「ORの抑圧」/「ANDの才能」という言葉をご存知ですか?“企業人のバイブル”と称される不朽の名著『ビジョナリー・カンパニー』に登場する言葉で、前者は「変化か安定か」といった二者択一で物事を考えることを、後者は両方を同時に実現させようとする発想を意味しています。
大学生になると、学校の授業、サークル活動、アルバイト…と選択肢の数が増えたがゆえに、「何をすべきか」に迷うことがあると思います。そして多くの学生は「OR」の考え方で、世界を狭めてしまいます。
しかし、頭ひとつ抜けだす人材たちは、「AND」の考え方を持っています。「ORの抑圧」をはねのけ、「ANDの才能」を活かすことで、限られた時間の中で自分の価値を最大化しているのです。
今回編集部が注目したのは、JASISA(一般社団法人 日本中小企業情報化支援協議会)でライター兼企画、Sparkleboxでデジタルマーケティング業務を担当されている慶應大学の岡根歩美さん。
「代替可能な仕事はしたくない」—— マニュアル化されたバイトの業務に対する不満から、インターンという選択肢に出会った岡根さん。インターンでは、苦手だったライティングを武器にするまで成長したそうです。
学生というブランドを脱ぎ捨て、岡根歩美という一人のビジネスパーソンとして社会で活躍する彼女に、学業と就業を両輪で回すハイブリッドな学生生活について伺いました。
岡根歩美さん(以下、岡根さん):慶応大学商学部3年の岡根歩美です。入学当初は大学のバドミントンサークルや、勉強会を行う学生団体「Front Runner」に所属していました。
今は2つとも辞めて、牛島利明研究会というゼミでディベートやソーシャルプロジェクトなどに取り組んでいます。ご質問にあった長期インターンは、JASISA(一般社団法人 日本中小企業情報化支援協議会)を大学2年生の6月から、ジュエリーのレンタルサービスを運営するSparkleboxを同年秋頃から始めました。
—— サークル、学生団体、さらにはゼミ活動…。かなりタフに活動していらっしゃいますね。インターン始めるきっかけも教えてください。
岡根さん:「代替可能な仕事はしたくない」と強く思うようになったからです。先ほど挙げた活動以外に飲食のバイトもしてたのですが、マニュアル化された仕事が中心で、つまらなくなってしまいました。
貴重な学生生活ですから、「私じゃなくてもできる」ことではなく、「私にしかできない」ことに時間を割きたいと考えたんです。
そんなとき、偶然JASISAが運営するGirls University主催のイベントを見つけました。学生を対象とした「Instagramでマーケティングをしよう」という趣旨で、好奇心から足を運んでみたんです。
—— 「バイトを辞め、自分にしかできないことをしよう」と決意したら、手に入ってくる情報が変わってきたんですね。
岡根さん:おっしゃる通りだと思います。イベントは想像以上に面白かったですし、何より、JASISAでインターンをしている学生たちが非常に主体的で、驚きました。
ここなら自分にしかできない仕事を見つけ、頑張れるんじゃないか——その場で、JASISAでインターンすることを決めました。
—— イベントに足を運んだことで、インターンという選択肢に出会ったんですね。ちなみに、Sparkleboxのインターンはどのようなきっかけで始めたんですか?
岡根さん:Sparkleboxの太田理加代表が、JASISA主催のイベントに講師として登壇したことがきっかけです。太田代表は、Amazonジャパンで新規ビジネス立案・立ち上げを担当し、ヘルス&ビューティーやファッションカテゴリーでの事業部長を歴任していた経歴の持ち主で、強いインパクトを受けました。
当時の私は、インターンを始めたばかりで右も左もわからない状態。本来なら、社会人の方にまともに話を聞いてもらえなかったと思います。でも、Sparkleboxの代表は違いました。こんな私にも、真摯に対応してくださったんです。品があり、かっこいい代表に惹かれ、ここで働きたいと入社を決めました。
—— 岡根さんの話を聞き、「興味を興味で終わらせず、行動に移すことの大切さ」を感じました。インターン先では、どのような業務を担当されているんですか?
岡根さん:JASISAでは本の企画・執筆や記事の作成などのライター業務が中心で、他には学生・企業向けのイベント企画・運営を担当することもあります。SparkleboxではSNSを中心にデジタルマーケティング業務をしています。
—— 全くの別業務なんですね!もともと興味があったのでしょうか?
岡根さん:興味はありましたが、企業に魅力を感じてインターンを始めているので、特にこだわりがあったわけではありません。そもそも、文章を書くことは苦手です。まさか、自分がライターになるとはゆめゆめ思っていませんでした。
—— 苦手なライティングに挑戦する際、苦労したことはありますか?
岡根さん:文章をスラスラ書く才能はなく、頭を使わないと書けないので、当時は紙ベースで要点を書き出して順番を決めて....と非常に手間のかかる作業をしていました。
1本記事を仕上げるのに、今の何倍も時間がかかっていたと思います。でも、自分の中に「大切なことを人に伝えたい」という強い思いがったので、大変なことも乗り越えることができました。
かれこれ1年くらいライターとして文章を書いていますが、昔に比べて執筆のスピードが上がりましたし、編集能力も向上していると思います。
—— コツコツ努力されて、苦手を克服してきたんですね。職種が異なるインターンを掛け持つのは、大変ではないですか?
岡根さん:やりたい、そして好きなことを詰め込んでいたら今のようなスタイルになっただけで、大変だと思ったことはありません。
また以前、社会人の方に自分の書いた記事を見てもらう機会がありました。その方には「ビジネスに関する知識は重要。どんどん発信したほうがいい」と言っていただけたんです。
メディアアーティストの落合陽一さんが登壇されたイベントのレポートを執筆した際は、ご本人にもリツイートしていただき、大きな反響がありました。
そのときは、今やっている仕事が「誰かに必要とされている、価値のあるものだ」と実感しましたね。そうしたことも、苦手を乗り越える原動力になっています。
また、仕事がダレてしまわないよう、自分を律する工夫もしています。たとえば、起業家の家入真一さんや菅本裕子さんなどのブログやSNS目を通したり、尊敬するはあちゅうさんの記事を読んだり。すると、「自分が書いたものが形になり、こうして人にいい影響を及ぼせるんだ」と実感でき、自分を奮起させることができるからです。
—— ストイックで、しっかり者なんですね…。インターンで失敗した経験はありますか?
岡根さん:ふたつ大きな失敗があります。ひとつ目が「イベントの集客を1人もできなかった」ことです。「キャリアについて考えよう」という趣旨で、学生を対象に10人〜20人規模のイベントを企画したのですが、宣伝の甘さなのか、参加者がゼロだったんです。結局そのイベントは、講師の方にインタビューする形で終了しました。
—— イベント集客って大変ですよね…。その失敗から、どのような気づきを得たのでしょうか。
岡根さん:自分が思っている以上に、多くの学生は、「自分のキャリアに対して興味がない」と知ることができました。
それに気づいてからは、小さなことですが、記事を書くときに横文字を使わないように気をつけています。というのも、自分も含めて社会経験のない学生が「KPI」や「コンセンサス」といった横文字を聞いたところで、スッと頭に入ってこないじゃないですか。
キャリアや仕事について考えるハードルを下げるためにも、社会人が使う言葉を学生の言葉に置き換える作業を丁寧にしています。
—— 学生ならではの気づきですね。もうひとつつの失敗についても教えてください。
岡根さん:営業に失敗したことです。営業で大切なことはたくさんあります。その一つが、「自社を信頼してもらうこと」です。
自社を信頼してもらうためには、過去の活動や実績を証明しなければなりません。しかし、私たちは自社価値を証明する重要性に気づかず、活動レポートや実績報告を怠っていました。
結局、その営業は失敗。これまでおざなりにしていたものが、どれだけ大切だったかを痛感しました。そのときは、自分の市場価値がゼロだと気づかされましたね。
—— 自分の市場価値がゼロ…?どういうことでしょうか。
岡根さん:バイトやサークル活動って、内実が伴っていようが、そうでなかろうが、「学生」というだけで甘くみてもらえるじゃないですか。
たとえばイベントの協賛のために企業に足を運べば、企画の内容が多少弱くても、「学生だから」という理由で協賛をもらえることがあります。
でも、インターンは違ったんです。学生というブランドを脱ぎ捨て、いち営業として、商談に臨まなければいけません。
しかも相手からお金や契約といった対価をもらい、次につなげ、自分の活動に意味を持たせる必要があります。「頑張ったけど、できなかった」といった、学生のたわごとでは済まされないんです。
「自分の市場価値はゼロに等しい」と実感してから、「何に焦点を当てて、どこを磨けば自分の価値を高められるのか」といった観点で物事を考えられるようになったと思います。
—— 大学3年生で就職活動真っ最中な岡根さんですが、将来どのような仕事をしたいですか?
岡根さん:“心地いい筋肉痛”を味わえる環境で働きたいと思っています。今の実力よりも、少し高いレベルにある仕事に挑戦することが好きなんです。なので、「ベンチャー or 大企業」といった規模の大小や、年収やネームバリューなどもあまり関係ありません。
就職活動では、私のマインドや働き方とマッチングしているかどうかを判断基準にしたいと考えています。
—— 自分の将来や就活に対するイメージを明確にできたのは、インターンの影響が大きいですか?
岡根さん:そうですね。インターンでは、起業家の方にインタビューする機会があります。彼らは、キラキラした目で、展開する事業の魅力を語ります。
インターンを始める前までは、通勤電車でつまらなそうな顔をしている大人たちばかりを見てきたので、「こんなに楽しそうに仕事をする人がいるんだ!」と驚きました。もちろん世の中で働く全ての人が起業している訳ではありませんし、働くことに高い関心を持っているわけではない。なので、どちらがいいということもないと思います。
ただ、つまらなそうな大人と、楽しそうな大人を見て、私は後者でありたいと思ったんです。インターンをしていなければ、実情を知らずに、「年収が高く、ネームバリューがある企業を目指す」ような、とりあえずの就活をすることになっていたでしょう。
—— 学生時代にインターンを経験すると、普段は接点を持てない大人たちの声が聞けるので、キャリアを考えるヒントになりますよね。しかし多くの学生は、インターンに対して「難しそう」「ハードルが高い」などのイメージを持っています。そんな学生に、インターンを経験した岡根さんから、背中を押すようなメッセージをお願いします。
岡根さん:繰り返しになりますが、社会に出た瞬間は、“市場価値ゼロからのスタート”です。新卒であれば、大学名で優遇されることはあるかもしれませんが、年齢を重ねれば、大学の偏差値や過去の実績にすがるわけにはいきません。
これからの時代、周囲から頭一つ抜けだすために重要なことは、「社会人ゼロ年目と言われる学生時代に、どれだけ社会経験を積めるか」だと思います。
インターンは受験でいう模試のように、社会人としての実戦練習を重ねる期間。社会に対する理解を深め、自分の価値の活かし方や輝かせ方を鮮明にすることができます。事実、私は、苦手だったライティングを自分の武器にし、伝えることの価値に気づきました。
またコンテンツを企画することの楽しさにも出会うことができました。自分の知らない職業や可能性を知るためにも、インターンは有効なんです。
「やってみたい」と思ったことから取り組み、少しずつアレンジしていけば、自分にぴったりな仕事にたどりつけると思います。
早稲田大学商学部学2年、来春から同志社大学文学部美学芸術学科。株式会社Traimmuで「co-media」のライターと広報のインターン。