2月14日はバレンタインデーでした。女性の方、今年はいくつチョコレートを贈りましたか。男性の方、いくつもらえたでしょうか。思い思いの穏やかな1日だったと思いますが、企業側はそうもいきません。バレンタインは一年間を占う、文字通りのマーケティング戦争なのです。
右のグラフは、日本チョコレート・ココア協会の「バレンタインデーシーズン販売額(推定)」です。データは2005年までですが、ほぼ横ばいになっています。2015年現在も、年間のチョコレート販売額に占めるバレンタインデーの割合は10〜13%と考えてよいでしょう。同協会に所属していない高級チョコレート専門店などの消費も加えると、さらに数ポイントの上昇が見込めます。2月14日は、その日のために年間消費の1割が集中する壮絶な日なのです。
バレンタインデーはもともと、1960年代に森永製菓や伊勢丹が始めたキャンペーンから定着した日本独自の習慣です。50年が過ぎた現在も、製菓会社や小売店はひとつでも多くチョコレート商品を販売するために、さまざまな市場戦略を立てています。
近年、恋人や好意のない人へ渡す「義理チョコ」を細かく分類し、同級生に渡す「友チョコ」、同僚に渡す「社交(シャコ)チョコ」、さらには自分用の「俺チョコ」など、ネーミングで購買層を広げる傾向が特に顕著です。「チョコは自分で作りたい」という女性をターゲットに、多くの企業が店頭やホームページでレシピを併売するほか、溶かしやすく固めやすいブロック状の「チョコの素」を販売する企業も。明治は全日本空輸(ANA)とコラボし、乗客全員にオリジナルデザインのチョコをプレゼントするなど、他分野の企業との提携も増えています。(出典:森永製菓ホームページ)
さらに、森永製菓は2月14日が休日と重なる今年を見越して「バレンタイン・イブ完全攻略術」と銘打ち、チョコを贈る相手にバレンタイデー前日の配達が可能な女性向けの「ギリチョコ代行」や、当日に自宅へ商品を配達する男性向けの「チョコ保険」などのキャンペーンを展開しました。企業は毎年あの手この手で、バレンタインデーを盛り上げようと策を練っています。
企業内でも、バレンタインに関する企画や流通開発はひときわ重要視されているようです。昨年のバレンタイン企画に携わった、大手製菓会社のSさん(女性)に話を聞きました。
バレンタインデーは社内でどう位置付けられているのでしょうか。
−大げさな話ではなく、社の一年の方針を決定付けるイベントです。年間に占める販売額が大きいので、CM発注や広告塔となるタレントのキャスティングなどの前もった広告戦略に始まり、消費のデータをもとにその後1年間の流通開発を考えるなど、常に社の動向に影響していますね。
商品開発への影響はありますか。
−チョコレート製品については、バレンタインデーの販売業績を参考に決めることがほとんどです。ビターやミルクなどベーシックなものは別として、冬季限定の商品がバレンタインデーに売上を伸ばし、レギュラー商品になったことも多いです。逆に、バレンタインデーの消費傾向により開発計画を修正することもあります。
企画には、どのような人材が求められるのでしょうか。
−まず、バレンタイン自体は習慣として根付いているのに企画には毎年新規性を求められます。その上、社の業績全体を左右しかねないので、プレッシャーも大きいです。参加を希望してもすんなりとはいかず、担当者には確かな能力と業績が求められます。具体的には、バレンタインデーに関して新たなコンテンツを追加できるような発想と、地に足のついた市場分析力でしょうか。そのぶん企画自体は社内の花形なので、やりがいは十分です。 学生であれば、バレンタインデー付近の販売の現場や商品を実際に見て自分なりに傾向を分析してみるなど、雰囲気を感じておいて損はないと思います。企画の内容はお話しできませんが、コンセプト自体は消費の現場に現れますから。
バレンタインは製菓業界だけでなく、日本経済にも大きな影響を及ぼします。「日本記念日協会」が2007年に発表したデータでは、2006年時点でバレンタインデーに関する経済効果は約1300億円です。今年の2月14日は土曜日でしたが、バレンタインデーと休日が重なると同僚や上司に渡す会社員の消費が減り、販売額は平均20億円ほど落ち込むと言われています。さらに、同データによるとホワイトデー(3月14日)の経済効果も約1200億円と、バレンタインデーに迫る勢いです。バレンタインデーの消費動向はホワイトデーに直結するので、2月14日を元に合計約2500億円が動くことになります。来る2016年のバレンタインデーに向けて、すでに戦いが始まっています。