初めまして! 大阪大学外国語学部外国語学科アラビア語専攻を休学してクウェート大学に留学している保道晴奈(やすみちはるな)と申します。 語学留学という扱いで、こちらではクウェート大学文学部付属ランゲージ・センターにてアラビア語を勉強しています。 私の所属を見て「なんでクウェート?」「中東って危なくないの?」「ていうか、そもそもなぜアラビア語?」と疑問に思われる方がたくさんいらっしゃることでしょうし、今までに国籍を問わずたくさんの方から何度もこういった質問を受けました。 一つ一つにお答えすることができず申し訳ないのですが、最初の記事では自己紹介を兼ねて、保道という人間がどうしてこのような選択をしてきたのか紹介したいと思います。
2つの部活に所属し、とにかく部活のことばかりを考えていた頃でした。部活引退まで、あまり真面目に勉強した記憶がありません(笑) 勉強に関しては物理・化学・数学が苦手だったので自然に文系を選択、社会科は世界史と地理を取っていました。世界史や地理の授業が退屈なときに世界史の資料集や地図帳を眺めるのが楽しくて、授業そっちのけでのめり込むこともありました(笑)
アラブ世界との初めての出会いは、世界史の授業でした。
高校1年の冬、当時の世界史担当の先生がノロウイルスで入院されてしまったので、急遽別の先生が授業をすることになりました。 その日の授業が中東戦争を扱う部分でした。 この授業が全ての始まりだったように思います。 この日に初めて、パレスチナ問題が非常に複雑で二項対立の問題でないことを理解し、この日から「パレスチナ問題、ものすごく大変な問題じゃないか……なんとかならないのか」と考え始めたのです。
急遽代わりに授業をなさった先生はパレスチナ支援の団体サラームに関わっておられる方でもあり、パレスチナやアラブに対して意識の高い方でもありました。たった1回の授業で私がパレスチナ問題が気になって気になって仕方ないという状態になってしまったのは、彼女のおかげでもあるかもしれません。 この先生とは今でも連絡を取り合い、時々サラームにもお邪魔しています。
進学する大学を決めるにあたって、パレスチナ問題やアラブ世界の諸問題を勉強するには、きっと政治か国際協力という切り口からやるのが正攻法なのだろうとは考えましたが、「パレスチナ問題をやるにはアラビア語が必要ではないか?」と気づいてしまいました。 語学の勉強が嫌いで英語もそれほど得意ではなく、真面目に勉強した試しのなかった私が法学部などの学部に進学して、アラビア語を独学するはずがない!(笑)と思ったので、アラビア語を勉強するために、アラビア語専攻への進学を決意しました。 とにかく、高校時代にこの先生と出会わなければ、アラビア語を学ぶという選択をしていなかったのは確かです。
「語学が嫌いだからアラビア語を”専攻”する」という選択をした私にとってアラビア語の勉強は本当に大変で、すれすれの成績でなんとか進級させてもらえたほどでした(笑)
その代わり、大阪大学ではアラビア語以外にもたくさんの出会いに恵まれました。 長崎の離島へ炭鉱跡地を見るためにフィールドワークへ行ったり、朝鮮学校へフィールドワークへ行ったり、本を1冊出版してみたり……(大阪大学ショセキカプロジェクト編『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』の制作に携わりました)。そういえば、英語塾の運営もしていましたね。 アラビア語専攻で勉強しているとどうしてもアラブのことばかりが気になってしまいますが、このような活動をしていたおかげでアラブ以外のこと、例えば日本が抱えている諸問題などにも自然と目が向くようになり、これがクウェートへ来てから私の糧となっています。
勉強に関しては、1年生の時に受講した外国語教育・移民政策の授業が面白く、応用言語学に興味を持つようになりました。 応用言語学は「言語学の応用分野」ということで、ざっくり言うと「言語が社会の中でどう使われているか、どう変化しているか」を追う学問分野です。 アラビア語は社会言語学の用語で「ダイグロシア」と呼ばれる現象が起こっている言語であり、話し言葉と書き言葉がかなり違います(私はアラビア語のクウェート方言を勉強していないので、理解できずよく困っています。)。 これを知って、語学は嫌いだけれど、言語って面白いんだなぁと思いました。
こんなふうに色んな活動をしていたら、気づけば外国語学部の同級生が留学を考える時期になってしまっていました。 朝鮮学校関連で出会った韓国人留学生の友人に「海外で外国人として扱われる経験をした方がいいよ」と言われていたこともあり、なんとなく留学をしようと決意。 クウェート留学に向けて準備を始めました。
留学先になぜクウェートを選んだのか。 パレスチナへ行きたかったのは山々ですが、経済的な事情や情勢不安などの理由からパレスチナ留学はあまり現実的でないという結論に至りました。 そこで、クウェートは学費・寮費・食費全額支給でお小遣いまでもらえる奨学金があるし、オイルマネーで潤う湾岸諸国という未知の世界に飛び込んでみるのもありなのでは?と考えたのです。
また、ここには「ダイグロシア」も絡んできます。 アラビア語圏へ留学するアラビア語専攻の学生は「話し言葉」を勉強するために留学する人が多いのですが、私は本を出版した経験からメディアに興味を持っており、メディアで主に使用される「書き言葉」を勉強できるところの方が良いなぁとなんとなく思っていました。 そこで、「書き言葉」をみっちり教育するというクウェート大学は私にとって打って付けの留学先でした。
クウェートへ来る前にアラビア語専攻の先生から頂いた、忘れられない言葉があります。
「保道にとって初めてのアラブはクウェートだから、これからあなたはクウェートを基準にアラブを見ることになる。私たちの初めてのアラブは違う国だから、きっと私たちと違う感覚を持つだろう。」
先生は「だから面白いんだけどね〜」と笑いながらお話しになっていましたが、それ以来、私の目にはどのようなアラブが写っているのか、ふと客観視することがあります。 クウェートという国はアラブの中でもやや特殊な国であり、私はこの国でアラブ世界の全てを見ているわけではないと自戒するのです。
また、この言葉を聞いて私は尊敬する先生から「アラブを専門とする学生」ときちんと扱われているのだと気づき、なんだか胸が熱くなりました。
さて、ここでの私の使命はもちろん「アラビア語の勉強」が第一ですが、「クウェートがどんな国か日本人に向けて積極的に発信する」ということもあると思っています。
クウェートでのカルチャーショックは、少ない言葉で簡潔に述べられるほど簡単なことばかりではないので、これから記事にして行きたいと思っています。以下、その項目です。
☆もしかしてクウェートは外国人の方が多い? ☆クウェート人お金持ちエピソード ☆クウェートは「危なくない」けど、道路は確実に危ない ☆意外とインフラが微妙!(笑) ☆タクシードライバーとの仁義なき戦い ☆イスラームの文化に抗う留学生たち
また、大学や勉強についても、こんなことを。
☆留学生は世界中から集まっていた…… ☆アラビア語で日本を語る(ここで日本での経験が活きる!) ☆クウェート大学の食堂・図書館事情 ☆そもそも、アラビア語ってどんな言語?
その他にも、現在クウェートで開催中のイベント「図書展」など、ご紹介したいことはいくらでもあります。 今回は長くなりすぎてしまったので、この辺りで。 またお読み頂けると嬉しいです!
クウェート政府奨学金を得てクウェートに留学中&アラビア語の修行中。「伝える人」を目指して、アラビア語と英語で「日本」を伝えたり、日本語で文章を書いてクウェートのことを伝えたりする日々。