19歳で渡英してから4年が経ち、この度イーストアングリア大学を卒業します。今回の連載「#わたしはネイティブになれなかった」では、自信がなくてこれまで言葉にしたくなかった「英語力」について、4年間の留学生活を喜怒哀楽の思い出とともにお伝えします。
留学する詳しいきっかけについては、3年前に執筆した「きっかけは父の言葉。開発学を学ぶためイギリスへ進学。」をご覧になってください。
わたしは小学生の頃から英語に興味はあったものの、いわゆる「純ジャパ」です。留学以前は海外に1週間以上滞在したことがありませんでした。
英語を使うことへの憧れがあったので、高校入学前と翌年の春休みにイギリスとカナダに1週間ずつ1人で語学研修に行かせてもらいましたが、もちろんそんな短期間で英語力が上達するわけでもありません。
高校在籍時、担任との面談で海外進学する旨を伝えたときも、模試の成績表を見ながら「英語が得意なわけではないんだね」と言われたことを覚えています。
高3の夏の時点で「TOEFL iBT」は49点、1年後の渡英直前は72点。それぞれTOEIC換算で480~600点程度と680~750点程度、IELTS換算で5.5点と6点です。受験勉強もせず毎日英語だけやっていたので「高校生にしては良いかな?」というくらいでしょうか。
今考えても決して「すぐに海外生活に馴染める」といえるほどの英語力だったわけではありませんが、当時は準備しきったつもりでいました。しかし、やはりそう簡単にはいきません。留学1年目はなんとか乗り切れたものの、英語力の甘さが仇になったのは2年目のことでした。
イギリスの大学は基本的に3年制。ただし日本で高校を卒業した場合のほとんどは、最初に1年間ファウンデーションコースで学部の基礎やアカデミック英語を勉強してから進学します。つまり、合わせて4年間の留学。
留学2年目、つまり大学1年生になってから、勉強面に関してファウンデーションコースが役立ったと感じる場面は何度もありました。しかしその最初の1年で大学生活に必要なことが全て身についたわけではありません。ファウンデーションコースと大学の一番の違いは「周りにネイティブがいるかいないか」だからです。
ようやく大学に入り、大教室での100人近い人数でのレクチャーや、ブリティッシュだらけのセミナーに放り込まれた私は、1年イギリスでやってこれたからなんとかなるだろうという薄っぺらい自信をどんどん失っていきました。--三歩進んで二歩下がる。イギリス2年目は”もがきながら成長していきたい”。
イギリス人の話す英語は、ファウンデーションコースで聞き慣れたはずの非ネイティブがペラペラ話す英語とは、アクセントも語彙もペースも信じられないほど違ったのです。
1年間イギリスで勉強していたはずなのにイギリス人の英語が分からないことを痛感し、わたしはすっかり自信をなくしてしまいました。周りが誰かのジョークで楽しそうに笑っていても、「今なんか面白いこと言ったの?」と思いながら愛想笑いをしていたほどです。
「会話が聴き取れなかったらどうしよう」と不安だったので、コースメイトに挨拶したり話しかけたりすることも億劫な時期が続きました。
スピーキングに関しても、この頃はまだ頭の中で文章を構成してから話していた気がします。相手がネイティブというだけで身構えてしまう自分に気がつきました。「Pardon?」なんて言われようものなら、ますます慌てて言いたいことが言えなくなってしまいます。
こうした緊張は「間違えてはいけない」「この人たちの前で間違いを犯したくない」という気持ちから生まれてくるものだと思っています。というのも、自分がリラックスできる相手とは、ネイティブだろうと留学生だろうとスムーズに話せることが多いからです。イギリスの留学生活でよく耳にする、留学生同士で仲良くなるというのはこのことが原因ではないでしょうか。
典型的な「読み書きはできるけど話す聞くができない日本人」だったわたしは、リスニングとスピーキングがだめなら課題の成績でネイティブと勝負しようと考え、勉強には力を入れていたので、成績は悪くありませんでした。
しかし勉強だけでは英語は伸びないことにも薄々気づいていたので、1年生の後期からは一念発起して行動範囲も増やしていきました。音楽サークルに入ったり、「TEDx」を運営するボランティアをしたり、学部のタレントショーに出たり。様々なイベントに関わり、人前に出ることが増えると、だんだん自信もついていきました。
その結果、英語力の伸びは点数に表れました。イギリスでの2年目を終え、その年の夏休みにTOEICを受けると905点(TOEFL換算で94~101点、IELTS換算で7点)。
正規留学している人と比較してとりわけ高い得点だとはいえませんが、英語力の伸びが数値化され少し自信になりました。
また大学2年生になり、現在の自分を1年前の同じ時期と比較してみることができるようになると、自分ができることが増えていることに気が付きます。まるで赤ちゃんに戻ったような感覚ですが、こうした小さな発見の数々が留学の醍醐味。
初めてそれを感じられたのは、2年生の前期に新入生に新生活や勉強の仕方について支援するメンターのアルバイトをしていたときでした。1年前は同級生がメンターに質問していることすら聞き取れていなかったのに、今はこうしてイギリス人の男の子と2人でプレゼンテーションを準備し、1時間人前に立ち、質問に答える側になっている。
それでも、話すことを事前に考えたり、紙に文章を作ったりして準備をしていました。授業でのプレゼンテーションでも、2年生の前期の段階では一字一句書いたメモを持っていたのを覚えています。
2年生の終わりには、フィールドワークとしてスコットランドに出かけました。現地の研究者や飲食店のオーナーにインタビューをしたり、街頭アンケートをしたりして、そのころにはメモもほとんど使わずに15分間の個人プレゼンテーションができるようにもなっていました。
自信をなくして、「英語が話せます」と言えるようになる日が来るなんて全く思えなかった1年生のときから、「なんでもできる」ような気になったこのときから、丸2年かかりました。この心境の変化は自分の中で大きなものでした。
でも、英語が話せるのと、バイリンガルとして英語を母国語のように扱えるのとは、全く違います。
バイトができる、プレゼンができる、友達の家に遊びに行ったり、一緒に旅行にも行ったりもできる、面接で受け答えができる。自己紹介だけでドキドキしなくなったし、イギリス人のサーカズム(皮肉)も理解できるようになった。もう、頭の中で文を構成しなくても英語が出てくる。
でもやっぱりリスニングに自信がないので、どうしてもできないことが出てくる。バイトリーダーにはなれなかった。まだ緊張してしまう相手がいる。「行けば楽しい」と分かっている飲み会でも、「(がんばって)行かなきゃ」「誰と行こう」と小さな壁がある。そして最終学年でもう一度挫折も味わう。
「4年間で英語がどう伸びたか」という問いに結論をつけるなら、“「英語話せます」って言えるようになったけど、大学生から外国に行ってもネイティブにはなれない”。
連載の1回目は「英語の伸び」に焦点を当てましたが、2回目と3回目では「英語をどうやって伸ばすか」、また、先ほども挙げたような緊張や自信のなさから「できなかったこと」についても触れたいと思っています。
筆者Twitter:@yukiikuy_uk
個人ブログ: かっこつけないイギリス留学