はじめまして、ライターの岡島たくみと申します。
唐突ですが、あなたは「エース」と聞くと、誰のことを思い浮かべますか。圧倒的なスピードで仕事をこなし、組織内外から信頼を集めるエネルギッシュな人物が、あなたの周りにもいるのではないでしょうか。
僕はそんなエースを目指し、とある編集ファームへと加わったのですが、仕事では悲しいほどの空回りを続ける日々です。思い返せば、僕は今までいかにもな「社会不適合者」ライフを送ってきました。
大学では授業内容がどうこう以前に朝起きることができず、テストを受けられないこともしょっちゅう。五限目に行われた必修科目のテストすら寝坊する始末で(もはや朝ではない)、学内でつけられたあだ名は「ゆとり」。日銭を稼ぐにも接客などの臨機応変さが求められる仕事は本当に苦手で、最終的に運送トラックの助手席で寝ているだけのアルバイトに落ち着きました。
そんなどうしようも人間のくせに往生際は悪く、「ワクワクできることしか仕事にしたくない」と志望業界をかなり絞った攻めの就職活動を行いました。しかし結果は、誰もが予想した通り内定ゼロ。田舎の祖父母が自分以上に落ち込んでいると知って、とてもやるせない気持ちになったことを覚えています。
そんなこんなで現在のチームに拾ってもらい、編集者・ライターとしてのキャリアを歩みはじめたわけですが、なかなか上手く仕事がこなせません。仕事は楽しくてたまらないし、モチベーションも高い。しかし、簡単に防げそうな失敗が一向に減らず、周囲に負い目を感じ続けています。
ミーティングや合宿で組織の行先を考えれば考えるほど、「岡島のことクビにした方が良くない?」という考えが自分で浮かんでしまい、いつ捨てられるのかとビクビクし続けた時期もありました。というか、今も怯えています。
これでは、僕が思い描くような「エース」どころか「中堅」にもなれやしません。社内外から認めれるエースとしてチームを率いる存在になるため、あらゆる知恵を集め、自分にとって最適なワークハックを身に付ける必要があります。
そこで、「働き方」に一家言ある有識者の方たちに、インタビュー取材と称したキャリア相談を行う企画をスタートしました!
第一回にお伺いしたのは、場づくりを通じて組織改革を行うファシリテーター集団NPO法人「場とつながりラボ home's vi(ホームズビー)」代表かつ東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授であり、注目を集める書籍『ティール組織』の解説者も務められた嘉村賢州さんです。
さまざまな角度から「組織」のあり方を見つめる嘉村さんとともに、経験の浅い新人が組織とともに成長していくための思考法や、そのための具体策について探っていきます。
—— 単刀直入に聞きますが、僕みたいなどうしようもない人間でもエースとして組織を引っ張ることはできるのでしょうか。
嘉村:どんな人でも「得意領域を見つけることができれば、活躍できる」と僕は考えています。もちろん、最低限のコミュニケーション能力や時間感覚などは求められますが、逆に言えばそれらの基本的な能力さえ押さえていれば、その人はそれだけで価値があります。
—— 本当ですか…?
嘉村:僕だって、苦手なことだらけです。たとえば、マメな作業が苦手。報告書の作成やデスク周りの片付けには嫌気が差すし、正直なことを言うと、締め切りを守れずに徹夜してしまうこともあります。
しかし、企画の仕事は大得意です。新しいものを見つけてきたり、そこからアイデアを着想したりする作業は、呼吸するように行えます。
足りない部分は多いですが、メンバーが補ってくれています。しかしその代わりに、自分が活躍できる領域でしっかりプラスを生む。そうやって、組織に必要な存在になれていると思います。
—— なるほど。しかし、業務経験の浅い新人のように、そもそも自分の得意が分かっていない場合はどう考えれば良いのでしょうか。僕自身もなかなか自身の強みが見つからず、組織に貢献できていないと感じてしまい、サポートしてくれるメンバーの方たちに申し訳なさを覚えることもしょっちゅうで、困っています。
嘉村:「自分はこれだけは負けない」と胸を張れる分野がなくても、仕事を任せてもらえているのであれば、組織へ貢献できていることとイコールではないでしょうか。
かつては一つの分野で実績を積み上げていくキャリア形成が一般的でした。なので、タスクローテーションなどがある組織では自分の輝ける場所を見つける前に、組織から居場所がなくなることもよくありました。
しかし、現在は一つの分野で失敗しても、他の領域で挑戦させてもらえる組織が増えているように感じます。最初から視野を狭めずとも、好奇心に従ってさまざまな経験をし、得意を見つけることができるはずです。
—— 嘉村さんは「ファシリテーター」としてご活躍されています。得意領域を見つけるまでに、どういった道のりをたどってこられたのでしょうか。
嘉村:さかのぼると、学生時代に友人に誘われてはじめた国際交流ボランティア活動が原点です。私はもともと“人見知りの典型”みたいな人間で、そもそも組織への興味は薄かったのです。しかし、京都で開催された「ワールドフェスティバル」で数多くの留学生とプロジェクトを成し遂げた経験から、人と人が関わることの面白さを学びました。
学部の交流会や懇親会は何を話せばいいか分からず苦手でしたが、プロジェクト内では共通の話題があるし、役割が与えられるから仕事を通じて周りと打ち解けられる。楽しくてのめり込んでしまい、学生時代に100以上のプロジェクトに携わり、代表を務めたこともありました。
嘉村:そして、多くのプロジェクトを進めていくなかで、メンバーの声を拾ったり、組織の障害を取り除いたりすることが得意だと気付いたんです。僕自身が内向的で、周りの目を気にして生きてきたからかもしれませんが、意見を言いたいのに言いにくそうな人がいればすぐに分かる。
会議において一人ひとりの意見を引き出し、喧々諤々の議論を整理していくことから始まり、組織内で新人が離脱しにくい環境構築などを行いました。
また、親しみの深いメンバー同士は自分たちだけの共通言語を使うから、新しいメンバーが加わったとき、彼らは疎外感を覚えやすい。そういったときに新人が馴染みやすい仕組みを構築することも好きでした。
—— そこから、どのように現在のような活動へとつながっていったのでしょうか。
嘉村:せっかく面白いつながりが生まれても、単発のプロジェクトでは終了後に解散してしまいます。「集まりたいけど集まる理由がない」のがもどかしく、紹介制の町家コミュニティをつくって知人たちを引き合わせていったら、1,000人を超える輪が生まれました。人と人をつなげる仕組みを世の中にも広げていきたいと感じたことが、現在の活動の軸になっています。
—— 嘉村さんのように自分の得手不得手を把握するためには、どういったことを心がけるとよいでしょうか。
嘉村:精神的なハードルをまったく感じず、気軽にこなせる仕事を選択し続けることが大切です。選択に慣れていない人は、苦手なことに正面から立ち向かい、どうにか乗り越えたとしても、完全に克服するのは難しい。おそらく、数十年も続けられないでしょう。
とはいえ、若いうちは最低限のビジネススキルを身に付ける必要があり、苦手な業務から逃れられないことも多いから、苦しい時期だと思います。
—— 嘉村さんご自身は、どういった工夫をされて苦手を乗り越えたのでしょうか。
嘉村:いろんな手立てを打ってみたりもしましたが、うまい工夫ができていたわけではなく、不得手なままでした。しかし、そもそも苦手な領域は伸び率も低いから、誰しもが無理して立ち向かわなければいけないとは思いません。
その分、やれることは全部やる姿勢を貫き、苦手なことで失敗したら素直に謝ることを心がければ良いと思います。たとえ生産性が低かったとしても、それだけで大きな貢献ができる。
—— 自分の得意領域と組織や手がけるプロジェクトとの相性がイマイチだった場合、嘉村さんならどういったアクションを起こされますか。
嘉村:国内外を問わず、とにかく目に入るすべてのことに手を出してみると思います。本業の組織から抜けなくても、趣味や副業として参加できるプロジェクトは多いはずです。僕の感覚では、新しいものに10個触れれば、そのうち1個は面白いしラクにこなせるものが見つかります。
苦手なことに触れ続けると自信がどんどん削られてしまうし、新しいものに触れることすらハードルが高く感じるようになってしまう。しかし、それでもやり続けることが大切です。僕もファシリテーターの道がすぐに拓けたわけではないし、そもそも10年前には「ファシリテーター」という仕事はあまり一般的ではありませんでした。
だから、「営業」や「広報」といった特定の職種に当てはめて考える必要もないと思います。既存の型に押し込むのではなく、自分に合った形を見つけていけば良いのです。僕自身も、この先ファシリテーターの仕事だけを続ける気はありませんし、あらゆる道を探り続けると思います。
—— 欲張りなので、新しいことの見つけ方や、手の出し方も教えていただきたいです(笑)。
そのためには、損得勘定で判断しないことと、人間関係をないがしろにしないことです。僕は友人の活動をサポートするためには金銭関係なく労力を惜しみませんし、相性が良さそうな人同士は積極的に紹介するようにしています。すると、僕が困ったときは周りの人たちも同じように手助けしてくれるし、力を貸してくれそうな人を紹介してくれるんです。
一度出会った縁を一生ものだと考え、すべての人に誠実な接し方をしていれば、自ずと道は開けると思います。
取材後、嘉村さんは「送っていきますよ」と言い、帰路に付き添ってくださいました。取材対象者の方に見送っていただく経験は他になく、驚きを覚えると同時に、嘉村さんが本当に人を大切にする方なのだと身に染みて感じました。
「ナチュラルに失礼だ」と指摘されることも多く救いようのない僕ですが、より一層誠実な対応を心がけ、周囲へのリスペクトを忘れずに日々の仕事へ臨もうと思います。もしかすると、それが自分の得意を見つけ出す一番の近道になるのかもしれません。
㍿モメンタム・ホース所属のライター・フォトグラファー。人に内在するストーリーを紐解くことが仕事です。「僕でもエースになれますか」連載中。