11月23日、グロービス経営大学院東京校で「G1カレッジ」が開催された。
G1カレッジは、各界のリーダーが集い、日本社会が直面する課題について具体的な行動ビジョンを共有することで日本の再創造を目指す、「G1サミット」の刺激を大学生たちにも届けたいという想いのもと企画された。過去2回の参加者たちはカンファレンス終了後も交流を続け、熱い想いを持ったコミュニティを形成している。
第3回となる今年は「ビジョン」をテーマに、1000人近い応募者から約300人が選抜され、過去最多の参加者となった。強い問題意識を持った日本人の大学生が、アメリカ、中国、ハンガリー、オーストラリアなど世界からも集まった。
午前9時、壮大な音楽と共にムービーが上映され、G1カレッジが開会した。G1の取り組みとスローガンが紹介された後、一般社団法人G1代表理事の堀義人氏が挨拶を行った。
昨年のG1カレッジにおいて提言された“被選挙権年齢の引き下げ”が、その後のG1カレッジメンバーによる活動により、今年7月に行われた参議院議員選挙の各党のマニュフェストに入ったという。堀氏はこの実績を挙げながら、「多くの仲間に出会って、多くの学びを得て、将来のビジョンを描く一日にしていただけたらと思います」と語った。
堀氏の挨拶の後は、小泉進次郎 衆議院議員のスピーチ(第1部全体会)や、牧野正幸 ワークスアプリケーションズ代表取締役最高経営責任者、細野豪志 衆議院議員、慎泰俊 五常・アンド・カンパニー代表取締役など、各界で活躍する先輩リーダーたちのパネルディスカッション(第2部全体会)が続いた。
ディスカッションでは「ビジョンと行動」をテーマに、思想を行動に移すために必要なこと、そして今何をするべきかが語られた。
牧野氏は、自身が起業するに至った理由を、社会があるべき姿になっていないことに対する「怒り」がきっかけであったことを挙げ、「誰もやらないなら自分がやるしかない」と学生たちに力強いメッセージを贈った。
その上で、「20代のうちは周囲を巻き込むことを考えるよりも、個人の能力をいかに伸ばすかが大事」と述べた。
終了後に参加者に感想を聞いたところ、この言葉に背中を押された人が数多くいたようだ。
第4部の分科会は、「教育・ダイバーシティ」「メディア・文化」「地方・政治」「テクノロジー・医療」という4つのテーマでのセッション。
続いてランチを挟んだ後に、「教育」「ダイバーシティ」「メディア」「文化」「地方」「政治」「テクノロジー」「医療」の8つのテーマごとに最大5名程度のグループに分かれ、「10年後のビジョンとそのための行動宣言」を話し合うワークショップ(第5部)が2時間半かけて行われた。
ディスカッションが進むにつれて各グループの熱気は高まり、ホワイトボードの裏面まで使いながら議論するグループも多く見られた。それぞれの経験を元に社会課題をどのように解決し、そのために自分たちは何ができるのか、参加者たちが上気して頬を赤らめるほど、熱心に考える姿が印象的だった。
本当にやる覚悟はあるか?
「What will you do tomorrow ?」と題された最後の第6部全体会では、ワークショップで議論されたビジョンと行動宣言が、テーマごとに代表のグループから発表され、各グループのプレゼンには、為末大 アスリートソサエティ代表理事や小澤隆生 ヤフー執行役員などのパネリストから意見や激励の言葉が贈られた。
第6部は、熱いディスカッションを経た大学生たちの高揚感に溢れ、パネリストの紹介から拍手と歓声が沸き起こるなど、これまでの緊張感を持ったセッションとは打って変わってお祭りのような雰囲気になってきた。
中でも盛り上がった提言をいくつか紹介する。
<ダイバーシティ>のグループから提案されたのは、地方と都市のグローバル格差を解消するため、2020年東京オリンピックで来日するオリンピアン・パラリンピアンを全国の小学校に派遣する「黒船プロジェクト」。地方の小学生たちに海外を身近に感じてもらうことを狙いとし、今回、地方から参加した多くの参加者からも共感を得ていた。
このグループは、ディスカッションの最中から、アドバイザーとして参加した吉田雄人 横須賀市長にアイデアを打診するなど行動力も際立っていた。
前回のカンファレンスから実績を残した<政治>のグループは、被選挙権年齢の引き下げが実現された後、2年後の統一地方選挙でG1カレッジ参加者から政治家を5名以上輩出することを宣言した。
これに対して、佐藤大吾 ジャパンギビング代表理事は「若い人が立候補したら必ず通るよ。逆に聞きたい、本当に政治をする覚悟はあるか」と質した。自分たちの提言を本気で実現させることを目指すG1ならではのコメントだろう。宣言して終わりではなく、宣言に責任を持つことを強く意識させた。
このコメントに対して、提案者を含めて数名の大学生が「覚悟はあります」と声を上げた。発言の意味を思い出させるような一言に臆してしまいそうな場面でも自分たちの宣言に真剣な覚悟を示す参加者たちに、次世代リーダーを目指す大学生が集まるG1カレッジらしさを感じた。
<テクノロジー>グループからは「予防医療を発展させて病院を無くす」という提言がなされた。“おざーん”の愛称で親しまれている小澤氏はこの提案に「バカじゃん(笑)」と呆れ果てていた。小澤氏は、「日本が豊かだからできる発想だよね。世界には病院に行けなくて苦しんでいる人もいるのに」と提案の出発点を理解しながらも、「日本に生まれただけで勝ち組」というこの国の豊かさをしっかりと認識しなければならないと物申した。
全体講評の中で小澤氏は、「ワンセンテンスでガツンと来るものが無かった。どんな提言があったかもう覚えていない」と厳しいコメントを残した一方で、「意識高い系と言われることもあるが、実現すれば “成功者”と呼ばれるようになる。(先ほどの「日本は豊かな国である」という発言を受けて)日本で普通に生きていたら必死になることはない。その中で必死になれることをみつけている、こんなに素晴らしいことは無い」と参加者たちを激励した。
宮城治男 ETIC.代表理事は、「10年後、君たちはこれまでの“成功”という概念とは違う方法で活躍していくのだろうと思う。」と語り、現在の価値観に捉われない“未来の自由さ”を強調した。
カンファレンスの最後に、堀氏は、自分は同世代の仲間を応援する「集団出世主義」であること、その仲間を徹底的に支援するためにもG1を始めたことを明かして、仲間の大切さを説いた。今日、ここで出会った大学生たちが仲間となり、互いに切磋琢磨し続けていくことへの期待が感じられた。
Facebookグループに始まり、前夜祭・懇親会・後夜祭などカンファレンス以外の機会でプライベートな交流も生まれ、このG1カレッジをきっかけに、熱いビジョンを語り合い信頼し合える仲間との関係が続いていくのだろう。
為末氏は大学生たちにこんな言葉も贈った。
「無邪気で居続けることは賢くなることよりも難しい」
今回の参加者たちが、今の大胆な発想を持ったままコミュニティを持続し、互いに刺激し成長を続けていけば、大きなムーブメントを起こすことができるかもしれない。そう期待を抱かせてくれるカンファレンスだった。
◆「G1カレッジ」動画一覧(GLOBIS知見録)http://globis.jp/category/341