今回は、同書の編集を担当した幻冬舎のヒットメーカー・箕輪厚介さんにインタビュー。箕輪さんは自身の大学生時代を「サイゼリアでひたすらワインを飲むほど怠惰だった」と振り返ります。周囲の大企業信奉に共感できず、とにかく自分が好きなことを追求しているうちに、現在にたどり着いたのだそう。
出版社に就職後も「本を作りたくない」と思っていた時期があったそうですが、行動を積み重ねるごとに自身のモチベーションが高まっていったそう。箕輪さんの過去を振り返りつつ、組織にぶら下がらない“代替不可能な個人”になるための方法まで語っていただきました。
ーー箕輪さんが編集を手がけた『モチベーション革命』が、発売から3ヶ月経った現在も「Amazon電子書籍ランキング」で総合1位(12月27日現在)を獲得されています。同書はどのような経緯で出版に至ったのでしょうか?
箕輪厚介(以下、箕輪):著者の尾原和啓さんは、テクノロジーや世代論など、あらゆる情報に精通されている方です。で、僕に与えられたお題が、ネットやテクノロジー系以外の本にしたいというものでした。それで企画を考えながら、尾原さんと話をするなかで、僕がもっとも興味を持ったのが「モチベーションについて」でした。
よくネット上で「今の若者は出世欲がない」といった情報を発信する記事を見かけますが、その理由まで踏み込んで解説している記事は非常に少ない。尾原さんはGoogleをはじめ、世界のトップ企業を何社も渡り歩いてこられた方です。彼が様々な組織を見てきた中で感じたモチベーションの引き出し方や、上司と部下との関係、ミレニアルズ世代の心の洞察には非常に大きな意味があると考えました。
ーー箕輪さんが「モチベーション」を題材にした本を出版しようと考えたのは、「やりたいことがない」ミレニアルズ世代の背中を押すためでしょうか?
箕輪:「誰かを啓蒙しよう」とか、「この本を手に取った人が明日から頑張れるようになってほしい」とか、そうした背景で本を作ったわけではありません。あくまで「解体書」です。
僕は別に、みんな何かをやったほうがいい!みたいに熱く考えたことはありません。「やりたいことがない」人は、別に何もやらなくていいと思っているくらい。やりたい人が頑張ればよくて、モチベーションのない人の腕を引っ張って「一緒に頑張ろう」なんて声をかけたいわけではない。
僕自身、大学生時代はサイゼリアでひたすらワインを飲んでいたくらいですし、「モチベーション革命を起こせ」なんて立派なメッセージを込めたつもりはありません。尾原さんのように、ミレニアルズのふんわりした心理を鮮やかに言語化できる人はいないからこそ、これはいい企画になると思っただけです。
ーー箕輪さんが手がける「NewsPicks Book」はヒットを連発されていて、箕輪さん自身が何か強いモチベーションに突き動かされているように感じます。ある種「モチベーション革命」が起こっているように感じるのですが、いかかでしょうか?
箕輪:「NewsPicks Book」を立ち上げたことで、「毎月1冊本を出版しなければいけない」というルールが自分に課されました。その責任感が僕を突き動かしているのは間違いありません。
そうすると、自分で原稿を書かないといけないこともあるし、たくさんの人に会わなければいけないし、やることがとにかくたくさんある。そうやってとにかく動いていると、アイデアも湧いてくるし、仕事も増えてくる。そうやってまた忙しくなってという繰り返しですね。それが、周りから見たらとにかく熱狂しているように見えるだけじゃないですかね。
前の会社の時も編集者をしていましたが、別にずっと本を作りたくないと思ってたりもしてました。だから一冊目の『たった一人の熱狂』(見城徹)を作っていたときも、「これが終わったら編集者やめよう」と思ってリクナビに登録してましたし。だから、なんだろう。モチベーションが高いことなんて正解でもなくて結果だから、自分の気持ちに素直に動いていればいいんじゃないですかね。
ーー本日は、「やりたいことがない」人に向けたメッセージをいただこうと思っていたんですが、特にそうしたメッセージはない…ということに…
箕輪:と、思っていたんですけど、いま、色々聞かれて、自分の過去を振り返ってみたら、「心が汚れてるな」って反省してきました。僕も、学生時代は「内定ほしいな」なんてどうしようもないことで悩んでいた時期が今思えばありましたし。今は「そんなことで悩んでるなんてバカだろ」「暇人が」って思うのですが、今思うと、僕もグダグダ悩んでいた時もあったような気がしますね。
ふと思い出したのですが、人気漫画『賭博黙示録カイジ』に登場するセリフに「バスケットボールのゴールは適当な高さにあるからみんなシュートの練習をするんだぜ あれが百メートル上空にあってみろ 誰もボールを投げようともしねえ」 というセリフが出てきます。このセリフは言い得て妙で、ゴールが見えない場所にあったら、ボールを手に取る気も起きない。「やりたいことがない」というのは、まさにこの状態なんだと思います。ゴールが高い位置にあるように感じて、絶対に手に届かないものだと諦めているから、挑戦心が出てこない。で、足元はなんだかんだ幸せだから行動を起こすこともない。
ただ大学生なんて、これから先の人生で自分をいかようにも変えていけるんです。実はゴールがそんなに高い位置にないことを知って欲しいし、不可能だと思ってることも意外とすぐ実現できる。ちょっと外の世界に足を踏み入れるだけで、見える世界がガラッと変わるんです。“多動力”と好奇心は比例します。なので、とにかく動き出さないことには何も始まりません。
ーーまずは、一歩踏み出してみることが大事だと?
箕輪:その通りだと思います。どんなに小さいことでも、成功体験が一つあればいいんです。ちょっとした知識や経験を手に入れると、土台ができて、その上に得た知識や人間関係が掛け算的に積み上がっていきます。その過程を“意識高い系”と揶揄する人もいますが、本当に意識が高まっていくんですから、それでいいんです。
“意識高い系”を揶揄する側の人は、いわゆるサラリーマン思考の人。給料も仕事も上から振ってくると思っている。会社の中しか見ていないので、「上司がどうだ」とか、「部下がどうだ」とか、本当にどうしようもないことばかり口に出しています。ただ、トップ・オブ・トップの人はそんな瑣末なことを一切気にしていません。世の中の変化に目を向けていて、お金の次は何か、SNSの次は何かを桁違いのスケールで考えて、実際に取り組んでいます。
ーー箕輪さんも、まさにそうしたループに入っているわけですね。
箕輪:僕がもし、そうだとしたら、僕が毎日触れている人がすごいからです。すごい人はすごいし、すごくない人はすごくない。それに尽きる。僕はまさにトップ・オブ・トップの方々とお仕事をさせていただくことが多いので、目線が彼らに引っ張られています。
世界の99パーセントが攻撃してきても、反対意見を言ってきてもブレない自分の核を持つこと、そしてレベルの高い人と一緒に仕事をすること。この二つが大切だと思います。
常に、外を見てれば、社内で嫉妬されたり、陰口叩かれてても、きっと全く気にならない。そんなことどうでもいいくらいに忙しい。
一歩外に足を踏み出せば、外へ外へと目線が変わります。誰かを見下したり、嫉妬することの無意味さに気づくはずです。
ーー『モチベーション革命』以外にも、箕輪さんが編集された著書の中には「好きなことに邁進することこそが大事」といった文脈が多々見られます。世代の価値観の変遷とともに、社会の価値基準そのものが変わろうとしているように感じるのですが、いかがでしょうか?
箕輪:よく言われることですが、“モノ消費”から“体験消費”へと価値観がシフトしています。年間何千、何万と新しいコンテンツが生まれる時代ですから、その全てを消費することは不可能です。すると「誰が作ったか」「誰がレコメンドしているか」で消費するコンテンツを選ぶようになります。情報自体の価値はもう限りなく低い。
僕が手がける「NewsPicks Book」は立て続けに重版がかかります。つまり、「NewsPicks Book」であることが価値であり、そこに文脈があり、体験までをデザインしています。
僕は、いい人じゃないし、正しいことを訴えかけたいなんて思って本を作ったことはありません。自分が才能を惚れた著者の言葉を本という形で世に出す。その結果、世の中が動くことが好きで、ある種「病」のように良質なコンテンツを作り続けています。そうしてそうやって自分がやりたいことをやっているだけなのに、それを応援してくれる人がたくさんいます。“ピュアな情熱”を持った人には、好循環が生まれるんです。
ーー情熱を持って取り組む人は応援され、その熱が相乗的に大きくなっていくと。
箕輪:おっしゃる通りです。世の中にコンテンツがあふれた結果、もはや何を信用していいか分からなくなっています。本にしても、年間何万、何十万と新しいものが生まれるじゃないですか。正直選ぶのがめんどくさい。そうすると、「箕輪が頑張って作ってるならNewsPicks Bookでいいよ」となるんです。
たとえば、仮想通貨に興味がある人がいて、仮想通貨に関するネット記事に全部目を通すことは不可能です。もはや処理不可能。なので、自分好みのコンテンツを教えてくれる人をフォローするようになる。「彼が言うなら」という“信用”によって、コミュニティが作られていきます。
ーー「やりたいことがわからない」と悩んでいるのなら、周りに流されることなく、何を言われようと好きなことに没頭することが大切かもしれないですね。
箕輪:そう思いますよ。僕が大学生のときは、意識が高い奴ほど、大企業とか銀行とかへの就職を目指していました。おそらく、やりたいことがどうこうではなく、大きな船に乗ることが正解だと思っていたのでしょう。ただ、僕にはそれが理解できませんでした。好きなこと以外を職業にするなんて無理だろうと思っていたんです。
彼らは僕よりもある意味優秀で、一生懸命就職活動をしていましたが、今になって進路に悩み、よく僕に相談をしてきます。就職活動をしていた当時、僕は変わり者だと思われていました。ただ、周りの目とか関係なく好きなことをずっとやっていたら、評価経済が急カーブでやってきて立場が逆転していたんです。
今までは銀行員がエリートの証だったかもしれませんが、いずれAIに代替される職業になります。「NewsPicks Book」から新しく出版される『ポスト平成のキャリア戦略』の著者である塩野誠さんは、「アメリカでは銀行員がマックのバイトみたいなものだ」とおっしゃっていました。それって本質的に価値を生んでるの?ってことを考えないとだめでしょうね。
でもこれって今までもずっとそうで、既存の資本主義、貨幣経済においても、トップの人は自分が好きなことをとことん追求している人たちです。幻冬舎の見城徹さんにせよ、堀江貴文さんにせよ、とにかく純粋に好きなことに夢中になってます。
周囲の価値観に惑わされることなく、まずは好きなことを小さく始めてみる。楽しかったら、続けてみる。そうしていくうちに、自分にしかない価値を持つ“代替不可能な個人”になれているはずです。