「ORの抑圧」/「ANDの才能」という言葉をご存知ですか?“企業人のバイブル”と称される不朽の名著『ビジョナリー・カンパニー』に登場する言葉で、前者は「変化か安定か」といった二者択一で物事を考えることを、後者は両方を同時に実現させようとする発想を意味しています。
大学生になると、学校の授業、サークル活動、アルバイト…と選択肢の数が増えたがゆえに、「何をすべきか」に迷うことがあると思います。そして多くの学生は「OR」の考え方で、世界を狭めてしまいます。
しかし、頭ひとつ抜けだす人材たちは、「AND」の考え方を持っています。「ORの抑圧」をはねのけ、「ANDの才能」を活かすことで、限られた時間の中で自分の価値を最大化しているのです。
今回編集部が注目したのは、Webメディアの編集長を務めながら、現在はスマホの写真素材が売買できるサービス・Snapmartで長期インターン中の浅野ゆうきさんです。
浅野さんは「学歴コンプレックスだった」自分を、経験値でアップデート。そして第一志望企業から内定を勝ち取っています。
学業と実業を両立し、理想のキャリアの第一歩を踏み出した彼女に、「ANDの才能」を活かした学生生活についてお話を伺いました。
—— 浅野さんはWebメディアの編集長を務めたり、複数の企業で長期インターンを経験したり、学業以外の選択肢にも全力で取り組んでいる印象があります。入学前から、現在のような活動をしようと考えていたのでしょうか?
浅野ゆうき(以下、浅野さん):今のような活動をしているとはゆめゆめ思ってもみなかったです。むしろ、大学生活では堕落した時間を過ごしたことも少なくありません。
—— ではなぜ、今のような活動を始められたのでしょうか…?
浅野さん:最初のきっかけは、大学受験に失敗したことです。第一志望の大学に落ち、当然受かると思っていた滑り止めの大学にも落ちてしまったんです。
私が在籍している産業能率大学は、受験時は第5志望でした。
—— 受験に失敗したとき、どんな気持ちでしたか?
浅野さん:正直にいうと、とにかく恥かしかったです。中学生の頃は成績が良く、高校は進学校に通っていたので、当然大学も難関校に合格できるものと思っていたからです。
高校では「自分は勉強のできる人間だ」という驕りがあり、ろくに勉強もせず、大失敗。
仲の良い同級生たちは名門大学に合格していて、「恥ずかしくて友達に合わせる顔がない」と思っていました。遊びに誘われるのも、受験の結果を聞かれるのも嫌で、LINEやTwitterのアカウントを消したくらいです。
—— 受験でプライドをへし折られてしまったと…。
浅野さん:おっしゃる通りです。コツコツ努力しなかったことが原因でした。「受験は頑張ろう」と思い一念発起しましたが、高校3年間勉強しなかったツケが、受験の結果として現れましたね。
—— 「もっと勉強しておけば…」という後悔はありますか?
浅野さん:勉強に限らず、高校生活は何一つとして「頑張った」と胸を張れることがなく、振り返れば後悔ばかりです。
そして何より、頑張らなかった原因を周りや環境のせいにしていたんです。そんな自分が嫌で、気分は鬱でした。
—— でも、その経験が、頑張る理由になったと。
浅野さん:「受験の結果は変えられないから、変えられることを頑張ろう」と気持ちを切り替えました。入学前のオリエンテーションで高校時代を振り返り、「これからの4年間、悔いを残さないように頑張ります」と、教室の前でゼミのみんなに宣言したことを覚えています(笑)。
—— では、入学直後から学業以外の選択肢にも挑戦されて…?
浅野さん:そうですね。高校時代は「やりたいと思ったのに、行動に移さない」ことが少なくなかったので、「少しでも興味を持ったことには、全部挑戦してみる」スタンスでいました。
ただ、大学生活に慣れてきて、ダレてしまったんですよね。気持ちが緩み、ほとんど毎日飲み会に参加するようになってしまいました。それ自体が良くないことではないですが、目的もなく惰性で参加していたんです。
—— すぐに自分を変えられたわけではないんですね。
浅野さん:自分との約束を破っていたので、すごく罪悪感がありました。ゼミで夏休みの振り返りをした際に、「何を学びましたか」「何に挑戦しましたか」という問いに全く答えられなかったんです。
「自分の方が優っている」といった傲りがありましたが、ゼミのメンバーには、自分が知らないところでボランティア活動に参加している人がいました。自分だけが、何も変われていなかったんです。
浅野さん:そして、極め付けはSPI(Synthetic Personality Inventory:総合適性検査)。「第5志望の大学だから、絶対に学年1位を取れる」と見くびっていたのですが、結果は100位台。
高校時代と同じ過ちを繰り返していることに気付き、本当にショックでした。さらに、そのままズルズルと行動できない日々が続き、やると決めていた長期インターンを始めるのに、半年もの時間がかかってしまいましたね。
—— それでも、比較的早い段階で長期インターンに挑戦されています。この最初の一歩が、自分を変えるきっかけになっているのでしょうか?
浅野さん:そうです。2年生になり、就活に対する焦りが大きくなったころ、「インターンシップ」という授業を見つけました。
この授業は、産能大がインターンの枠を取り、学生が10日間ほど企業で働くことで単位を得られる授業です。この授業を見つけた瞬間に、「このインターンシップは頑張り抜こう」と決め、すぐに応募しました。
—— インターン先では、どのような業務を?
浅野さん:伝統工芸を映像にして紹介するメディア『ニッポン手仕事図鑑』で広報を担当していました。具体的な業務は、プレスリリースの企画書作成や、企業とのタイアップ企画を考えるなどです。
—— 「頑張り抜こう」と決めてスタートしたとのことですが、価値観や心境の変化はありましたか?
浅野さん:自分の欲求を、より明確に知ることができました。仕事の大義について考えるようになった、とも言えるでしょうか。
もともと「地域活性に携わる仕事をしたい」と考えていましたが、あまりにも漠然としていたんです。「地域活性」の定義も分からないし、自分の中にある答えもない。
そうした状態から、「なぜやるか」を必死に考えるようになり、何事をするにも意味づけができるようになりました。
たとえば、外国人の方にたくさん移住してもらって人口が増えても、本当の意味で地域活性化しているとは言い難い。「文化や伝統をいかにして存続させるのか」といった、より本質的な思考が求められ、「なぜ私がこの仕事をするのか」「私は何のために地域活性に向き合うのか」と問いを持つようになったんです。
結果的に、以前にも増して、地域活性に関わりたいという気持ちが強くなりました。地方の企業を訪れ、地域に直接触れる経験をしたこともいい経験になりました。
—— 地方の企業訪問など精力的にインターンをされている浅野さんですが、学業との両立に苦しむことはありましたか?
浅野さん:たしかに、授業やゼミが重なって忙しかったです(笑)。でも不思議と、辛いと感じたことはなく、とにかく楽しかったです。授業も全て出席してましたし、一応、成績も優秀でした(笑)。
—— 学業と課外活動を両立し、やり抜く原動力はどこにあったのでしょう?
浅野さん:ひとえに、自分との約束です。インターンを始めるときに「学校の勉強が中途半端になったらインターンをやめる」と決めました。
たとえば、インターンがあるからと授業を休んだり、授業中にこっそり仕事をしたりするのは禁止です。そのくらいの覚悟を持ち、何事も手を抜かずに頑張ることで、過去の自分と決別しようと考えていました。
—— まさに、選択を狭めず、自ら選択肢を増やし、可能性を拡げていく「AND」の思考ですね!学業と課外活動を並行して頑張ったことで、得られた知見はありますか?
浅野さん:たくさんありましたよ。正直、インターンを始めるまでは「大学の授業は無駄だ」と思っていました。ただ情報を叩き込まれるだけで、役に立たないものだと思い込んでいたんです。
しかしインターンを始め、社会の仕組みを肌で感じたことで、授業で得た知識が立体的に理解できるようになりました。
自分の経験と新しく得た知識を混ぜ合わせ、自分の中に落とし込む感覚にとても感動したのを覚えています。
以来、授業が面白いと感じるようになり、教室の一番前の席に座るようになりました。また、授業で学んだことをインターンに活かすこともできました。学業と就業を両輪で回す、有意義な時間になったと思います。
大学の授業の大切さは、まさにインターンと学業を「AND」でこなしていたからこそ気付けたことです。
—— 浅野さんは、就職人気ランキングで上位にランクインするインターネット企業から内定を獲得されています。「大学受験に失敗した」そうですが、そこから逆転できた最大の理由はなんでしょうか?
浅野さん:「自分の頭で考えられるようになった」からだと思います。インターンを経験すると、必然的に自分のキャリアについて考えることが多くなりますよね。たとえば応募する際も、なぜその企業なのかを考えます。
私であれば、なぜ地域活性をしたいのかを考えたり、それをどのような手段で達成するのかを考えたり。自分と向き合う機会増えるので、内省を繰り返すようになるんです。
自分の頭で考え、行動してきた経験は就活時どの企業でも褒めていただきました。私自身も、第一志望の企業から内定をもらえた理由だと思っています。
—— では、抱えていた学歴のコンプレックスも、今ではもうなくなっている?
浅野さん:「高校の同級生が大学で遊んでいるうちに、自分は頑張ろう」なんてことをずっと思っていましたし、今もそうなので、まだコンプレックスの塊ですね(笑)。
でも、インターンを始める前に決めた自分との約束を2年間守ることができたので、以前より自分に自信が持てるようになりました。
—— 「AND」の才能を活かし、第一志望の企業から内定をもらった浅野さん。最後に、これから学生生活を充実させようと考えている学生たちに、メッセージをお願いします。
浅野さん:インターン以外にも、サークルやバイト、大学の授業など、みなさんが頑張れる環境はたくさんあります。ただ、全てに共通するのが、「中途半端は意味がない」ということです。
私の周りのには、あれもこれもと手を出した結果、全てが中途半端になっている人がいます。その人たちは、頑張っているように見えて、最後に残るものが多くはないんです。
選択肢を増やしても、どれも全力で頑張ることが大事。「人生の夏休み」とも言われる大学生活ですが、全ての選択肢に“100の力”で取り組めば、必ず将来につながる時間になると思います。
早稲田大学商学部学2年、来春から同志社大学文学部美学芸術学科。株式会社Traimmuで「co-media」のライターと広報のインターン。