こんにちは。co-media編集部のタカノです。
今回の記事では、2022年から始まったロシアのウクライナ侵攻のニュース報道に関連して関心が高まった「地政学」について紹介します。
最近、様々なメディアで「地政学的リスク」などといった単語を耳にする機会は増えたかと思います。地政学は様々な原理から成り立ち、実際の国際情勢を上手く反映するものではありますが、どういった学問なのかを理解されていない方もいるのではないでしょうか。この記事では、私が大学生なりに理解していることを書き留めておきたいと思います。
タカノ(編集部・ライター)
生物好きの大学生。国際関係にも興味があるらしい。北海道在住。
この記事では、地政学を「国の政策の要因を地理的な側面から分析する学問」だと定義します。(地理+政治 のようにイメージしてもらうと分かりやすいと思います。)
地政学は国家の戦略を計画・分析する時に使われ、この概念を知ると、外交関連のニュースが面白くなります。そして、国の進むべき道や平和のためにどのような施策が取れるかを理解する上で極めて重要です。
ここからは地政学の基本的な考え方を3つ紹介していきます。
地政学を考える上では、国家の思惑をまずは考えます。一般的にどの国家も自国を他国(大抵の場合隣国)よりも優位な位置に置きながら、他国を都合のいいようにコントロールできる立ち位置につきたいと考えます。
しかし、他国をソフト・ハード問わず操ろうとするのは国際法上違法な行為です。その一方で、現実の国際社会では国家はまるでアメーバのように自国の利益を最大化できるようにその力の及ぶ範囲をひろげようと行動するのです。
このことは当然のことのように思われますが、これから紹介するチョークポイントやランドパワーやシーパワーについて考える上で根本となる考え方となります。
チョークポイントと重要拠点を制するものが世界を制する!
チョークポイントとは、船舶の航路を維持する上で重要な位置のことです。主に航行量の多い海峡や運河がそれにあたります。船舶は現在でも最も重要な交通・貿易手段であるため、チョークポイントを制するものが世界を制すると言われています。
世界にはマラッカ海峡、台湾海峡、ホルムズ海峡、マンデブ海峡、スエズ運河、ジブラルタル海峡、ボスポラス海峡など言い尽くせないほど多くの重要な海峡があります。
日本が輸入している石油は、中東から輸送される場合少なくとも3つのチョークポイントを通ります。私たちが今日豊かな生活を享受できるのもチョークポイントが敵対的な国に侵されず無事に石油などの重要な物資が輸送できているおかげなのです。逆に言えばチョークポイントに何かあれば、大変なこと(ガスや電気が使えない、交通機関や輸送が動かないから物資が行き渡らない、仕事がままならないなどによる経済危機など)になるわけです。
下図の②、③では日本への供給がギリギリまかなえる航路であり、④では供給が間に合わない航路だと言われています。(秋元千明著 戦略の地政学 より)
チョークポイントが利用できなくなると供給が止まるため、日本のように多くの物資を輸入に頼る国にとって、チョークポイントの安定化が必要不可欠です。そのため、現在の安全保障の価値観においては、自国の領土の保全と同じくらい、自国への供給網(サプライチェーン)の確保が重んじられています。
今日の防衛組織には、航行の自由を確保することで経済の安定化・それによる自国民の生活安全保障の確保がかかっているのです。
地政学では国家をランドパワーとシーパワーの2種類に分類します。ここではその二つの国家の性格の違いを紹介します。
ランドパワーは一般に大陸国家などとよく呼ばれます。(厳密な定義とは違いますが、わかりやすくするため、本記事では大陸国家とランドパワーを同義の語として用います)
ランドパワー:主にユーラシア大陸内部に位置し、強力な陸上戦力を持ち、道路や鉄道輸送を主な輸送力として用いる国
ランドパワーは領土を面で取ります。ちょうどワンホールのショートケーキを分けるイメージです。
中国、ロシア、ドイツ、フランス、14世紀のモンゴル帝国など遊牧国家がそれにあたります。これらの国は長距離の領土線を他国と共有しています。そのため簡単に隣国から侵攻されうるし、自国も隣国を侵攻できる位置にいます。
自国の安全を保つには隣国の動向をつぶさに観察する必要があり、自身の安全が脅かされる状況に至った際には積極的に侵攻する「積極的安全保障」をとる場合があります。
今日のロシアのウクライナ侵攻において、ロシアは「ウクライナのNATO加盟が自国の安全保障を脅かす」として侵攻しました。大陸の中央部を占めるロシアにとっては、ロシア周辺の国々が自国にとって都合よく動いてくれることが重要であり、西側(NATO加盟国など)と自らの緩衝地帯となっていたいわば「子分」としてのウクライナが西側へ転換したことは、国家の存立が危険にさらされる状態です。
ここで地政学的な考え方は一見、大国の自分勝手な行動を正当化していると捉えられるかもしれませんが、あくまで学問としての分析的立ち位置であって、何かしらの行動を推奨するものではありません。
シーパワーとは、国境のほとんどが海に面し、海洋に出る船やそのための港湾施設や陸上戦力よりも強固な海上戦力を持つ国(アメリカ、イギリス、日本など)です。1世紀近く前には海軍国家とも呼ばれていた場合も多いです。
領土は点で取る!先ほどランドパワーがケーキに例えられるなら、シーパワーは重要なポイントであるイチゴの部分を局所的に抑えるイメージです。これでは「ケーキ(領土)をとったことにならずイチゴしか取れてない!」と思うかもしれませんが、ある海域を守ろうと思ったときに船で監視行動をするわけですから、船で海を覆い尽くさない限り、海域全てを網羅することは実際には困難です。そこで海域内にある島に監視塔やレーダー、迎撃設備を置いておけば、近寄ってくる外敵を追い出すことができます。海ではその区域自体よりも、そこにある島などの変化のある場所が重要なのです。
しかし、陸上では外的に少しの隙間から入られただけで簡単に土地を奪われてしまいます。そこで、その周りを城壁や堀で囲ったりする事が必要です。海の上のように局所的に見張りを立てるだけでは不十分なのです。
シーパワーに属するアメリカは太平洋戦争以降沖縄やグアム、フィリピン諸島に基地を作り、共産圏の広がりを抑制しました。共産政権の成立を恐れたアメリカが起こした、ベトナム戦争時にはこれらの島の米軍基地から爆撃機や戦闘部隊が送り込まれ、物資の供給場所にもなりました。島から陸や周辺海域に目を光らすというのはいかにもシーパワーらしい考え方ですね。
ここまで地政学の基本的な3つの考え方を見てきましたが、いかがだったでしょうか?最後に、本記事で出てきた言葉の意味をまとめます。
チョークポイント ・・・ 船舶の航路を維持する上で重要な位置
ランドパワー ・・・ 大陸内部にあり、強力な陸上戦力を持ち、道路や鉄道輸送を主な輸送力として用いる国
シーパワー ・・・ 国境のほとんどが海に面し、海洋に出る船やそのための港湾施設や陸上戦力よりも強固な海上戦力を持つ国
国際情勢は時事刻々と変化しており、毎日のニュースには様々な国家の様々な行動が報道されています。皆さんがこれからニュースを見る際に今日ご紹介した考え方を思い出していただくことで、より興味を持って見ていただけると幸いです。
公開日:2023-09-06