良い医師の条件としてよく挙げられるのが「患者の痛みに寄り添う」こと。技術はもちろんですが、患者の立場を思いやり不安を和らげるのも医者の大事な仕事ですよね。
では、患者の痛みを”本当に感じられる”医師がいるとしたら……?
CNNのニュースから、驚きの”共感力”を持った医師の話をご紹介します。
マサチューセッツ総合病院で働くJoel Salinasさんは、そのずば抜けた共感力がアメリカで話題になっている神経科医。というのも、100人に2人の確率で起こる”特質”を持った医師なのです。
その特質とは「ミラータッチ共感覚」と呼ばれる、脳のある部分が他人の感情をコピーしようとする神経系の現象のこと。これによってSalinasさんは、他人の感情や身体的な感覚をまるで自分に起きたことのように感じることができるのです。
Salinasさんは、幼い頃から「自分は少し人と違う」と感じていました。
「今でも覚えているのが、子供のころアニメを見ていたときのことです。ワイリー・コヨーテ(ワーナー社のアニメキャラクター)がトラックにひかれるシーンを見たとき、自分がひかれたかのように感じました。高校生になってからも、ケンカを見ているのが辛かったんです」
彼が共感覚という症状について知ったのは、医学部1年のとき。思い当たる節がありミラータッチの検査を受けたことで、自分がミラータッチ共感覚者だとわかったのでした。
「成長するにつれ、苦しみを和らげる手助けをしたいと思うようになりました。苦しんでいる人を助けたいだけではなくて、僕の場合は結局それが自分のためにもなるからです。ミラータッチ共感覚は医学の道を選んだ理由の一つなのです」
Salinasさんが担当している患者の一人であるBob McGrathさんは、Salinasさんと初めて会ったときのことをこう振り返ります。
「調子はどうかと聞かれて、『特に変わりはありませんが、少し緊張しています』と答えました。そしたら先生は、『知っていますよ』と言うのです」
あるとき、薬の副作用でMcGrathさんの体が震え、認知障害を引き起こしていたことがありました。そのときもSalinas医師はどの薬が副作用を起こしているのか、ピンポイントで当ててしまいました。
ミラータッチ共感覚をもつ人全員がこんなにポジティブにこの特質を受け入れているわけではありません。人との関わりそのものを絶ってしまう人もいます。
Salinasさんも、共感覚のコントロールに苦労しています。はじめて人が亡くなるのを見たときは「穴に落ちていくような感覚」で、自分も誰かに胸部を圧迫されているように感じ、トイレで嘔吐してしまったそうです。普段病院内にいるときは、ケガや病気に苦しむ患者さんと共振しないため、「自分の肉体に深く意識を集中させなくてはならない」と話しています。
それでもSalinasさんは共感覚をもつ自分は幸運であると思っているそう。
「共感覚は診療するよりもすごい力を持つと思っています。患者さんの痛みや苦しみの一部を感じることができるので、『苦しいのは自分だけではないんだ』と思ってもらえる。それは医療では本当に大きな意味があるのです」