「正直言って、経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っているんです」——経団連の中西宏明会長は、就活ルールの見直しにあわせ、これまで日本企業の特長といわれてきた「安定」の崩壊を明言しました。
平成から令和へと時代は変化し、これまでの当たり前が、当たり前ではなくなる。働き方、学び方、子育て——人生のすべてが劇的に変化する、“正解”のない現代社会を、私たちはどのようにして生きていけばいいのでしょうか?
そんな究極の問いにヒントを与えてくれるのが、経済産業省有志のメンバーによって立ち上げられた「マインド・アクティブ社会プロジェクト」です。
同プロジェクトは、「能動的に人生を選択して、一歩踏み出す人で溢れた社会、一歩踏み出す人のチャレンジを、誰もが応援する社会」の実現を目指します。
今回編集部では、アルタナユニバーシティとの共同開催となった、第一回目のイベントをレポート。誰もが自分らしい人生を生きる「マインド・アクティブ社会」とは、いったいどのような世界なのか。立ち上げの背景からこれからの展望について、お話を伺いました。
本イベントには、オンライン参加も含め、学生・社会人を問わず、100名以上の参加者が訪れました。イベントの口火を切ったのは「マインド・アクティブ社会実現プロジェクト」を立ち上げた、経済産業省の田口周平氏のスピーチ。
昨年の秋に実施された読売新聞のアンケートによれば、およそ半数以上が「平成にネガティブな印象を抱いていた」という結果に。
田口周平:経済産業省
1992年生まれ。高校生時代にフランクルの夜と霧を読んだことをきっかけに、生きていく限りは飽きることがない環境に身を置こう、と考え、経済産業省への入省を志す。2015年の入省後は、原子力政策やIT政策、モビリティ政策を経験。現在は、大臣官房総務課に所属し、省内政策のとりまとめや、業務改善・モチベーション向上に取り組む。その傍ら、省内の若手有志で「マインド・アクティブ社会実現プロジェクト」を立ち上げ、日本社会の価値観の変革を目指している。
田口:なぜ、平成時代にネガティブなイメージを持っている人が多いのでしょうか。未曾有の大震災や、グローバルにおける経済的立ち位置の低下、日々繰り返される暗いニュースなど、さまざまな要因が考えられます。
しかし私は、個々人のマインドセットにも原因があるように感じているのです。大学に進学する際に、なんとなく自分の偏差値似合う学校を受験したり、大学ではなんとなく友だちと同じサークルに入ったり、就職活動ではなんとなく大企業にエントリーシートを提出したり。その「なんとなく」なマインドセットが、社会に対するネガティブなイメージを生み出しているのではないでしょうか?
田口氏は「自分の人生を生きていない人が多いのではないか」と続けます。世界各国の学生を対象に「将来の夢はありますか?」とアンケートを行った結果、「夢がある」と答えた日本人はおよそ5割。一方、海外の先進国は、平均9割もの人々が「夢がある」と回答しているそうです。
働き方、学び方、子育て——人生のすべてが劇的に変化する、“正解”のない現代社会において、夢や目標なくしてポジティブに生きていくことは難しい。
間も無く始まる令和時代が、日本国民にとってポジティブな時代になることを願い、田口氏は「社会を変えるためには、一人ひとりが、小さくても、自分にとっての一歩をはみ出すべき」と指摘します。
田口:これからは、惰性で生きていくのが難しい時代です。先日のニュースで、「経団連と大学側は22日、新卒学生の通年採用を拡大することで合意した」という発表がありました。つまり、戦後から続く新卒一括採用と終身雇用に偏った雇用慣行が、転機を迎えることを意味します。
入社しさえすれば、年齢に応じて昇進し給料が上がり、定年後は年金背生活する——そうした幻想は、とうの昔に崩壊しているのです。今後は終身雇用が前提の時代とは違い、新卒であっても専門的な技術や知識が求められる時代になります。自分は一体何者なのか、何をすべきなのかを問い続けなければ、生き残れない時代なのです。
しかし日本社会は、田口氏の言葉を借りれば、「一歩踏み出すことが当たり前ではない社会」。「意識高い系」という言葉を頻繁に耳にするように、頑張ろうと決意した若者が嘲笑されてしまう社会でもあります。
田口:日本社会は「ペンギン」に似ています。ペンギンの群れは集団性が強く、最初の一匹が海に飛び込まなければ、他のペンギンはなかなか海に飛び込めないのです。日本人はペンギン同様、“空気”を意識しすぎるあまり、行動をためらっています。
しかし、「なんとなく」なマインドセットを脱し、自分の人生を生きていくためには、空気を読んで萎縮している場合ではない。
ここで一度、起業家であるデレク・シヴァーズがTEDで語った「社会運動はどうやって起こすか」をご覧ください。
最初にリーダーが勇気を持って立ち上がり、嘲笑される必要があります。でも彼の行動に続くのはすごく簡単です。ここで最初のフォロワー(追随者)が重要な役割を担っています。みんなにどう従えばいいのかを示すのです。
リーダーが彼を対等に扱うのを見てください。今やリーダー1人ではありません。複数になったのです。友達に声をかけていますね。
最初のフォロワーというのは過小評価されていますが、実はリーダーシップの一形態なのです。こんな風に目立つだけでも勇気がいります。最初のフォロワーの存在が、1人のバカをリーダーへと変えるのです。
(中略)
多くの人が加わるほどリスクは小さくなります。どうしようか決めかねていた人達も今や加わらない理由はなくなりました。もう目立つことはありません。笑われることもありません。
田口:私が言いたいことは、「周囲の空気を読まずにチャレンジすることが大事だ」ということです。何か行動を起こせば「意味ないよ」「意識高い系だね」といった声をかけてくる人がいます。
それは上司かもしれないし、先輩かもしれないし、友だちかもしれない。でも、やりたいことや夢に向かって挑戦する人が増えると、今度は挑戦しないことの方がおかしな社会になっていきます。
「マインド・アクティブ社会実現プロジェクト」は、社会の空気を変える活動です。社会の空気を変えるには、粘り強く、「勝つまで、やめない」ことが大事なのです。
田口氏のスピーチを受け、参加した学生たちは各々が感じたことをディスカッション。「最初の1人が行動を起こすのは難しいけど、一度ムーブメントが起これば、日本は変化していけると思いました」、「アクティブではないことも尊重しなければ、アクティブな社会を実現することは難しいのではないか」といった意見が寄せられました。
多数あった意見の中でも、登壇者の喜多恒介氏が「重要な意見です」と指摘したのが、以下の質問。
学生:行動の前に意識やマインドがあると思うので、まずはマインドを変えることが大事だと感じました。アクション・アクティブである前に、マインド・アクティブであることを目指すべきだと思います。
喜多氏はこの質問に対し「実際のところ、科学的に意識が存在するとはまだ証明されていないのです」と答えます。
喜多恒介:株式会社キタイエ代表取締役
1989年生まれ。大学11年生の社会起業家。 小学校から大学までクローズドなコミュニティに馴染めなかった経験から、「オープンな繋がりを持ち、自らの志を立て事を成す」ことの重要性を感じ、全国47都道府県、世界20か国を行脚し、理想の教育の在り方を模索。日本と世界を変えるイノベーター10万人を輩出する「もう一つの大学」アルタナユニバーシティをこの8月開校予定。
喜多:ここでいう「意識」とは、行動に対する結果によって、つくられているように見えるものです。
たとえばの話です。とある小学生が図工の授業で、自動計算機を開発したとしましょう。その成果物に対して、親が「お前は天才だ」と褒め称えるのと、「そんなことしてないで、一生懸命勉強しろ」と言うのでは、その後のモノづくりに対する行動が変わります。その際に発生する脳の作用を、人はやる気やモチベーションと呼んでいるのです。
つまり、まずは行動しなければ、意識ややる気やモチベ―ションのように見えるものは基本的には変化しません。また、いわゆる、マインド・アクティブではない人は、行動した結果ネガティブな意見を受けるような環境、またはそのような過去があったことが原因で、マインド・アクティブではなくなった可能性が考えられます。
喜多氏のスピーチが終了したのち、NPO法人青春基地代表理事の石黒和己氏、パナソニック株式会社の黒田健太朗氏がそれぞれ「マインド・アクティブな活動をし始めたきっかけ」について講演を行いました。
合計4名の話を聞いた上で、参加者全員が4つのグループに別れ、マインド・アクティブ社会を実現する方法についてディスカッション。所属も年齢も異なる90名以上の参加者が、各々が考える意見を発表しあいました。
イベント終了後も、参加者のほとんどが会場に残り、登壇者を交えて意見交換を行なっていました。
自分自身がマインドアクティブであるために、そして社会全体がマインドアクティブであるためにどのようなことができるのか、志を持った若者たちが90分間みっちり議論。
年齢の垣根を超え、共通のゴールを目指すことで、「マインド・アクティブ社会」を実現できるはず。——参加者の皆さんは、少なからず自信を持っているようにも感じました。
変革はまだまだ始まったばかり。co-media編集部では、イベントの様子を定期的にレポートしていきます。