秘密保護法と中東研究

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保道さん new授業の休憩中にSNSをチェックしていた時、偶然流れてきたニュースに目を奪われた。 「海外経験は漏えいリスク 秘密保護法で内調」という見出しだった。

海外で学んだ経験や働いた経験があると、国家機密を漏らす恐れが高まる―。10日施行の特定秘密保護法の制定過程で、同法を所管する内閣情報調査室(内調)がこうした考えを関係省庁に示し、学歴や職歴の調査が必要と強調していたことが7日、共同通信の情報公開請求で開示された政府文書で分かった。 文書は内調が2011年11月、内閣法制局との会合で示したメモ。 海外の学校や国内の外国人学校で教育を受けた経験、外国企業での勤務経験も挙げ「外国への特別な感情を醸成させる契機となる」「外国から働き掛けを受け、感化されやすい。秘密を自発的に漏えいする恐れが存在する」としている。

(海外経験は漏えいリスク 秘密保護法で内調 47NEWSより 2014/12/07 18:02)

留学中の身としては、何とも悲しいニュースである。 他に情報がなかったのでこのニュースのみから判断するより他になかったが、これが真実だとしたら留学中の我々は将来「特定秘密」を扱う現場から排除されることになる。「特定秘密を扱う現場」というのも曖昧な表現だが、留学を経験するとそういった現場に受け入れてもらえなくなるらしいので、どうやら職業選択の幅もやや狭まりそうだ。 海外と密接に関わりを持つ経験をした人が「秘密を自発的に漏えいする恐れが存在する」というのは非常に一面的な見方ではなかろうか。 この内調メモに対する批判の声がインターネット上で多く見られた。

特定秘密保護法は防衛・外交・スパイ防止・テロ活動防止の4分野で安全保障に支障を来す恐れのある情報を「特定秘密」に指定し、取扱者の適性評価や罰則などを定めた法律であり、今年12月10日に施行された*。 この法律には各方面より賛否両論あるが、実はこれに対する反対意見が中東研究者らから上がっていた。中東記事アイキャッチ(出典:https://twitter.com/HarutaSeiro/status/238249464245129218/photo/1)

2013年11月、栗田禎子千葉大学教授の呼びかけにより、中東研究者ら約80名が署名した以下のような声明が発表されている。

1.本法案は、外交・軍事という、国全体のゆくえにかかわる事柄を、「特定秘密」の名のもとに主権者たる国民の目から遠ざけようとするもので、きわめて危険です。憲法の国民主権・平和主義の原則と矛盾しており、これを放置すれば、国民の知らぬ間に政府が戦争につながるような外交上の密約を結んだり、海外での軍事行動に着手したりする危険性があります。

2.日本政府は近年、「テロ特措法」によるインド洋での給油活動、米占領下のイラクへの自衛隊派遣など、アメリカの世界戦略に呼応する形で中東への軍事的関与を拡大してきました。これに対し、従来はジャーナリストや研究者が報道・調査を行ない、その実態を検証したり、批判することが可能でしたが、本法案が成立すれば、こうした情報も「特定秘密」に指定され、日本の中東に対する関与のあり方が市民の目から隠される可能性があります。また、このような情報を得ようとすること自体が、「特定有害活動」(=スパイ活動)として取り締まりの対象となる危険性があります。

3.日本社会には中東地域出身者やイスラーム教徒も数多く生活していますが、本法案が成立すれば、「特定有害活動」対策や「テロ」対策を名目に、国籍・出身・宗教・文化等を異にする人たちへの監視が強まり、また、監視が行なわれていること自体が「特定秘密」とされる危険性があります。

(「特定秘密保護法案」に反対する中東研究者の緊急声明より 2013年11月25日)

この声明は、特定秘密保護法による中東研究の停滞や中東各国と日本の友好関係の衰退を懸念したものである。 特定秘密保護法が研究という客観的な行為を制限し、研究と共に育まれてきた友情にも影響を及ぼす可能性に目を向け、問題提起する内容だ。 今日の中東情勢を分析する上で軍事的・外交的な考察はもちろん必要不可欠である。そのような事項を「特定秘密」という曖昧な定義でくくり、これを自由に知る権利が損なわれたとしたら、これからの研究が立ち行かなくなってしまう。

昨今の状況がある限り、中東研究は「特定秘密」にあたる情報を大いに扱う研究分野であることは事実だ。 しかし、研究とは事実を深く追求する行為に他ならない。中東研究者やこの分野を専攻する学生がスパイやテロを助長し、日本を陥れることそのものを目的に研究活動を行うことなど、あるだろうか。 中東1また、筆者もそうだが、アラビア語などを専攻する学生が中東地域へ留学するのはよくあることだ。しかし、学生時代にそういった地域に滞在・留学した人の割合は決して多くないだろう。 そもそもの留学者数が減少している今*、そういった貴重な経験をしている人たちが特定秘密を扱う公務員などの職に受け入れられないのは、公的機関における多様性の排除につながり「内向き志向」を強める結果になることが懸念される。 さらに、在日外国人のみならず、適性評価で芳しくない結果が出た人も監視され、またそれ自体が秘密にされる恐れがあることは否めない。 この法律を拡大解釈して基本的人権の侵害の禁止や国民の知る権利の保障、報道への配慮、また出版や報道における取材行為は公益を図る行為とし、著しく不当でない限りこれを正当な業務とするといった内容もこの法律で定められているが、これに違反した場合の罰則はない*。

公にすべきでない情報を適切に秘密にする法律は確かに必要かもしれない。しかし特定秘密保護法は「特定秘密」の範囲の曖昧さ故に多くの問題をはらんでいることを多くの人が示唆している。 特定秘密保護法が施行された今、もう一度この法律を見直しこれが日常生活に及ぼす影響を各々が把握する必要があるのではないだろうか。

*「特定秘密の保護に関する法律」及び「特定秘密の保護に関する法律 説明資料」より 内閣官房 **平成25年2月文部科学省集計「日本人の海外留学状況」による

この記事を書いた学生ライター

Yasumichi Haruna
Yasumichi Haruna
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クウェート政府奨学金を得てクウェートに留学中&アラビア語の修行中。「伝える人」を目指して、アラビア語と英語で「日本」を伝えたり、日本語で文章を書いてクウェートのことを伝えたりする日々。

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