今からちょうど一年前、2014年2月25日を覚えていますか?株式会社Mt.Gox(マウントゴックス)がBitcoin(ビットコイン)の取引を停止し、破産した日です。前年4月には世界のビットコイン取引量の70%を占めたMt.Goxが、なぜ破産に追い込まれたのか。ビットコインの孕む危険性を考えます。
ビットコインとは、ネット上で生み出される仮想通貨のことです。Peer to Peer(P2P)ネットワークを利用することで簡単に送受信でき、手数料もきわめて安価。ネット上に残高を保管でき、銀行や通貨交換所を一切介さず個人同士で直接交換できるので、ネット決済のツールとしては非常に便利です。bitcoinのホームページ
現金と引き換えるプリペイドや口座から引き落とすクレジットなどと違い、ビットコインには通貨としての実体はありません。入手する方法は、フリーアプリケーション「miner」で「mining」(採掘)すること。まさに金鉱から金を掘り当てるように、ビットコインを掘り出していきます。もちろん、採掘できる量は無限ではありません。ビットコインのネットワークが採掘量の上限をその都度設定し、採掘する人が増えるほど掘り当てるのも難しくなります。そのためビットコインの相場は上昇を続けており、2月24日現在で240.57米ドル、日本円で27,262.8円になっています。
銀行や通貨交換所を介さないということは、流通の検閲がなく交換が自由ということです。ビットコインネットワークは交換の際に「ブロックチェーン」というシステムを利用しています。これは、送受信者の利用額と署名を鎖のように連続して記録していき、ビットコインが重複して交換されるのを防ぐ仕組みです。ブロックチェーンによって二重利用は防止されていますが、逆に言えば、一本の経路しか持たない交換にはチェックが働きません。そのため、個人がブロックチェーンをチェックしないと、第三者による不正利用やコイン窃盗を発見できないという危険があります。
Mt.Goxが破産に追い込まれたのも、窃盗の発見の遅れが原因でした。ビットコインの取引所として大きなシェアを誇っていたMt.Goxですが、数年にわたる預託金の窃盗に気づかず、最終的に約85万ビットコイン(2014年2月24日の相場で約114億円)を損失し、払い戻しが不可能となり破産に至りました。窃盗は「Mt.Goxが顧客から預かったビットコインを複数の異なるアカウントに分散して支払う」という経路で行われたため、ブロックチェーンのセキュリティも働かず、巨額の損失を招きました。今年の2月17日には、中国のビットコイン取引会社もおよそ2億円分のビットコインを盗まれたとして、業務停止の事態になりました。
他にも、商品を渡さずにビットコインのみを受け取る詐欺行為や、送受信者の匿名性を逆手にとった違法薬物の売買やマネーロンダリングなど、被害や犯罪行為が後を絶ちません。また、ビットコイン交換所もネット上にしか存在しないため、交換所をインターネットから切り離せばコイン自体の取引が全て停止してしまうなど、通貨システムとしての脆弱性も指摘されています。
世界最大のビットコイン取引所だったMt.Goxの破綻は、実体のない仮想通貨の危険性を示すものでしたが、ビットコインの影響力は今も増しています。
WordPressやWikileaksなどは、現金と同様にビットコインを決済に使うことを認めています。リクルートホールディングスは今年1月末にビットコインの販売・買取・決済サービスを行うbitFlyer(ビットフライヤー)への増資を決定しました。ー 日本初のビットコインATM(出典:THE WALL STREET JOURNAL 日本版)
インドネシアやロシアが国家単位でビットコインの利用を禁止する一方、アルゼンチンやイランではインフレや資本規制を避けるための代替通貨として民間で利用されています。さらに、カナダ政府はビットコインを模したデジタル通貨「MintChip」を導入。アメリカでは大手取引所Coinbaseが24州の公認を受け、政府公認のビットコイン取引所となりました。
しかし、商品との交換を除けばビットコインを入手する方法は「miner」を使った採掘のみです。流通可能なビットコインの枚数は2100万枚。現在はおよそ10分に50枚が採掘されるよう制限されていますが、「miner」はアプリケーションなので、高性能なコンピュータを使えばそれだけ多くのビットコインを採掘することができます。そのため、「miner」を自動運転させる独自のプログラム設計や専用のコンピュータ開発など「採掘競争」が激化し、当初フリーランスやスモールビジネスと親和性が高いとされていたビットコインの特性は失われています。
インターネット時代の新しい通貨として登場したビットコイン。ネット上のゴールドラッシュは、幻で終わるのか、現実のものとなるのか。行方は不透明なままです。