在学中に600時間以上のインターンシップが必須——失われた平成の30年を取り戻す“超大学構想”とは?

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「若者を自由にすればいい」——アップルの共同創業者であるスティーブ・ウォズニアックが、ソフトウェアで世界に劣った日本が、世界で勝つためのアドバイスとして残した言葉です。

その日から25年の歳月が流れ、日本はどう変化したのでしょうか。形骸化した大学教育、大学3年生からの就職活動、大企業信仰…。

そうです、何も変わっていないのです。日本のこれからを支えるのは、間違いなく若い人材です。しかし、現在の日本は、若い人材の価値を最大化できる構造にはなっていません。——誰かがここを、変えないといけない。

「若者の価値を最大化する」をビジョンに掲げる株式会社Traimmu(トレイム)代表の高橋慶治が、キャリア形成のプロフェッショナルと理想の教育を考える対談企画「START YOUR CAREER FROM 18」の第一弾は、100名以上の客員教員を招き、産業界と一緒になって学生を育成する「i専門職大学(2020年開学予定)」の学長である中村伊知哉様をお招きしました。


慶應大学院教授が掲げる“超大学”構想の全貌


高橋慶治(以下、高橋):「在学中に必ず長期インターン」「専任の教員は8割がビジネス界出身」——i専門職大学のユニークなコンセプトに惹かれ、私も客員教員に就任させていただくことになりました。まずは中村先生に、学長に就任されることを決めた背景について、お伺いさせてください。

在学中に600時間以上のインターンシップが必須——失われた平成の30年を取り戻す“超大学構想”とは?

i専門職大学 学長(就任予定) / 中村伊知哉

ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送 融合政策、インターネット政策を政府で最初に担当し、橋本行革で省庁再編に携わったのを最後に退官し渡米。1998年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長。2006年より慶應義塾大学大学院教授。


中村伊知哉(以下、中村):産業を成長させるにあたり、大学が持つ役割が非常に大きいことを知っているからです。

私はもともと、郵政省(現・総務省)に勤めていて、退職後にMITメディアラボで客員教授となり、その後スタンフォード日本センターで研究所長を歴任してきました。これまで、GoogleやYahoo!、Facebookといった巨大企業が、大学というプラットフォームから生まれていく姿を目の当たりにしてきたのです。

もちろん日本企業も、世界に誇るべきプロダクトを生み出しています。ファミコンやウォークマン、初音ミクもそうです。ただ、それらを生み出すことに、大学が果たした役割はほとんどありません。私はここに、日本の欠点があると思いました。大学と産業、あるいはユーザーとの結びつきが強くない限り、先述したような世界をリードする企業群は生まれないのだろうと。

高橋:そうした理由から、慶應義塾大学で教鞭を執られていらっしゃるのでしょうか?

中村:その通りです。ただ10年が経過し、限界も見えてきました。「慶應義塾大学」という大きなブランド力があるが故の制約があるからです。

私が所属する慶應義塾大学メディアデザイン研究科は大学院なので、研究に重きをおく組織。つまり、イノベーションを生み出す起業を輩出することが主眼ではありません。産業界と手を組み、ゼロから新しい大学を創る必要性を感じていました。

産業にイノベーションをもたらすには、従来の壁を破る“超大学”が必要だと発信をしていたところ、i専門職大学の構想を知りました。私が考えていることとその構想が合致していたため、学長を引き受けることになったのです。

在学中に600時間以上のインターンシップが必須——失われた平成の30年を取り戻す“超大学構想”とは?

株式会社Traimmu(トレイム)代表取締役社長 / 高橋慶治

大阪大学在学中に長期インターンシッププラットフォーム「InfrA」、日本最大級の学生メディア「co-media」を運営する株式会社Traimmuを創業。


高橋:先ほどのお話でいうと、Googleの創業者ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、スタンフォード大学の出身です。ほかにもスタンフォード大学は、Yahoo!の元CEOであるジェリー・ヤンを輩出しています。授業の一つに「起業家育成コース」が存在していることも、こうした起業家の輩出に一役買っているでしょう。

一方、日本の大学はなぜ、大学を拠点として彼らのような人材を輩出できなかったのでしょうか。

中村:結論から言えば「必要がなかった」からでしょう。日本は大学に限らず、教育機関のほとんどが、これまで世界トップクラスの教育を施していました。高度成長時代まで、それで成功した。競争する必要もなかったのです。

しかし、アナログからITの時代へと転換した結果、それまで努力をしてきた世界の教育機関に追いつけなくなってしまいました。

今になり、やっと危機意識が芽生えてきていますよね。東京大学を筆頭に難関大学出身の起業家が増え、彼らにつられるように、若い起業家が増えつつあります。

高橋: ごもっともですね。i専門職大学のコンセプトから考えるに、“超大学”として、ビジネスシーンにイノベーションを起こす人材の輩出に向け、エコシステムを構築していくと。

在学中に600時間以上のインターンシップが必須——失われた平成の30年を取り戻す“超大学構想”とは?


中村:おっしゃる通りです。i専門職大学の強みは、企業と一緒に大学をつくっていること。開学前の段階で、すでに100社以上の企業との連携、100名以上の客員教員の就任が決定しています。客員教員の中には、日本を代表する起業家も複数名います。

そんなコンセプトですから、学生と教員が一体となってビジネスを創出するプランもある。また学生たちは全員、在学中に長期インターンを経験していただきます。その後、一度自分でビジネスを立ち上げる仕組みも構築中です。

高橋:ちなみに、産業界が求めている人材は、どのようなスキル・マインドを持った人材なのでしょうか。

中村:ICT(Information and Communication Technology = 情報通信技術)を使いこなし、グローバル規模でビジネスを手がける人材です。簡単にいえば、語学力とビジネススキルが求められます。

「円滑なコミュニケーションが取れる」「プロジェクトを推進できる」といった基礎的なビジネススキルを持っていることはもちろん、イノベーションを起こす実行力、それらをグローバル規模で行えるだけの語学力が必須です。

高橋:従来の大学教育では、育たないであろう能力も必要になると。

中村:そうですね。教養を備えていることはもちろん重要ですが、その全てがビジネスに直結するかといえば、そうではない。ですから、学問だけに時間を投資する大学のあり方にはテコ入れをする必要があると思っています。変な話、授業は教室でなくとも受けられるじゃないですか。

i専門職大学では、オンラインでできることはオンラインで学習し、授業ではその場でしかできないことをする。たとえば、プログラミングスキルは寝る前の時間で習得してもらい、授業では、開発など実践的なことに時間を割く。そんな未来の大学をつくっていく予定です。

組織にぶら下がっているだけでは、評価してもらえない


高橋:大学教育が形骸化しているという声もある一方で、学生側の意識改革も必要ではないかと思います。日本の大学は卒業が容易なので、アルバイトなど、目先の楽しさのために時間を費やしてしまう学生が少なくありません。なぜ、このような状況になってしまったのでしょうか?

在学中に600時間以上のインターンシップが必須——失われた平成の30年を取り戻す“超大学構想”とは?


中村:大学がつまらないからでしょう。僕らの時代は、大学に「値打ち」がありました。正直に言うと、授業をちゃんと受けていたかといえば、そうではないのですが、大学にはよく行っていました。

僕が大学でやっていたことといえば、バンド活動です。バンドをするために、大学に行っていました。でもそれは、僕にとっては非常に重要なことだったのです。そういった意味では「大学は面白い場所だった」と思っています。

これから大学に求められるのは、そういった値打ちを学生に与えられるか。学生が育たない原因は、やはり大学側に問題があると思います。

とはいえ学生は、「4年間遊んで過ごしたら、社会で通用しない人材になる」という厳しい現実は理解しておくべきです。僕らの世代は、4年間ずっと遊んでいても、企業が鍛えなおしてくれました。ただ、今は企業にそんな余裕などなく、学生時代に鍛えられた人材を上から順に採用していく時代なのです。

在学中に600時間以上のインターンシップが必須——失われた平成の30年を取り戻す“超大学構想”とは?


高橋:国内の学生だけでなく、優秀な留学生と競い合う時代ですしね。ちなみに、海外と日本の大学では、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?中村先生のご経験からお伺いしたいです。

中村:よく聞く話かもしれませんが、価値基準が全く違います。私が初めてMITにいったときは、心がボロボロになりました。

官僚時代には制度をつくったり、大きなプロジェクトを動かしたり、それなりに実績を積んできた自負があります。しかし、MITではその実績を誰ひとりとして評価してくれなかったのです。

しかし、学生時代にディレクターを務めていたロックバンド・少年ナイフの話になると、評価が一変します。話をすればするほどリスペクトされるようになったのです。つまり、自分で何かを作り上げたことが評価される世界なのです。大きな組織や大きな権力の下で動いた経験など、見向きもされません。

高橋:中村先生がMITに在籍していた当時、出資していた企業の3分の1が日本企業だとお伺いしています。“Japan as Number One”と言われていた時代です。

中村:よその国からお金を集めて、劇場をつくる——もちろん良い意味で、とんでもないことだと思いました。ほかにも、学長が企業に出資して、上場させるなんてことも。弁護士や会計士を集め、大学ぐるみで若い起業家を育てているのです。

今日、世界を代表する企業は、ガレージではなく大学で育っています。しかし、日本中を見渡しても、そうした事例はほとんどない。大学がファンドを組成し、出資して大儲けする。学長がソワソワしてしまうくらい仕掛けていかなければならないのだと学びました。

パンク思想で大学教育をひっくり返す


高橋:僕も学生時代に起業したひとりで、知人にも学生起業家が多くいます。少しずつではありますが、若い世代で挑戦する日本人が増えている印象です。とはいえ、ホームランを打つのがすごく難しいと感じます。いわゆる“GAFA”に勝てる企業が出てくるかといえば、そうではないなと。日本発の企業として、そうした企業に立ち向かっていくにはどうしたら良いのでしょうか?

在学中に600時間以上のインターンシップが必須——失われた平成の30年を取り戻す“超大学構想”とは?


中村:僕の意見ですが、GAFAに勝つのは無理です。すでに負けてしまっているので、また違った領域で勝負しないといけない。

僕は、日本の強みは「総合力」だと思っています。テクノロジーもあれば、デザインもある。それらをうまく融合させることこそが、勝ち筋でしょう。たとえば初音ミクは、総合力の結晶だと思っています。ボーカロイドというソフトウェアのテクノロジーに、キャラクターとしての初音ミクというデザインをドッキングし、ニコニコ動画というプラットフォームで国民が育て上げています。

数年後には、東京オリンピックと大阪万博が開催されます。放っておいても海外への発信力が強まるのです。この大チャンスをモノにできるかどうかが、日本の転換期になるでしょう。

高橋:来ることが決まっているチャンスですから、もう生かす以外に選択肢はないと。

在学中に600時間以上のインターンシップが必須——失われた平成の30年を取り戻す“超大学構想”とは?


中村:その際に重要なのが「僕たちはできる」と強く信じることです。世界5カ国におけるクリエイティビティに関する意識調査「State of Create: 2016」によると、国・都市のランキングで、日本と東京が「世界で最もクリエイティブ」だと認識されていることが明らかになっています。しかし日本人のうち、自らをクリエイティブと考える回答者の割合は、たったの13%。参加国中、最も低い数値です。

一方で、アメリカやドイツは半数以上が自らをクリエイティブだと考えています。この結果が明らかにしたのは、周囲から「あいつらはすごいぞ」と思われているのに、自分たちは「そんなことできっこない」と自信をなくしている日本人のリアルです。

自分の力を認識しなければ、持っている力を100%発揮することはできないでしょう。東京オリンピックと大阪万博の開催が決定したこのタイミングは、世界の注目を一身に集められる時期。そこへ向け、「日本は本当にイケてるんだ」という事実をアピールしていかなければいけませんね。

高橋:弊社が運営するキャリアプラットフォーム「InfrA」には、成長意欲が高い学生が数万人登録しています。彼らに向け、何かメッセージをお願いします。

中村:私も含めてですが、「大人が言っていることは全て間違っている」くらいの認識を持ってくれればと思います。これから起こる社会の変化は、平成に起こった変化よりもはるかに大きく、激しいものになります。その大前提に立ち、変化は起こるものであり、楽しむものであると理解してほしいです。

私自身、この歳になってもなお、来たる“戦乱の刻”を楽しむ準備ができています。学生時代から持っている信条は「パンクであること」。パンクとは、既存のスタイルをひっくり返して新しいスタイルを生むことです。i専門職大学は、既存の大学教育をひっくり返す“パンクな大学”であることを目指しています。

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