今回は、経営戦略の一つである「ブルーオーシャン戦略」について解説します。新書や経済ニュースなどで取り上げられることも多いこの話題ですが、この記事を読んで少しでも詳しくなっていただけますと幸いです。
ブルーオーシャン戦略とは、ライバルのいない市場空間(ブルーオーシャン)を見つけてビジネスを行う戦略です。既存の市場では競合他社がひしめいている中、ライバル不在の新しい市場空間では競争を避けることができ、より有利な条件でビジネスを展開することができます。
そもそも、ブルーオーシャンは「青い海」という意味です。この言葉と対比されるのがレッドオーシャンであり、文字通り「赤い海」を意味しています。
下の図を見ていただくと分かりやすいと思いますが、右のレッドオーシャンは、赤い海、すなわち血みどろの争いが繰り広げられる熾烈な市場を意味し、左のブルーオーシャンは青い海、すなわち漁師である競合他社の数が少なく、争いが少ない新市場を意味しています。
↑ブルーオーシャン(左)とレッドオーシャン(右)のイメージ図
ブルーオーシャン戦略とは、顧客の需要は多くあるものの競合のいない市場に一番乗りで参入する戦略と言えます。
しかし、この戦略を取るためには、適切な市場の選定を行わなければなりません。市場の選定には顧客重視のアプローチが必要であり、まだ満たされていないものの自社で実現できるニーズを発掘することが大切です。そのため、技術力・ブランド力に乏しいスタートアップが競合のいない市場を見つけるのは至難の業と言えるでしょう。
しかし、大手ではなかったものの、この戦略を取ることで成功した企業は世界中に存在しています。次の章では、成功した企業の例を見ることで、どのように市場のニーズを見つけ、ビジネスで解決したのかを学んでいきましょう。
大学受験予備校の東進ハイスクールは、ブルーオーシャン戦略を取った企業です。従来の塾・予備校業界では、講師が教室で授業をする形が一般的でした。しかし、東進ハイスクールはインターネットが大きく普及する以前より、DVD教材などを使い、地方部を含む全国にフランチャイズ形式で教室を展開していました。都会のみで従来型の塾ビジネスをしている他社と比べ、知名度・シェア・売上の面で優位に立てたのは、ブルーオーシャン戦略が所以と考えられます。
なお、東進ハイスクールを運営している株式会社ナガセは、2023年3月期の売上が520億円を超える大企業であり、ブルーオーシャン戦略の成功例と言えます。
オーストラリアに本社を置くカセラファミリーが展開するワインブランド「イエローテイル」は、ブルーオーシャン戦略の成功例です。2001年にワインの販売をスタートしたイエローテイルは、それまで上流層がターゲットであったワインを捉え直し、従来表記されることが普通であった等級表示などを撤廃しました。米国を中心に気軽に楽しめるワインとして売り出したことで、それまでワインを楽しんでいなかった層にも定着させることに成功しました。
新日本プロレスリングは、日本最大級のプロレス団体です。従来のプロレスはマニア向けの要素が強く、暴力・流血などの要素が多く存在していました。新日本プロレスリングも例外ではなく、マニア向けの路線を継続していましたが、2012年にカードゲームやIPを展開するブシロードの傘下となったことで改革が始まりました。それまで顧客に少なかった女性を対象としたプロモーションをすることや、見ていて楽しく親しめるエンターテインメントへと舵を切ったことで、経営再建も実現しました。
シルク・ドゥ・ソレイユは、カナダに拠点を置くサーカス団を運営する企業です。以前のサーカス業界は子ども向けという側面が強く、観客数も右肩下がりでした。しかし、従来のサーカスにおいて重視されてきた笑い・ユーモア・動物ショーなどの要素を少なくする代わりに、芸術性・テーマ性を重視することで、大人も楽しめるエンタテインメントを作り上げました。この施策が功をなし、大人や法人など、高単価を支払う人々の集客に成功し、斜陽産業であったサーカス業界で、売上を大きく伸ばすことに成功しました。
大手VOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスであるネットフリックスは、1997年にオンラインでのDVDレンタルサービス会社として創業しました。創業者であるリード・ヘイスティングス氏がDVDを店舗へ返却し忘れ、高額の延滞料金を支払ったことで着想を得たそうです。その当時オンラインでDVDをレンタルしているサービスは他になく、創業後まもなくシェアトップに躍り出ることができました。その後はビデオ・オン・デマンド方式へと移行し、VOD市場では世界シェアトップを維持しています。
① 価格競争に巻き込まれない
他に競合が少ない市場においては、自社に価格の決定権があります。もちろん顧客の納得する適正な価格である必要はありますが、自社が価格設定において有利であることには変わりありません。そのため、競合との価格競争を行う必要がなく、経営基盤を安定させることができます。
② 高い業界シェアを取ることができる
ある市場を発見し一番乗りで参入した場合、競合が少ないため高い市場シェアを取ることができます。また、高いシェアを取ることにより、「〇〇(製品の一般名)といえば××(ブランド名)」というようなブランド認知がなされます。
上記2つのメリットは「先行者利益」とも言われ、早く参入することによって得られる利点です。
いかがでしたでしょうか。日頃私たちが使っている製品・サービスも、その創業ストーリーなどを知ることにより、様々な面白い経営戦略が取られた結果、今に至っていることが分かります。
ブルーオーシャン戦略について知っているからと言って新しいビジネスをすぐに思いつける訳ではありませんが、様々な企業を分析する際の着眼点として活用していただけたら幸いです。
(執筆:岡田元)
公開日:2023-11-10