皆さまこんにちは!今回の記事では、増えてきている学生起業・20代の起業でのキャリア形成の一つの手段として注目されてきているM&Aと、実際にM&Aを行ってユニークなキャリアを作っている先輩の事例をご紹介します。
布田尚大(ソーシャルM&A®️ファームGOZEN代表)
1983年東京生まれ。一橋大学 社会学部/同大学院 社会学研究科修士課程 修了。ソーシャルビジネス・スモールビジネス特化のM&A仲介GOZENの代表。D2Cのランジェリーブランドfeastを立ち上げM&Aにて売却した経験をもとに、ソーシャルM&Aに関する事業を経営している。
ソーシャルM&A®️ファームGOZENとは?
経済成長とソーシャルグッドの両立、M&Aによるクリエイターのライフキャリアの拡張を目指すソーシャルM&A®️ファーム。1ディールごとにミッションが近しい団体にアレンジメントフィーの一部寄付をする、1deal, 1donationを実行しながらM&A仲介事業を行っています。
近年、学生による起業は盛り上がりを見せており、起業支援コミュニティ・プログラムも充実してきています。皆さんの周りやSNSでも、若くして活躍されている起業家の方がいるのではないでしょうか。サービスのローンチや資金調達、メディア露出や賞の受賞など、起業家という職業に華やかなイメージを感じている人も少なくないかもしれません。
↑ 増え続ける大学発ベンチャー企業
一方で、事業の問題・ファイナンスの問題・組織の問題など、全てを自分の責任で解決しないといけない起業の現場はとてもハード。実際に、起業した後は働く時間が長くなる傾向があり、米国のカリフォルニア大学の研究によれば、起業家の約半数がメンタルヘルスの問題を経験※。起業後のセーフティーネットの拡充が必要とされています。
参考:「起業家特有のメンタルヘルス」を健康に保つために 5つのノウハウ - フォーブスジャパン(https://forbesjapan.com/articles/detail/68279)
そのような起業の陰と陽をうまくバランスさせていく手段として、M&A(Mergers and acquisitions - 企業・事業の合併や買収の意味)が注目されています。起業した事業を一貫してやり続ける今までのスタンダードなキャリアに加え、事業の「出口」を明確に考えることで、自分が創業した以上どこまでもやらないといけない、という過度なプレッシャーが少なくなり、起業家のキャリアがますます豊かになる可能性があるのです。
そうはいっても、M&Aって従業員が何十人もいる大きくなったスタートアップや、売上が大きい大企業同士が行う難しいものなのでは?と思う人もいるかもしれません。
ザ・ビジネスアクションというイメージがあるM&Aですが、シンプルにいえば事業の売り買い。少し余裕のある企業が新規事業として小さい事業を買うケースなども含まれます。例えばアパレル事業を行う企業がアクセサリー事業を行う小さな会社をM&Aするというように近しい領域の事業を買うケースなど、色々な目的や規模感の実例があります。
よくM&Aをして大金持ちになった、あるいは事業が失敗して身売り的に買われてしまった、といったストーリーがありますが、実際にはそれらに限らないM&Aが日々行われています。
「仮にM&Aができても、愛着がある事業だからすぐ離れるのは悲しい」
「他にやりたいことできた時に、買い手企業のスタッフになると不自由なのでは?」
起業家と話しているとそんな不安の声が上がることもあります。多くのビジネスのM&Aに携わっていた経験から、このあたりのリアルをお伝えしましょう。
M&A後に、売却側のスタッフがどのようなキャリアを選択するかは様々です。一般的に即退任を求められるケースは少なく、買収企業は売却元のスタッフの実力を評価し、ある程度残ってもらいたいと考えるケースが多いです。一方、それは無制限に続くわけではなく、「ロックアップ」という契約を締結するケースが一般的です。ロックアップとは、売却元の重要な人物が一定期間、買収企業に在籍し続けることを意味します。経営の円滑な移行や引継ぎ、M&A後の事業成長が目的です。期間は1年-3年程度が比較的多い印象ですが、M&Aでの交渉次第となります。期間終了後は買収企業に必ずとどまる必要はなく、自分のキャリアパスを自由に選択することができます。また、ロックアップ期間中から副業が許可されるケースもあります。
皆さんが想像していたよりも、ずっと柔軟性があるのではないでしょうか。
「M&Aの概要はわかってきたけど、実際にM&Aを使いながらキャリア形成している人、周りにいなくない?」
そんな風に思う方もいるのではないでしょうか。これは当たり前で、学生起業や若年起業がある程度一般化した2020年代以降に、少しずつ増えてきているキャリアモデルだからです。そこで今回は、実際に学生起業からM&Aを経てユニークなキャリアを築いている方をお一人、ケーススタディとしてご紹介します。
江連千佳さんは、2024年3月の大学卒業と同時に、ご自身が運営していたフェムテックブランド”おかえり”ショーツ事業をM&Aし、東京大学の大学院進学のキャリアを選択されました。
江連さんは「脱毛をしていないとショーツから毛がはみ出して恋人に嫌われる、だから脱毛しよう」というストーリーのYouTube広告に違和感を持ち、ウエストや足の付け根、デリケートゾーンに余裕のある、”おかえり”ショーツを開発。2020年から事業を開始し「マツコ会議」や「anan」をはじめとするメディア露出、東京都が主催する「Tokyo Startup Gateway 2020」でのファイナリスト選出など、着実な事業成長を実現されていました。しかし、2022年に2つの重い健康上の災難が重なり、事業の休業を余儀なくされてしまいます。一方、この強制的な休業期間は、事業を行うことの意義を自身で内省する貴重な時間にもなりました。
江連さんが問い直したのは、「”おかえり"ショーツを販売することは、本当に女性たちの幸せに繋がっているのだろうか?」という根源的なもの。
事業を行うと、商品について生活者から様々な声が届きます。江連さんは半身麻痺の方、FTMでホルモン注射をされている方からの商品についての声、高くてなかなか買えない、といった方々の商品・サービスについての声を思い出し、
“おかえり”ショーツは、これまでのショーツの形に心地悪さを感じていた人たちへ、新たな「心地よい」選択肢を提供することに成功した。(中略)でも、私自身は、”おかえり"ショーツという事業に真剣に向き合ったからこそ、もっと包括的に多様な人たちの心地よさに向き合い、社会の構造的な変化を生み出してきたい。
(江連さんのブログ 大学卒業によせて〜心地よさを拡張する〜 より抜粋)
と考え、M&Aで”おかえり”ショーツを事業譲渡してのサービス継続、自身は大学院へ進学し、アカデミックな視点から女性の身体を扱う技術であるフェムテックについて批判的研究を行う、というキャリアを選択し、実行されました。
起業はエキサイティングな活動で、一部の成功者が華々しくメディアに登壇し、憧れる若者も多い職業。ともすると最初の創業の想いがなおざりになり、事業継続や拡大そのものが目的になってしまっているケースも散見されます。そのような中で少しずつ、江連さんのように事業を行う中で自分自身の問いを深め、M&Aも活用してユニークなライフキャリアを創っていく人は今後も増え続けるのではないでしょうか。
ここまで、学生起業・若者起業とM&Aを使ったキャリア構築の可能性について、お話ししてきました。筆者である私自身も、下着ブランドの経営とM&A、M&A後の経営もしており、その経験をもとに、ソーシャルM&Aというコンセプトで、GOZENという事業を行っています。M&Aを使った魅力的なキャリアを構築し活躍する人を増やしていきます。この記事が皆さんのキャリア構築のインスピレーションになるところがあれば、嬉しいです。
公開日:2024-05-05