「人生のモラトリアム」とも言われる大学4年間。その4年間で自分の将来をじっくり考える人もいれば、目的なくダラダラと時間を過ごしてしまっているという学生も少なくないでしょう。きっと、その4年間の過ごし方によって今後の人生は大きく左右されるはず。
今回お話を伺ったのは、大学在学中に、自家焙煎コーヒーショップ「LIGHT UP COFFEE」を創業した川野優馬さん。アルバイトがきっかけで、美味しいコーヒーを求めて海を渡り、帰国後に学生起業。川野さんによると、大学生活を充実させるには、在学中に「やりたいこと」を見つける努力をして、それに挑戦することが必須なのだといいます。
──「LIGHT UP COFFEE」を創業した当時は、大学生だったとお伺いしました。学生時代の起業はなかなか難しい決断ですよね。「起業しよう」と思ったきっかけを教えてください。
カフェでのアルバイトを始めたことが、いま「LIGHIT UP COFFEE」を経営している最初のきっかけです。当時は今と違って「とにかくコーヒーが好き」ということではなかったんです。たまたまそのお店が家から近かったことや、なんとなくオシャレだな、と思ったのがアルバイトを始めたきっかけでした。
そのお店は大手チェーンなのですが、規則の範囲内であれば、なんでも自由にやらせてくれて。せっかく働くなら、お客さんに喜ばれることをしようと思って、ラテアートにこだわるようになりました。徐々にラテアートにハマっていって、最終的にはラテアートの全国大会で優勝するくらいまでにのめり込んでいました。そこからコーヒーへの関心がどんどん高まって、今に至ります。
──すごい熱量ですね…。もともと何にでも熱中するタイプだったんですか?
何にでも、ということはなくて、好きなことには熱中するタイプでしたね。決められたことをやるのは昔から苦手で。例えば、勉強も指示されてやるのは嫌でした。親に何かをやらされることも嫌いで、自分が好きなことをしていたい“自由奔放な子供”だったと思います。
それは大学生になっても変わりませんでした。学生の間は時間に余裕があるので、ハマったことは最後までやり尽くそうと。それがたまたまラテアートだったんですね。独学で勉強して、バイト仲間とチームを組んでとにかく練習しました。
──とはいえ、いきなり起業ということにはならないですよね。具体的に、どのように起業へと気持ちが動いていったのでしょうか。
ラテアートにハマったのがきっかけで、よくカフェ巡りをしていました。海外に留学していたことがあるんですけれど、その時もカフェによく足を運んでいて。世界のいろいろな味を知るうちに、自分にもできないかな?と思うようになったんです。自分で一からコーヒーを淹れてみたくなって、帰国後に銀行からお金を借りて焙煎機を買いました。ただ、銀行ですから、なんの計画もなしにお金を貸してくれるわけではありません。その頃はネットショップでコーヒーを売る計画を立てていました。
──その当時は「美味しいコーヒーを淹れる」という、作ることが好きだったのですか。あるいは、それをビジネスにすることに関心があったのでしょうか。
両方ですね。昔から何かを作ることは好きだったんです。小さい頃はずっとレゴで遊んでいて、将来的は自分のブランドやお店を作りたいと思っていました。ただ、商売根性がもともとあったようで、保育園の頃から、夢は「社長になること」と言っていたそうです。焙煎機を買う頃には、「コーヒーを作って売ればお金になる」くらいの感覚は持っていたと思います。
──そこが起業するきっかけになったと。
いえ、実はそうではなくて。自分でコーヒーを淹れるようになってからは、より作ることに気持ちが向いていました。コーヒーを淹れ続けていくにつれて腕は上達していくのですが、なんだか感動がないんですね。本当に美味しいコーヒーを飲んだ時に覚える感動が、僕のコーヒーにはなかったんです。
悔しい気持ちを抑えきれなくなり、ますます追求したくなって。自分が一番感動したコーヒーショップが、ノルウェー発のお店だったので、現地まで足を運んだんです。その時は「売れるコーヒーを作りたい」というような商売的な感情はなくて、純粋に自分が始めたことを突き詰めたいという意欲に突き動かされていました。
日本を出る前に、「話を聞かせてください」って、とにかくコーヒーショップにメールを送ったんですね。そしたら意外と歓迎してくれて、バリスタとしての知識を教えてくれたり、僕が淹れたコーヒーを飲んでくれたり。
──ノルウェーを訪れて、どんな発見があったのでしょうか。
ノルウェーのコーヒーはびっくりするくらいフルーティーだったんです。日本人が持っているような「コーヒーは苦い大人の飲み物」という感覚は全然なくて。そこには生産方法だったり、焙煎の方法だったり、いろいろな理由があるんですけど、やはり日本は「コーヒーは誰にとっても美味しい飲み物ではない」という文化になっています。「コーヒーは苦い大人の飲み物」という日本独自の文化を変えたいと思いました。その強い想いが、起業のきっかけです。
──在学中に起業したのちに、一度リクルートへ就職されていますよね。「LIGHT UP COFFEE」を経営しながら就職したのはなぜですか?
就職せずに経営を続けることも考えたんですけど、他の人にはできないような勉強をしたほうがいいな、と思ったんです。飲食業界の人の多くは、お店で下積み経験を積んで、自分のお店を持つという人が多いんですね。ただ、僕がやりたかったのは「日本のコーヒー文化を変える」こと。店舗で美味しいコーヒーを作り続けるだけでは、到底それは実現しないんです。お店のお客さんが増えていくだけでは、あまりにペースが遅すぎて、大きなムーブメントを起こすことはできません。
文化を変えるために、「LIGHT UP COFFEE」を日本で最も発信力のあるコーヒーショップにする必要があったので、一度大きな企業に就職することにしました。その中でもリクルートを選び、UXデザイナーの職に就きました。リクルートを選んだのは、多くの人に情報をリーチするには、インターネットの力が必要不可欠だと思っていたからです。
──リクルートでの経験が、今に活かされていることはありますか?
たくさんありますよ。一つはロジカルシンキングですね。何をするにしても、目的を持って、それに沿った形で手段を選ぶじゃないですか。コーヒー1杯作るのもそうで、「なんか美味しくないな」って思ったら、どこが悪かったのかと原因を探ります。「甘さが足りないから美味しくないんだ」とわかれば、甘さを足すために試行錯誤する。こういった、ちょっと論理的に考える癖がついたのはとても大きいですね。
UXデザイナーとして働いていたので、ウェブデザインの知識がついたことも活かされています。発信する際は、どうやったらユーザーに届くのか、興味を持ってもらえるのか、という視点が不可欠です。今後はウェブショップでの販売にも力を入れていく予定なので、これからもリクルートで培った基礎は生かされていくと思います。
──現在はオフィスでコーヒーを淹れる取り組みをしているそうですね。そこにもリクルート時代の経験が活かされているのでしょうか。
そうですね。リクルートで働いていた頃に、「オフィスに美味しいコーヒーがない」ということを感じました。今になって、オフィスに美味しいコーヒーがあれば、働く環境の向上に役立っていたと思うんです。
ルーツを辿っていくと、18世紀頃のイギリスにあった「コーヒーハウス」に行き着きます。当時のコーヒーショップはサロンのような役割を担っていて、いろいろな階級の人がそこに集まっていたそうで。次第に政治の話やビジネスの話が活発に行われる「情報交換をする場所」になり、そこから新聞などのジャーナリズムが発展したり、新しいビジネスが生まれたりしたんです。ルーツはコーヒーショップですから、もちろん会話の中心にはコーヒーがあります。それがある意味コーヒーが持つ本来の姿で、自分がコーヒーが持つ意義を届けることが「日本のコーヒー文化を変える」一因になるのではないかと思っています。
──川野さんは学生時代に見つけた「やりたいこと」を仕事にしていますよね。「やりたいことがわからない」という学生が大半だと思うのですが、熱中することを見つけるコツってあるのでしょうか。
誰もが「やりたいこと」を見つけられるわけではないと思いますが、そもそも前提として、大学生活の4年間という貴重な時間は、「やりたいこと」を見つけるためにあると思うんですよ。モラトリアム期間というくらいですから、OB訪問やコネクションづくりに費やすべきではない。僕が費やした先は、ラテアートであり、コーヒーです。熱中できることを見つけた結果、本当に充実した時間を過ごすことができました。
だから「大手銀行に就職する」「公務員になる」前提で学生時代を過ごすのは間違っているように思うんです。それは目的ではなくて、結果であるべき。とはいえ、「やりたいこと」を見つけるのは簡単ではないですよね。
見つけるために旅行をする人も多いですが、その旅行も単純に消費するのでは意味がない。「何かおもしろいことないかな?」と、少し視点を変えて探してみる工夫が必要だと思います。
──会社員も経験した川野さんだからこそわかる、起業の楽しさや面白さってどんなところでしょうか。
何かを作るって、本当に面白いことですよ。特にコーヒーにはその要素がいっぱいあるんです。味や香りといった感覚的な部分はもちろん、パッケージデザイン、ウェブデザイン…あげるとキリがないですが、それが全てお店を作ることに繋がっています。今までに無かったものを生み出して、その価値を認めてくれる人が増えていくのは、会社員では味わえない楽しさですね。
もちろん全員が0から1を生み出す人になる必要はないですが、今はできないことでも、それができるようになる感覚は本当にワクワクします。僕も学生時代にお金を借りることに抵抗がないわけではありませんでしたが、尊敬する社長さんにいただいた「失敗することがリスクに思えるかもしれないけど、仮に失敗してもそこで得た経験こそが財産だ」という言葉が背中を押してくれました。挑戦した結果が今に繋がっているのは間違いありません。まずは在学中に「やりたいこと」を見つける努力をして、それに挑戦する。そうすることで、充実度が格段に上がると思いますよ。