戦火を逃れて。報じられることのないウクライナの人々の生活。

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ウクライナ問題が盛んに取り上げられるようになってから、その内容を注意深く見てきたが、ニュースで報道されるのは、経済制裁、停戦合意、武器供給や戦闘優劣情勢など、その紛争における表面的な事実ばかりだ。「欧米が追加制裁を決めた」、「ロシアが武器供給をしている疑いがある」、「ある州がウクライナ軍に制圧された」…。確かに、これらの事実は問題の情勢を追っていくのに重要な情報だが、私には、もっと目を向けなければいけない事実は別のところにあるように思えてならない。その内の1つ、「ウクライナの人々が本当に求めているものは何か」については、前回の記事で書かせていただいた。今回は、戦火のさなか、非常に過酷な生活を強いられているウクライナ難民の方々について、その現状と問題点を探りたい。ウクライナ3(出典:http://matome.naver.jp/odai/2139304862377792401)ウクライナ5(出典:http://barrgan.hatenablog.com/entry/2014/03/03/194950)

難民認定

ウクライナ1(出典:http://www.sankei.com/)

国際難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐露事務所の発表によると、2014年には、難民認定、一時庇護・居住、市民権や第三国定住をロシア連邦移民局に求めている約18万人を含む、70万人以上がウクライナからロシアに逃れている。激しい戦闘の続いていた昨年の夏、ロシア南部のロストフ州には、1日1万人から1万5千人の人々が避難してきていた。

ウクライナで内戦が始まってから、ロシアの市民権入手を希望するウクライナ国民は7倍、一時滞在許可を希望する人は4倍に増え、また昨夏の時点で約2万500名が難民認定を求めていた。しかし、その多くは正式な認定を受けていない。その主な理由は大きく2つ、ウクライナの人々の法律に対する認識の低さ・情報不足と、増え続ける避難民の人々を受け入れるロシア側に、限界が近づいていることだ。

正式な認定を受けるには、もちろん多くの書類と公式な手続き、そして時間を要する。しかし、自分が避難を強いられる身になるとは想像もしていなかった人々が、事前に難民登録手続きについて考え、調べることがあるだろうか。激しい戦闘が繰り広げられる地にいる人々のうち、何人が書類や手続きについて考える余裕があるだろうか。主要な非難手段の1つ、不定期に運用されるミニバス情報を人づてに聞き、数十分後の出発に準備を間に合わせなければならないこともある。ミニバス運転手の1人は、ロシア政府発行紙『Rossiyskaya Gazeta』の取材に対し、「ウクライナ、ルハンスク州から、既に200人の子どもと女性を避難させた。3度目の出国になるが、乗りたいと希望する人全員を乗せることはできなかった。バス数台分の行列がある。国境付近では銃撃があり危険だが、残るのはより危ないため、出国の手伝いは続けなければならない。毎回違うルートを考え、どう行くかは公表しない。乗客は大抵人づてに聞いて集まってくる」と答えている。多くの道が既に崩壊し、そして砲弾が飛び交う中、国境を超える手段は限られており、1度逃せば、いつまたそのような機会に恵まれるか分からない。このような状況下、最低限必要なものさえ、十分に荷造りする時間がないことも少なくないのだ。

また、ロシア側にも、事前に十分な受け入れ体制があったわけではない。既に、避難民を抱えきれなくなった多くの地域が非常事態宣言を行っている。ウクライナとロシアの関係は深いとは言っても、全ての人に、ロシアの親戚や知り合いがいるわけではないし、厳しい経済制裁に苦しめられているロシア国民の家庭に、これ以上新たな人を養える余裕はない。多くのウクライナ国民が、国境付近のキャンプや臨時開設の特別施設で、祖国と将来への不安を抱えながら厳しい生活を強いられている。

祖国へ帰る人々

ウクライナ2(出典:http://jp.rbth.com/society/2014/07/01/14_48923.html)

ロシア出入国管理局の情報によると、ロシアへ逃れる難民が急増する一方で、1日3千人から4千人がウクライナに帰国している。戦闘状態が続くウクライナ東部に帰る人々、いったいその理由は何であろうか。

1つ目の理由は、内戦地に残った家族、親戚との面会や安全確認である。ある女性は、父親がウクライナに残ったが、連絡が取れなくなってしまった。彼は糖尿病を患っており、1日数回インスリンを注射しなければならないが、薬の残りはわずか。家を空けると、泥棒が入ったり、壊されたりするかもしれない、重要な収入源である家畜を置いては行けない、と避難しようとしなかったと言う。しかし、これ以上は1人で残しておけない、連絡が付かないのも心配だ、とロシアの避難所へ幼い子どもたちを残し、ウクライナへ一時帰国する決心をした。彼女のように帰国する人々は、決して少なくない。連絡のつかなくなった家族や、どうしても家や病院等から離れられない親戚を心配し、危険を覚悟で帰国を決める人もいる。

また、難民認定や市民権獲得のために一時帰国せざるを得ない人々もいる。2014年1月の憲法改正により、ウクライナ国民は、90日間は自由にロシアに滞在できるが、その後は帰国するか、あるいは移民局を通じて必要な居留許可を得なければならない。しかし、先述の通り、ほとんどの人々はそれに必要な書類等を持って避難して来ていないのだ。これほどまで内戦が長引くとは予想していなかった人々が急いで帰国することもあれば、一度ロシア市民権を獲得すると、再度それを失わずには帰国できなくなるために、あらかじめ、ロシアでの就職や学術機関への入学に必要となる書類を取りに帰る人々もいる。ウクライナ方面へ向かうミニバスへ乗り、帰らぬ人となったウクライナ国民は後を絶たない。

戦闘地の現状

ウクライナ4(出典:http://www.msf.or.jp/news/detail/headline_1983.html)

彼らが帰国するウクライナ東部では、先日停戦協約が結ばれたにも関わらず、今でも激しい戦闘が続いている。また、戦闘地では、物資不足も深刻だ。

食料品は言うまでもなく、水でさえ十分な量が供給されていない。国際連合人道問題調整事務所(OCHA)は、暑い日が続いた昨夏、戦闘地域の住民約20万人に水が供給されていなかったと推定している。ウクライナ東部のルハンスク市では、戦闘が続いていることから水の消毒に必要な塩素が供給できず、今でも給水システムが質・量とも不十分なまま稼働している。ほとんどの店やスーパーマーケットは営業しておらず、わずかな支援物資が届くのを待つほかないのだ。また、医療品物資や医療施設も不足している。ウクライナは、多くのHIV患者を抱える国の1つであるが、ドネツク州、及びルハンスク州では、HIVの検査を行う研究室が包囲されており、実施が困難になっている。ルハンスク州には、薬物治療を受けている人が1,000人以上いるが、昨年7月以降、入院施設が閉鎖されており、治療にも支障が出ている。多くの医療施設が砲撃により破壊されているだけでなく、医療品の輸送も制限されるか、妨害されていているのだ。ユニセフの調査によると、子供連れで避難している人々の80%が自宅へ戻りたいと答えたが、治安が不安定なのに加え、生活物資も不足しており、今も帰れないでいる。

今月15日、ベラルーシの首都ミンスクで、ウクライナ東部における停戦協定が結ばれた。ドイツ、フランスの仲裁により実施され、16時間にも及ぶ協議の結果であったが、停戦には至らなかった。先日、私のロシア人の知り合いも、これからウクライナ戦闘地へ向かうと聞き、その実情を改めて身近で感じた。 表面的事実の報道にばかり目を向けていると、遠い世界の話、テレビの中の出来事として捉えてしまいがちだ。本投稿が、あたりまえの生活を突然奪われてしまったウクライナの方々について知り、今回のウクライナ問題を、少し違った視点から見る契機となれば幸甚である。

この記事を書いた学生ライター

Miyu Hirano
Miyu Hirano
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サンクトペテルブルク大学(ロシア)のジャーナリズム学部、及び言語学部へ留学中です。様々な視点からの寄稿をしたいと思っておりますので、どうぞ、ご高覧くださいますと幸いです!

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