Xin Chao!co-mediaライターの成川航斗です。珍妙な挨拶から始まりましたが、これはベトナム語で「こんにちは」という意味です。というのも私はこの夏、1か月ベトナムにいました。当たり前ですが、日本と違う文化を持つ海外では初めて経験するようなことや困ったことも続々と起こります。しかし、そうした環境でしぶとく生き残ることによってはじめて分かることもたくさんあります。
この記事では現地で得た気づきもまとめつつ、「ベトナムに行ってどんな良いことがあるの?」「海外インターンシップではどのような経験が積めるの?」といった疑問を持っている方の参考になれば幸いです。
成川航斗(ライター)
北海道大学2年生。人類学を専攻しており、アイヌ・民俗風習・博物館などについて研究している。
そもそも私がベトナムに行こうと思ったきっかけは、ベトナム好きだったわけでも、海外旅行がしてみたかったわけでもなく、大学のある講座に参加を決めたところにありました。その名も「国際インターンシップ」と言うのですが、北はフィンランドから南はニュージーランドに至るまで様々な国の企業にインターンに行くという面白い授業です。そこで私の働きたい企業があったのがまさにベトナムというわけでした。しかし問題なのは、私は現地の常識に詳しいわけでもなければ、ベトナム語が話せるわけでもありません。そこで受け入れていただく企業について、ベトナムについて、たくさん調べました。またベトナム語の最低限のフレーズも覚えました。
そもそも私の目的はインターンシップをおこない現場の空気感を知るということ以外に、専攻の人類学についてフィールドワークを行うことでもありました。それも兼ねてたくさんのことを調べたのですが...。不穏な未来が待ち受けているとも知らずのんきに事前準備を進める私でした。
海外に長期滞在する際にはビザが必要です。私たちの研修も例に違わずビザを要したのですが、申請をおこなってから待てど暮らせど音沙汰がないのです。受け入れ先の企業からは「大使館の方からリアクションがない」との連絡。これはまずいぞと日本のベトナム大使館にも電話をかけますが、全くつながらず袖にされます。渡航直前に万事休すです。
そこに現れたのが法改正です。偶然にもベトナム政府の方針でビザなしの渡航が45日まで延長されたことにより、事なきを得たのです。ベトナム行きの準備は、めっちゃ早めに。
ホテルに関しては十分に気を付けておくべきです。私は前述のようにフィールドワークを兼ねていたので、ローカルのベトナム人しかいない場所を拠点としました。後から考えればこれで正解だったのですが、渡航直後は非常に困ることもありました。
まず、ホテルの場所が分からない事件です。なんとグーグルマップ上の場所にホテルがないのです。ホテルのオーナーに聞いても、周りのローカルの人々に聞いても要領を得ず、親切なお兄さんのバイクに乗り小1時間周辺をうろうろとしていただきようやく発見しました。驚くべきことに、グーグルマップにはそのホテルはおろかホテル前の路地も存在しませんでした。現地ではこういった場所が多く存在し、住所を熟知していないとたどり着けません。これは現地に着いた瞬間に落とし穴になりうるので、十分に注意が必要です。
次に、部屋の設備が微妙に良くない事件です。いざ部屋についたと思えば、冷蔵庫・洗濯機・ドライヤーがないのです。また、部屋の鍵も半分しか閉まりません。これが不便極まりません。ですが、1か月も暮らしていると意外に順応するものです。冷たい飲み物は買ったその場で飲み、汚れた服は手洗いをし、髪は扇風機で乾かす。我々が如何に文明ボケしているのかを思い知らされる体験でした。
そして極めつけに、英語が通じない事件です。共同スペースに冷蔵庫や洗濯機はないのか。ちゃんと鍵の閉まる部屋はないのか。いろいろ聞いてみましたが、管理の方が英語を理解しないので、翻訳を駆使しながらコミュニケーションをしました。自分の言いたいことを半分も伝えられずに、悔しい思いをしました。
↑ホテル周辺の道。よく分からない貝や肉が打ち捨てられており、ネズミがちょこちょこと走っている。
私がインターンシップに参加した企業は、日系の物流系企業でした。企業での仕事はおもに体を動かすものと頭を動かすものに分けられました。体を動かすものの代表としては倉庫での作業や荷物搬送業務が、頭を動かすものの代表としては営業活動やSNS運用が挙げられます。今回は倉庫作業と営業について簡単に説明しておきます。
会社の持っている倉庫は、都市部から40-50分車で移動したところにあります。そこにも担当の責任者がおり、毎日数トン単位の荷物が出入りしています。そこでの作業は数量チェックや検査、積み込みが主ですが、この作業に関わる人の力を感じずにはいられませんでした。
倉庫や工場といった単純作業に見える場所にはしばしば機械が導入されます。それゆえ事前には機械化を推し進めようとしているように感じていたのですが、これが大きな無知であることに気づきました。いざ荷物を運ぶ段になると、それぞれ重さも大きさも異なる箱をコンテナに詰めねばならず、また危険物も含まれたり、コンテナの中が40℃近くなることもあったりするので単純に機械を導入して人員削減をすればよいというものではないことを知りました。機械を導入するためのセットアップの方が大変というのは、倉庫に限らずいろんな場面で気付かされることでした。
営業は現地でおこなった最も難しい業務の一つでした。というのも、店に単身乗り込んでの輸出品とその量の調査・日本への販促などが大部分だったからです。半分くらいの店員さんはアルバイトゆえに店の詳しい事情を知らず、また多くの方々がカタコト英語のせいで、まともな意思疎通が難しかったです。店のFacebookアカウントを紹介されDMを送るも返事がないだとか、生返事で相手にしてもらえないといった体験を重ねました。
そこで、試行錯誤することの必要性が身にしみて感じられました。「この地域はローカル向けの販売が主だから英語を話せない。ならば外国人向けのビジネスが盛んな地域に行ってみよう」とか「単純にメールを送るだけでは素性が知れない。ならば実店舗の店員さんから紹介を受ける形で繋いでもらおう」とか、とにかく無駄足をなくすために考え抜きました。こうした思考はベトナムにのみ有効なわけでは決してないと思います。
ベトナム(に限らず東南アジア)へ行く人向けに「スリや強盗に遭うよ!」「食べ物や水にアタるよ!」などのアドバイスがされている場面はよく見かけるかと思います。したがって割と身構えて現地に向かった私ですが、まったくスリの被害を受けることもなければ、食中毒にもならず強烈な肩透かしを喰らいました。ただし一緒に訪れた2人は体調を崩していたので、食べ物については個人差もあるのだと思います。
あるいは、危険な状態という意味で言えば私の滞在中に2度ほどタクシー関連でトラブルに遭ったこともありました。1度はぼったくられ、1度は警察の罰金を肩代わりさせかけられました。こうした時に大切なのは、金勘定と相場を知っておくこと。そして頼れるネイティブを用意しておくことです。相場を知っていることではじめてそれと明らかに異なった請求に対応できるのです。特にベトナムの通貨は貨幣がややこしいので、注意が必要です。また、どうしても事件に巻き込まれそうなときはベトナム人に電話をして助けを求めてください。
やはり現地語を話せる知り合いがいないと、もしもの時に困り果ててしまいます。1,2人で良いので信頼できる人と連絡を取りながら現地の環境を楽しみましょう。
東南アジア経験者から「物価は日本の半分以下だよ!豪遊できるよ!」と聞かされたことのある人も多いのではないでしょうか。あれは嘘です。語弊を生まないようにするためには「今はもう」嘘です、と述べるのが正しいでしょう。イメージで言えば日本の70-80年代を想像すれば良いらしく、いわばイケイケの時代です。最近流行りのSDGsのSの文字もなくどんどん経済発展するホーチミンでは、働き口も賃金も数年前からグンと伸びています(とはいえまだまだ低廉ですが)。
なので、当然販売コストも高くなっています。体感としては日本の8割くらいです。ちょっと安いけど、期待したほどではなかった...というのが実情です。もちろん、謎の露店で食べるものなどは激安のこともあるのですが、その分それこそアタる可能性も倍増することをおさえておきましょう。
↑道端にたくさんの露店が軒を連ねています。
ここで断言しておきます。横断歩道で車両が止まって待ってくれる、なんてことはベトナムではまずありえません。もしそんなことがあるとすればそれは運転手が日本人か、あなたを誘拐しようとしているかのどちらかです。したがって行儀よく待っているだけでは一生向こう側へ渡ることができません。
ではどうするのか。決まっています。こちらも車両を無視しましょう。とはいえ無策に突っ走ると死んでしまうので、賢く無視をする必要があります。すなわち「私は止まらないぞ」というハッタリの気概を見せびらかしてジリジリと進んでゆくのです。すると、あちら側がよけて通ってくれます。もちろんクラクションは鳴らされますが。はじめは5m、続いて10mと渡る距離を伸ばしてゆけば、気付いた時には地元民です。
↑車は歩行者を無視してガンガン進んでいきます。
これを読んでいるみなさんはベトナムについてどんな知識があるでしょうか。ベトナム戦争?フォー?パクチー?あるいはミス・サイゴンという方もいらっしゃるかもしれません。
では、それらを体験したことはありますか?フォーを食べたことはあるでしょうか。さらに言えば、ベトナム語で注文したことはあるでしょうか。ドン(ベトナムの通貨)で支払ったことはあるでしょうか。こうした経験を直にしたことがあるのとないのとでは、知識の解像度が段違いとなるでしょう。
しかしそれが一体何の役に立つのか。それは、知識の生まれるメカニズムを知れるというところにあると考えます。鎌倉幕府の初代将軍は源頼朝だ、ベトナムの首都はハノイだと覚えていることはもちろん重要です。しかし、それがどんな意味を持っているのかを考えたことがあるでしょうか。ひとつひとつの事実を取ってみても背景・理由は無限にあります。それをすべて知ることは不可能です。
しかし、その知識が生まれるメカニズムはある程度知ることができます。例えば、鎌倉幕府の成立について考えれば、他地域(中国やベトナム、イギリスなど)でそれぞれの王朝が出来上がったことと関連づけられることができます。そうした個々の知識の裏側にある仕組みをインプットしておくことで、知識は生きたものとなるのです。私たち人類学者はこれを「智慧」と呼びます。
さて、こんなトラブル続きの滞在でしたが、楽しく過ごせた理由の一つにはトラブルが「よくあること」だと想定していたことが挙げられます。私の周りでも海外に飛び出して留学なりワーキングホリデーなりをする人たちがいますが、彼らのターニングポイントは渡航初日から始まるのです。人によっては初日にショックを受けて帰りたくなる人もいるのだとか。だからこそ「はじめの1週間で諦めたくなるのはあるある」というのを心の片隅に置いていてほしいのです。それでもどうしてもムリ!!!と思ったときには現地の日本人や経験者に連絡を取ってみることをおススメいたします。きっと何かしらのライフハックを授けてくれるはずです。
それこそベトナムは暑くて臭くてうるさいという日本とは完全に違う環境の国ですが、意外に慣れるもので、そのうち味わい深くなってくるんじゃないでしょうか。謎の露店で食べたこの紫の調味料のように(気になった人はマムトムで検索してみてください)。特別興味がなくとも、ぜひ1度行っておいて損はない、どころか代えがたい経験を得られることでしょう。
それでは、またどこかの記事でお会いしましょう。Xin Cam on!(ありがとうございました!)
公開日:2023-11-01