就活生が四苦八苦している。リクルートスーツを新調し、合同説明会と個別説明会を駆け巡る。移動中の隙間時間には、スマートフォンで就活用のスプレッドシートを確認する。
スプレッドシートにまとめられたエントリー企業は数十社をこえ、内定を獲得するまで1社あたり6〜8回の選考を突破していかなければならない。
平成の就活は、忙しい。
情報テクノロジーの発展と実名SNSの日常化により、平成最後の就活を戦い抜くには、膨大な情報を取捨選択しなければならない。人手不足の企業は、是が非でも優秀な人材を獲得するために、さまざまなチャネルから就活生へのリーチを試みる。
そんななか、手のひらに飛び込んでくる情報を自分目線で処理することができずに、多くの就活生は迷っているように見える。情報に翻弄されている。深刻な場合には、就活を通して自分を見失ってしまう者もいる。
この時期に毎年決まって聞こえてくるのは、やりたいことがわからないままに就活に飲み込まれた学生たちの不安や悩みの数々だ。
そうした就活生が大半を占めるなか、3月の実質解禁を前にして、2月中に内定をもらい、就活をやらない学生もいる。就活は、二極化している。
さて、就活と採用は、これからどうなっていくのだろうか? 「就活ルール」は廃止されるの?現行ルールがこのまま維持されるの? そもそも、大学から社会への望ましいトランジッション(=移行)とは?
平成の終わりに、就活と採用では今、何が起きているのか。——新時代の就活と採用はどこに向かっていくべきなのかを探っていくことにした。
そこで、WeWorkに入居するベンチャー企業で長期インターンをしている雪竹秋華さんに司会をお願いし、お二人のゲストをお迎えした。
1人は、若者が仕事を通じて“夢中”になれる環境を提供する株式会社 Beyond Cafe代表取締役社長の伊藤カルロス朗誠さん。
もう1人は、鋭い視点で社会を分析し、就活や採用に関しても数々の特集記事をまとめられているBusiness Insider 副編集長の滝川麻衣子さん。(滝川さんが編集統括された記事*就活はなぜ変わらない? キャリアの達人たちが語る、就活生が今知るべき5つのカギ)
新時代の就活と採用を考える対談セッションは、雪竹さんが今感じていることからスタートした。
雪竹:大学にいると、働くことを知らないうちから、職業や職種を固定概念で捉えてしまう。WeWorkで長期インターンをしていると、現場で日々考えること、働くことは固定概念を取っ払うことだと感じている。自分の中に抱く「枠」を取り払うことだと学んでいます。
私たちが認識しなければならないことは、大学と社会との間にある「距離」についてだ。大学の中にいると、どこか守られているような錯覚に陥る。守られていることで、大学の中にいると社会が遠く感じられてしまう。
大学1〜2年生のうちから、自己のキャリアを見つめるキャリア教育を行なっているカルロスさんは、次のような問題提起を行った。
カルロス:小中高、そして、大学まで教育を受けてきて、やりたいことがわからなくなるのは、珍しいことじゃない。それは不自然なことではない。同質集団の中で比較される時、やりたいことを見つけることより、みんなと同じことをする方が評価される傾向がある。ルールを遵守し、みんなと同じ行動をすることで学校文化の中で評価されてきた学生に、就活になると、「あなたは何がしたい?」と突きつける。
大切なことは、この大学と社会とのギャップを埋めること。「みんなと同じ行動をする」から「あなた自身が何をしていくのか」への成長をサポートしていくこと。
カルロスさんから問題提起は、私が大学で感じていることにもつながる。大学に求められているのは、社会の変化に対応しながら、自ら主体的に働いていくことのできる柔軟な次世代を育てること。
しかし、それが難しい。大学での学業と社会での実践をつなげることが簡単ではないからだ。
その点について、就活の特集を組み、社会問題に鋭く切り込む滝川さんは現状を次のように述べた。
滝川:今、私たちは正解のない社会を生きている。幕末の乱世に近いものだと感じる。働くことの意味合いが大きく変わっている。揺らぐことのないと思われたメガバンクですら、経営戦略を大きくシフトしている。1つの組織で働き遂げる時代は終わり、これからは、組織の中でのキャリアではなくて、個人のキャリアを考える時代になる。どうやら歴史的な変動期にあるのだと、誰もが感じ取っている。
滝川さんの指摘は、就活や採用を微視的な視点で捉えるのではなく、社会構造の歴史的な変化の中で捉えていく巨視的な視点で捉えることの大切さを教えてくれる。
目の前の就活と採用の現状を客観的・複眼的に捉えることが必要なのだ。
そのために、就活を控えた大学生、キャリア教育に従事する経営者、大学の中に身をおく教育者、就活や採用の現状を発信するメディア記者がこのような機会に、それぞれの組織の「枠」をこえて、本音で語り合う機会は貴重である。
ひとつ言えることは、平成という時代が、いまの新卒一括採用を築き上げきたということだ。右も左もわからない中で、数十社にエントリーして、就活スケジュールに忙殺されるようになる。何度も選考に落ち、お祈りメールで受信箱が埋め尽くされる。これから社会で頑張っていこうとする入り口で、これまでの人生を否定するような選考は、労働人口が急激に減っていくこの国に必要なのか。
では、どうしたらいいのか。突破口を探していった。
カルロス:人事担当者が重視すべきは、採用人数を確保することではない。入社後に、どれだけ活躍していくのか。具体的には、3年後にどれだけの売り上げを稼ぐ人材を育てていくか。学生は、「入社後にどんな仕事をするのか」を知りたがっている。それを隠さずに、できるだけ早い時期に伝えていく。何も知らないで選択することと、知った上で選択することは、全く違う意味を持つ。
滝川:入り口は、大企業でもベンチャーでもいい。本質が大事。今の時代は、どの企業が生き残るのかは、誰にもわからない。だからこそ、親や人事が伝えるべきことは、「何があったとしても、社会がどう変化しても、生き抜いていく方法」。就活は手段に過ぎないことだけをわきまえておく。本質は、人生を豊かに生きること。生きたいように生きること。やりたいことをやること。精一杯命を燃やすこと。社会と向き合うきっかけとなる就活だからこそ、徹底的に、生き方や働き方の本質を考える機会にする。
会場参加者:まずは、伝えることから始める。人生100年時代でこれから起こりうること。総務省との統計を見たりして、いまを確認し、これからを洞察する。社会の変化の中で、自分たちのキャリアを考えていく。
カルロス:誰が伝えるかも大切。入社して1年目、2年目の身近な先輩が、働くリアルを作っていく。そしてリアルを皆で共有していく。そうすることで、何がしたいかはすぐに見つからなくても、どう生きていきたいかは、ぼんやりと見えてくるようになる。それを感染させていく。
滝川:企業の速度感が変わっている。あなたの一生を守り続けることのできる企業は、もうない。企業に守ってもらう人生ではなくて、自分で自分の人生を守る。そのために、自らをブラシュアップしていく。社会人なら知っているこの事実を、大学生にも早めに伝えておく必要がある。学生はもう遠慮することない。企業のリソースを利用して、キャリアアップしていく。企業も会社の色に染まってくれる無色透明な人材を求めているわけではない。
会場参加者:学生が自分の意思で、職場を選択できる時代にしていかなければならない。短い期間での就活で全てが決まるわけではない。それを伝えていく。個性を持った次世代を育てていく。個性がぶつかり合いイノベーションが生まれる。これまでの企業は、早くうちの色に染まれという経営をしてきた。これからは個性を育て、その個性を組織の力に変えていく。そのために企業としてできることをしていく。企業と大学、そして、メディアが協力しながら、新時代の就活と採用を作っていく。
滝川:人生100年時代と言われると、80歳まで働くの?90歳まで働くの?と誰しもが不安に思う。これから社会が直面する問題の地平は、社会人でも就活生でも同じ。この状況を悲観するだけでなく、皆で対話をしながら新時代を迎えていきたい。就活や採用の問題だけではない。これからこの国が抱える歴史的転換をどう楽しむか。そこに社会人も大学生もその垣根を取り払い、集中していきたい。
雪竹:WeWorkでは、日頃から企業をこえたコミュニケーションが起きている。企業の中で働くというのではなく、企業をこえて働く時代がきている。それが社会全体を変えていく力になりうるのではないか。学生も大学の中に閉じこもる必要はない。外に出たらいい。外に出れば、「枠」を気にしないコミュニケーションが取れる。
滝川:日本が高度経済成長期に培った勝ちパターンが通用しなくなった。新時代を迎えるにあたり、次の戦い方を模索していくべき。就活や採用をより良いものに変えて、グローバルな市場の中で存在感を出していく企業を、改めて育てていく。
カルロス:新卒で入らなくてもいい。3年後、10年後に、いろんな場面で出会うことにある。だからこそ、短期間の就活で人生の全てが決まるなんて思う必要はない。
就活で媚びることはない。
就活で安売りすることはない。
採用は次世代育成だ。
新時代の就活と採用は、私たちの手で変えていくことができる。
就活生は、何ら恐れることなく、社会へと羽ばたいていけばいい。
ただ、社会の変化のスピードは明らかに上がっている。
大学という「井の中」でのんびりと過ごす余裕はない。
大学という4年間を、大学の中だけで過ごしていては、グローバルな社会変化についていくことはできない。だからこそ、日頃から社会との接点を持つよう行動すべきなのだ。
新時代に顕著化するのは「行動格差」だ。
大学生でありながら、企業の現場でインターン生として働き続ける行動は、結果的に、大きなリターンとしてかえってくる。
どうしていいかわからない。何をしたらいいのかわからない。
自分がわからないと1人で悩むなら、社会の扉を叩いてみよう。
企業の働く現場へと踏み出し、そこで過ごす毎日が、あなたの強みがなんであるのか、どう過ごしていくことにやりがいを感じるのかを教えてくれるはずだ。
そして社会で活躍する先輩たちは、学生を混ぜていく。働く現場のリアルを包み隠さず伝えていく。
就活と採用の非対称性が改善されていくごとに、この国は良くなっていく。
歴史的な転換期を迎えた今だからこそ、大学生と社会人という属性を取っ払い、企業間の垣根を取り払い、新卒と採用を切り口に、この国の未来を考えていくそんなひとときが必要なのだと思う。
カルロスさん、滝川さん、雪竹さん、会場にお越し頂いた皆さん、ありがとうございました。また、会場設営・運営を手伝ってくれたTTCのメンバーにも感謝しています。
文:法政大学教授 田中研之輔