こんにちは、Misatoです。
「フツーな私が国連職員になるために」というタイトルで3年以上連載をしてきましたが、この度新卒でコンサルティング会社に入社することになりました。
これだけ周りに「国連に行きたい」「世界で一番困っている人のために働く」と言いふらしてきた私ですから、「え?新卒で国連にいかないの?」と、それはもう数えきれないほど聞かれました。
まず前提として、国連で働くことは最終ゴールではなく通過点です。それらの経験を含め、最終的に「世界で一番困っている人の世界を変える仕組みを作る」ことが私の目標です。
また、通過点としている国連への就職は、エントリーポストであっても必ず職務経験を求められるため、どのみちファーストキャリアでは実現することができません。
しかし、NGOに新卒入社する、海外青年協力隊に行く、もしくは起業するなど、新卒の段階から国際協力関連の道へ進むことが全くできないわけではありません。
そんななかで、あえて経営コンサルタントの道を選択したわけですが、長期的に見れば、きっとこれが私の目標に近づくための、今の私にとっての最適解だと思っています。
なぜなら、まずは自分のやりたいことを実現するために必要な、問題解決のための「能力」・「知識」を獲得した方が、最終的には遠くまで行けると信じているからです。
世界で一番困っている人の世界を変える仕組みを作る、そのために必要なスキルのうち、重要なものは“問題解決能力”だと思います。問題解決能力とは、ざっくり言えば、問題の構造を分析し、ボトルネックとなるイシューを特定し、仮説を構築・検証し、最適な解決策を立案する能力。そしてそれを説得的に提示するコミュニケーション能力であり、実行するために人を動かすリーダーシップでもある。つまり、総合的な能力です。
この問題解決能力は、新卒で国際協力のキャリアを選択しようと、あるいは戦略コンサルタントになろうと、ある程度身に付くものだと思います。ビジネスと国際協力では、扱う問題が異なる部分もありますが、「問題を分析し、イシューを特定し、仮説を立て、検証し、解決策を立案する」という問題解決のプロセスは本質的には変わりません。
そして、クライアントの悩みを上手に聞き出し、あらゆるステークホルダーにとって説得的に解決策を提示するなどのコミュニケーション能力も、受益者コミュニティ、パートナー団体、関係政府、ドナーなどに対してプロジェクトの正統性と重要性を伝えなければならない国際協力と、共通しているといえます。
更に、結局は解決策を提示するだけでなく、リーダーシップをもってクライアントを動かさなければならないという点も、プロジェクトを提示するだけでなく実際に受益者・もしくはパートナー団体に働きかけなければならない点において、国際協力に類似しているといえます。
ただ、その中であえてコンサルタントを選択した理由は、コンサルタントとはつまるところ“問題解決に特化したプロフェッショナル”であり、かつ扱う問題解決の「インパクト」・「スピード」の観点から、より手っ取り早くこれらの問題解決能力を身に付けられると考えたためです。
まず、「インパクト」については、動くお金であっても、影響を与えうる人数であっても、世界の大企業や政府をクライアントとするコンサルタントの問題解決の案件は、NGOや青年海外協力隊のの大抵の案件よりもインパクトが大きいと言えます。(JICAや外務省の立場なら、同様に規模の大きい案件もあるかもしれません)。もちろん、ソーシャルインパクトは究極的には数値化できないものなので、同じテーブルで議論するのに限界はあります。
しかし、いつか本気で“世界を変える仕組み”をつくりたいなら、兆単位のお金が動き数千万単位の人間に影響を与える――まさに政府や大企業が抱える巨大な課題の解決に挑戦し、その過程で問題解決に必要な能力を磨くことが、最短距離だと考えました。
もちろん起業してから、人々に大きなインパクトを与えるようなプロジェクトに関わる機会が、得られることもあるでしょう。しかし、長年企業が築いてきたネットワーク、蓄積された情報、スキル、信頼などのアセットを使うことができるのは、それらをイチから築かなければならない起業という選択肢よりも、効率的に大規模な問題解決に携われるということ他なりません。
次に、「スピード」についても、問題解決のプロセスをできるだけ早いスピードで回していくことで、同じ期間でもより多くの問題解決ケースを自分の中に蓄積していくことができるため、コンサルティング会社への就職はその他の選択肢より魅力的だと感じています。
問題解決に必要な“能力”についてこれまで論じてきましたが、特定されたボトルネックイシューに対して解決策を構築する際、現状どのような解決ツールが存在するのか、について豊富な知識を有している必要があります。なかでも、技術革新によって目まぐるしく進歩する社会において、テクノロジーは問題解決に欠かせないツールと言えるでしょう。今までも、そして今後も、テクノロジーを駆使して、誰もが想像もできなかった問題解決が考案されるはずです。
そして、これら最先端技術の知識に関しては、国際協力分野にいるよりビジネス分野に携わる方が有利だと思います。残念ながら世の中の多くの技術は軍事目的で生まれ、コストが下がってから商業目的に転用され、更にコストが下がってから国際協力などソーシャルセクターに転用されます。
コンサルティング業界に身を置くことで、現状ビジネスセクターにおいてどのようなテクノロジーを使った問題解決が行われているか知ることができます。そして、将来的にソーシャルセクターにも、それらの問題解決ツールを転用できるようになれば、解決策立案の幅が広がるでしょう。
加えて、ビジネスの知識が身に付くことも、最終的にはソーシャルセクターの問題解決に役に立つと思われます。国際協力プロジェクトの多くが、インパクトの自立発展性に悩んでいます。現在私はヨルダンにいるのですが、シリアの戦争が長引くにつれて当初潤沢だった国際援助が潮のように引いていき、経営が成り立たなくなってしまった非営利団体を数多く見てきました。
これらの団体は、助成金を得ていられる間にもビジネス的要素を加えた自立発展的な問題解決モデルを構築することができず、閉鎖に追い込まれるケースがほとんどです。利益の創出をその存在の前提としている企業と違い、受益者へのソーシャルインパクトをその存在の前提としている非営利団体は、利益の創出に明るいことが多くありません。しかし、どんなに社会的に意義のある団体でも、持続可能性を担保できなければ、インパクトを生み続けることすら難しいのです。そういった現状を見ながら、私はますますビジネスセクターでキャリアを始めることの有益性を感じました。
以上、コンサルティング会社就職のメリットを述べてきましたが、逆にコンサルのキャリアからは得られないモノもあります。
たとえば、途上国に存在する問題についての理解や、異なる文化的コンテクストにおける特殊な問題解決能力の獲得には、NGOで就業するなど、草の根レベルの経験が必要かもしれません。たとえば、現在ギャップイヤーでパレスチナやヨルダンに滞在し国際NGOやローカルNGOのお手伝いをしていますが、ローカルのパートナー団体と協働するなかで、彼らの文化に対する素養がなければ物事を上手く進めるのは困難といえるでしょう。
また、長期的な事業運営を行うためのリーダーシップを磨き、課題解決に至るオペレーションを身につけるには、起業して事業を回してみる必要があるかもしれません。上述した既存のアセットを使用して規模の大きい案件に携われるという大企業に勤務するメリットは、裏を返せばそれらをイチから築いていく、貴重な経験ができないということです。
どれも「世界で一番困っている人の世界を変える仕組みを作る」ために必要な能力です。どの順番で手に入れるかが問題となります。コンサルをファーストキャリアとして選んだ理由は、何のスキルも経験もない「新卒」であっても就職可能である上に、その後の転職には有利だからです。
日本の就活システムは幸いなことに特殊で、新卒で何の経験もない若者が、ポテンシャルで採用されて何にでもなることができます。コンサルも例外でなく、何のスキルも経験もない若者がいきなり大企業に勤めることも可能です。
また、会社による人材育成機能の観点から、コンサル就職はファーストキャリアに最適だと考えました。モノを持たないコンサルティング会社は社員そのものがリソースであり、その分人材育成に多大な投資をします。反対に、NGOなど国際開発のキャリアは人材育成に投資する余裕がないケースが多いため、学生時代から何らかの実務経験を積んでいる一部の優秀な学生を除いては、ファーストキャリアには向かないと考えました。
小さいころから、自分は凡庸な人間だと自覚しているので、大きな目標にいきなり挑戦することはあまりしてきませんでした。代わりに、そこにたどり着くまでの、実現可能な小さなステップをたくさん設定します。大学院留学も、いきなり行って「行ったら英語がしゃべれるようになった!」なんていう話、自分には起こらない奇跡だと思っていました。だから学部1年生の時から、短期語学留学、フィリピンの先生とのスカイプ、学部留学と、綿密なステップを設計して一つずつ地道にクリアしてきました。
そういう自分には、ファーストキャリアで人材育成機能のないNGOを目指す、もしくは最初から事業を興すやり方は、シンプルに向いていないのだと思います。汎用性の高いスキルの身に付くコンサルからキャリアを始めて、そこ得たスキルやネットワークを駆使してその後事業を興すなり、国連に行くなり、NGOに転職するなり、次のキャリアに活かす方が自分のスタイルに合っていると考えました。
色んな人がそれぞれの目標を持って国際協力の仕事をしているわけなので、この問いについて誰にとっても普遍的に正しい回答はないでしょう。ただし、自分に関して言えば、最終的な目標は、国連に行くことでも大企業に行くことでもなく、いつか“世界で一番困っている人の世界を変える仕組みを作る”ことです。
もちろん、本当は今すぐ誰かのためになる仕事がしたいですし、国際協力の仕事をしている人たちが全く羨ましくないといえば嘘になります。私自身今すぐ解決したい問題も、そのためのアイディアもいくつかあります。しかし、本気でいつか“世界を変える仕組み”を作りたいなら、私はもっと修行すべきだと思います。
元々頭が良いわけでも飛びぬけた才能があるわけでもない自分では、このまま新卒で国際協力分野に就職・もしくは起業したとして、短期的には満足できても、長期的には自分の目指すところに到底たどり着けないと感じています。
本気で世界を変える仕組みを作りたいなら、できる限り最高峰の頭脳が集うところに潜り込んで本気で競い合い、這いつくばってでも成長すべきです。
そうして問題解決能力を磨き、最先端の問題解決ツールに触れ、それらによって何ができるかを熟知する必要があります。そのために、コンサル就職は将来、「世界で一番困っている人の世界を変えたい」私にとっての最適解になると思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。私もまだ就職前のぺーぺーであるために、本稿は検証前の仮説にすぎません。そして繰り返し述べるように、最適なファーストキャリアの選択は個々人のスタイルによって異なるので、決して一様ではありません。
思いっきり悩んで決めたなら、あとは自分で決めた道を正解にするために一生懸命やるだけだと思います。本稿が、ファーストキャリア選択に悩む国際協力系の学生さんの一助になれば幸いです。
イギリスのダラム大学で平和構築の修士課程修了後、パレスチナで活動するNGOでインターンをしています。”フツーな私が国連職員になるために。ギャップイヤー編”連載中。 [email protected]<⁄a>