ここ最近ロシアルーブルの下落が激しい。8月当初は1ルーブル2.8円台だったのに対し12月では一時1ルーブル1.6円台を記録。これに伴い物価も上昇した。給料は上がらないが、物価は上昇するという状況で、国民の生活は苦しくなるばかりだ。
まずみなさんが思い浮かべる原因の1つとしてウクライナ情勢があるのではないだろうか。 ウクライナ情勢の中でも特に注目を浴びたのがクリミア半島の帰属である。この半島を巡り、ウクライナとロシアが対立した。ソ連時代からの歴史で考えると、クリミア半島は1921年から1954年までロシア内の自治共和国であった。1954年にウクライナ系でもあった当時のフルシチョフ書記長がクリミア半島をロシアからウクライナに移管した。ソ連が崩壊後、クリミア半島にあった黒海艦隊がウクライナ領内に存在することになった。安全保障上の問題もあり、2010年の大統領選で勝利したヤヌコヴィッチ氏と2045年までロシア海軍の駐留を認める協定が締結された。このような経緯もあり、クリミア半島は本来ロシアのものと考えるロシア国民も多い。もともと親ロシア派が多かったこともあり、この地方は住民投票を経てウクライナから独立、ロシアに編入された。 住民投票を行ったといえ、強引にクリミア半島をロシアに編入したことは国際社会から非難されることとなった。これが一因となり、他国からの経済制裁が始まったのだ。
経済制裁とよく耳にするが具体的にどのようなことが行われているのか。今回は日本、アメリカ、EUの経済制裁の項目を取り上げることとする。経済制裁はカナダなども行っている。
―日本の対露経済制裁―
ロシアによるクリミア併合やウクライナ粒の不安定化に関与している40個人や2団体の日本国内の資産を凍結。クリミア商品の輸入も制限。その後、追加制裁として武器輸出の制限、日本にあるロシア国営銀行の証券発行の禁止などを加えた。
―アメリカの対露経済制裁―
米政府はウクライナ情勢が安定化しない理由はロシアにあるとし、ロシアの金融機関であるGazprombank(ガスプロムバンク)およびVEB、エネルギー企業としてRosneft(ロスネフチ)およびNovatek(ノヴァテク)に対して米国の株式・債権市場への長期アクセスを禁ずる金融政策を発動。マレーシア航空機MH17撃墜事件後、追加制裁を決定。米商務省は大水深、北極海、シェール機材の禁輸を実施。米財務省はモスクワ銀行、農業銀行、VTBの米金融市場へのアクセスを禁止した。その後エネルギー開発に必要な機材などの対露輸出が禁止された。12月にはロシアの主要産業である軍事・エネルギー企業に追加制裁そしてウクライナに追加軍事支援供与を可能にする法案にオバマ米大統領は署名した。同法の正式名は「ウクライナ自由支援法」で、ロシアが武力でクリミア半島を併合し、その後もウクライナ内戦に関与し続けていることに対抗するために提案された。
―EUの対露経済制裁―
2014年7月17日に起きたマレーシア航空機MH17撃墜事件によりEUの対露制裁が強化。大水深、北極、シェール「オイル」に関する技術の提供を制限し、事前認可の必要となる数十項目に渡る制裁品目項目を提示。ただしガスは対象ではなかった。20を超える個人と21企業の資産を凍結。その他新規武器取引禁止、石油分野での技術供与の制限、金融取引の制限を行った。 これらの制裁経済が打撃を受けることは少ないだろうと予測されていた。しかし、これに追い打ちをかけるように原油価格が下落。主な輸出品である原油価格の低下はロシアにとって死活問題である。
米国でシェールオイルが増産され需給が緩んでいるところにOPEC(石油輸出国機構)が減産を見送りしたため、価格が急落した。シェールオイルの増産で供給が増えた一方で、世界経済の減速により原油需要は伸び悩んでいる。原油の需給バランスが崩れてきている最大の要因は米国のシェールオイルの増産であるが、それに加えて、イラクやリビアなどが国の増産余力をつけてきた。イラクではイスラム国の勢力伸長が一段落し、南部の油田地帯には影響しないとの見解が強まっている。またリビアでは治安が好転したことで原油輸出が回復してきている。このような要因が合わさり原油価格の下落が起きた。
経済制裁の報復措置としてロシアは対露制裁を発動した国とその支持国からの食料品と農産物の輸入を禁止もしくは制限などを実施した。 そしてルーブル下落を防ぐためロシア中央銀行は政策金利を10.5%から17%まで引き上げた。しかしロシア中銀の為替介入は少し遅かったようだ。プーチン大統領は対応の遅さを批判しつつも、今後は政府と協力して迅速に対応するよう求めた。また、ルーブル安に歯止めをかけるため、ロシア国外にある資金を国内に戻す新たな制度を導入する考えを改めて表明した。プーチン大統領は2014年12月18日に開いた会見でこの経済状況から脱するには最低でも2年かかると言及した。
仮にロシアで政府や企業が国債や社債を返せない事態が起きれば、それらの債権を持っている金融機関が危機に陥るなど国際金融市場に悪影響を及ぼす可能性がある。しかし、貿易に占めるロシアの比重が小さい日本や米国には直接的関係はそれほど強くない。ただし、ドイツや欧州各国はロシアへの投資や輸出を通した結びつきが強く、デフレの危機にある欧州経済が悪化する恐れはあるだろう。
年が明け、公共交通機関の運賃が僅かではあるが値上がりした。また、スーパーや百貨店でも輸入品の値段が1.5倍から2倍となっている。筆者が購入していたお米も約25ルーブル(約45円)値上がりしていた。トヨタは1月に生産した自動車について、ロシア国内で販売価格を20%値上げすることを発表した。そして経済制裁の影響がじわじわと迫っている。先日までVISAカードやマスターカードがどこの店舗でも使用出来ていたが、近ごろ使用できなくなっている店舗が増えている。ロシア国民の反応はどうか。筆者の知人は「確かに物価は上がっているが、まだ生活は出来る。しかし、この状況が続くのは厳しい。」とのこと。ロシア国民はルーブル危機について多少は知っている。現在のルーブル危機は、1998年と2008年に続く、ソ連崩壊後に経験してきた3回目の通貨危機となる。過去2回苦しく辛い危機を乗り越えその後に景気回復が待っていた。今回も景気が回復すると信じ、国民は耐えに耐えている。
身長146cmのためよく中学生と間違われるJ-POP好きの大学生。現在はロシア・サンクトペテルブルク大学に留学中。小学2年生~4年生を南米・ボリビアのラパスで過ごす。外交官に薬剤師にアナウンサーと昔はなりたいものがたくさんあったが現在は模索中。ただ学生のうちにもう一度ボリビアを訪れたいという夢を持っている。