co-media編集部は、こうした社会人と学生の間にある分断を埋めるべく、各界のトップランナーたちに仕事論をお伺いする連載「 #私の職業哲学 」をお届けしています。
本記事で焦点を当てるのは「カスタマーサクセス」。今回は、法人向けに「チャットボット」を提供するチャットプラス株式会社 代表取締役社長の西田省人さんにお話を伺いました。
西田さんは、「サブスクリプションプロダクトを作るのは、次世代のカスタマーサクセスだ」と語ります。にわかに注目されつつあるカスタマーサクセスのプロの「仕事の流儀」に迫ります。
根橋:本日は、近年注目を集めている職業「カスタマーサクセス(CS)」について、お話をお聞きしたいと思っています。
そもそもカスタマーサクセスの仕事を“顧客対応”と考えている人も多いと思いますが、それは「カスタマーサポート」が地味で大変な仕事だから、コンタクトセンターが言い換えただけに過ぎません。
「インサイドセールス」と言ってテレアポだけさせるのと同じです。本来はその職業名の通り、僕はもっと、顧客に成功体験をもたらす職業だと感じています。単なる「クレーム対応」とは、異なる職業なのではないでしょうか。
西田さんは、顧客とサービスの橋渡しを行う「チャットボット」を開発されていますが、それもつまり顧客との付き合い方が変化しているから生まれたサービスなのではないかと感じています。
西田省人(以下、西田):売り手と買い手の関係が変化していることを語る前に、まずは「ストックビジネス」における日本と海外の違いについて説明します。
サブスクリプション、ストックビジネスでは、サービスを定期的に利用する際に、「月額制」で契約をすることが一般的です。そのこと自体は日本も海外も同じですが、日本は特に「必要であるか、ないかに関わらず、月額会員数をとにかく増やす」ことに注力しています。積極的にサービスを利用する・しないに限らず、とにかく1人でも多くのユーザーを獲得しようとする事例が多いですよね。
根橋:たとえば、携帯のオプションサービスとか…。僕も契約したサービスの解約を忘れていて、使ってもいないのに永遠お金を取られていた経験があります。
西田:そうそう。言い方は悪いですが、“幽霊会員”がいればいるほど、企業は助かるんですよね。なので、サービスを少しでも長く使ってもらうために、あえて連絡をしない。定期的に連絡をして、利用状況や抱える悩みを聞くと、解約につながる可能性が高くなり「藪をつついて蛇を出す」状態になっているんですよね。
根橋:本質的ではないですよね…。本来なら、いい関係性を築くために、しっかりと連絡を取って顧客に価値を提供すべきだと思います。
西田:一方、海外は違います。サービスを使ってくれているお客様に対してしっかりとサポートを行い、お客様が抱えるニーズや課題を解決に導くためにサービスを提供することが至極一般的です。
根橋:仮に解約されても仕方ないと?
西田:おっしゃる通りです。外資系などでは、「お客様の声」を聞くことが重視されています。
なぜなら、お客様の声を聞くことで、より良いサービスづくりができるから。「この部分が使いづらい」、「この機能がほしい」などの意見が出てくるので、その声をもとに改善を繰り返します。
根橋:なるほど。では、ユーザーファーストなサービスづくりを徹底し、より長く利用してもらうことを目指していかなくてならないわけですね。
西田:その通り。そこで生まれた概念が、「カスタマーサクセス」です。従来の「カスタマーサポート」は、お客様から要望をいただいてから対応するので、どちらかといえば“受動的”でした。
一方カスタマーサクセスは、お客様に対してサービスの利用状況や現状のお悩みを聞き、それに対して的確な提案をしていく“能動的”な仕事。特に弊社のようなサブスクリプション型サービスにとっては、なくてはならない存在です。
根橋:“売ったら終わり”ではなく、顧客をしっかりと成功に導き、末長い関係構築をして行くことがカスタマーサクセスの使命なんですね。
西田:まさにそうで、お客様に求められるサービスをつくる上では、開発と営業、そしてカスタマーサクセスの連携がとても重要になります。
カスタマーサクセスがお客様と接点を持つことで、たくさんのフィードバックが得られます。開発はそれをプロダクトに生かしていくわけですが、お客様の要望を全て汲んでしまうと、結果として使いづらいサービスになってしまうこともあるんです。なので、開発は「全体ユーザーの70%〜90%が満足するサービス」を心がけるのがいいと思っています。
また、営業やマーケティングとの連携も大切です。“売ったら終わり”ではなく、お客様がサービスを正しく利用できるようにきちんと説明したり、利用開始後のフォローは、営業とカスタマーサクセス、マーケターと開発がスクラムを組んで、一体となって行うことが重要だと思います。
根橋:お客様の声を聞くことで課題を明らかにし、解決に導く役割を担うのが「カスタマーサクセス」なんですね。
今までは、お客様とのやりとりは電話やメールが一般的だったと思います。西田さんはチャットでお客様とコミュニケーションを行う「チャットボット」を提供されていますが、チャットベースでのコミュニケーションはどのような利点があるのでしょうか?
西田:チャットの良さは3つあります。まず1つは、「お互いの好きなタイミングで返せる」ことです。電話では、両者が電話機の前に同時にいなければやり取りが成立しないため、時間的な拘束があります。しかしチャットは、タイミングや場所に束縛されないので、無駄が省けるんです。
2つ目は、「短文でのやり取りが可能」なところ。メールでは、「お世話になります。株式会社◯◯の△△です。」といった枕詞を使うのが定石なので、スムーズにコミュニケーションが取れません。しかし、短文のチャットで会話を行えば、内容が的確に伝わりやすい。お客様の満足度も向上しやすいんです。
3つ目は、チャットのテキストを「データで管理できる」ことです。データを蓄積していくことで、お客様の課題解決はもちろん、サービス向上に大きく役立ちます。
根橋:チャットならではのカスタマーサクセスがあるんですね。御社のチャットサービスは、創業から約2年ですでに3,500社が導入しています。多くの企業が導入を決める理由はどこにあるのでしょうか?
西田:チャットには、「有人」と「無人」があります。弊社では、AIを活用したチャットボットに注力しており、無人対応における柔軟性と、有人でのフォローアップのバランス、多くのサービスを成功に導いてきたノウハウが、多くのお客様に採択していただいている理由だと考えています。
無人対応の精度が上がると、社員は「クリエイティブな仕事」に時間を割くことができます。お客様からの資料請求や商品購入をする際などに発生する「オペレーティブな仕事」は、可能な限りAIに任せる。すると、これまで「オペレーティブな仕事」に費やしていた時間は、お客様の成功に向けてさまざまな施策を考える時間に変わるのです。
根橋:無人対応の精度が高いと、より優先度の高い仕事に注力できるんですね。
西田:その通りです。カスタマーサクセスは、「お客様満足度と売上を最適化する」ことが役割。「オペレーティブな仕事」に時間を取られ、お客様が困っていることを先読みすることや、お客様を成功に導くための仕事を疎かにしてはいけません。
また、弊社のサービスを3,500社に導入していただいた背景には、市場の伸び率も関係していると思います。たとえば人材業界の中にA社・B社・C社と競合がいたとして、A社がチャットプラスを導入すると、B社とC社も導入してくださるんです。お客様との接点の1つとしてチャットを入れるのは必然的になりつつあるので、競合他社が導入していて自社が導入していないと、「置いていかれる」と焦りがあるのだと思います。
チャットには、お問い合わせ数の増加、ユーザー満足度の向上、サービスやサイトからの離脱が少ないなどの利点があります。弊社のチャットツールを導入いただいているお客様からもそういった声をいただけて、本当に幸いです。従来の電話やメールに加え、チャットは顧客とサービスをつなぐ「新たなチャネル」として注目されています。
根橋:顧客との付き合い方が変わりつつある今、継続的な関係構築と顧客ごとの課題解決を行うサービスづくりが求められています。こういった時代の流れがあるなかで、御社は少ない組織でありながら「チャットサービスのプロ」として事業を拡大させてきました。今後会社としてどんな風に成長されていくかをお聞かせください。
西田:弊社は、正社員5名とインターン生だけで事業を回しています。おっしゃる通り大きな組織ではないので、1人1人の裁量やカバーしなくてはならない範囲は大きいです。ただ、単純に能力が高い人だけを迎え入れて会社を拡大していくつもりはありません。
社員・インターン生問わず、チャットプラスには“いい人”が入って来てほしいと思っています。私たちはwebシステムを開発していますが、やはり人を介さなければサービスに命が吹き込まれていきません。なので、今後もチャットプラス に対する「プロダクト愛」を重視して採用していきたいと思っています。
根橋:なるほどです。御社はインターン生を積極的に採用しているそうですが、「サブスクリプション型サービス」や「チャットボット」を聞き慣れない若者にとって、「プロダクト愛」を持つことは少し難しいように感じます…。
西田:たしかに、社会人経験が浅い若者は、今サービスの売り方に変化が起きていることや、旬なビジネスワードを知る機会は少ないかもしれません。ただ、それはベテラン社会人にも同じことが言えること。「サブスクリプション型サービス」や「チャットボット」は、最近生まれた言葉なので、数年前に就活をしていた人は知らないわけです。
しかし、ここで重要なのは、チャットのことを知ったときに、それが「これから伸びる」と感じるかどうかです。そのビジネスに対して可能性を感じ、伸びているプロダクトに初期から携わりながら「今後もっと伸びる市場だから、自分がこのサービスを伸ばしていくんだ」と強い想いがあれば、入社後の成長も早くなり、大きなバリューを発揮することができます。インターンの面接を受けに来てくれる学生の中には、そう思ってくれている勘の鋭い方もいるんですよ。
根橋:時代が変わりつつあるからこそ、これからの可能性を見極める力を若手人材に求めているのですね。それでは最後に、学生に向けてメッセージをお願いします。
西田:インターンを行う上では、「学生と社会人の違い」を意識してほしいと思っています。学生の間、試験で高得点を取るのは「教育にかけるお金を持っている人」や「勉強に励むことができる環境」ですよね。つまり、成功者になるためには“条件”が必要になってきます。
しかし、ビジネスで成功するために、条件はさほど必要ではありません。私は、運だと思っています。そして、学生がビジネスの場で一番最初に試される運は、「会社選び」のとき。ファーストキャリアでどんな会社に入るかを考えたとき、「これからどんどん伸びていく会社」に入ることはとても重要です。
会社や業界が早いスピードで成長していけば、自分の成長速度も早くなりますし、弊社のような少数精鋭の組織であれば、幅広く業務に携われるチャンスがあります。同世代の新卒社員と比べたら、同じ期間働いたときの得る経験値が比べものになりません。
ビジネスの世界で成功している人たちを見て、「自分とは違う」と思う必要はありません。今すごい人は、最初からすごかったわけではないのです。皆さんより優れている点があったとしたら、「自分がどんな環境にいれば伸びるか」を知っていたこと。なので学生の皆さんにも、ビジネスの成功者のように「自分を伸ばしていける環境」を知り、選んでいってほしいと願います。
長期インターンシッププラットフォーム「InfrA」でカスタマーサクセスを担当。新連載「#私の職業哲学」にてCSについて発信しています。