今回は前消費者庁長官であり、現在は伊藤忠商事取締役、まち・ひと・しごと研究所代表取締役などを務める伊藤明子さんにお話を伺いました。リーダーとして様々なプロジェクトに関わってこられた伊藤明子さんから、これから仕事をしていく女性はもちろん、様々な人の背中を押してくれるような熱いお話を聞くことができました。(インタビュアー:山浦凜)
前回のインタビュー:
知ってるようで知らない「地方」? 前消費者庁長官・伊藤明子さんが語る地方創生
伊藤さんはなぜ官僚というキャリアを選択されたのですか。
私が就職したのは男女雇用機会均等法の2年前なので、大企業のなかでの女性の仕事は限られていました。今でいう「総合職」にあたる職種は、男性に限られていることが多かったわけですね。つまり、バリバリと働きたい女性は自分で起業するか、弁護士や公認会計士など資格の必要な職業につくか、官公庁に勤める人が多かったです。私はその中で、官公庁の中で働く、官僚の道を選択しました。また私は大学で建築を専攻していたのですが、物理的な設計やデザインよりも制度設計に興味がありました。制度設計をするのは現場の仕事というよりも省庁の仕事なので、官僚を選びました。
伊藤さんが就職された時期は、今とは社会の雰囲気が大きく違ったのですね。
当時は育休などの制度が今と比べ整っていなかったと思うのですが、そのような中でどのように仕事と家庭を両立したのですか。
仕事をするという前提で、どうすれば仕事以外のこともやっていけるかを一生懸命考えて、ありとあらゆることをしましたね。思い切って人に頼ったり、職場の近くに住んだりしていました。子育てと仕事を抱えているという状況はもちろん大変ですが、大変だと嘆いていても仕方がないので、どうしたら大変な中で生き延びていけるのかを考えていました。
ちなみに私は全く育休を取りませんでした。体調が許したのと、やりたい法案があったからですが… 後輩の女性たちからするといい迷惑だと思いますし、実際よく怒られます。たしかに後輩たちにとっては、よくないロールモデルだったと思います。
ただ、人によって状況や希望は違いますから、自分で選択できるような環境にするべきだと私は考えています。例えば、しっかり育休を取って子育てに専念したい人もいますし、私の場合は仕事を続けたかったため、このような選択をしたわけです。
役人として働いていて助かったのは、1時間休暇(仕事の時間の中1時間を休暇に使える制度)があることですね。子供の予防接種や学校の面談などで仕事から抜けたり、朝に1時間や2時間遅れていけたりしたので助かっていました。一日とか半日休暇だと長すぎるので、1時間休暇は良い制度だったと思います。休暇の長さが自分で選べるということで、これも自分で選択できることが大切という例の一つですね。勿論、選択できる社会にするためには、休みが取れる体制を企業などが構築できるように、半ば強引に目標設定することも環境整備としては必要で、今はそういう取り組みがされている最中なのだと思います。
※ 上の図は、伊藤さんのおっしゃっていた「選択できる社会」を表している。伊藤さんによると、現在の世の中は真ん中の「個人の違いを考慮しそれぞれに『公平』な機会が提供されている」状態に変わってきている。しかし、理想としては右の「構造的なバリアが取り除かれ、全員が平等かつ公平な機会を保持している」状態だそう。
自分で選択できることが大切というのは、家庭を持つ人はもちろん、全ての人に当てはまりそうですね。
ちなみに、男性が多い職場で働くことに対して、悩みや葛藤などは感じましたか。
正直に言うと、そこまで感じませんでした。自分が異質だという意識はあまりなかったです。逆に周囲の人のほうが自分が女性だということを気にするのだろうなと思っていましたね。
一方で、女性が少ないというのはアドバンテージでもありました。女性だからこそ、当時の実力やランクからすると会えないような人と会えたり、行けないような場所に呼んでいただいたりして、勉強させていただけることがたくさんありました。ただ、実力不足を自覚しながらそういった場所に行くのはつらい部分もありました。
しかし、様々なことを不利だと思うのではなく前向きに捉える姿勢も必要だと思います。
ありがとうございます。アドバンテージを得られたというのは少し意外な見方でした。
弊メディアは10代、20代の若者を読者層として想定しております。若者は、今後どのようなことを意識してキャリアを考えるとよいでしょうか。
是非メインテーブルに座ってほしいと思います。メインテーブルに座るという言葉を、私は「社会に影響を及ぼす決定を、自分の名前で下す立場」という意味で使っています。しかし、このメインテーブルに座るのはとても大変なことで、自分の名前を大々的に出さずに後ろでコントロールしているほうが楽ですし、何か起こった時に批判も浴びなくて済みます。賢いからこそリスクを取らずにメインテーブルに座らない人も、実はいると思います。でも、人生一度しかないのでリスクを取ってメインテーブルに座ったほうがいいと私は思っています。一歩引いてしまう人が多いですが、ある程度リスクを取ることが個人にとっても社会にとっても大切ですし、何よりその方が面白いです。経験や人付き合いから、徐々にどの程度リスクが取れるかはわかってきますし、年を重ねると、その範囲が広がっていくんです。
また、私は、入口でシャッターをおろさないようにすることを心掛けています。つまり、最初から拒否するのではなくて、一回自分で受け止めてみる。そして、その後にできないならできないと言うということです。もちろん入り口でシャッターを下ろしたほうが楽なのですが、それを続けていたら自分の可能性が狭まってしまうので、自分の範囲を決めすぎないほうがいいと思っています。ただ、なんでも一回受け止めてみるというのは、結構怖いことですし、恥をかいたり失敗することも当然あります。でも、そういうことを恐れないほうが楽しく生きていけると思いますね。
いかがでしたか。リスクを取る、そして自分の可能性を狭めない、という伊藤さんの言葉は力強く、聞いている私自身も背中を押されたような気持ちになりました。
また、伊藤さんが子育てをされた時代と比べて、現在は産休・育休などの制度や、子育て支援の必要性が議論されています。個々人の希望や理想とする働き方は十人十色なので、伊藤さんのおっしゃるように選択肢を増やすことが社会としてとても重要なのだと思いました。
伊藤さんは官僚時代より地方創生に取り組んでいらっしゃり、co-mediaでは過去にインタビュー記事を掲載させていただきました。
知ってるようで知らない「地方」? 前消費者庁長官・伊藤明子さんが語る地方創生
https://www.co-media.jp/article/25134
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公開日:2024-03-29