アメリカ・ネバダ州ラスベガスを訪れた。街一帯どこを見てもカジノ、カジノ、カジノ!どのホテルにもギャンブル施設があり、利用客は昼夜を問わずギャンブルに明け暮れる。街中はネオンにあふれ、大通りでは様々なショーが常に繰り広げられる。そんなカジノ大都市ラスベガスだが、日本にラスベガスのようなエンターテインメント都市ができる日もそう遠くないのかもしれない。日本における統合型リゾート地の建設、カジノ合法化は、もう秒読み段階に至っている。
日本でカジノ合法化はどのように進められようとしているのか。カジノとそれを核としたIR(統合型リゾート)、カジノ法制化への歩みを知っておこう。
IRとは
IRとは「Integrated Resorts」の頭文字を取ったもので、カジノを含む「統合型リゾート」のことをいう。カジノを中心として、ホテル、劇場、ショッピングモール、アミューズメントパーク、ミュージアム、温浴施設、MICE施設なども兼ね備える「複合観光施設」のことだ。
IRは米国ネバダ州ラスベガスの大型カジノ複合施設に始まり、その成功を受けて中華人民共和国マカオ特別行政区(以下、マカオ)、シンガポールへと続く。現在カジノ収益世界1位の都市はマカオで、2013年の収益は前年比17%増の440億ドル(約4兆4,000億円)に上る。台湾・韓国・フィリピンなどでもカジノ解禁が進められ、今やアジアでカジノが大きな広がりを見せている。
IR施設全体のうち、カジノの売上高は全体の80%以上を稼ぎ出す。IRの収益メカニズムは施設全体が集客し、カジノ部分が集中的に収益化する仕組みである。そのためIRにカジノは欠かせず、日本でIRを実現するためにはカジノの法制化が大前提とされている。
政府はIRによって1.5兆円の売り上げ、7兆円の経済効果があると見込み、経済成長の大きな推進力になるとカジノ誘致に意気込んでいる。
様々な施設を併せ持ち、多大な波及効果も見込まれているIRの建設は、新しい巨大なコミュニティを作ることに近いのかもしれない。その意味で、地域住民の合意を得ることは不可欠だ。
なぜ今?
2020年の東京五輪開催決定を受けて「観光立国日本」「ビジット・ジャパン」の動きが全国各地で広がっている。五輪開催に伴って大幅に増加すると見られる外国人訪日者を狙って、五輪開催に合わせて日本各地でIRを展開しようというもくろみだ。
また税収が落ち込む自治体では、カジノ合法化に伴って税収の大幅な増加が見込まれている。カジノ解禁を先導する国際観光産業振興議員連盟(通称:IR議連)は、IR産業を政府の成長戦略の1つとなるよう要請している。
候補地
IR候補地には、東京・お台場、大阪・夢洲、長崎・ハウステンボス、沖縄などの名が挙がっている。中でも空港からのアクセスなど立地条件に恵まれる大阪では、橋下大阪市長がカジノの必要性を強く訴えている。橋下氏は「カジノは雇用も生まれるし、間違いなく経済は活性化する。国際的な観光地になる」、「夢洲は埋め立て地ですから、隣接地域との隔離も可能」と意欲的なコメントを残している。出典: MGM ”Our Vision For A Japan Integrated Resort Bill Hornbuckle”
では、実際にカジノ解禁に向けた法整備はどのように進めようとしているのか。
日本初のカジノ解禁に向けた特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案(通称:IR推進法案)は、2013年12月、国会に提出されている。
法制化プロセスとして、IR推進法によってIRの基本的な理念・方針の制定を目指す。推進法の成立・施行後2年以内に、推進法で示される理念に基づき、より詳細な制度を規定する「IR法」を制定する、という二段階方式だ。2014年秋の臨時国会で審議入りが優先視されていたIR推進法案だが、予算や集団的自衛権の関連法案など重要な審議が立て込み、審議入りは2015年の通常国会にずれ込むこととなった。
15年の通常国会で可決・成立しなければ、日本のカジノ解禁が大幅に遅れ、IR全体のオープンは2020年の東京五輪に間に合わないとの懸念もされている。
現在日本では賭博行為は全面的に禁止されている。しかし、あちこちで見かけるパチンコ店。パチンコは違法ではないの?パチンコとカジノの違いは何なのか?
パチンコ
警察の判断によると、パチンコとは「玉を借りて楽しみ、それを返却する際に出た玉の量によって景品を貰う遊び」とされる。玉を景品と交換するだけで、直接的な換金行為はされていないとする(換金されれば賭博に当たり違法)。
しかし、現状は交換された景品がパチンコ店と併設される施設で換金されたり、景品も換金される前提で作られたりしている。パチンコ業者と警察の癒着や天下りによって違法行為が黙認されているとの指摘もある。
日本版IRにおけるカジノ
出典:http://smartcasino.jp/?mod=submenus&action=column3&page=page7
IR議連によると、IR推進法はカジノを条件付きで合法化することを目指している。 IR議連会長は「我が国のカジノ導入は限定された数、限定された地域だけに複合観光施設としての開発を許可するものであり、単純な賭博の推奨をするものではない」と、カジノがIRに限定されて許可されることを強調している。カジノはあくまでIRでの収益部分を担うために合法化されるということだ。
さらにIR推進法案によると、カジノから徴収する納付金は東日本大震災等の大規模災害復興費に充当できるとしている。カジノを通して経済開発だけではなく復興支援もしてしまおうというのだ。
こうした社会的意義を併せ持つ点で、日本で合法化されようとしているカジノは、単なる賭博とは全く違う性格を持っている。IRに限定されるカジノは、IRという新たな巨大コミュニティの中核をなすものだとみることもできる。
クール・ジャパン
マカオ、シンガポール、フィリピン、韓国、台湾など、アジア各地でカジノ解禁の動きが加速している今、顧客獲得のためには日本らしいIR・カジノを求めていかなければならない。
マカオにはマカオにしかない賭け事があり、それが1つの魅力となっている。また、マカオ旧市街が世界遺産にも登録されている強みもある。シンガポールも独特の建造物によって独自の魅力を備えている。
IR推進法が成立するのも時間の問題だ。しかし、ギャンブル依存症・治安の悪化への懸念や、外資系カジノ事業者をめぐる資金の動き、日本人を外国人と差別化して入場制限を設けるべきだという主張など、カジノ解禁に伴って他にもたくさんの問題点がある。まだまだ日本文化になじみが薄く、議論不足が否めないカジノの問題について、日本人も自分たちのこととして向き合っていかなければならない。日本らしいIRで成功するために「おもてなし」の精神にのっとり、和食や伝統文化、日本のもつ先端技術を積極的にアピールするなどして、日本独自の施設づくりを進めたい。
アメリカのジョージア大学に交換留学しています。日常の些細な現象から、その奥にある社会問題を考えていきます。