各界のトップランナーを招き、学生と講師がインタラクティブに意見を交わし合う実践的な授業で人気を集める法政大学キャリアデザイン学部・田中研之輔教授。大学内の学びに止まることなく、就活や卒業後のキャリアを実践的に結ぶ教育メソッドにより、法政大学ベストティーチャー賞を受賞されています。
本レポートは、11月14日に行われた田中教授のゼミの様子です。ゲストには、NewsPicks編集長・佐藤留美さんが招待されました。佐藤さんは今夏、『仕事2.0 人生100年時代の変身力』を上梓。本書では、「目まぐるしく変化する時代を生き抜くためのキャリア形成術」について語られています。
授業を企画するのは、法政大学キャリアデザイン学部に在籍する学生たち。法政大学からは今後のキャリアを考える大学1年生〜すでに内定を獲得している大学4年生が、そして、キャリアに強い関心を持つ高校生2名が参加しました。
佐藤さんは、これから社会に出る学生たちに何を伝えるのか。——100分間に及んだ、「白熱教室」の様子をダイジェスト形式でお届けします。
講義の口火を切ったのは、NewsPicksでも度々話題に上がる「プロ学生」について。プロ学生が登場し、変化する新卒市場の現状から、授業が始まります。
佐藤 「日本の就活は、自頭とポテンシャルを問われる『ポテンシャル就活』が主流です。しかし、様子が変化してきています。具体的に社名を挙げると、メルカリやサイバーエージェント、ソフトバンクなどのメガベンチャー企業が採用のスタイルを改めはじめました。
というのも、理系学生を中心に『プロ学生』が誕生しているからです。プロ学生は、月に数百万円以上を稼ぐスキルを持っています。学生の中でもとりわけ優秀な彼らに、月20万円程度の給与を提示したところで、採用できるはずがありません。
そこで、一律初任給を廃止し、新卒一括採用をやめ、従来の規則に縛られない柔軟な採用活動を開始しているのです。魅力的な条件を提示し、プロ学生の採用に力を入れています」
佐藤さんの話を受け、学生からは「選ばれた一部の学生が“プロ”と呼ばれるにふさわしいと感じます」との声が上がりました。
続けて、「たとえばですが、私たち文系学生が、“プロ学生”と対峙するのはどのような準備をすれば良いのでしょうか」と問いかけます。
佐藤 「『周辺業務を知ること』が大事です。記事一つを公開するにしても、さまざまな周辺業務が重なっています。SNSから記事に流入させるための動画クリエイターがいたり、記事に掲載する写真を加工するデザイナーがいたり。そうした周辺業務まで遂行できる人材は非常に高い価値を持ちます。まずは自分のコアとなる能力やスキルを育て、そこから周辺スキルを磨くのがおすすめです。
また佐藤さんは、プロ学生と対等な能力を身につけるには、「兎にも角にもレベルの高い場所へアクセスすることが大事」だと語ります。
佐藤 「私から見て、学生の皆さんは『礼儀正しすぎる』と思います。たとえば就職活動をする際も、オープンな募集をしていない企業には連絡をしませんよね。ですが、興味があるなら門を叩くべきです。
弊社には、新卒採用を行なっていないのにも関わらず、コーポレートサイトのインフォメーションlから問い合わせをしてきた学生がいました。そのことがきっかけで採用され、今では大活躍しています。
企業からすれば、そうした意欲ある学生を、無下に扱おうとは思いません。だから、やりたいことがあれば、まずは『どうしたらアクセスできるか』を考えましょう。やりたいと思ったら、基本インフォです(笑)」
続いて学生から、佐藤さんのキャリアについて質問がありました。
佐藤さんは、佐藤さんが大好きなことである「書くこと」をそのまま職業にしています。これから社会に出る学生たちに向け、「好きを仕事にする」ための極意について、次のようなメッセージを伝えました。
佐藤 「私はとてもわがままなので、好きなこと以外はしたくないんです。私は40歳でNewsPicksにジョインしています。その以前は、自分で会社を経営していました。やりたいことを仕事にしていたいので、『会社員かフリーか』といった二元論で考えず、自由にキャリアを行き来してきたわけです。
ただ、その過程には、もちろんやりたくないことも経験しています。依頼された仕事を全て受けていたので、“エロから株まで全部書く”と言われるくらいでした。最初は食わず嫌いをせず、なんでもやってみたんです。すると面白いことに、あるとき自分の好きな領域だけで食べていけるときやってきました。
つまり、専門性はいつしか勝手にできるものだと思っています。そのときがくるまでは、『まずやってみる』。その過程があったからこそ、「書く」「人に会う」という自分の好きなことを仕事にでき、キャリアという自分の最も興味がある領域に携わることができているのです。
目の前にあることに熱心に取り組むから、好きな仕事にたどり着ける。熱中すれば、成果がでる。成果が出れば、認知され、また仕事がくる。いつか、このサイクルにたどり着けると思います」
授業も終盤に差し掛かり、就職活動を控える学生に向け、「活躍するための組織選び」についてお話がありました。
佐藤さんが所属するUZABASE(NewsPicksの親会社)には、「自由と責任を両輪で考える」文化があります。そうした文化を象徴するのが、「スーパーフレックス制度」です。
UZABASEには、出社の義務がありません。自分の生産性を上げるためであれば、いつ・どこで仕事をしてもいいのだそう。また、年齢や入社年度にかかわらず、大きな権限を持つことが可能なのだといいます。
つまり、「打席に立てる回数」が多く、成長速度が非常に早い。個人としての能力が今まで以上に重要視される時代だからこそ、自分の価値を極限まで高められる場所に身を置くのが大事だと、佐藤さんは語ります。
佐藤 「若い世代が働く上で、『権限を持たせてもらえる』ということは、非常に重要です。上司のフィードバックを待っている時間は、とにかく無駄だと思います。たとえば、『課長の許可があっても、部長の許可が必要で、一つの仕事を始めるのにも時間がかかる』ような古い組織では、なかなか打席が回ってきません。なので、『いかに決裁権が持てるか』を考えながら、所属する組織を選んでもいいと思います。
本レポートの最後に、佐藤さんから学生に送られたメッセージを紹介します。
佐藤 「本の帯に『一つの会社で一生を終えることはもはや不可能』と記載していますが、一つの会社にロイヤリティを持って勤め上げることは、幸せなことです。私がこの本で伝えたいことは、『会社が自分を助けてくれると勘違いしてはいけない』ということです。
『大手企業=安定』という考えを持っている人もいるかもしれませんが、会社が自分の人生を守ってくれることはありません。むしろ、大手企業を目指す人ほど、自走できる人間を目指してほしい。
なぜなら、自走できる力を持った人材が、次々にスタートアップ企業へと流れているからです。「安定した人生を送りたいので、大手企業にいきたいです」といった考えの人材は、もう内定をもらうことは難しい。彼らは、ゼロからイチを生み出せる能力を求めています。
逆にいうと、そうした能力さえあれば、安定した人生を送ることができます。『会社に身を預けるのではなく、自立するんだ』という考えを持って、これからの人生を歩んでいただければと思います」
大学院で社会学を専攻し、「集団と組織のエスノグラフィ」について学ぶ。その後、オーストラリアのメルボルン大学にて「若者文化とエスノグラフィ」について研究する。客員研究員として2年間在籍した後、カリフォルニア大学バークレー校に拠点を移す。2008年に法政大学に着任。着任した当時から所属しているキャリアデザイン学部では、大学生から社会人への移行にフォーカスをあて、2009年から独自の授業「キャリアヒストリーアーカイブ」を開講。著書に『先生は教えてくれない大学のトリセツ』、『先生は教えてくれない就活のトリセツ』など。