本記事では、セッション中に学生から質問のあった「強いチームを作る方法」について、ピックアップしてお届けします。
元リクルート最年少執行役員の須藤さんは、強いチーム作りには「共同幻想が必要」だと語ります。会社にかかわらず、部活やサークルなど、一体感のある組織作りに欠かせない要素とは…?
須藤さんに初めて質問をしたのは、野球部のマネージャーを務める学生。
「チーム全体の力を最大化するために、“メタ認知”を向上させるにはどうしたら良いのか」と問いました。
しかし須藤さんが口にしたのは、大学生の質問をひっくり返す答え。
須藤憲司(以下、須藤)「チームを強くするために、一人一人の“メタ認知”を向上させる必要なんて、必ずしもありません。それよりも、チームに共通するビジョン、いわば“共同幻想”をつくり上げ、その精度を高めることに尽力すべきです。
チームプレーをする上では、ビジョンや大義が何より肝要。大上段の目的なくして、目標に向かっていくことはできないからです」
須藤「また、よく目的と目標を混同している方がいますが、ここは分けて考えるべきです。たとえば野球部は、“大会に優勝すること”が目標であって、その先に“僕たちはどうありたいか”という目的がある。
目的を設定して、『そのために優勝するんでしょ』とチーム内を導いていくことで、チームの力を最大化できます。
続いて坪田さんからは、チーム強化に求められる「リーダーの素質」と「個別への対応」について、アドバイスがありました。
坪田信貴(以下、坪田)「僕も須藤さん同様、チーム内で目的を問い直すことが大事だ思います。一致した目的がないと、団結できないからです。
リーダーには、皆の心を震わせるビジョンや大義を“映像化”できる資質が求められます。もちろん個々に目標や方法論が微妙に違うこともありますから、そこは尊重して、それを引き出すために個別で対応するのです。
しかし、やっぱり最終地点としては、皆が同じ志を掲げて動く必要があります」
チームを強くする方法について須藤さんからお話があった後、組織の実力構成についてお話がありました。
組織全般に当てはまる理論として、「2:6:2の法則(働きアリの法則)」と呼ばれるものがあります。
「上から2割の者が会社の売上の大部分を担っており、6割がいわゆる“普通”の働きをし、下の2割はあまり働かない」という理論です。
下層の2割の力を引き上げることで、チームは強くなります。リーダーは、どのように組織を動かしていけばいいのでしょうか?
坪田「『2:6:2の法則』はとても面白くて、ある組織の下層2割だけを集めて100人グループを作ってみると、また2:6:2の構図になるんです。
このことから、『駄目なのは、下層の人じゃないかもしれない』と考えられます。たとえば、会社の業務は全然できないけれど、家族というコミュニティーでは一家を支える大黒柱になっているかもしれない。人はそれぞれ長所が違うので、リーダーは、どこに才能を見出すのかを常日頃考えないといけません。
また、下層2割の目標設定を変えることもアプローチの手です。たとえば野球部なら、スタメンじゃない10人だけで大会をしてみるなど、目的は変えずに目標設定を別に設定すれば、力を発揮してくれやすいです。
これって会社の利益率にも適応できるんですよね。企業は優秀な人を採りたがるのですが、その層の採用にはコストがかかり、結果利益として残らないことが多いんです。
しかし、社内の出来ない人を集めて教育して生産力をあげれば、人件費を差し引いても会社として儲かるんです。
坪田さんの意見に対し、須藤さんは少し違った視点で意見を述べました。そもそも、下層の2割に注力することへ疑問を投げかけます。
須藤「よく人事やマネージメントの人は“下層に注目しがち”ですが、会社にもさまざまな人がいます。その前提に立ち、それぞれに同等に時間を使うべきだと思うのです。
組織が掲げる目的を達成したいときは、チーム全員が持つ時間を、どう使うかが試されます。下層2割を引き上げることにだけ時間を使うことが、目的の達成に効果的だとは思いません」
会社はその特性上、利益を出すことが評価されます。しかし、利益を出すことだけが目的化すると、社内カーストが生まれて人間関係がギスギスすることも。
「仕事面だけなく、仲間の個性を肯定する姿勢が、結果的に会社の力になる」と須藤さんは最後に語りました。
須藤「先ほど、『下の2割にだけ時間を使う必要はない』と言いましたが、仲間全員に目を向けることで会社を強くする方法もあります。“会社を強くしよう”と考えず、“社会を強くしよう”と考えるのです。社会が強くなると、会社は強くなります。
どういう意味か、具体例とともに説明しますね。僕が代表を務めるKaizen Platformは、リモートワークを行う社員も多いのですが、先日『金曜日は全員出社義務』を発表したんです。
すると、普段リモートワークをしているメンバーは最初ブツブツ文句を言います(笑)。ただ結局のところ出社して、お菓子を食べながら楽しそうにしているわけです。一緒にランチしたり夜は飲んでから帰っていますし、なんだかんだエンジョイしている。そうやって、会社の中の“社会”が強くなっているんです。
“会社を強くしよう”と考えたら、効率性とか優秀さなどが主たる評価基準になり、メンバーが絞られていきますよね。でも、コミュニティが強くなる要因に、効率性は関係ない。
つまり、強い社会を形成する際には、仕事ができる・できないとかだけで仲間を選んだらダメなんです。そうやってヒエラルキーを作ったら、スクールカーストのように人間関係がギスギスする。
“心理的安全性”というのがチームのパフォーマンスに重要だという研究がありますが、失敗していようが、うまく成果が今は出せていなかろうが、『お前めっちゃ面白いね』って、その人を受容する社会を会社の中に作れば、結局のところ強い会社になるんです」