今回のTEDトークはキャリアアナリストであるダニエル・ピンク氏によるものです。
彼がTEDglobal 2009の舞台で話したのは、ビジネスにおける「報酬の力」についてです。
多くのマネージャーや社長たちは、報酬がやる気の源になると考えています。 より高い給料を提示すると、よりやる気が出る、やる気がアップすれば、いい仕事をしてくれる、そういったロジックを多くの人が信じています。
今回彼が話したのは、この論理が間違っているという「立証」です。
多くの科学者はもうこのロジックが間違っていることを知っているが、それが世の中のマネージャーや経営者に伝わっていない、と言います。ーダニエル・ピンク氏 (Photo By Wikipedia)
そこで今回はこの彼の「立証」内容についてまとめて紹介したいと思います。
ではまず、みなさんも一緒に「ろうそくの問題」というのを解いてみましょう。
用意されたのは ろうそく、画鋲、マッチ。そしてあなたは部屋に入れられこう言われます、「テーブルにろうが垂れないようにろうそくを壁に取り付けてください」と。(Photo By http://www.ted.com/)
これは1945年にカール・ドゥンカーという心理学者が生み出した実験で、行動科学の研究において何度も用いられてきたものです。
この実験をすると、ほとんどの人は画鋲でろうそくを壁に止めようとして失敗します。さらにはろうを壁につけてそこにろうそくをくっつけようとする人もいます。
正しい答えは、
マッチの箱をろうそく立てにすることなのです。以外に単純ですが盲目になってしまって気づかないのですね。この「ろうそくの問題」はさまざまなところで、いろんな用途で使われてきました。
そうです、彼が立証する報酬とインセンティブの関係についてもこの実験が使われました。
サム・スラックスバーグという科学者が、参加者を集めてこう言いました。「この問題を解けるまでにかかる時間を計ります」と。
1つのグループには平均時間を知りたいとだけ言い、もう一つのグループには具体的な報酬を提示します。「上位25%には5ドル、一位には20ドル差し上げます」と。(昔の実験なので時価的には高額だったそう)
さて、どのグループが一番に問題を解くことができたのでしょうか?
もちろん、報酬を提示された方でしょう。報酬によってやる気が上昇し、効率も上がる。
しかし結果は、報酬を提示されたグループは平均より3分半多く時間がかかったのです。 不思議ですよね。 思考力をアップさせ、クリエイティビティをより加速させるために用意した報酬が、かえって効率を悪くさせてしまったのです。
きっとみなさんは今、この実験が偶然こういう結果になってしまったのだとお思いだと思います。 しかし、この実験が興味深いのはこれが真実だということです。
この成功的報酬のロジック「if-then」(~したら、~が与えられる。)というのは、状況的には機能しますが、時には害になる、ということが分かったのです。
これは、社会科学におけるもっとも確固とした発見ですが、最も無視されるものでもあるそうです。
では、どういうときに機能し、どういうときに害になるのでしょうか。説明します。
グラックスバーグがもう一つこの「ろうそくの問題」を使って実験を行いました。 先ほど紹介したろうそくの問題とまったく同じなのですが、今回の実験には参加者に画鋲を与えませんでした。(つまり問題はかなりシンプルになるということです)
そしてこの実験では、報酬を提示したグループの方が勝ちました。
この二つの例を通して、報酬とやる気・インセンティブの関係がお分かりになったでしょうか???
「~したら~を与えられる」というたぐいの報酬は、単純なルールと明確な答えがあるときには機能します。 しかし逆に言うと、視野をせばめ、集中させすぎ、さらには可能性を限定してしまうのです。
これを現実の世界の仕組みに置き換えて考えてみましょう。
西ヨーロッパ、アジア、北アメリカ、オーストラリアなどのホワイトカラーの仕事ではこのように単純で答えが明確な仕事は少ないはずです。 左脳的・機械的・単純な仕事はパソコンの方が早く出来てしまいます。 人間に求められているのはもっと右脳的・クリエイティブな仕事ですよね。
そんな中で「~をしたら~が与えられる」というスタイルの報酬を与える企業は今でもたくさんあります。 彼はそれを問題視しているのです。
まだこの結果が信じられない人のために、もう少し彼が提示した例を紹介します。(出典:http://www.nscblog.com/)
イギリスのロンドンスクール オブ エコノミクスという11人のノーベル賞受賞者を輩出したような学校でも同じ研究が行われていました。
結果主義を導入した51の工場の事例を調べ上げました。そこで得た結果はやはり、「金銭的なインセンティブはパフォーマンスに対しマイナスの影響をもつ」というものでした。
ここで示されていることは、科学とビジネスにおける食い違いなのです。 多くの経営者たちは今でも金銭的なインセンティブを使い、下にいる人間を操っているということです。 21世紀の社会で求められているような「答えのない」仕事において、こういったロジックは通用しないということが証明されてきたのです。
では、どうすればいいのでしょうか?これについても科学者たちは答えを出しています。
それは、お金など外的なアプローチではなく、内的なアプローチをするということです。
・重要だから ・好きだから ・面白いから
この3つが大切だといいます。
ビジネスがうまくいくのは、
自主性 (自分の人生はじぶんで決めたい) 成長 (大切なことについて上達したい) 目的 (自分自身がより大きな何かのためにやりたい)
この3つがうまく機能しているときです。
こういったように内的なインセンティブがうまく機能している例をご紹介しましょう。
オーストラリアにあるAtlassianというソフトウェア会社は一年に何度か「24時間、何をやってもいい日」を作ります。 やる内容の条件は普段の仕事内容ではないこと。
エンジニアたちはこの日にハッキングをしたり、コードを色々とつないでみたりします。 結果、この一日の自主的な活動のおかげでソフトウェアの修正案やアイデアが生まれたと言います。
更にはグーグルもこういった内的なインセンティブを利用した経営をしています。
知っている方もたくさんいると思いますが、「20%の時間」という、一日の仕事時間の20%を好きなことに使える、というシステムをグーグルは実行しています。
いつ、どこで、だれと、などすべてのことに自主性が求められるのです。
おもしろいのは、今までGoogleから生み出された傑作、Gmail, Google Newsなどはすべてこの20%の時間から生まれているのです。
このような内的インセンティブを使った経営をしている会社は特徴として生産性が高く、社員の雇用期間も長く、また社員満足度も高いそうです。
ウィキペディアなどもそうです。
何千というプロライターにお金を払って記事を書いてもらう百科事典に対して、タダで興味がある人、やりたい人が楽しんで作っていくウィキペディア。
利用人口、頻度を考えても完全にウィキペディアの勝利でしょう。
これでこのロジックは証明されたといっていいと思います。ビジネスで当然だとされている「報酬」を使った動機づけというものがいかに21世紀式のビジネスで機能しないか、ということです。
最後にダニエル・ピンクはこう言います「大事なのは私たちがこれを知っているということです。・・・これから脱却できれば会社を強くし、多くのろうそくの問題を解き、そして世界を変えることができます」と。
筆者もこのトークに出会うまではずっと金銭的なインセンティブは働くものだと思っていました。 しかし科学的に証明された今、彼の立証にものすごく心を動かされています。この世界のマネジメントシステムを変えることは決して簡単ではないと思いますが、こういった科学的な証拠があるということをまずはたくさんの人に知ってもらう事から色々なことが始まっていくのではないかな、と期待しています。
・The puzzle of motivation By Daniel Pink 「やる気に関する驚きの科学」 By ダニエル・ピンク
海外ドラマ・映画に影響されて15歳でアメリカ留学へ。現在大学では海外から来た生徒と一緒に授業を全て英語で受けています。最近はイベントで通訳をしたり、韓国語を勉強したりと忙しい日々を送っています!主に海外の記事を参考にオリジナル記事を作成していきたいと思います!