皆さんはレアアースという言葉を聞いたことがありますか?
近年、希少で有益な物質としてニュース・新聞などで取り上げられることも多くなり、聞いたことはあるけどどんな物質なのか知らない方は多いと思います。今回はそんなレアアースについて・取り巻く現状・今後について解説していきます。
まず、みなさんは「レアアース」と言われてどんなものを思い浮かべるでしょうか。
驚異の原料?未知の物質?私たちが触れることさえもできないような希少すぎる物質?
説明は後にして、現物の写真をご覧に入れましょう。
レアアースは、こちらです。
この石、見た目はただの石ですが、コルベック石という名前がついています。スカンジウムという元素を含んでいます。しかし、この石の全体がスカンジウムを含んでいるわけではなく、こびりついている白色の物体が、希少なスカンジウム鉱物です。
↓下記の写真は、鹿児島県で採取されたコルベック石を顕微鏡で拡大した写真です。標本の表面についている不透明で緑がかった白色の結晶がスカンジウムです。
このような標本は、個人のコレクターでも採取でき、鉱物のフリーマーケットである「ミネラルショー」などで簡単に購入することができます。
ミネラルショーは全国で開催されており、以下のような会場があります。
これを読んでいる皆さん、少しはレアアースを身近に感じていただけたでしょうか?
次の章ではレアアースがどのように社会に役立っているのかについて説明します。
レアアースとは、電化製品や基板などに使われる希少な金属です。
セリウム(ガラス基板やハードディスクの研磨材に使われる)や、ネオジム(小型マイクや小型スピーカー、高性能モーターの磁石や水素電池に必要)など17種類があります。
ネオジム磁石が無いと携帯電話の小型スピーカーはできませんし、高性能なイアホンも作れません。パソコンのハードディスクやエアコン、冷蔵庫の心臓部に当たるモーターにもレアアースは必要です。液晶テレビはレアアースを使った研磨剤でガラスの基板を磨きます。
このように、レアアースは私たちの日常にとって欠かせない存在なのです。
1982年、今まで価値がないと思われていたレアアースを使って日本のメーカーが高性能磁石を開発したことから、「ゴミから磁石を作った」と、レアアースが世界中で注目されるようになりました。
レアアースとよく混同される言葉として、レアメタルがあります。
結論から言うと、レアアースはレアメタルに含まれています。約30種類ほどあるレアメタルの中のグループとしてレアアース(17種類)がある、という関係です。
レアメタルとは、地球上に少ししか存在せず、採取するのが難しいのに、工業需要が常に存在する金属の事です。今回はそんなレアメタルの中でもレアアースに焦点を当てて紹介します。
私たちの生活に欠かせないレアアースですが、安定した供給が難しくなっています。日本はその供給をほぼ輸入に頼っているため、後に紹介するレアアースショックのような状況が発生した場合、国内の産業に甚大な被害が及んでしまいます。
レアアースをめぐる世界の情勢では、中国の影響力がとても強くなっています。
1980年後半には、世界のレアアース供給のうち中国の占めるシェアは40%程度でしたが、2008年には97%(2008年米国地質調査所データ)となりました。
2010年の尖閣諸島沖中国漁船衝突事件以後、レアアースの輸出差し止め措置を発動し、レアアース輸出の通関手続が滞るようになりました。この結果,レアアース供給が極度に制限され、国際価格が暴騰しました。中国からのレアアース輸入は、量も比率も2010年以降急速に低落し,2012年に7181トン(輸入量のうち58.0%)となりました。
事態を最終的に解決したのはレアアース需要国の連携による訴訟で、2012年3月に日本はアメリカやEUとともに、中国によるレアアース輸出制限措置をWTOに提訴しました。2014年8月に,日米欧の勝訴が確定し、中国政府はWTOの勧告にしたがって2015年1月より輸出制限を廃止し、同年5月より輸出税も廃止しました。こうしてレアアースショックは収束することとなりました。
そして中国では2020年12月1日に新たな輸出管理法が施行され、レアアースを含む安全保障に関わる製品などの輸出規制が強化されることが懸念されるようになっています。
これからの日本産業を守るためには、まず私たちが日本を取り巻くレアアースの事情や可能性を知る必要性があります。
現状、日本はレアアースの供給のうちのほとんどを輸入に頼っていますが、自国でも採掘できる兆しはあります。それらについて詳しい九州先端科学技術研究所・特別研究員の久保園達也氏からお話を伺いました。九州先端科学技術研究所(ISIT: https://www.isit.or.jp/)
久保園氏によると、日本の基幹産業の一つであるハイテク産業に必須なレアアースを確保することは、日本の産業の未来にとって大変重要なプロジェクトと言えるそうです。現在も研究開発が進められているレアアース開発ですが、2013年に東京大学の加藤泰浩研究室が南鳥島周辺にレアアース泥が膨大に存在することを発見したことが大きなブレイクスルーとなりました。
現在は、レアアース泥のさらなる詳細な分析や、採掘・精錬などの実証実験のためにクラウドファンディングで寄付を募っています。
( 東京大学基金が行っているクラウドファンディングはこちら
https://utf.u-tokyo.ac.jp/project/pjt124 )
また、南鳥島付近で発見されたレアアース泥は「超高濃度レアアース泥」と呼ばれるもので、既存の陸上鉱山の約20倍の品位を持っています。
レアアース泥の埋蔵量は最有望海域 (105km2) だけで日本の需要の50~800年分をまかなえ、スカンジウム (Sc) 資源量は,現在の世界供給 (15t) の2400年分に上るそうです。
日本の資源安全保障がかかったこのプロジェクトには、さらなる研究開発が期待されます。
久保園氏は、現在のレアアースをめぐる情勢に危機感を抱いており、これからの日本を担う若者には「産業の命運を握る資源をしっかりと確保することは重要」ということを知っておいて欲しいとおっしゃっていました。
いかがでしたでしょうか。
私たちの日常に欠かせないレアアースですが、残念ながら現在ほとんどを輸入に頼っています。しかし、安定した供給・資源安全保障の観点から日本も採掘を目指しており、今後の動向が注目されています。
これを読んだみなさんには、ぜひ今後の日本の資源開発に興味を持っていただけると嬉しいです。
公開日:2023-09-04