高校の頃は理系科目が得意だったので、まず理系を選びました。京大も実家から近かったので、何となくという気持ちで京大に入学しました。理系の中でも範囲が広くて色んな選択肢がある農学部にしました。 京大の理系学生の約9割が学部時代に所属していた研究室の修士課程に進学するのです。私が所属していた研究室も居心地が良かったのですが、居心地が良いところにずっといると惰性で大学院生活を送ってしまうのが嫌でした。飽きやすい性格ということも影響したかもしれません。新しい環境に自分の身を置くために東京大学の院に進学することにしました。
ーー上京してから何か高橋さん自身で心境の変化などはありましたか?
色んな人と関わるようになったことが大きいです。私の通っていた中学から私が進学した高校へ入学する同級生がすごく多かったですし、同様に私の高校から京大へ行く人も多かったんです。ですので、京大を卒業するまで知らない人と新しく会ったり、色んな人と仲良くしたりするのが苦手だったんです。ただ、関西から東京へ出てきて、ずっと関西に住んでいたこともあり知り合いが居なかったので、人見知りしている場合ではありませんでした。上京がきっかけで、色んな方に出会えるようになりました。「自分を変えたかったら環境を変えろ」というのは、まさにこのことだと思いました。
簡単に言い表せないですが、私はすぐに底が見えてしまうものは面白くないと思っています。 生物を構成する要素の生態系を解き明かしていく過程がすごく面白いです。時間をじっくりかけて研究するのは独創的なことなんです。世界中の誰もやらないようなことにチャレンジして、その研究によって新しいことを究明して発信していく活動は本当に魅力的ですね。
ーー起業することとなったきっかけは何だったのでしょうか?
一緒に会社を作った研究室の先輩の存在は大きかったです。所属していた研究室の一回り年上の研究員の方で、私の直属の先輩でした。若い頃から自分で会社を立ち上げたり、ビジネスをしていたり、研究にも携わっていたりしている方でした。「刺激が足りないから新しいビジネスモデルを3つくらい考えてきてよ。」と急に言ってくるような先輩です。(笑) よく二人でこういう研究をしたらビジネスに応用できるだとか、そういう話をずっとしていました。そして、その流れで自分たちの研究内容を軸に一緒に会社を作ることになりました。この出会いは本当に大きかったです。
ーー起業されるまでの経緯を教えてください。
最初はあるベンチャーキャピタルにアイデアを持っていったのですが、全く相手にしてもらえませんでした。ビジネスの経験も無いただの大学生だったので仕方なかったとは思います。「あなたビジネスの経験はないですよね?」と言われてしまうと、何も言えませんでした。「1億円あればスタートできます!」と言うと、「あなた億単位のお金を使ったことないですよね。」と言われてしまうような状況でした。その後、他のベンチャーキャピタルをたくさん回りましたが、評価が実績主義ということもあり、当時全く実績のなかった私は相手にされませんでした。そして最終的には、個人の方々から投資を受けて起業に至りました。
ー起業へのモチベーションについてお聞かせください。
学生という立場ですし、失敗しても学生に戻るだけじゃないですか。だから起業のハードルは全く高くなかったんです。 また、いま取り組んでいる遺伝子を解明する研究は、膨大な研究費が必要なんです。研究を加速させるためには、今ある研究成果をサービスに生かしたり、そのサービスに一般の方に参加してもらったりすることでデータを蓄積して、研究が加速する仕組みを構築しないといけないという思いがありました。実現するには、大学内の研究ではできないと思ったので、会社として取り組むことにしました。
ーー大学での研究をビジネス化する例が少ないことついてどう思われていますか?
もっと研究をビジネスにする動きが出てきてもいいと思っています。ただ研究の技術やノウハウを持っている人がビジネスの知識が浅い場合もあります。一方でビジネスが得意な人は専門分野の知識を持っているケースは少ないので、研究サイドとビジネスサイドのマッチングが増えればすごく嬉しいですね。私は経営者に向いているというよりかは、研究が好きでそれをビジネスにしたという形です。ビジネスが得意な人をもっと巻き込まないといけないと思っています。ビジネス化できる研究内容はたくさんあるので、これから研究を事業化できる環境が整備されるともっとよりよいサービスや製品が社会に出せると思います。
ジーンクエストはインターネットを介した個人向けの遺伝子解析サービスです。Web上で申し込んで頂くと、唾液の解析キットが自宅に届き、それに唾液を入れて返送して頂くと、DNAを抽出してこちらでDNAの配列を解析します。そして、その結果をWeb上でお知らせします。これによって病気のリスクや体質や祖先の情報などを提供しています。自分がどういう病気になるリスクが高いかを知れるのは大きいと思います。例えば肺がんのリスクが高い結果が出ると、喫煙を控えた方がいいということが分かりますよね。自分の健康に対して行動変異を起こすきっかけとなる情報を知るサービスをジーンクエストは提供しています。体質に関しては、BMIといった肥満度指数や肥満のリスク、アルコールに強いかどうかなどを解析しています。
ーージーンクエストさんのサービスを利用するメリットはどんなところにあるのでしょうか?
遺伝子情報から自分の体の情報を知るのは、健康管理や病気を未然に予防するのに有用だと言われています。予防のためにとれる行動は人によって違います。本当は皆がバランスよく食事をし、運動をし、睡眠を取って、ストレスなく生活するのが一番いいのですが、脂肪を吸収しやすいだとか、鉄が不足しがちだとか、人によって体質がそれぞれ違います。健康維持を個人の体質に合わせて行い病気を未然に防ぐための情報を提供しています。 現在、自分の遺伝子情報を知っている人は少数派ですが、血液型のように自分の遺伝子情報を知っていて当たり前という時代は近い将来訪れると思っています。
女性だからという理由で困ったことは特にないです。女性だからこそ名前や顔を覚えられやすいというのはメリットですね。興味深いことに、遺伝子解析サービスに取り組んでいる会社の代表は女性が多いです。はっきりとした理由は分からないんですが、自分の身体への興味は女性の方が強いんじゃないかなと思います。
ーー女性が日本の社会で活躍するためには、どんなことが必要だと思われますか?
やはり妊娠・出産・子育てをしながら働ける環境が必要だと思います。東大にも女性教員を30%まで引き上げようという動きがありますし、一般企業でも女性経営者や研究者、幹部を増やそうという動きがありますよね。ですが、単純に女性の幹部の数だけ増やそうというのは違和感があるので、注意しないといけないですよね。実際に男性と女性との実力が同じだったらいいのですが、女性を起用する風潮に乗って能力が低い女性を昇進させるとその背中を見ている女性たちが「ああはなりたくない」と思ってしまうんですよね。活躍する女性は増えてほしいですが、女性の進出を単純に数だけを指標として見るのは避けた方がいいと個人的には思っています。
ーー今後のキャリアについて教えてください。
会社の事業を大きくしたいです。まだ遺伝子解析は一般の方にはまだまだ浸透していないですし、マーケットもまだ大きくないので、サービスの有用性を広げて遺伝子を活用できる社会を実現したいと考えています。修了後は仕事に専念して、自分が研究者として研究に携わるよりも研究を加速させる仕組みを作る方に回りたいと思います。 誰もしてこなかった前人未到の分野に新しく挑戦するということは、辛いこともすごく多いですが、挑戦そのものだけで価値があると思います。これからも新しい分野で挑戦し続けたいです。
ーー学生の読者へメッセージをお願いします。
私も学生ですので、偉そうなことは言えませんが、自分のやりたいことに集中することが重要だと思います。集中するということは自分を信じること、また他のことをやらないと決めることだと思います。自分にとって良い選択だと信じきらないと、結果は出せないです。これは研究や会社の中で学んだことです。自分がやろうとしていることを、1度信じてきってみて実行するといい結果が得られることが多かったです。とりあえず手をつけてみるのは大事だと思います。