、金銭は発生しません。なので、“利害関係のない営業”と定義すると理解しやすいかもしれません。
—— 営業と広報の仕事は、カウンターパートが異なるだけで、本質は一緒なんですね。
柴田:おっしゃる通りです。広報もメディアを開拓するので、営業と非常に近い仕事だと思います。なので、オバラさんの話にあった「キラキラした仕事」とは、多少イメージが異なるかもしれません。
また、広報の仕事を理解する上でもう一点付け加えるならば、「経営者視点も必要な仕事」だとも思います。
——「経営者視点も必要な仕事」とは…?
柴田:広報は、自社の情報をメディアに取り上げてもらうために、「どうやって他社と差別化するのか」、「取り上げてもらうにはどのような切り口が必要なのか」などと、業界においての自社のポジション、会社と社会の接点について常に考えることが求められます。この視点って経営者の視点と似ていると思うんです。
—— 広報の仕事をする上で、重要になる能力についてもお伺いしたいです。
柴田:「情報変換力」、「会社を好きになる力」、「ギブ力」の3つが挙げられます。まず情報変換力にからお話させてください。
情報変換力とは、「企業の情報を世の中に発信できる情報に加工する力」を意味します。たとえば、ビースタイルにAという人事制度が新しくできたとしましょう。その事実を発信する際に、ただ「人事制度Aを発表します」と伝えても、社会的にも、メディア的にも、面白みがないですよね。
—— Aをアピールするにしても、切り口を考えなければいけないということですね。
柴田:おっしゃる通りです。Aの独自性をしっかり言語化したり、発信するメディアによって切り口を変えたりする必要があります。
—— 読者やメディアのニーズと、自社が伝えたい情報をつなぎ合わせる“編集”にも似た力が必要なんですね。続いて、「会社を好きになる力」についても教えてください。
柴田:広報は、会社(経営者)の代弁者です。会社が届けたい価値を社外に伝えるには、会社をよく理解していなければいけません。
会社を好きではないのに、会社を理解することは簡単ではありません。「嫌いな食べ物の美味しいポイントを見つけて、上手にアピールして」と言われいても、なかなか思いつかないですよね。
逆に会社のことが好きなら、「どうにかして、自社の良さを伝えたい!」と考えるでしょう。すると、会社のアピールすべき点を簡単に見つけることができます。
—— たしかに、自分が好きなことであれば、自信を持ってアピールができます。それに、他人には理解しづらいことでも、良い点を見つけ出せる気がします。
ただ、ひとつ気になることがあります。外部にアピールすべきポイントがある場合は、会社への愛をベースに適切なアプローチを考え、情報を発信することができます。しかし、そもそも外部にアピールするほど魅力のある制度やプロダクトが存在しない場合は、どうしたらいいのでしょうか?
柴田:広報の仕事は、なにも外部との接点をつくるだけではないんです。広報でうまくいっている企業ほど、広報が新しいサービスや製品を構想する段階で会議に参加し、“広報視点”でアドバイスをすることもあります。
広報は、会社内部の情報はもちろん、競合他社の情報にもアンテナを立てるようにしています。その上で、「他社にない価値は何か」、「他社と差別化するにはどうしたら良いのか」など、より広い視点で会議に参加することで、自社に貢献できると思います。
—— ひとくちに「広報」といえども、営業職の顔、経営者の顔、編集者の顔、そして企画者の顔…と、役割は多岐に渡るんですね。
柴田:そうなんです。また、これまでお話しした2つの能力は、一般的に広報に求められるものです。私個人としては、「ギブ力」が最も重要だと思っています。
—— 「ギブ力」…とは?
柴田:まず、なぜ「ギブ力」が必要なのか説明させていただきます。
前提として、広報の仕事をする上では、「横のつながり」が非常に大切です。たとえば新聞に掲載してもらいときに、自社が持っている情報だけで取り上げてもらえることは滅多にありません。
しかし、横のつながりを駆使すれば、取り上げてもらえる可能性がグッと高まります。「あるトレンドに対し、A社とB社は異なるアプローチをしています。この事実について、特集をしていただけませんか?」と提案するんです。
こうした“攻めの広報”をしていくには、たとえ競合他社であっても、業界のトレンドを語れる仲間として関係値を持っておくのが大事。
また、横のつながりを持つことは、スキルアップにも役立ちます。実際、新米の頃は積極的にセミナーや勉強会に参加し、他社の広報の方や記者さんにコツを伺って知識を得ていました。
—— 記者さんに直接アドバイスをもらうこともあるんですね。
柴田:教えてくれる人もいます。ただ、取り上げてもらえる切り口をレクチャーしてくれる関係性は、一朝一夕で築けるものではありません。信頼の積み重ねにより、1年、2年…と時間をかけて育まれるものです。もちろん、他社の先輩広報さんにアドバイスをいただくのにも、信頼関係の構築が必須です。
その信頼を築くために重要なのが、“ギブ力”です。記者さんも、情報がないことには記事を書くことができません。なので、相手の求めている情報はしっかりと共有し、必要であれば人も紹介します。
そうやって、“自分は情報提供をする人”くらいの気持ちでギブし続けることで、信頼関係が築けます。相手の役に立とうと頑張ることは、結果的に自分の仕事に返ってくる。まずは見返りを求めず、損得勘定を無視し、積極的にギブできる力を身につけてください。
—— ビースタイルさんは、働きやすさを追求した独自の社内制度が広報文脈で話題になることも少なくないですよね。ライフスタイルと担当業務の状況にあわせて、勤務時間を変更できる「時差出勤制度」など、自由な働き方が注目を浴びています。
柴田さんも、制度を利用して週3日勤務で正社員をしながら、ダンサーとしてご活躍されていますよね。出社時間を減らし、ダンサーもする。仕事と好きなことを両立できていることで、仕事にいい影響があるのでしょうか?
柴田:もちろんです!私は仕事だけをしていると、広い視点が持てなくなることが少なくありません。ただ、週3日勤務をすることで、思考がリフレッシュされる。仕事に向き合っているだけでは得られない発想が生まれることがあるんです。
また日数を減らした分、「会社に貢献しないと」という思いが強くなりました。時間は減っても、コミット度は高くなったと思います。ビースタイルで培ったノウハウはダンスの企画に活きますし、ダンスでリフレッシュできることが仕事の効率を上げてくれる。私にとっては、今の働き方が一番合っていると感じますね。
—— なるほどですね。ライフスタイルを構成する要素として、仕事があり、ダンスがある。全てが地続きになっていると。
柴田:そうですね。ビースタイルは、年齢に関係なく、役割が同じだったら給与も同じなんです。
代表が働きやすい環境をつくることにコミットしているので、ライフステージに合わせた働き方をしている社員もたくさんいます。子育てからの育休復帰率も100%ですし、社員の意志を尊重する社風があると思います。
—— そして結果的に、その制度が社会的な注目を浴びている。広報のための制度ではなく、社員のための制度が広報につながっているんですね。
柴田:そうですね。広報としても、そうした社内の取り組みを社会に伝えていけるので、やりがいを感じています。また、ダンスで得た知見を、広報の業務に活かすこともできている。
広報は、これまでの出会いや、これからの出会いを紡いでいける仕事です。「これからどんな新しいことが生まれるのだろう?」と毎日ワクワクしながら働くことができます。
—— 仕事とプライベートの境目がなく、相互にいい影響を及ぼしあえるところが広報の面白さなんですね!