フィリピンのアテネオ・デ・マニラ大学から楢府奈緒子です:)
留学生活も今月で終わりです。来月からどのような生活が待っているのか・・・不安と期待が入り混じっています。
この国は時々、さりげなく本当に怖いです。少し前に大学で避難訓練があったのですが、日本で一般的な地震と火事に加えて、この国ではSniper(要するに銃で武装した人・集団)に襲撃された場合が追加されます。
場合によっては、爆弾絡みの事件を想定した避難訓練をするとかしないとか・・・。設定が予想の斜め上を行くので本当に驚きました。避難訓練するってことは本当に起きるかもしれないってこと…??!!怖すぎます。
さて、今回はCoco Problemと呼ばれる社会問題に取り組んでいる友人のインタビューです。
ココナッツは日本ではそこまで馴染みのある食べ物ではありませんが、エスニックフードの人気の高まりなどによって、輸入食品店やアロマショップだけでなく、近所のスーパーなどでも最近見かける機会が増えています。私たちの生活にも浸透しつつあるココナッツですが、どのような問題がこの国で起きているのでしょうか。ーインタビューしたACE君(Photo credit:RJ Dimla)
まずは紹介からです。ACE(エイス)君です。私が通っているアテネオ・デ・マニラ大学の政治学部4年生で、日本に研修で来たことがあるため少しだけ日本語を話せます。 「エット、ソレハ、アノー、ワタシハーフィリピンの人ですー」 いっつもこれしか言いません(笑)。
でも、周りがタガログ語で会話していてぽつーんとしてる時や、落ち込んでいる時にこの日本語で私を和ませてくれます。彼の十八番の3月9日(レミオロメン)、すごく流暢な日本語ですごく上手です。
今回は彼の活動に触れながら、インタビューをもとにフィリピンの社会問題Coco Problemの実態に迫ります。
彼はAteneo Task Force Anti-APECO (APECO: The Aurora Pacific Economic Zone) という大学の活動の一環でこのプロジェクトに2012年から地方で取組み始め、現在はココナッツ農家の生活水準の向上を目的としたAtenians for Agrarian Reform Movementで代表として活動を行っています。ー アテネオ大学でのデモの様子
この団体は、私たちが通うアテネオ・デ・マニラ大学のみならず、他のアテネオ大学系列の大学とフィリピン大学デリマン校にも同じように活動する団体があり、それらの団体と協力しながら活動を行っています。
Coco problemは、独裁政権時代の負の遺産や政府機能の弱さ、封建制のような土地収奪など、この国の様々な社会問題を映し出しています。
独裁政権の名残の一つがココナッツ税です。Coco Levyとは、独裁政権のマルコス政権によって1973-1982年の9年間にわたって様々な大統領指令によってココナッツ農家に課された、「現代フィリピン史における最大の合法化された搾取」とも揶揄される税金の総称です。
表向きは、ココナッツ農家の利益と発展、貧困からの引き上げを目指したとされていますが、地主の子どもが得るような奨学金に充てられ農家のためには活用されませんでした。
また、その他のココナッツ税はサン・ミゲルやココナッツ農業とは関係のない事業に投資され、今日ではココナッツ税の一部であったココナッツ産業投資基金(Coconuts Industry Investment Found)は1500億ペソまで膨れ上がっています。
2012年に40年近い法的な争いに決着がつき、サン・ミゲル・ココナッツ産業投資基金会社 (Coconut Industry Investment Fund-San Miguel Corporation)の24% 、710億ペソはココナッツ農家の利益と産業の発展のみに利用されるべき公的基金とされたものの、説明なく分割され、財務省とUnited Coconuts Planters Bankに預けられたままの状態になっています。この71億ペソは2年以上たった現在も農家のために使用されていません。ー ココナッツ搾油機(出典:http://www.logitecplus.com/)
ココナッツ加工機械(搾油機)の販売をサン・ミゲル(フィリピンの有名な飲料メーカー)の会長が代表を務めるココナッツ農園者協力銀行(United Coconuts Planter Bank)が独占し、補助金等がなかったために、農家はこの機械を買えず、農家はコプラ(乾燥させたココナッツの白い実の部分)を彼が経営する搾液所に売らざるを得ない状況になりました。
1980年代までに彼の搾油所は国の80%のシェアを占めるほどでした。また、搾油所に販売するしか選択肢がなかったために、コプラの販売がココナッツ産業の中心となり、価値のあるココナッツウォーター等は廃棄され、結果的に多くの農家が貧困に苦しむことになりました。
現在でも、ほとんどのココナッツ農家は土地を所有していないか限られた土地しか持たないため、350万人のココナッツ農家が一人当たり年間で18,000ペソ(5万円以下)以下しか稼ぐことができず、国内で最も貧しい状況に置かれています。一部の農家は収入を補うために自分にあてがわれた土地に加えて、賃金労働者として農園で働いています。
加えて、進まない農地改革(Comprehensive Agrarian Reform Project)もココナッツ農家の生活を圧迫しています。この改革は独裁政権であったマルコス政権が崩壊したエドサ革命後の民主化政策の一環として1987年から始まりました。20年以上経っても、土地の分配が進まず、2009年にさらに5年延長されることが決定しました。(Comprehensive Agrarian Reform Program Extension with Reform Law)
プログラムが2014年6月で終わるにもかかわらず、2月の時点で80万ヘクタールの土地が分配されておらず、20万ヘクタール以上の土地は適用通知 (Notice-of-Coverage) が発行されなくてはならない状況でした。この政策の未達成により110万の農家の生活に影響があるとも言われています。そして、現在のアキノ政権の達成度は過去最低レベルで、2010年からの3年間で全体の26%のみしか実現されていません。
現在の土地分配は女性のため支援、農具や現金での資本金、政府による貸し付けへのアクセスをはじめとした適切な支援サービスがない状態で実施されており、この改革の受益者の44%にあたる166万人がそのサービスを受けられていません。
また、政府が打ち出した食料と燃料の運用方針はこの農地改革と矛盾する内容であり、310万ヘクタールが多国籍企業や外国政府へと充てられ、Global Land Grabbingと言われる世界的な土地収奪の現象が起きています。それだけではなく、この国では土地収奪は、スペインによる植民地時代から続く、封建的な土地収奪の継続や利益志向の経済を反映しており、地元の人々を無視した利益志向のエコツーリズム区域、土地の無計画な利用が原因の気候変動による災害を招いています。(出典:http://www.excite.co.jp/)
そして、土地改革を要求している権利を主張する農民に対して、家を燃やす、土地を荒らすなど地主が嫌がらせや脅し、暴力行為を行う事態も起きています。また、農民への嫌がらせのためのみならず、土地所有の主張と土地所有を正当化するために窃盗罪や権利侵害で訴える地主も存在します。
この問題に対して彼の団体が取り組んでいるのは、農家の生活向上と、即時の支援と対応を政府に求めるロビー活動です。
主に、
・農地改革の促進
・ココナッツ税で集められた税金を農家のために適切に使用する政策の実現
を政府に対して求めています。
この2点はこの問題の解決には必要不可欠です。 政府主導の農地改革を進めることは農家の生活水準向上に避けては通れない道です。土地を所有していないことと地方の貧困問題は密接な関係があり、実際、農地の分配が進んでいない上位15州(国全体は81州)に国内の貧困層の30%が集中しています。政府の積極的に促進するようプレッシャーをかける必要があります。
ココナッツ税の使い道として、肥料や灌漑施設の造作、販売場所までの道路の整備、ココナッツを加工するハブ工場の建設など、直接的に農民の収入や生活を向上させる施設などにその税金を使用するように呼び掛け、かつ他の用途に使用されないようにアドボカシーを通じて圧力をかけています。
彼と話していて最も印象的だったのが、「どのアクターがこの問題を解決するのに一番力があるの?政府?NGO?」と質問した時に、即答で「Youth!」と答えたことです。フィリピンで人口が最も多い世代だからこそ、この先のフィリピンを作っていく世代だからこそ、彼らが変われば社会も変わると力強く話してくれました。
そしてもう一つ。 この大学に来て、国内トップクラスのお金持ちに囲まれて過ごして感じた事を率直に質問してみました。
「ここの大学生みたいなお金持ちが変わらないと社会は変わらないと思うけど、本当に彼らが今の生活を捨ててまでこの解決に取り組むと思う?もし格差がなくなれば、彼らは専属ドライバーも家政婦もいなくなるけど・・・」と。
この質問にはやはり苦笑いされました。少し黙った後に、「それはフィリピン社会の構造的な問題だけど、どうにかしないといけない問題だと思う」と話してくれました。
フィリピンで開発の授業を受けたときに、「フィリピンが発展しない理由は?」との質問に、「自己中心的なところ」「植民地支配の影響」「汚職」と生徒が積極的に発言し、就職の話になると「海外で働きたいかな。この国の若者にはよくあることだよ!」と聞くたびに、この国は誰が担うのだろう・・・と思っていました。
だからこそ、彼と話をして「社会問題をどうにかしたい!」と力強く語る姿を見て頼もしくかっこよく感じると同時に、私も発展途上国の社会問題に目を向けるだけでなく日本の社会問題にも国の若者として彼のように積極的に関わっていかなくてはいけないのではと改めて感じました。
もし詳細を知りたい方がいらっしゃったら、英語のみですが彼の団体のFacebookページにアクセスしてみてください。このコラムを通じて、日本の生活を支えている発展途上国の人々に思いを馳せて頂けたのであれば幸いです。最後まで読んで頂いてありがとうございました。
2014年10月からフィリピンに滞在中。11月から3月までのアテネオ・デ・マニラ大学の交換留学を終え、現在はオロンガポ(マニラから北に4時間)でPREDA FoundationというNGOでインターン中。フィリピンの色々な側面を知りたいと、現地の人に交じって生活しています。 (※Facebookでの目的が曖昧なコンタクトや友達申請は控えて頂けると幸いです。)