「都心は家賃が高いから、住みたいけど、住めません」——これまで、学生や新卒社会人たちを苦しめていた「家賃問題」は、複数人で居住地をシェアしあう「シェアハウス」の登場によって緩和されつつあります。1人5万円で都心に、しかも築年数の浅い綺麗な家に住むことができるということもあり、市場が急拡大しているそうです。
今ではシェアハウスの存在は当たり前となり、18~25歳の男女500名を対象に行ったアンケート調査では、約半数が「シェアハウスを利用してみたい」と回答しています。
……とはいっても、利用したことがない人からすると、心配事も多いですよね。どんな人が住んでいるのか分からないし、本当にうまく共同生活できるかも分からない。できれば知っている人と一緒に…などなど不安は絶えません。
そこで今回、co-media編集部は、東京都内や京都市内、大阪で計17軒を運営されているシェアハウス「アオイエ」を取材してきました。アオイエに住むメンバーは、高校生から社会人、お笑い芸人や起業家、研究者、アーティスト…といった多様なバックグラウンドを持っています。
ただ住むだけの「シェアハウス」の域を飛び越え、年齢や立場に関係なく会話を交わし、夢を語り合う「コミュニティハウス」として、注目を集めているのです。
アオイエを運営する株式会社DADA執行役員の山田浩太さん、そして住人である会社員・権普美(ボミ)さん、元レスリングチャンピオンの与那覇竜太さん、和菓子職人見習いの佐藤怜旺さんに、いまどきのシェアハウス事情や、入居した理由についてお話を伺いました。
アオイエには、下は16歳から上は40歳まで、さまざまな年齢・職業の住人がいます。「家が安かったから」という理由で入居を考えた人もいれば、「駅から近かったから」「家が綺麗だったから」という理由で入居を決めた人も。
つまり入居する理由は、人によってそれぞれであり、一般的なシェアハウスの入居理由となんら変わりはありません。しかし、入居者が口を揃えていうことがあります。——「アオイエに入居していなければ、こんなにも多様な人とのつながりが生まれることは、なかったと思います」。
アオイエが一般的なシェアハウスと大きく異なる点は、「家族のように同じ屋根の下で語り、悩み、成長し、夢を形にする場所」というキャッチコピーにもあるように、ただ住むだけでなく、住まいをシェアすることで「多様な人材との交流」を目的に掲げているところ。
住人である和菓子職人見習いの佐藤怜旺さんは、夢を追って上京した自分自身と似た境遇を持つ仲間を見つけ、内見したその日に「入居をする」と決めたそうです。
怜旺:高校を卒業したタイミングで「自分が好きなことを仕事にして、生きていきたい」と思いました。僕の選択肢は、旅行とスケートボード、そして和菓子です。どれも自分が好きなもので、いずれかの道を極めて生計を立てたいと考えていました。その中でも、とりわけ興味があったのが「和菓子」です。和菓子職人になって、仕事以外の時間はスケートボードを楽しみ、休日は旅行に出かける——そんな生活を夢見ていました。
しかし、親御さんは怜旺さんの選択に猛反対。「食べていけるわけがない」と一掃し、怜旺さんは公務員資格の取得を目指す学校に通うことになりました。
ただ、卒業まで1年を控えた頃、先生から「自由な服装や髪型をやめなさい」と注意を受けるように。「そんな格好じゃ、試験に受からない。イメージが悪いから、スケートボードもやめたほうがいい」と言われたそうです。
怜旺さんは、この出来事をきっかけに退学を決意。親と話し合いを重ね「全て自分のお金でやる」という条件付きで、和菓子について学ぶ専門学校へと進学しました。学費も、生活費も、すべてアルバイトで稼いだお金です。
怜旺:東京で住む家を探しているときに、アオイエの存在を知りました。地元にいたときは孤独を感じることもありましたが、アオイエに住む人は、自分の考えを肯定し、夢を応援してくれます。彼らと生活を共にすることで、自分の夢が叶うような気がしたんです。
今年社会人1年目を迎えた与那覇竜太さんは、レスリングで15回も日本一に輝いたツワモノ。しかし個人で優勝することよりも、団体戦で優勝したときの感動が何倍も大きく、「仲間と共に何かを成し遂げること」が自分の喜びであると感じ、アオイエの住人になりました。
与那覇:社会人になる頃、偶然アオイエを運営するDADAの代表・青木さんとお会いすることがありました。門前仲町のアオイエにお邪魔させてもらったのですが、以前は会社のオフィスとアオイエが同じ建物だったので、会社のビジョンを語り合ったり、住人同士が夢を語り合ったり、まさに僕がやりたかった「仲間と共に何かを成し遂げること」が自宅で起こっていました。それまで持っていた「家の概念」がひっくり返り、びっくりしましたね。
与那覇さんはそのとき「もう、住んでしまおう」と決められたそう。仕事も、私生活も、自分のやりたいことで一杯にする毎日を選ばれました。
アオイエに住み始めてから半年弱「アオイエを選んで良かった」と語る与那覇さん。 「住人の友人が遊びに来てくれたり、入居者限定のゼミ(勉強会)が開催されたり、今日もこうして取材してもらえたり。アオイエに住んだことで、世界がどんどん広がっています」。
ボミさんは、日本生活10年目。コンサルティング会社に勤務する、新卒1年目の新社会人です。学生時代に寮生活を経験していたため、シェアハウス生活には慣れていたそうですが、「アオイエは単なるシェアハウスとは違いました」と彼女は語ります。
ボミ:安い値段で住めるシェアハウスを探していて、その一つがアオイエでした。いくつか検討していた物件があったのですが、内見してすぐに「ここに住もう」と決めました。駅すぐの好立地ということもありますが、何よりアオイエは、カルチャーをつくっていける環境だと思ったんです。
私はゼロから何かをつくりあげることが好きなので、代々木上原の第一号入居者になりました。友人を招いたり、新しく入居してくる方とコミュニケーションをとりながら、代々木上原ならではの文化をつくっているところです。
「みんなにとって居心地のいい場所」を目指していて、今では入居者のみんなが、それを実感してくれています。家に帰ってくることが楽しみな毎日になりましたね。
個性豊かなメンバーが集うアオイエを運営する、株式会社DADAの山田浩太さんは「人生のオプションは、無数にあることを知ってほしい」と語ります。
コーポレートメッセージに「誰もが夢を追い、ひ孫の代の先まで支え合える社会の循環をつくる」と掲げているように、「アオイエだったから生まれた人間関係」を紡いでいきたいのだそうです。
山田:普通に暮らしていたら、レスリングチャンピオンと和菓子職人を目指す学生が出会うことは、なかなかないはずです。もちろん、一緒に暮らすことはあまり想像できません。ただ、アオイエという媒介があることで彼らは出会うことができました。僕たちは、そうした化学反応を生み出していきたいのです。
与那覇さんは、組織コンサルティングの会社で働かれています。もしかしたら、和菓子の製作体験が、組織を強くするワークショップになるかもしれない。考えられないようなかけ算が生まれる可能性が、アオイエにはあると思っています。
アオイエは現在、東京都内を中心に住宅数を拡大中。地方から上京して就職活動を行う学生向けに、短期滞在サービスを提供するなど、誰にとっても利用しやすい環境構築を実施中です。
株式会社DeNA代表取締役会長の南場智子さんや、株式会社CAMPFIRE代表取締役社長の家入一真さんなどをお招きした、入居者限定のゼミも実施中。
アオイエには、学生や会社員、起業家、お笑い芸人まで、さまざまな分野で行動し、活躍している10代〜30代が入居中。多様な学びと出会いを通じた、充実の毎日を過ごしてみませんか?