駅前などで見かけるストリートパフォーマー。
彼らへの”応援のお金”は、小さな缶やギターケースに投げ入れられたりと、「集金ボックス」に陽の目が当たることはあまりありませんでした。
この「集金ボックス」をもっと楽しいものにしようと活動しているのが、早稲田大学の学生5名によるIoTハードウェアプロジェクト「BUBBLY」です。
「BUBBLY」はお金を入れるとシャボン玉が出て、パフォーマンスを盛り上げるのに一役買ってくれるという次世代型集金ボックス。
DMM.make AKIBAの支援を受けながら、ハードウェアのプロダクトを手がける早大生グループに話を伺いました。
BUBBLYチーム: 早稲田大学の学生5人が集まったチームで、路上パフォーマーと通りすがりの聴衆との間に、インタラクティブなコミュニケーションを生み出すIoTデバイス「BUBBLY」を制作。2015年12月のJP HACKS(編集部注1)で審査員特別賞とアクセンチュア賞を受賞。DMM.make AKIBAスカラシップを利用してBUBBLYを完成させ、今年、アメリカで開催されたSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト/編集部注2)にも参加した。
今回のインタビューは、メンバーの中から以下の3名が参加。
中島慎太郎(写真中):文化構想学部4年。メインの開発とデザインを担当。
油井俊哉 (写真右) :基幹理工学部4年。ハードウェアという制御部分、センサー周り、光らせ方などを担当。
兵藤友哉 (写真左) :文化構想学部4年。中島のゼミの後輩で、資金調達やPRなどの対外的な対応を担当。
———まず最初に、BUBBLYのアイデアを思いついたきっかけについて教えてください。
中島: 「街中でのコミュニケーション」というテーマについて仲間内でブレストしていた時に、路上パフォーマーやミュージシャンの方にお金を渡す仕組みをもうちょっと楽しくできないかという話になり、そこから思いつきました。
———JP HACKSで審査員特別賞とアクセンチュア賞を受賞されたんですよね。大会の雰囲気はどのようなものでしたか?
中島:みんな弁が立って、勉強になりましたね。参加者は、実際に製作するところまでは至っていない中で、頑張って自分たちのストーリーとビジョンを「語る」ことでその部分を補っているんです。あとは、アイディアを最初に見せた場であったので、そこで手応えを掴めたのは大きかったですね。
———ウェブサービス開発と違い、ハードウェアの開発はとても費用がかかると思うのですが、どのようにして資金を集めましたか?
中島: 最初は僕と油井君の貯金を切り崩してやっていたんですけど、10万円を超えたあたりから厳しくなってきて……(笑)。メンバーの一人が就職した制作会社に掛け合ったら、条件無しでポンと60万円いただけたんです。また、ハッカソンの表彰式の後の懇親会で、DMM.make AKIBAスカラシップ(DMM.make AKIBAが主催する、25歳未満の若手エンジニアを対象とした支援制度)を提案していただきました。「やらせてください」と即答しましたね(笑)。
———SXSWにはどういった目的で参加されましたか。
中島:僕たちのビジョンをアピールして反応を見ることを一番の目標にしました。人と人との間でもっと柔軟にお金のやりとりができることを積極的にアピールしました。
———日本だとストリートパフォーマーの人口は少ないと思うのですが、海外で実際に使っていただいて反応はいかがでしたか?
中島: 観客の数が違うのも大きな要因ではあるんですが、アメリカのお客さんのほうがノリが良かったです(笑)。日本って、エンターテイメントとビジネスがひとつの街に混在しているんですよ。例えば、渋谷だとストリートで活動しているアーティストの数も多いですが、皆通りすぎてしまうじゃないですか。なぜなら、ビジネスマンは帰宅途中であったり、仕事中であったりするので、そういう人は足を止めてくれない。ここが日本とアメリカで大きく違うところだと感じました。
兵藤: アメリカだとリアクションも大きかったですね(笑)。日本人だと「すごーい」という程度のリアクションが、アメリカではその何倍もの歓声だったりするんです。
———実際にストリートパフォーマンスをして、観客の方からはどんな声を戴きましたか。
中島: シンプルに「とてもいいね」と、アイデアを褒めてもらえることが多かったです。広告代理店からも何件かお声をかけていただけましたね。
兵藤: 今のところ競合がいないんです。エンターテインメントって、生活必需品ではないので、「人の心をいかにひきつけるか」が大切だと思うんです。送金システムとストリートパフォーマンスに関して取り組んでいる人がいなかったので、競合相手に関してはあまり考えずに「作ってやるぞ!」と。僕らが最初だからこそ、確固たるビジョンを示していかないといけないと、無意識のうちに考えていたんだと思います。
——— みなさんはBUBBLYをどんなプロダクトだと考えていますか?
中島: BUBBLYって、プロダクトとしての存在感がいい意味で薄いんです。そもそもアーティストが傍らにいて演奏しないとコンテンツとして成立しないですし、アーティストに使ってもらってはじめてエクスペリエンスに価値が出る。他の家電やガジェットとは若干違うものなのかなと思っています。
兵藤: そうですね。電話というプロダクトを例にあげると、通話するというコンテンツがあって、次に「恋人と夜中に長電話する」というエクスペリエンスがある。それらは同一直線上にあると思われていたかもしれないですけれど、実は恋人と長電話することによって電話そのものに対する愛着が生まれたり、総合補完的な関係性にあるのかなと思い始めています。
BUBBLYの場合、プロダクトはBUBBLYそのもの、コンテンツはアーティストの方々、エクスペリエンスはアーティストがこのBUBBLYを使ったときに生まれる価値を指しています。この3つが三位一体になりお互いに影響し合って、新たなムーブメントが生まれるという関係なのではないかと思っています。
———最後に「ハードウェアをつくりたい!」と思っている学生に向けてアドバイスをお願いします。
中島: 今、ツールやHow ToはWebやメイカースペースに溜まりつつあるので、「まずは1個作ってみる」ことがやりやすい状況になってきていると思います。でも、大事なのはそこから先で、プロダクトを作ることは全体の行程の30%くらいでしかないと思っています。仕組み作りとか、どれだけ周りの人を巻き込めるかとか、どれだけ多くの人に夢を見せられるかがとても大切で、「コトづくり」という工程にも気を使うべきだと思います。
———兵藤さん、油井さんはいかがですか?
油井: まわりのおかげでハードウェアの製作に振り切れたと思っています。僕にはできないような、例えば協賛をもらってくるような仕事を他の方々がやってくれたので、そのお陰で全身全霊をかけてハードウェア製作に打ち込めたのが本当に大きいです。
兵藤: 僕は、このチームにいる人の得意分野がそれぞれ違うところが一番面白かったですね。例えば、僕はプロダクトを作ることに直接関わることはできないけれど、それ以外の分野では僕にしかできないこともありました。つまり、自分とメンバーの持っている力がどういうものなのかを把握することが重要だと思います。
他には、スキルに自信がある人ほど内にこもりがちだと思うので、どんどんオープンになって欲しいですし、たとえ自信が無くてもできることを見つけようと思えばきっと見つけられる。 そして一番大事なのは、どれだけ楽しめるかです。僕も最初は好奇心からこのチームに入りましたし、やっぱり楽しくないと続かないですよね。このチームにいられてよかったです。
2016年度のJP HACKSは東京大学名誉教授・竹内郁雄先生(編集部注3)に組織委員長をお願いし、今年も企画を進めています。近く、HPもオープン予定です。お楽しみに!
また、DMM.make AKIBAスカラシップも随時募集されているとのこと。詳しくはこちらをご確認ください!
・編集部注2…アメリカテキサス州で毎年開催される、音楽祭、映画祭などを組み合わせた、業界プロフェッショナルとクリエイターのためのフェスティバル兼見本市という大規模イベント。
・編集部注3 竹内郁雄先生について https://codeiq.jp/magazine/2015/04/22888/