皆様、こんにちは、法政大学のキャリアデザイン学部で教員をしている田中研之輔です。新卒採用担当者へのインタビュー記事も第6弾「エントリーシートに『何も書くことがない』と感じる学生たちへ」を先日公開しました。まだの人は、そちらもチェックしてくださいね。
今回は、私が今考えていることについて伝えていきますね。
私が今、大学生なら長期インターンシップに取り組みます。最低でも数ヶ月間のインターンを2社以上。大学の長期休暇中には、海外インターンに挑戦します。なぜなら、自分の殻を破りたいからです。大学の学びだけでは、それができないと考えるからです。
長期インターンなら、自分の限界を見つめ、新たな自分に出会うことができると信じていいるからです。
「自分の殻を破る」という言葉は、よく耳にしますが、実際どういう経験なのでしょうか?
私にとって「自分の殻を破る」とは…
(1) これまでの経験知や習得してきた専門知識を価値判断の基準にしない。
(2) 限界だと思ってしまう認識のリミッターを外す。
(3) 新しい経験をピュアに身体の上に書き込む。
(4) 新たに学んだ経験や知識とこれまでの経験や知識を混ぜ合わせる
これらによって、新たな自分へとトランスフォームさせることです。もちろん、見た目の変化ではありません。内面的かつ経験的な進化です。
やや専門的に解説しておくと、「殻を破る」ということは、自己成長を促し、個人のキャリア形成の上で欠かせないことなのです。しかし、大学の<中>で過ごしていると、そうした機会が少ないのです。
「殻を破る」 言葉で書くことは簡単ですが、行動に移すとそれなりにタフなことになります。
就職活動が始まりました。今年もまた、残念なESを読むことになりました。「あなたがもっとも頑張ったことはなんですか?」と聞かれたESの項目に、「大学受験」のエピソードを書いているのです。
合格か不合格かを決め、進路先を決定づける大学受験は、大きなライフイベントの1つです。でも、これから社会に出るための就職活動時に、受験の話が出ると、「ああ、また、受験の話ね。大学の時は何も経験してないタイプの学生ね」と人事担当者は心の中で思っています。
残念なESになる理由は2つですね。
1つは、大学の問題ですね。学生が、学生時代をふりかえるときに頑張ったなと思えるような経験を提供できていないのです。その点は、大学関係者として反省すべき点です。ゼミ生の受験頑張りましたESをみると、ゼミでの活動や課題を再設計しなければならないなと痛感します。
もう1つは、あなたの問題ですね。大学はつまらない。大学での学びは役に立たないと不満を述べても、あなたは成長しません。学生は生徒ではありません。在学中に成人を迎えるわけで、立派な大人です。あなた自身が、自らを律し、学ばなければなりません。大学で一生懸命頑張る時間がないのであれば、つくりだす必要があります。あるいは、そうした環境に身をおく必要があるのです。大学に過度の期待を寄せずに、自ら最適な環境を選びつくるのです。
その環境として、私は企業での長期インターンをお薦めしています。実際に、この4月に大学を卒業するゼミ生の岡部由紀(仮名)さんは、大学2年生のときに、ITベンチャー企業で長期インターンに挑戦し、自ら殻を破る経験をしました。
インターンを始めた頃、思うように力を発揮することができずに、ゼミにきては涙を流していました。「どうしても上手くいきません。社員の人に迷惑をかけてしまいます」と岡部さんは悔し涙をボロボロと流すのです。
ゼミ生は、岡部さんの涙を共有する仲間でした。
岡部さんの友達が寄り添うようにして、岡部さんの言葉に耳を傾け、アドバイスをしていました。涙を流した後は、どこか吹っ切れた様子で、ゼミの中で積極的に発言を繰り返しているのです。
ここに私が考えるゼミの理想の形があります。社会でこれから活躍するために、今、私たちはどこにいて、何が足りないのか。友人が社会で学び得たことをゼミに持ち帰り、足りない部分を共有する。それを皆で補い合っていく。ゼミは常に、社会に開かれているべきなのです。
岡部さんは長期インターンでの悔しさをきっかけに、「学びのスイッチ」を入れました。本気になった人間のポテンシャルは、想像をこえていきます。日々学び、インターンでPDCAを回し続けるのです。そうしたひたむきな姿勢は、インターン先の先輩社員に取って、「何1つ迷惑なことはない」のです。
私が担当しているキャリア体験という科目では、受講生である大学2年生が全員インターンシップに取り組みます。単位を取得するためには、最低でも5日間以上のインターンを行い、そこでの学びを他の受講生にプレゼンし、その後報告書にまとめることを必須としています。
このプログラムを10年間行ってきました。座学の講義と比べて、インターンの進捗に応じた丁寧な指導が不可欠であるので、受講学生は25名までという履修制限を設けています。
250名の学生が長期インターンを経験して、何を学び、いかに殻を破ったのかについて、決定的に大切な3つのポイントを伝えておきます。
(1) 適度な裁量の仕事を任せてもらい、PDCAの過程で社員から丁寧なフィードバックをもらえる
(2) 数十人以上の社会人とコミュニケーションをとり、社会人コミュニティに溶け込む
(3) インターンでの自己の変化や成長を言語化すること
社員からのフィードバックは、成長に欠かせない栄養源
長期にわたり、インターンをすれば、皆が「殻を破る」ことができると考えるのは、大きな間違いです。インターンの「内容」が大切です。
あなた自身が意思決定をしながら進めていく仕事(それなりに裁量を任せてもらえる仕事)で、その際に、直面する課題や困難をまずは、自分で乗り越えようと試行錯誤してみる。そこから、一度は、やりきる。形にする。その過程を見ていた社員の方に、細かなアドバイスをもらいましょう。
わかりやすい例を持ち出すなら、例えば、うまく歌えるようになりたいときに、あなたはどうしますか?歌手の歌声を聴くだけで、あなたはうまく歌えるようになりますか?
まずは、自分で歌いますよね。さらに上手くなりたいと感じるなら、上手い人に聞いてもらい、アドバイスをもらうのが近道ですよね。
ビジネスでも同じです。形式的なことではなくて、働く現場でより実践的なフィードバックをもらうのです。
長期にインターン生として企業にコミットするようになると、あなたは様々な場面で何人もの社会人とコミュニケーションをとるようになります。年齢や性別、職業も違う人たちと「仕事」を通じて出会うことができます。大学の友人との気心の知れたコミュニケーションとは異なり、時には、違和感を感じることもあるかもしれません。
ただ、そのコミュニケーション時の「ズレ」があなたを成長させるのです。いつの間にか、社会人のコミュニティの中に溶け込むことができます。そこで得られることは、役割や業務の決まったアルバイトや、大学内の友人やサークルコミュニティでは、得ることはできません。また、One dayインターンでは、社会人コミュニティに入ることはできないのです。
最後に、長期インターンでの経験のふりかえりを意識的に行うようにしてください。インターンを始める前と始めた後は、どこが変わったのか。どんな点が成長したのか。どのような仕事に向き合い、いかなるアウトプットを出したのか。自分だけが読むメモに残したり、また、ソーシャルメディア等で、その都度発信していっていくとより効果が上がります。
ESを書く際に、長期インターンでの経験を書くのであれば、一度、客観的に整理して置くことで筆が走ります。
長期インターンでの見た目が劇的に変化する人はいません。
ただし、内面の成長は目を見張るものがあり、まさに、「殻を破る」プロセスなのです。
ぜひ、これらのことを参考にしてください。
今、大学生のみんなにとって深刻なのは、「情報格差」や「学歴格差」ではありません。
「行動格差」です。
この記事を偶然読んで、最初の一歩を踏み出せるかどうかで、あなたがこれから歩む人生は大きく変わっていきます。長期インターンは、大学受験よりも、あなたにとって大切なトランスフォーム・エクスペリエンス(行動変容をもたらす経験)なのです。
社会で働く先輩たちは、そんなあなたの最初の一歩を待っています。