こんにちは。イギリスで開発学を勉強している的場優季です。大学1年生も残り四分の一となりました。今回はイギリスの大学生活の話を離れ、昨年の夏に行ったバングラデシュでのインターンシップの経験を出来る限りの知識と考えの範囲内でお伝えします。
インドの右隣に位置するこの国はアジア最貧国の一つですが、私はボランティアとかプロジェクトとか、何かいいことをしたくて行ったわけではありません。大学に正式に入る前の夏休み、自分のための自己投資でした。開発学部での勉強が本格的に始まる前に、途上国と呼ばれる場所を実際に見ておかなければとずっと思っていて、バングラデシュのグラミン銀行での「インターンシップ」に参加しました。
「インターンシップ」、と欧米人なら顔の両側でピースサインを折り曲げるようなイメージで書いたのは、実際に業務体験ができたわけではなかったからで、内容はレクチャー、見学、実際に融資を受けている方へのインタビューや交流が主でした。事前に知らされていたプログラム内容と期待していたことが少し違ったので、その中でも積極的に、自発的に何か得なければ損だと思い意識して二週間過ごしました。
行く前に、二週間で何を得てきたいかをまとめていました。
・「途上国」と言われる国を直接見る ・日本、イギリスでの当たり前がそうではないかもしれないこと ・ソーシャルビジネスについてより深く知る ・「与えるだけではない援助」が本当に持続可能で効果的なのか ・ゼロから始めて、確立には時間と苦労がかかること ・貧困解決のためにオフィス内で働く人は具体的には何をしているのか、意義を感じることはできるのか
これらに答えながら、ごちゃごちゃした首都ダッカのファーストインプレッションやグラミン銀行自体の簡単な説明、農村部での生活から市内のスラム街までとそこで考えたことなどを紹介していきたいと思います。
空港に着いたのは夜中だったのにも関わらず、通りには車、CNG(天然ガスで走る三輪の車)、リキシャ(人力車)そして歩行者もがごった返し、クラクションが四方八方から鳴りやむことはなく、車の中でひやひやしながらホテルに着きました。入り口の横では薄汚れた犬が寝ていて、この犬は私の滞在期間中にホテル前で死んでしまっているのを見ることになりました。
明るくなると街の様子も見えてきて、クラクションも朝からひっきりなし、土がむき出しでゴミだらけの脇道や、周りの建物の壁の汚れなども窓から目につきました。
ホテル前は何のものとも言えないむっとした臭いが鼻をつき、そして一歩外に出ると人々の視線を集めます。同じアジア人ですが顔つきも服装も目立つのでしょう、道端に座って物を売る人もリキシャの運転手もバスからはみ出している人も、皆こちらを振り返ります。ひざ丈のスカートを履いた時は膝下への目線が凄かったので、二度と履きませんでした。後から、足首がセクシャルな部位であることを知りました。
売り物に群がる蝿にも、歩道に散らばるゴミ屑にも、小山と化したそれにも、気分は落ち込みました。ゴミは、もう諦められたかのようにただ道脇に積まれていました。どうしたってあの悪臭には慣れないですし、現地の人がそれに顔をしかめるのも見ました。公共サービスは社会が回るために皆でお金を出して、皆の利益のためになされるべきであるのに、日本でもヨーロッパでも当たり前のことが当たり前ではないというのはこういうところです。
私自身がどうしようもなくなっていたのは物乞いの方々に対してでした。街を歩けば子供を脇に抱えた女性にお金や食べ物を要求されたり、車に乗っていても窓をこつこつ叩かれ曲がった足を見せられたり、子供たちが花や果物を売りに来たり。どうしたらいいのか分からなくて際限のない葛藤でした。どうしたって彼らはそうして生きていたからです。「どこまでせがまれるか分からない、だから何も与えるな」と言う人は、観光地で外国人をぼったくる詐欺師と混同している気がします。きりがないというのは確かですが、彼らの多くは単純に次の食事にありつきたいがためにしていることだからです。歩道橋にいた2人の子どもが、そこを通り過ぎる大人の脚に張りついてにこにこしながら脚の持ち主を見上げているのを見た時には、思わずぞっとしてしまいました。
こんな写真を撮ってすまして載せているなんてとんだ精神の持ち主と思われるかもしれませんが、後に私の見たものを共有したい、いつか月日が経ったら忘れてしまうのは避けたい、という思いでこういう瞬間は心を無にして撮らせて頂くことにしていました。生意気なことを言うようですが、戦場カメラマンの心境と似たものでしょうか。
夕方になって日本人女子数人でホテル周りを見てみようということになったのですが、ホテルの入り口を出てものの1分もしないうちに物乞いの女性に手を差し出され、犬に後を付かれ、においやクラクションや薄暗さが全て怖くなって皆ですぐに引き返しました。危険な街だと言いたいわけではないのですが、慣れないうちから浅はかなことはするものではありません。
さて、最初の週は本部にてグループでの座学が中心となります。最初はあまり楽しくないと思ったのですが、直接疑問をぶつけることができたり、この機関の構成が頭に入るとその後連れられる場所の仕事のイメージがつきやすくなったりして有意義な時間となりました。「疑問をぶつける」と書いたのは、ここで働いている方々が良い面ばかりしか教えてくれないので、「本当にうまく回るの?」「ここはどうなってるの?」「こうなったらどうするの?」とこちらから突っ込んでいかないといけなかったからです。
グラミン銀行は、一般の金融機関でお金を借りる資格(信用)のない貧困層向けに、無担保低利子で少額融資を行うことによって、彼らがビジネスを始める手助けをし、バングラデシュの貧困削減に大きく貢献しました。
利用者たちの手元にお金が残るようにサポートしつつ、グラミン銀行自体も利子によって利益を得るので、援助される側もする側も持続可能なアプローチというわけです。その功績が認められグラミン銀行とその創始者ムハマド・ユヌス氏は、2006年にノーベル平和賞を受賞しました。途上国でのマイクロファイナンスが注目され始めるきっかけとも言え、今ではアフリカなどを初め世界中で1万を超える機関が存在します。グラミンにその仕組みを倣っているところは数多くあります。
ピンとこない言葉が並んだでしょうか。私のようになじみない言葉が続くと読み飛ばしてしまう方にもここでさらにわかりやすく説明したいと思います。通常の銀行は、家などを担保にかけて、信用を得られずお金が借りられないのですが、貧しい人にはその信用となる財産もないため借りることができません。何が問題になるかというと、貧困層の商売の元手として頼れる先が個人の高利貸しになってしまい、彼らの言いなりに稼いだお金がほとんど返済に回ってしまい、貧困から脱することが難しいということです。
ただし信用を示せないということは、借りる時点で両者の交換条件にならないということになります。貸したお金が返されなければ銀行だけが損をすることになるので、貧困層への融資は今まで敬遠されていたわけですが、グラミン銀行は担保の代わりに様々な工夫を設け、利用者をサポートすることによって高い返済率を保っています。賛否両論ありますが、それは98%にもなると言われています。
どうして借りっぱなしで返さない人は出ないの?と思われる方も多いと思うので、高い返済率に繋がっていると思われる要素をいくつか挙げておきます。
・グループ制度:5人一組でお互い返済の監視、助け合いをする ・ウィークリーミーティング:利用者が銀行に行かなければならないのではなく、グラミン銀行が利用者のもとへ出向き、毎週利用者が皆集まって決められた額を返済する ・フレキシブルローン:商売が上手く進まず返済が困難になっている人は、一週の返済額を減らす ・女性対象融資:利用者の97%が女性。
女性がお金を管理することによって家庭内での女性の立場が向上する、女性の地域でのコミュニティが深まるなどの社会的メリットがあります。男性はお金を煙草や飲酒に使ってしまいがちですが、女性の方が、返済に対し、また家族や子供に対しての責任感が強いので、家のお金がきちんと教育費や返済にまわります(本を読んでも、話を聞いても、男女での違いを理由にほぼ女性にしか貸さないなんて、何てざっくりした態度なのだろうと思ったのですが、これがまた本当にこの通り成功の大きな要因なようなのです)。
こうして借りたお金を元手に商売をし、手元のお金を増やしていく、という基本的なビジネスが貧困層にもできるようになったのが、グラミン銀行の貢献といえます。具体的には、村の人々が、牛を買って育てて売ったり、ミシンを買ってサリーを売れるようになったり、野菜を育てて売ったりできるようになったということです。
非営利団体ではないのでグラミン銀行も利益を出し続けなければいけませんから利子を取りますが、「低利子」のため利用者の手元にお金が残り、再投資してビジネスを拡大したり、子どもの教育に使えたりして、生活がよくなっていくという仕組みです。
グラミン銀行の功績を初めに「社会的成功」と言ったのは、一般の企業と違って「経済的に」大儲けしたわけではないからです。ソーシャルビジネスの定義にもなりえるのですが、経済収益ではなく社会が良くなることを「成功」とし、この機関の目的は貧困撲滅です。(その他の例としては国民の栄養状態向上や通信整備など。)
グラミン銀行やソーシャルビジネスに興味が湧いた方には、ユヌスさんの著書(「貧困のない世界をつくる」、「ソーシャルビジネス革命」)などを是非読んで考えて頂きたいです。
今回、バングラデシュやグラミン銀行についてご紹介しましたが、興味や新しい考えのきっかけになってもらえていたら幸いです。読んで頂きありがとうございました。