皆さんこんにちは。co-media編集部の河井です。最近はずいぶんと寒くなってきましたね。暖房をつけないと手がかじかんでキーボードがまともに打てないので、最近はもう暖房に頼りきりです。
さて突然ですが、皆さんが普段食べているものや着ているものはどこの国で生産されたものか分かりますか?
中には国内で生産されたものもあるかもしれません。しかし、生産地を調べてみると海外で生産されたものの方が多いことに気づくのではないでしょうか。
このように海外で生産されたものを国内でも流通させるようにするための仕組みが貿易です。今回は、ミクロ経済学における貿易の比較優位と絶対優位という概念について詳しく解説していきます!
河井僚吾(編集部・ライター)
京都大学1年生。大学で経済学を学んでいる。最近は統計学の勉強をしている。
比較優位と絶対優位:リカードの比較生産費説
皆さんはこの比較優位と絶対優位という言葉を聞いたことがありますか?あまり日常的に馴染みのない言葉のように思われますが、比較生産費説という単語は聞いたことがあるという人もいるのではないでしょうか?比較優位と絶対優位という言葉は、この比較生産費説の中で登場します。
そもそも比較生産費説とは何でしょうか?これは、18世紀後半から19世紀前半を生きたイギリスの経済学者であるデヴィッド=リカードという人物が唱えた理論です。
デヴィッド=リカード |
自由貿易を擁護する理論を唱えたイギリスの経済学者。各国が比較優位に立つ産品を重点的に輸出することで経済厚生は高まるとする「比較生産費説」を主張した。「近代経済学の創始者」とも呼ばれる。Wikipedia |
当時のイギリスは国策として 重商主義※ を推し進めていました。17世紀の英蘭戦争以降、オランダから貿易事業を奪い取って覇権を握ったイギリスは、その植民地を世界中に拡げていきました。そして、フレンチ=インディアン戦争に勝利したイギリスは世界のトップへと君臨し、国内の産業を保護する目的で、輸入を制限したり関税をかけたりして舶来品の流通を制限しようとする保護貿易を行いました。
※ 重商主義:商工業を重視し、国家の産業を保護・発展させ、国内の富を充実させようという思想
これに対して、自由貿易を行い世界中の国々で分業をした方が全体としての生産量が高まるとし、自由貿易の重要性を説いたのがリカードです。そして自由貿易の重要性が十分に認識されて、リカードの死後の1846年に保護主義的な穀物法が廃止されることとなったのです。
簡単な経済モデルで比較生産費説を考察
では、いよいよ比較生産費説について解説していきます。あまり難しい数学の知識は使用しないので安心してついてきてください!
表1 商品を1kg生産するのに必要な人数 |
はじめに簡単な経済モデルを構築します。世の中にはA国とB国しか存在せず、流通している商品はお米と小麦だけだとします。 |
上の表1にはそれぞれの商品(お米・小麦)を1kg生産するのに必要な資本量(人数)が書かれています。A国では200人が1日労働することで1kgのお米を、100人が1日労働することで1kgの小麦を生産可能で、同様にB国では800人が1日労働することで1kgのお米を、200人が1日労働することで1kgの小麦を生産可能であると仮定します。人数以外の単位は揃えてあるので無視できます。
では、比較優位と絶対優位について解説します。
◆ 絶対優位について
分かりやすいのは絶対優位の方で、一定量を生産するのに必要とする資本(この場合は人的資源)が少ない方に絶対優位があるといいます。このモデルの場合は、お米についても小麦についてもA国の方が必要な人数が少ないのでA国に絶対優位があるといいます。
◆ 比較優位について
比較優位は少し難しく、定義としては「ある商品を生産するにあたって他の商品を放棄する量が少ない方に比較優位がある」となります。以下で同じモデルを用いて比較優位について解説します。
下記の表2をご覧ください。これは各国で片方の商品を1kg生産した際に放棄した他の商品の生産量を示したものです。例えば、A国ではお米を1kg生産するのに200人が投入されたので、もしその労働力(人数)を小麦の生産に充てていれば小麦2kgを生産することができたということです。この量を機会費用といいます。
表2 片方の商品を1kg生産した際に放棄した他の商品の生産量 |
このモデルの場合は、お米についてはA国のほうが放棄する小麦の量が少なく、小麦についてはB国のほうが放棄するお米の量が少ないことが読み取れるかと思います。 |
この時、A国はお米について比較優位があり、B国は小麦の生産について比較優位があるといいます。絶対優位とは異なり、ある国が全ての商品について比較優位を持つことは起こり得ません。
比較生産費説を具体的に計算してみよう
比較生産費説とは、それぞれの国が比較優位を持つ商品の生産に特化すれば全体として最も大きな生産量を得られるという理論です。つまりこの場合はA国がお米の生産だけをし、B国が小麦の生産だけをすれば最大の利益を得られるということになります。
一見すると、2つの商品に対して絶対優位をもつA国が全て生産したほうが効率が良いように思えますが、これはA国の資本の量が無限(ないし限りなく無限に近い)の場合にしか成立しません。現実的にはそれぞれの国の人口は無限ではないので分業をした方が効率が良くなるのです。
それでは具体的に計算してみましょう。
A国の人口もB国の人口も1000人であると仮定し、
A国:お米3kg 小麦4kg
B国:お米1kg 小麦1kg
を生産しているとします。この時の生産量の合計はお米4kg小麦5kgです。
ここで先ほどの理論を適用し、両者が比較優位を持つ商品の生産に特化すると、(表2参照)
A国:お米5kg (A国において小麦1kgはお米500g分 → 小麦4kgは、お米2kg分)
B国:小麦5kg (B国においてお米1kgは小麦4kg分)
を生産することになります。この時の生産量の合計はお米5kg小麦5kgです。特化しなかった場合と比較するとお米の生産が1kg増えています。
確かにリカードが述べたように各国が自分の得意な商品の生産に特化したほうが全体としての生産量は増えそうです。しかし、これだと商品が存在する場所に偏りが出てしまいます。
これを解消するのが”貿易”なのです。例えば、A国がお米を1kg輸出し、代わりに小麦を3kg輸入するという取引は両国にとって得です。A国にとっては、自国だけで生産した場合お米1kgを諦めて得られるのは小麦2kgのため、それより1kg多く得ることができます。B国にとっても、自国だけで生産した場合小麦4kgを諦めなければなりませんでしたが、貿易により手放すのが3kgで済んでいるのです。
もちろん現実には様々な国が存在しており、友好関係など複雑な要素が絡み合っているので全ての国がある商品の生産に特化するべきだとは言えませんが、このようなモデルを以って現実のベンチマークとすることができます。
この理論はミクロ経済学のかなり初めの方が扱われることが多い内容ですが、ご覧の通りほとんど数学を使わないので数学が苦手な方もミクロ経済学とマクロ経済学の入門だけでも勉強してみると面白いかもしれません。この記事を読んで皆さんが少しでも経済学に興味を持っていただければ幸いです。
(執筆:河井僚吾)
公開日:2023-12-23