「就活ルール廃止」をきっかけに、もういい加減、本音で語りましょうよ。

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本記事は、法政大学・田中研之輔教授の「note」からの転載記事です。


経団連中西会長が「就活ルール廃止」を正式に発表しました。具体的なスケジュールとしては、* 2021年度以降に入社する学生を対象とする採用選考に関する指針を策定しないことが表明されました。


この決定により真っ先に上がるのが、「就活が早期化して、学業がおろそかになる」という反発です。この反発は、もっともらしく聞こえますね。


というのも、経団連が採用開始時期を決めないなら、新卒人材の早期争奪戦が加熱し、大学生側からみると、2年生や、入学直後の1年生から就活を始めなければ内定を獲得できない。だから、学業なんてやっている暇がないと考えてしまうからですね。


いいですか、皆さん、もういい加減、本音で語りましょうよ。今後の日本社会のために。

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「就活があるから、学業がおろそかになる」



これって、本当ですか? これを裏付けるには、少なくとも、


・「就活がないなら、学業がおろそかにならない」

・「採用ルールがあれば、学業がおろそかにならない」


この二つが立証されなければなりません。


私は9つの大学でこれまで10年間、5000名を越える大学生、就活生と接してきました。その私の経験的データをもとに、はっきりと言えることがあります。


それは、「就活と学業」を二項対立的に考えることそれ自体が、最大の過ちであるということなのです。



就活を通して学びの大切さや深みを実感し、内定後から卒業までの間に、ギアが三段階ぐらい上がり、ところん学業に打ち込む学生をみてきました。


インターン生として、企業で働く中で、知識不足を痛感し、毎週のように本を読み漁るようになった学生も何人もいます。


つまり、「就活があるから、学業がおろそかになる」のは、「根拠のないデタラメ」なのです。もし、学業をおろそかにしているのであれば、それは就活がある/ないに関係になく、おろそかにしているだけです。学んでいないだけです。


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私が大学の現場でみてきたことは、「就活と学業は、どちらかに打ち込めば、どちらかがおろそかになるというような二項対立的な関係なのではなくて、就活を通じて学業の大切さを痛感し、学業を深めることで働くことも考え直すというような相互補完的な関係」にあるはずなのです。


働く現場で学びが必要なこと。急激に変化する社会の中で、自分自身のこれまでの経験や知識では対応しきれない変化に対応するために、大学院、研究会、勉強会、サロン等で、むさぼり学んでいる社会人の方々は、「働くこと」と「学ぶこと」の<仲の良さ>を知ってるいるのですよね。私も、学び続けています。



やや脱線したので、話を戻します。私は「就活ルール廃止」に賛成します。「就活ルール廃止」を契機に、もっと大切なことを考え抜かなければなりません。


① 大学での学業は、激しい変化をともなう人生100年時代を生き抜くための「アップデート脳」の土台作りとして不可欠である。

② 「就活ルール」廃止による「新卒一括採用」から「通年採用」or 「新卒採用」への移行は、「就活と学業」との相互補完的な<健全>な関係性構築の契機となる。



ということです。大学生のみんなにも、本音のメッセージを送っておきますね。




「焦るな」「安売りするな」ということです。




いいですか、人生100年です。22歳での「内定」は、大した意味を持ちません。それよりも、「どんな風に働いて生きたいのか」、「働くことで何を実現したいのか」「働くことで社会にどんな貢献をもたらしたいのか」をじっくり考えてみましょう。




「それを実現できる企業はどこなのか」



「内定」に翻弄されることなく、もっと、じっくりと、そして自信を持って、大学生活を謳歌しましょう。しっかりとした「アップデート脳」を構築し、社会の変化に対応するしなやかさを身につけて行けば、企業は間違いなく、そんなあなたを「採用」します。




25歳でも、30歳になったとしても、あなたを欲しがるでしょう。




では、企業の人事の方へ




学生獲得競争より、もっと大切なことを一緒に考えてみませんか。この国を担う次世代を雇うことの意義は、彼ら・彼女らの力を最大限に伸ばし、それらが集合的な力となって、企業を盛り上げ、そしてこの国を盛り上げていく。そこに社会人としての背中をみせてください。




早期採用の争奪戦に汗をかくなら、力をかしてください。大学の4年間で、「どんな学びが必要なのか」をそのリアルを伝えて欲しいのです。




「この学生いいな、うちの会社にきて欲しいな?」と思うのは人事担当者なら当然なことですよね。




でも、結果的に、その学生が起業したり、ほかの会社に就職しても、いいじゃないですか。あなたが力をかしてくれたその学生が成長した証なのです。そしてさらに成長して、あなたがいらっしゃる企業に転職してくるかもしれませんし、会社は違えど、事業を一緒に作り出すこともあるでしょう。




「採用ルール」廃止をきっかけに考えるべきことは、「内定」というたった一時期の「契約」をめぐり、消耗し合うのではなく、人生100年時代のより豊かな社会を構築していく。そのための基礎づくりとして、大学と企業が、本格的に協力しあい、次世代を育てていく。




この極めて<健全な関係>の構築です。




もちろん、一筋縄ではいきませんよ。




現行の新卒一括採用では、大学3年の後期から大学4年生の前期にかけて、学生が就活を理由に「欠席」しがちになります。「大学の講義に参加すること=学業」だと捉えるならば、「おろそかになる」時期が集中するのが現状です。




<健全な関係>という理想を掲げても、企業は「採用」活動はしなければなりません。大学は平日講義があるので、休日に採用活動を行ってください。というのも、迷惑な話ですよね。休日出勤をする社員が増えて、ご家族に負担がかかるというのも、おかしな話です。




大学側でもやるべきことは、あるはずです。これから考え抜き、行動に移していきます。




さて、ここで再び、冒頭の定例記者会見の要旨を見てみますね。そこには「就活ルール廃止」を決めた経団連の会長・副会長会議では「日本の現状を見れば、何らかのルールが必要ではあるものの、経団連がルールづくりをしてきたことに抵抗感があるというのが、ほとんどの副会長の認識であった。」と記されています。


さらに、続きがあります。


定例記者会見における中西会長発言要旨



「今後の議論において重要なことは、大学の教育の質を高めることである。学生の学修時間が世界的に見て不十分との認識をもっており、<略>大学教育に関する本質的な議論をしたい。」


「他方、企業側にも反省点はある。すでに多くの企業が新卒一括採用のみならず、中途採用などを行っているが、学生にどのような勉強をしてほしいのか、入社後のキャリア形成をどう用意しているのか、などといった具体的な事柄について、これまで企業から社会全体に十分に伝えてこなかった。今後の採用のあり方についても議論していきたい。」


賛成です。


とことん、議論しましょう。ルールは元来、人々の行動を統制し秩序づけますが、それによって変化ではなく固定や停滞をも生み出します。


この「就活ルール」廃止は、これまでの遺産との決別表明です。だからと言って、では「新しいルール」を作りましょう。というのでは、また、「新卒採用」は人材獲得争奪の堂々巡りに陥ります。


ITプラットフォームが充実化し、パラレルキャリア、マルチキャリア、プロティアンキャリア等、働き方も多様かつ重層的になった今、この社会の変化に、「新卒採用」も<ようやく>対応していくことができるタイミングを迎えたのです。


目先の(自社だけの)利益を語るのでなく、この先のより望ましい社会の姿をみていきたいものです。


この国を担っていく次世代の輩出に、本当に必要なことを、徹底的に尽きつめ、勇気を持って「創造的破壊」を生み出していきましょう。


このような機会で、お話できるのが楽しみです!


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語る場があれば、どこでもまいります。下記の書籍を書いています。ちなみに、就活関連の私の持論は、『先生は教えてくれない就活のトリセツ』(ちくまぷりまー 新書)にまとめました。


”学生とキャリア”の最前線 法政大学キャリアデザイン学部、田中教授が考える 社会で躍動するためのはじめの一歩とは?

田中研之輔:著書リスト

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