サークル合宿や友達とのドライブなど、学生生活の楽しいイベントの側には、車を利用するシーンがたくさんあります。しかし、楽しさのすぐ近くには、危険も伴います。警察庁が発表するデータによれば、年間3,500人以上の方が交通事故により命を落としているのだそうです。
安心・安全な車社会の実現を目指すアクサダイレクトは、こうした現状を変えるべく、テクノロジーの力でリスクを可視化し、事故ゼロ、渋滞ゼロのクルマ社会づくりに貢献する『MIRAI DRIVE PROJECT』を行なっています。
先日9月29日(土)と9月30日(日)の2日間にわたり、同プロジェクトの一環として、「何気ない日常に起きうるリスク」から身を守るためのアイディアを競うハッカソン『Hack for Safety』が、開催されました。学生に提示されたテーマは「10年後の未来の生活で起きうる生活に身近なリスクとその回避策」、「10年後の未来の交通環境で起きるリスクとその回避策」のふたつです。co-media編集部では、この『Hack for Safety』に密着取材を敢行しました。
ハッカソンは、大手企業のオープンイノベーション手法としても用いられるアイディアや成果を競い合う開発イベントです。ハッカソンを機にビジネスが生まれたり、それをきっかけに会社が立ち上がるケースも珍しくありません。
今回のハッカソンに参加した学生は、いずれも美術系大学・専門学校に所属するメンバー。学年も1〜4年生までさまざまで、専攻する学問も異なります。
学生独自の柔らかく豊かな感性がかけ合わさることで、「未来の安全」を守る斬新なアイディアは生まれたのでしょうか? 多摩美術大学、東洋美術大学、京都精華大学、デジタルハリウッド東京本校に所属し、日々クリエイティビティを磨く学生たちが、スピーディーにアイディアを競い合った様子をダイジェストでお届けします。
ハッカソンのファシリテーターを務める青木トモさんは、優れたアイディアを生み出すためのコツを「質より量」だと語ります。「たくさんのアイディアが出ることが何よりも大事なので、アイディアの良し悪しをその場で検討する必要はない」とのこと。
青木さん「たくさんのアイディアを出すためには、話し手が『どんな発言をしても、大丈夫だ』と安心できる場所を作らなくてはいけません。なので、批判は一切なしにしましょう。聞き手は『傾聴力』を持ち、発言者に寄り添うことを心がけてください」
ハッカソンにおける重要なルールが説明された後、最初のプログラム「アイディアワーク」がスタートしました。まず最初はブレインストーミング。ハッカソンのお題である「10年後の未来の生活で起きうる生活に身近なリスクとその回避策」、「10年後の未来の交通環境で起きるリスクとその回避策」のテーマに紐づく単語をメモしていきます。
机の上には、色とりどりの付箋に書かれた参加者の個性光るワードたちが、山積みになっていきました。
ブレインストーミングの次に行われたのは、付箋に書き込んだキーワードから連想される「日常生活における様々なリスク」と「その回避方法」をシートに列挙していく「ブレインライティング」。
シートはグループの人数分配布されていて、5分おきにローテーションしていきます。自分以外のアイディアに目を通すことで発想を刺激し、新たなアイディアを生み出していくことが目的です。
ローテーションが終わると、出たアイディアの中から優れたものをピックアップしていきます。メンバーそれぞれが工夫を凝らしたアイディアの中から、実際にプロトタイプを作成するための最後の準備です。
アイディアを「他人が見ても一目でわかる」スケッチに描き、発想をプロダクトに落とし込んでいく段階です。付箋いっぱいに書かれたキーワードが、いよいよ形になっていきます。学生たちの頭に浮かんでいた「未来の安全を守る」アイディアは、どのようにしてプロダクトへと姿を変えていくのでしょうか?
複数あるアイディスケッチの中から、プロダクトの方針となるアイディアを選んだら、いよいよ「UX/UI設計」に入ります。まずはUX設計のため「体験スケッチボード」と呼ばれる、ユーザーの行動や思考を段階的に分析するワークシートを埋めていきます。
ここで、青木さんは「UX設計では、ユーザー目線のサービスを作ることを忘れてはいけない」ことを強調していました。ユーザーのテンションが“グッと上がる”ポイントを絶対に入れることが大切だそうです。
続くUI設計では、体験スケッチボードの中で機能的に一番面白いと思う「アクト」を選びます。いよいよ始まるプロトタイプに向けて、自分たちが制作するサービスを決定する大切な作業です。
なかには、この段階に入り「自分たちの作るサービスは本当にこれで良いのか」と迷い始めるグループもありました。そんなグループに向けて、青木氏はキッパリと「これでいこう、と決めたあとの掘り返し議論は無意味です」とアドバイス。とにかく短い時間の中での開発なので、不安な気持ちもありますが、短い時間だからこそ、一度決めたことに向かって直進することが大切なのだそうです。
そして9/29(土)17時45分、いよいよプロトタイプ開始の合図が響きました。制作期限は、翌日の9/30(日)の午後13:00。合計の制作時間が5時間だけとあって、開始直後から作業に没頭している様子です。
短い時間の中で効率よく作業を進めるため、多くのグループが、まずは「どんな役割が必要なのか」「誰がどの役割をやるのか」の役割分担から始めていきます。
1日目の終了時刻19時50分まで、若狭正生さん、やまざきはるきさんの豪華なメンター2名を交えながら、各チーム真剣な様子で開発活動が行われました。
多くの参加学生が「普段は関わることのないUXデザイナーにアドバイスをいただいたことで、新たな視点を得ることができた」とコメントしてくれました。
2日目、9/30(日)は午前10時から開始です。開始時刻には、すでにほとんどの学生が集まっており、黙々と作業に取り掛かっていました。
残り時間が2時間ほどになると、事前に提供されていた「Nintendo Labo」、「MESH」などのUIを使用するグループも出てきます。時間の経過と共に、各グループの個性が出てきました。
そして迎えた終了時刻、午後13時ちょうど。参加者の皆さんは3時間休むことなく、また、前日と合わせて計5時間、頭も手も動かし続けていました。クリエイティビティの限りを尽くし生まれたプロダクトは、以下の5つの審査基準によって審査されます。
また、審査は「プレゼンテーション」と「タッチ&トライ」によって行われます。5分間のプレゼンテーションを聞き、審査員との質疑応答をした後、実際にプロダクトに触れることができる仕組みです。
発表後、審査員の皆さんは「どのチームも本当に5時間で作ったとは思えない」と感嘆の声を漏らしていました。審査員の一人である二見直樹さんは、今回のハッカソンについてこのようにコメントしています。
二見さん「5時間という短い時間で開発に取り組むスピード感と、その分かりやすさに驚きました。5分間の発表のなかに、昨日と今日で皆さんが取り組んできたことを全て見ることができました。
皆さんの発表を聞いて『我々保険会社は、日常のリスクを軽減することに日々尽力してはいるものの、機能面に特化しすぎている』と気づきました。見ていて楽しく、新しい発見があったハッカソンでした」
たった二日間で構想したとは思えないレベルの高いアイディアの数々に、審査員の方達は驚きを隠せなかったようです。
ちなみに、最優秀賞を受賞したのは「AXA TOWN」を構想した京都精華大学、AXA DIRECT賞を受賞したのは「KURUMATCH」を発表した東洋美術学校です。
両学校に共通していたのは、プレゼンテーションのレベルが非常に高かったこと。感情に呼びかけるトークスキルで会場の視線を釘付けにしたことが、受賞の要因の一つになっているようです。
また、最優秀賞を受賞した京都精華大学は、「コンセプトメイクから制作、落とし込みがプロレベル」との評価。「群をぬいて総合的に面白かった」、「採用したいくらい優秀な学生だと感じた」とのコメントもあったほどです。ハッカソンという舞台で、理想的な未来を描き、未来をしっかりとプロダクトに落とし込む技術が光りました。
こうして、2日間にわたるハッカソン『Hack for Safety』が幕を閉じました。
実際に参加学生の間に入り、開発の様子を間近で見ていたメンターの若狭さんは、ハッカソンの様子を以下のように語ってくれました。
若狭さん「通常のハッカソンだと、ディテールにまで気が回っていないと感じることが多いのですが、どのチームもディテールをしっかり積み上げていた点に“デザインを勉強している学生”らしさが表れていたように思います」
また、審査員のひとりであるアクサ損保保険株式会社取締役の齋藤貴之さんは『美術系学校に通う学生』とのハッカソンを終えて、このようにおっしゃっています。
斎藤さん「5時間でこれだけのプロダクトを完成させたことは本当に素晴らしいことだと思います。皆さんの発表を通して『感情に訴えること』が大切だと感じました。サービスには、使った時に『面白い』、『楽しい』と思える要素がないといけないですね。今後は、美術系の学生である皆さんのように、頭の柔らかい人たちとビジネスを進めていくことが必要かもしれません」
このように、メンターと審査員の双方から「美術系の学校に通う学生ならで”の良さがあった」というコメントが寄せられました。
デジタルハリウッド東京本校チームが、自チームで制作した完成を高めるサービス「EMO LAB」の説明部分でも触れていましたが、これから先はAIやロボットに、今まで人間がしていた仕事を代替されるといわれています。しかし、だからこそ人間の発想や感性を必要とする仕事はずっと続いていくいいますよね。
今回はそんな時代を見据えたハッカソンであり、それゆえの難しさがあったようです。参加学生の多くが「私たちは未来人ではないので、プロダクトを作る際、どうしてもリスクや常識を現在の視点から考えてしまうんです。いかに想像力を掻き立てて10年後の未来を考えることができるかが非常に大切だと感じました」と述べていたこからも、難しさが伝わってきました。
柔軟な思考を持つ美術系学生を集め、めざましく変わっていく今の時代に10年後を見据えたサービス開発を行う『Hack for Safety』は、これから先の時代のモデルケースとも言えるのではないでしょうか。
「何気ない日常に起こるリスクを防ぐ」ーー。その一環として、テクノロジーの力でリスクを可視化し、事故ゼロ、渋滞ゼロのクルマ社会を目指す。アクサ損害保険株式会社が展開する『MIRAI DRIVE PROJECT』はこの使命を果たすため、また、そのための人材を育成するために、これからも続きます。