—— はじめに、自己紹介をお願いします。
成田芳文(以下、成田):地盤調査の信頼性を高め、皆さんに安全な住まいを提供するジオサイン株式会社の代表取締役社長・成田芳文です。弊社は、皆さんに安心して住宅を建てていただけるよう、地盤調査のデータ管理システム「G-Web」を開発しています。
—— キャリアについてもお伺いさせてください。成田さんは、もともと経営者になることを志していたのでしょうか?
成田:いえ、まったくです。そもそも、若い頃に明確なキャリアプランを描いたことなんて、一度もありませんでした。
—— 今に至るキャリア変遷について、お伺いさせてください。
成田:高校卒業を控えていた頃、なんとなく「海外に行きたい」と思い、大手電機メーカーに入社しました。それも「この木なんの木」のCMを見て、「この会社に入社すれば、世界に行けるだろう」と思っただけです。
—— その会社では、予定通り海外に…?
成田:それが、仕事をする予定だった派遣先で、湾岸戦争が始まったのです。結局、海外には行けなくなってしまいました。当時の僕にとっては、一つの挫折ですね。
その際、命からがら逃げ出してくる先輩たちを見て「人生って儚いんだな」と、若いながらに悟ったんです。そして「どうせ短い一生なら、自分の好きなことをやろう」と思い、格闘家に転身しました。
—— か、格闘家……ですか?
成田:キックボクサーになったんですよね。しかも、プロのリングにも上がっています。
—— とてつもないキャリアチェンジですね。いつから、再びビジネスの道に戻られたのでしょうか。
成田:当時通っていた空手道場のオーナーが、シロアリ駆除の会社を経営していたんです。彼から、「やりたいことがあるなら、色々やってみればいいよ」と言っていただき、新規事業の立ち上げをやらせていただくことになりました。これが、再びビジネスの道に戻ったきっかけです。
そこでスタートした新規事業が、ジオサインの親会社である「サムシングホールディングス」の前身、株式会社サムシングになっています。
—— 人生は何が起こるかわからないですね。偶然の出会いもあったとは思いますが、最終的にこの仕事に辿り着いたのは、何かやりがいを感じたからですよね…?
成田:もちろんです。実は、住宅を建設する際の地盤調査が義務化されたのはここ20年くらいの話。1995年頃は、まだ法律が整備されていませんでした。
建築現場も同様です。建設現場に赴く度に、あまりにも杜撰な安全管理に「これはひどい」と感じる日々を過ごしていました。
そんな矢先、とうとう建設現場で死亡事故が起きてしまったんです。
—— 詳しく教えていただけますか?
成田:真夏の炎天下の中、ヘルメットも被らず、セメントの入った40kgの袋(現在は25kg)をドラム缶に入れて混ぜる作業をしていたおじいさんが、熱中症で亡くなってしまいました。
この事件を知り「今の日本でもこんな過酷な労働環境が存在して、人が亡くなってしまうんだ」と強いショックを受けたんです。
また、亡くなられた方の勤め先も労災認定を受けてしまって。「建設会社と労働者双方のために、是正策を考えなくてはいけない」と強い使命感を感じ、「G-Web」の開発を始めました。それが20代前半のことです。
—— では、「海外に行きたい」と漠然とした目標を持っていた10代の頃から、目の前のことに夢中で取り組んでいるうちに、人生の転機となる出会いが訪れた。そこに、実際に働いた経験から職業観が研ぎ澄まされた、と。
成田:そうです。今の僕にとって仕事の定義は「現場で困っている人が抱えている潜在的なニーズをクリアしていくこと」です。本当に困っている人たちの願いを聞き入れ、その解決過程で我々も利益を出させていただくことが、仕事の本質だと思っています。
—— 働く現場で目にした課題の解決が、創業の原点だったわけですね。
成田:おっしゃる通りです。当社設立の具体的なきっかけは、建設会社が分譲マンションの鉄筋を一部改ざんした「姉歯事件」。この事件を機に、不信感が募ってしまった土木・建設業界の信頼を取り戻そうと、地盤調査領域で上場していたサムシングホールディングス、兼松サステック、オリックス、そして当時僕が経営していた株式会社アライブが共同出資し、誕生したのがジオサインです。
弊社は、業界初、地下の情報をインターネットによって可視化し、さらにそのデータを暗号化してクラウドで管理する「G-Web」を開発したことで、調査結果の改ざんを防ぐことに貢献しています。
—— 地盤調査業界にテクノロジーを取り入れた第一人者というわけですね。
成田:正確にいえば、元々人の手でやっていた試験や記録を機械化する流れはあったのですが、「G-Web」開発以前は「データの管理」はまだ人力で行っていたんです。
当時の調査員は、朝6時に出社し、19時まで現場で地盤調査の仕事をし、事務所に帰って調査で得たデータを基に報告書をまとめ、帰宅するのが23時。データの改ざんを防ぐ目的だけでなく「このままでは労働者が疲弊していき、業界が人員不足になってしまう」と危機感を抱いたこともあり、データ管理の機械化を始めました。
今は日本における年間で40万戸の戸建て住宅のうち10万戸、累計では約50万戸のデータを弊社がお預かりしています。
—— そんなにたくさんの顧客を抱えていらっしゃるんですね!しかし、今年の4月時点では従業員が12名の状態だったとお聞きしています。たったそれだけの人数でここまでサービスを急成長させることができたのは、なぜでしょうか。
成田:創業当時から、高い目標を掲げ、その目標に合わせて社員がきちんと成長してくれたことが最大の要因です。
弊社の社員は平均年齢が30歳と非常に若いですが、事業計画は全て自分たちで作ることになっています。大きな裁量を持たせることで、成長角度を上げる狙いです。そうやって社員を教育する上で、僕はよく「今の環境や手持ちの札の中での最大限」を考えるように指導しています。だから逆に、売上が上がりすぎると僕は怒ります。誰かが無理をして“最大限”を超えてしまっている可能性があるからです。
大切なのは目の前の売上を増やすことではなく「ターゲット」や「市場変化」など外部要因、「自社の強み」といった内部要因の理解。使うべきは体ではなく頭です。会社が成長するためには、社員それぞれが「考える力」を成長させなくてはいけません。そして、社員が「考える」環境を作るのは経営陣の仕事だと思っています。
—— 御社は、社員の教育に力を入れておられるのですね。成田さんは「目の前のことに夢中で取り組んでいるうちに人生の転機となる出会いが訪れた」そうですが、学生の中には「やりたいことが見つからない」と、行動することをためらってしまう人が多いと聞きます。
成田:“若者あるある”ですよね。弊社のインターン生も「自分のやりたいことが見つからない」、「自分の個性はなんだろう」と悩んでいます。でも、仕事観は実際に働いてから身に付くもの。だからこそ、不安があるのなら、まずはそのときにできることに精一杯取り組むべきです。特にこれから就活を控えている学生さんは、今から「失敗しない選択肢」を考えるべきではない。
私だって、今までにたくさん失敗や挫折を味わってきました。ただその経験は、決して無駄になっていません。
—— そう考えると、実際に働く経験ができる長期インターンは、職業観を身に付ける上で、有効な手段になりそうです。
成田:そう思います。弊社ではインターン生と月に1回、3か月に1回、半年に1回の頻度で個人面談とフィードバックを行っています。はじめは頼りなかった彼らが、次第に自分で目標を設定するようになり、メキメキ成長していく姿を見ていると「経験」の重要性を感じます。まずは目の前の機会に飛び込み、経験を重ねることで、やりたいことに悩む不毛な時間を有益な時間に変えていけます。
その変化に関しては、インターン生を指導している弊社の中村が詳しいと思います。
中村洋幸(以下、中村):現在弊社でインターンをしている学生の多くは、入社時は「授業でプログラミングをかじった」程度でした。ですが、最近は僕が頼んだ仕事に対して、自分で調べて「この機能を実装しませんか」と提案してくれたりするなど、日に日に成長しているように思います。
—— やはり、授業で習うのと実際の開発現場で開発をしてみるのとでは、全く異なるんですね。
中村:学校の授業は、先生に言われた通りにソースコードを習って書く“作業”です。自分で「この機能を実装したい」と考える機会はほぼないので、自走する力が身につきにくい。
また、1人で開発をするのとは違い、実際の現場では、他人にもわかるようにソースコードを書くことが求められます。「チームとしての仕事」を意識しなくてはいけません。単にプログラミングの能力が上がるだけでなく、組織の一部としての働き方を覚えることは、彼らにとって貴重な経験だと思います。
成田:最初は皆自信を持ってインターンに参加するんですが、実際のソースコードを見て「こんなに長いんですか」、「こんなに複雑なんですか」と、怖気づいていますね(笑)。
だからこそ、入ってすぐにあれこれ頼むのではなく、まずはその子の力量を見極めてから、適切な教育を施してあげる。基本を学ぶためのテキストを渡し、「何日までに何章までやってきなさい」と課題を与え、それができたら次のテキストを与える。すると、サンプルを自分で書き、自分で書いたソースを実装できるようになるのです。
—— インターン生には、しっかりと機会を与えることを意識されているんですね。
成田:そうですね。また、教えるだけでなく、私たちもインターン生と一緒に成長していきたいと思っています。
志すものが同じであれば、インターン生も社員と同じように扱います。もし、まだ志すものが見つからないのであれば、一緒に仕事をしていくなかで見つけていってくれればいい、と思っています。
先ほどもお話ししましたが、インターン生くらいの年齢の人が、将来に悩むのは当たり前なんです。学生のニーズは、弊社での仕事を通して「社会とは何か」、「自分のやりたいこと」を見つけることであるし、それが彼らがここに来るべき理由です。色々な経験をして、酸いも甘いも知ってほしい。長期インターンは、学生が社会を知るための環境を提供する場であるべきだと思います。
—— そう考えると、インターンに参加する際は「やりたいことが決まっているかどうか」よりも「色々なことに興味を持てるかどうか」が大切なのかもしれませんね。
成田:何にも興味を持てなければ、仕事を好きになれず、成長機会を失います。だから、好き嫌いせず、まずは何にでも興味を持ってみることが大事です。
ジオサインは、「やりたいことは見つからないけど、さまざまな経験を通して、自分の進路を見定めたい」と考えている学生を歓迎しています。悩みながらも、ぐんぐん成長していく学生を見ていると、自分の子供のように思えて可愛くて仕方ないんですよね(笑)。悩める学生にこそ、「自分探し」の環境として、弊社を選択していただきたいです!
今の若い子は「自己実現」だとか、格好良い言葉に拘る傾向にありますが、人生経験も浅く、生き方も決まっていないのに「何を実現したいか」なんて分からなくて当たり前だと思います。