「だから、3Dアニメーションの何がやりたいの?」アメリカで学ぶ日本人アーティストが選んだ道

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ウエダさん1

名前:上田真子(うえだ まこ)さん 出身大学:アカデミーオブアート アニメーション科 自己紹介:1991年生まれ。日本の高校を卒業後サンフランシスコに渡り、半年間の語学学校を経てアカデミーオブアート大学アニメーション科(5年制)に入学。2016年卒業予定。在学中、マーケティング、インテリアデザイン、グラフィックデザインの長期インターンや、シーグラフの学生ボランティアを経験。現在は3Dテクスチャーアーティストを目指し活動中。

アメリカの大学に留学し、3Dアーティストを目指す

ウエダさん6ーー日本の高校を卒業されたとのことですが、なぜアメリカの大学に進学しようと思われたのですか?

小学生のころから、「このまま大人になったら、毎日朝早く起きて、スーツを着て、夜遅くまで働かないといけないのか?」という疑問が私にはあって、ある日、将来について両親に真剣に相談したんです。そのとき「こういう道もあるんじゃない?」と両親が提案してくれた道のひとつが、親戚が住むサンフランシスコとサンディエゴがある、アメリカでした。

テレビの画面越しに映るアメリカでは、どうやらTシャツとジーンズで会社に行って、家族との時間を大切にする文化がある。ここを目指せば、やりたいことだって見つかるだろうと思いました。

アドバイスをくれた父も、高校を卒業してすぐ自転車で南米を縦断するような人でした。フレキシブルな考え方に触れて育ったからこそ、普通とは違う道に気付くことができたのかもしれません。

ーー渡米後、美大に進学してアニメーションや3Dアートの道を志されたのはなぜですか?

大学ではアートをやりたいという気持ちはありました。そのなかでアニメーションを選んだのは、それが私にとっての「アート」の形に一番近かったからです。

よく「アートは自己満足」だと言われます。例えば「ファインアートやってます」という人は、自分が良いと思う絵を描き、他人がそれを見てどう感じるかはその人の自由だと考えるかもしれません。

ですが、アートの中にも区切りはあるわけで。特にアニメーションでは、作る側と観る側で感情の着地点が合わないといけません。悲しみを誘おうとしたシーンで面白がられたら、それは「良くない」と評価されるべきなんです。

嬉しいとか悲しいといった感情を、大人にも子供にも、言葉や肌の色が違う人にも伝えられるアートが、アニメーションなんだと思います。こちらの大学で「日本人です」と言うと、「ジブリの映画、どれが好き?」とよく聞かれます。宮崎監督の作品のように、日本人ではなく、自分とは異なる背景を持つ人とでも、「この話、深いよね」と感情を共有できるアートって素敵じゃないですか。

もちろん、感情を共有できる仕事は世の中に沢山ありますが、分野によっては、感情が伝わる人が限られてしまうこともあります。限られた人にしか伝わらないのなら、それは私がやりたいアートとは違う気がしたんです。アニメーションというアートの形を選んだのには、そういった理由がありました。

ーーアメリカの大学に足を踏み入れられた際に、感じたことなどを聞かせてください。

入学直後はよく凹んでました。周りの学生と過ごすうちに、自分のアートを持つこと以前に、自分を持つことの大事さを痛感しました。自己主張が強く、自己表現も得意な学生ばかりの環境にのまれてしまったんです。私には何も無いんじゃないかと自問する日々が続きました。さらにこの頃は、人に何かを与えられるアーティストを目指していたのに、自己満足なアートしかできていない気もして、自分を見失っていました。

転機は、大学一年生のときに起きた東日本大震災でした。「何かしなきゃ」と思ったんです。その時、ニューヨークの個展で客員アーティストの募集がかかっていたのをたまたま見て、これしかないと思いました。応募期限は過ぎていたんですけど、ギャラリーの人にメールして、アートを通して私ができることをしたいと伝えたら、作品を飾らせてもらえることになりました。

私の作品は、友達や道行く人の顔に日の丸のステッカーをつけてもらい、笑顔の写真を撮って、それを集めてパネルにしたものでした。訪れてくれた方々が寄付をして下さり、ギャラリーの方からもお礼の言葉を頂いたんです。私なりに少しでも貢献できたと思うことができて、自分を取り戻すきっかけになりました。

自分の軸を決めること、興味の幅を広く持つこと

ウエダさん5ーーアニメーションを学ぶ中で、苦労されたことはありますか?

3Dアニメーションの製作工程をざっくり説明すると、まずストーリーボードとコンセプトを作る人がいて、コンセプトに沿ったキャラクターのモデルを作る人がいて、それにテクスチャーをつける人がいて、リグ(ジョイントの部分)を作る人がいて、アニメーターがいて、ライターがいて、コンポジター(合成の担当)がいて、他にもたくさんのスペシャリストが関わっています。求人においても、ディズニーやピクサーをはじめ、ほとんどのアニメーションの企業では専門ごとに仕事の募集がかかるんです。

そのことを当初は知らなかったので、周りに「何になりたいの?」と聞かれたとき、「3Dアーティストになりたい」と言っても、「だから、3Dアーティストのなかでも何になりたいの?」と聞き返されて、答えに困ってしまうことが多かったです。一体どの部分の専門家になれば、誰にも負けないものを作れるのか分からなくて、はじめの一年間は試行錯誤を繰り返しました。

もしアメリカの美大進学を考えていて、日本的な発想で「何学科に入ろう?」という選択肢で迷っているのなら、自分自身の将来についてもう少し深く堀り下げてみてほしいと思います。こっちの大学では、「自分はこうありたい」というイメージを持っていたつもりでも、その輪郭が少しでもぼやけていると、いずれ自分を見失ってしまいます。

「自分が何をしたいのかを自分の中で明確にする」、それがいかに大切なことかを、何よりも先に伝えたいです。私も「アートがやりたい、アニメーションがやりたい」とは決めていたのですが、「アニメーションの中でも、何を自分の軸にするか」を明確にしていればよかったと思っています。

明確にできなかったのは、日本ではアメリカほどスペシャリストの概念が浸透していないからかもしれません。ただ最近では、こちらで活躍されている3Dアーティストの方が、日本にもアメリカのワークフローを広めようとされています。それが広まってくれれば、もっと沢山の人が、自分の軸を明確にできるのかなと思います。

ーー最終的にテクスチャーアーティストの道を選ばれたとのことですが、どうやって決断されたのでしょうか?

最初は手探りだったので、とりあえずキャラクターアニメーションを学んでみることにしました。しかし、その課程でアクティング(演技)の授業を受けたとき、「アメリカで働くのなら、キャラクターアニメーションで一番を目指すのは難しいな」と悟ったんです。例えば驚き方ひとつをとっても、アメリカ人にはアメリカ人特有の驚き方があって、それをまず私が身につけないと、キャラクターの動きに落としこむことなんて出来ない。いくらアメリカに住んで文化を理解しても、私はアメリカ人になれないから、「他の道を探さないと」と思いました。

紆余曲折の末にたどり着いたのが、いま私が専門としているルック・デベロップメント、テクスチャーアーティストの道でした。キャラクターの色やテクスチャー、そして物の質感を作るエキスパートのことです。

具体的に説明すると、例えばこのカエルは私の一年前の作品ですが、グミのような質感と濡れた質感を出せるように心がけました。肌のテクスチャーに関しては、緑色のバリエーションの幅を気にしています。足の裏なども、カエルの生態に忠実になるように描きました。ウエダさん3またルック・デベロップメントでは、「プロジェクティング」と呼ばれる、参考となる写真を3Dモデルに貼り付けるステップがあります。例えば上のカエルにおいては、参考となる写真を何度も見ながら、背中からお腹にかけてのグラデーションを作りました。私は以前写真を勉強していたので、「これなら勝てるかもしれない」と思った理由の一つです。

ーー3Dアーティストとしてアメリカで活躍するために、必要だと感じている要素はありますか?

まだ学生なので大それたことは言えませんが、人との出会いを大切にしたり、出会った人と良い関係を築くことでしょうか。カンファレンスに参加して、ちゃんとした場でネットワーキングをすることも大事ですが、終わったあとのアフターパーティーにも出席して、バーやレストランでカジュアルに話す時間も大事です。

初対面の人と話す時、どういう経歴で、どういう技術を持っているのかを見られるのはもちろんです。アメリカではそれに加えて、カジュアルな場でどうやって振る舞うのか、どんな話をするのかまで含めて評価される気がします。「ああ、君はこういう事できるけど、じゃあプライベートでは何をしてるの?」と聞かれたときに良い答え方ができないと、好印象ではないと思うんですよ。

私の憶測ですが、こういった文化の背景にあるのは、まず第一に「働きやすい環境かどうかは、一緒に働く人で決まる」という考え方があると思います。一緒に作業をしていて波長が合わない人がいたら、どんなに仕事の内容や給料が良くても幸せにはなれないですよね。アニメーションではチームワークが大事なので尚更です。

もう一つ背景にあるのは、「興味の幅を広く持って、プライベートで好きなことを追い求めていれば、それは自分の作品のどこかに表れてくれる」という考え方です。特にアメリカは、「仕事の外」を大事にすることに理解を示してくれる国だと思います。

興味の幅に関連することですが、私の大学は美大とはいえ、卒業に必要な単位の半分近くはリベラルアーツ(一般教養)の授業です。アートと直接関係はなくても、リベラルアーツを学ぶことは、私の作品や人生観に良い影響を与えてくれると思うんです。日本でもアニメーションを学べる専門学校はあったのですが、「アートがやりたい、じゃあアートだけやろう」だと上手くはいかない気がして。こちらの大学を選んだ背景には、そういう理由もありました。

アメリカのインターンシップや、授業の特徴

ウエダさん4ーー真子さんはインターンもさまざまな職種を経験されていますよね。

現地の3社で長期インターンをし、それぞれマーケティング、インテリアデザイン、グラフィックデザインをやらせてもらいました。私が将来やりたいことはもう決まっているので、インターンではあくまで自分の知らないことや、社会人になったら関わることがなさそうな分野を選んでいます。大学生活が忙しく、下手をすると自分のネットワークが学校内だけになりかねないので、人脈を広げたいという意図もありました。

もちろん、職種を選り好みできるかといえば決してそうではなく、とくに一社目のインターンを見つけるのは大変でした。履歴書が空っぽで、はじめの一歩を踏みだそうにも踏み出せない時期は、多くの人にとって辛い時期だと思います。私にとってもそうでした。

しかし、自分には何も無いように見えても、まったく何も無いとは限りません。最初に見つけたマーケティングの仕事も、その会社はアニメーション制作で使うソフトを販売していたので、微かですが私と接点があったわけです。あとは熱意を伝えて、仕事を頂くことができました。

ーーそこから、インテリアデザインやグラフィックデザインのインターンへと繋がっていったんですね。

そうですね。人の紹介で頂いたインテリアデザインの仕事では、テキスタイルライブラリアンをしていました。生地の色と種類、ブランド全てを整理しまとめる仕事です。将来ルック・デベロップメントをやるにあたって「色や質感に人一倍詳しくなれるかも」と思った部分もありました。とはいえ仕事はデザインに限らず、接客もしましたし、日本のるるぶにお店を載せてもらう交渉もしました。日本のテキスタイルデザインメーカーとの取引も私が担当しましたね。

グラフィックデザインの仕事も、インテリアデザインをしていた時の繋がりで頂きました。インテリアデザインを続けることもできましたが、可能性がどこに埋まっているかは分からないし、時間があるのなら新しいことに挑戦したいです。経験する前から「これはやりたくない」とは言わないようにしています。

アメリカの新卒採用において、「求められる仕事ができなくても、とりあえず雇って育てる」会社は稀です。だから学生のうちに、本格的なインターンシップをして結果を出し、「フルタイムで雇われても、私はこの仕事をこなせる」と証明しないといけません。

確かに学生にとっては厳しいのですが、裏を返せば、インターンで良い評価を貰えたのなら、それは本物の自信になるということです。また、インターンでは実際の仕事に近い業務をこなすので、「想像していた仕事と違った」と後悔するのを防ぐ役割もあります。

ーー日本とアメリカで、インターンシップに対する学生の意識が違うのかもしれませんね。他にも教育に関することで、日本とアメリカの違いを感じたことはありますか?

課題の評価方法は日米で違うと感じました。日本での講評は蔑むというか、「あれがダメ、これもダメ」と批判されて、それを直す過程で作品を良くしていくことが多い気がします。反対にアメリカでは、「あれが良いよね、これも良いよね」みたいに褒めちぎられることが多いと思います。

はじめは、講評では褒められていたのに成績が悪かったので、「こんなに良いねと言われているのに、なんで?」と不思議に思っていました。それで先生に問いただしてみて、「この先生は、作品を見たらまず褒める人なんだな」と悟ったんです。

それからは、作品をどう変えたらもっと良くなるかを、自分から求めるようになりました。「良い」はあくまでスタート地点で、「もっと良い」を求めないと置いて行かれてしまいます。

私は日本の教育を受けましたし、批判されて伸びるタイプなので、やっぱり「これはダメだ」と言ってくれたほうが嬉しいですけどね。

ーー「もっと良い」作品を作るために、心がけていることはありますか?

ルック・デベロップメントでは、まず「こういうものを描いてください」というコンセプトを渡されます。それをもとに、どれだけ想像を膨らませられるかが腕の見せどころだと思います。

例えば、物語の中でおじいさんがいたとして、そのおじいさんが持っている小物を描くとします。そのとき、彼が荒い人だったらその小物も汚いんじゃないか、きれい好きだったらきれいな小物なんじゃないかと考えていくんです。

ただテクスチャーをつけて、「これ、本物みたいですね」で終わるのではなく、ひとつひとつの物がもつストーリーを作っていくのが、ルック・デベロップメントの醍醐味だと思います。

幸せの形は一つではないけれど、それでも軸は必要

ウエダさん2ーーそれでは最後に、将来の夢について教えて下さい。

やっぱり夢は、ディズニーで3Dアーティストとして働くことですね。でも最近は、キャリアと幸せは別かもしれないですし、幸せの形は一つではないかもしれないと思うことが多いです。例えば私にとって、サンフランシスコでアニメーションをやっているときも幸せなんですけど、日本にいる家族と過ごす時間も幸せなものです。

もちろんアニメーションがやりたいですし、「この夢はいつか絶対叶えてやる」という野望はあります。でも同時に、日米を行き来できる仕事にも魅力を感じます。

どちらの仕事に就くかは、タイミングとチャンスによるところが大きいかもしれません。だから、自分の幸せにつながる選択肢を常に2,3個持っておくようにしています。

前は突っ走るタイプで、「アニメーションに関すること以外お断り」という感じだったのですが、そのせいで失ってしまった可能性や出会いもあると思うんです。さきほども言いましたが、「アニメーションのほかに何ができるの?」と聞かれても、ちゃんと答えられるような自分でいたいですね。

かといって、何でも屋になってはいけないと思います。色んなことに挑戦して、けれども全て中途半端に終わってしまって、自分が空っぽになってしまう感覚を味わいたくない。私にとってのアニメーションのように、自分の軸なるものは誰もが持っておくべきだと思います。

ーー締めくくりに一言、世界で活躍したいと思う女性に向けてメッセージをお願いします。

大学に入学してしばらくの間は、アニメーションのクラスで女子が私ひとりだけという状況が続きました。女子校出身だったこともあり、当時はよく泣いていました(笑)。デザイン系の分野だと女性の方も多いのですが、ゲームや3Dアートの分野で働く女性は少ないのが現状なのかもしれません。それでも、活躍されている3Dアーティストの女性の方と話すと、自分のモチベーションになります。

男女問わず、3Dアーティストというキャリアは、まだまだ日本では馴染みが薄い道だと思います。だからこそ、海外で働くという選択肢も、可能性のひとつとして視野に入れてほしいですね。私が持っている情報でよければ、惜しみなく提供していきたいと思っています。

・上田真子さんのポートフォリオはこちら ・ブログはこちら ・Twitterはこちら ・Instagramはこちら

この記事を書いた学生ライター

Masahiro Shimomura
Masahiro Shimomura
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自分の知らない環境、そこに暮らす人に会うのが好きです。 人生刺激があってなんぼだと思ってます。

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