社会人としてのキャリアを歩む上で、プロを目指すのであれば、自分の職業への理解が必須。しかしながら、社会人になるおよそ20年の間に、職業について理解を得る機会はそう多くありません。
社会の第一線で活躍するビジネスパーソンの先輩は、どのような仕事論を持ち、日々の仕事に取り組んでいるのでしょうか。トップランナーの「職業哲学」を紐解き、私たちが、私たちらしく働くためのヒントを探っていきます。
今回編集部が注目したのは、広報・ブランディングに専門性を持つ、SHE株式会社代表取締役社長 中山紗彩さん。
中山さんは、「心から会社(プロダクト)に共感できているかが、広報PRとしてのキャリアを歩む上で重要」だと語ります。
サービス開始から1年間で5,000人の受講生を輩出し、Oggi、BAILA、日経ウーマン、などなど60以上のメディアにも取り上げられている、ミレニアル世代の女性が「好きを仕事にし、熱狂して生きる」という世界観の実現に邁進するプロフェッショナルの「仕事の流儀」に迫ります。
オバラ:昨今、「広報PR」の仕事が注目を浴びているように感じています。以前は、「社内のコストセンター」とみなされ、光の当たらない仕事だったとも書籍で拝見したのですが、一方で「PRは企業やサービスの認知度向上による事業成長に加えて採用強化にも直結する非常に重要な要素」だという意見もあります。
そこで今回、「広報」に専門性をもつ中山さんに、広報という職業についてお伺いさせていただけないかと思っています。
中山紗彩さん(以下、中山さん):私の専門性は「広報・ブランディング」にあると思っていますが、お恥ずかしながら、あくまで自己流で築き上げてきたものです(笑)。なので、「広報」の中でも、王道といわれる仕事の仕方ではないことを前提にお話させてください。
一般的に、“広報PRの仕事=メディア露出”と考えられている方が少なくないと思います。もちろん間違いではありませんが、私は“広報PR=Public Relations=会社と世の中とのコミュニケーション”だと思っています。つまり、メディア露出はあくまで一つの広報PRの手段に過ぎません。
また、現代は誰でも情報を発信できる時代です。ソーシャルメディアがマス化していますし、自社のオウンドメディアや社員のSNSなど、あらゆる発信が誰かの目に止まります。
なので、発信する個人の行動や思想も“Public Relations”を構成する重要な要素になっていると思います。
オバラ:なるほど。つまり、広報PRの仕事とは“Public Relations=会社と世の中とのコミュニケーション”をつくる仕事であり、会社に所属するメンバーの行動や思想を、ある意味「統一」することも広報PRの役割であると。
中山さん:「統一」と表現するのが正しいかは分かりませんが、会社が大切にしたいビジョンやバリューなどがしっかりと社会に伝わる設計をし、そこに共感する人を募ることが大事だと思っています。
最近ではむしろ、メディアへ露出することよりも、思想やサービスへの共感者を増やすことが肝要だとも感じるほどです。
共感してくれる彼・彼女は会社の思想を社会に伝えてくれる伝達者です。その数が増えていくことは、まさしく会社と世の中とのコミュニケーションがうまくいっている状態だと思いますね。
オバラ:ちなみに、中山さんが考える「広報PRが上手い会社」はありますか?
中山さん:個人的に尊敬しているのは、「ポーラ・オルビスホールディングス社」です。何よりも社員さんたちが、会社に対して敬愛や強い想いを持っていて、行動に落ちているし、その想いがしっかりとプロダクトやマーケティングに乗り、世の中に届いています。
上場企業であの社員規模になっても尚、思想が統一されている。広義の意味での“Public Relations”を体現している尊敬の会社だなと思いますね。
オバラ:中山さんのお話を伺っていると、広報PRは、経営サイドに近い仕事なのではないかと感じました。そもそも会社のビジョンやミッションにメンバーが賛同していなければ、中山さんが考える「広報PR」はできません。そうした大上段の設計に携わることができなければ、務まらない仕事なのではないかと思います。
中山さん:広報PRに求められる能力ですが、スキルとスタンスがあると思います。その上で、私が重要だと考えているのはスタンスです。常に“相手視点”で考えるスタンスがなければ、広報PRの仕事は務まりません。
オバラ:詳しくご説明いただけますか?
中山さん:たとえば、外部露出をする際に、「とりあえずメディアで取り上げてください!」といったコミュニケーションを取るのは、最も“イケていない”と思っています。
あくまで相手=編集者視点に立ち、「いいい情報を読者に届けよう」という、一緒にそのメディアを作るくらいの気持ちでコミュニケーションを取るのが大事です。
オバラ:僕はライターに専門性があります。たしかに「とりあえず記事にしてください」という連絡をもらっても、嬉しくありません。どういった切り口で載せようか考えるのにもカロリーを要するので、効果的なアプローチではありませんよね。
中山さん:そうですよね。とにかく、相手の立場に立つことを心がけなければいけません。たとえば、新聞に取り上げてもらいたければ、“相手視点=記者の気持ち”になるのが大切です。
私が広報PRをする際は、媒体に連絡を取る前に、媒体のビジョンや抱えている読者などについて詳しくリサーチをします。提案をする際は、「貴媒体のこの連載に、このような切り口で記事を掲載すると、読者が欲するコンテンツになるのではないでしょうか?」と、自分が記者になりきって考えていますね。
オバラ:“媒体の中の人”になりきるくらいの気持ちが大事…?
中山さん:そう思います。相手の立場に立てば、分かることがたくさんあります。ありふれた情報を提案しても、その記者さんが取り上げるインセンティブにはならないじゃないですか。
記者さんの視点に立てば、書いた記事が読まれ、評価されることが大事だと分かります。だから、「こうした切り口の情報は、まだ過去に出ていません」、「こういったタイトルだと、バズる記事になりそうです」、「20代の女性は、こんなことに悩んでいます」などと、メリットとともに提案をしなければなりません。そうでなければ、誰も幸せになりませんよね。
オバラ:インタビューの冒頭で、社外だけでなく、社内に働きかけることも広報PRの大事な役割だとおっしゃっていました。この役割を全うする上で、大事なスタンスはありますか?
中山さん:すべての職種において通ずることだと思いますが、特に広報PRとしてのキャリアを歩む上では、心から会社(プロダクト)に共感できているかが重要です。
広報PRとは、会社を代表して、社会と接するポジションです。会社やプロダクトが本当にいいものだと思えていなければ、見透かされてしまいます。社内の人間が誇りを持てない会社と、取引をしたくないですよね。
世の中からの評価を気にする前に、まずは自分が会社を愛せるか。プロの広報PRとして仕事をする上で、絶対にクリアすべき点です。くわえて、熱狂できている理由を自分の原体験をベースに語ることができれば、なお良いと思います。
オバラ:たしかに、自分が愛せないサービスを、世の中に伝えることなどできませんよね。経営者以上に、自社やサービスに熱狂できるかが大事だと感じました。ちなみに、広報PRに求められるスキルも教えていただけますか?
中山さん:求められるスキルは、社外と社内のどちらに働きかけるかによって変わります。たとえば社外に向けてプレスリリースを書くなら、編集やライティングのスキルが必要になります。会社のSNSを運用するなら、世の中に求められる情報をキャッチアップする力が求められるでしょう。社内メンバーの発信を支援するなら、自社の「いいところ」に気づいてもらう設計が必要です。
ただ、カウンターパートが変わるだけで、ベースのスタンスは同じ。対峙するカウンターパートがメディア関係者なのか、世の中の生活者なのか、社内のメンバーなのかの違いです。
ターゲットを設定し、ターゲットが求めていることを考え、しっかりと伝わる設計をする。とても難しいことですが、こうした上段の設計をしていくことが、広報PRに一番求められる能力だと思います。
オバラ:中山さんは、以前から広報PRになりたいと考えていたのでしょうか?
中山さん:「素敵な仕事だな」と思っていましたが、自分が適任かといえば、そうではないと感じていました。私は愛想がいいタイプではないので(笑)、向いていないのではないかと。コミュニケーションに長けているわけでもないので、「自分に最適な専門性ではないだろう」と思っていたんです。
オバラ:実際に広報PRの職に就いた経験がない分、イメージが先行していたと。
中山さん:そうですね。でも、今では考えが変わっています。広報PRの仕事は、会社の魅力を世の中、そしてメンバーに伝え、会社の魅力を高めていく「経営のど真ん中」に当たる仕事です。そうでなければ、“表面的なごっこ”で終わってしまいます。そうしたことを経験を通して感じることができ、今ではこの専門性に誇りを持っています。
オバラ:中山さんは以前、教育系スタートアップで執行役員として広報PR部門の立ち上げをされていました。数多くのメディア露出を獲得され、会社(サービス)と世の中の接点をつくり、躍進に貢献されていたと思います。現在は、どのような広報PR戦略を取られているのでしょうか?
中山さん:前職はまだ広報PR未経験で、かつ、新規部署の立ち上げフェーズでした。なので、勢いで押し切ってしまったところがあったと思います。結果的にはサービスの認知度拡大と売上向上になったので良かったのですが、今と以前とでは戦略も変化しています。
現在は、SHEと相性のいいメディアや「この方は共感できるな」と思える編集者・ライターの方に絞って取材掲載お受けをさせていただくようにしているんです。
私たちが掲げるビジョンは、「ひとりひとりが自分にしかない価値を発揮し、熱狂して生きる世の中を作る」。その想いを、届けるべき人たちに届けることを大切にしているので、闇雲にメディアに掲載していただくことをよしとしていません。
同世代の女性たちに、自身の可能性を拡げていく場所を提供したい——その目標を達成することを第一に考えて、そこの文脈で違和感のないメディアを通じて世の中にコミュニケーションをさせていただいているんです。
また、SHEではメディア露出以外のPR広報戦略も多く実施しています。たとえば先日「SHEミレニアル・ウーマンアワード」というアワードを広報PRの文脈で開催しました。
「ひとりひとりが自分にしかない価値を発揮し、熱狂して生きる世の中を生きる」というSHEのビジョンを体現して活躍されている素敵なミレニアルウーマンの皆様の存在を、もっと世の中に伝達していくことがSHEの使命だと考え、表彰させていただいたんです。
オバラ:ツイッターのタイムラインを眺めていると、SHEのレッスンを受講した方たちが、SHEを大切にしているのがよく分かります。こうした“熱狂”が起こっている理由の一つに、広報PR戦略が活きているのかもしれませんね。
中山さん:誇りを持てる会社やメンバー、プロダクトを、熱狂とともに伝えていくことが、広報PRの使命だと思っています。逆をいえば、機能性だけでは差別化できない時代に、いかに企業独自の魅力を伝えられるかが、企業のこれからを左右する。今後ますます、広報PRは尊い仕事になっていくのではないでしょうか。
広報PRに限らず、自社を愛して働ける人材が増えたら、世の中はもっとよくなるのではないかと思っています。なので、SHEでは引き続き、「私らしい働き方」を叶えるサポートを実施していきたいと思っています。