「留学や起業経験はなくてもいい」自分らしく就活するための秘訣を『採用学』の先生に聞いてみた

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「大学生活最後の難関」といえば、就職活動。「黒髪とダークスーツに身を包む学生たちが街に溢れかえる」といった光景が、就職活動の風物詩でしたが、最近ではそのあり方も変わってきています。

就職活動で内定をもらうための具体的なメソッドや方法論はあるのでしょうか?横浜国立大学で「採用学」という学問を研究している服部泰宏先生に「優秀な学生の定義」や「面接で自分の魅力を伝える方法」について話を伺いました。


「優秀な学生」になるのは意外と簡単


複数企業から内定を貰う「優秀な学生」になるにはどうすればいいですか? 『採用学』服部泰宏先生に聞いてみた。


──「就職活動」にまつわる学問だと聞いているのですが、まず「採用学」について教えてください。

服部泰宏(以下、服部):「採用学」は、科学的な観点から、理想的な採用のあり方を研究している学問です。私が出版した書籍『採用学』の中では、採用の目的や新卒採用に起きている構造的な問題、企業が設定している採用基準のあり方などを紹介しています。


──書籍の中で採用基準について紹介しているとのことですが、「内定をもらいやすい学生」に共通点はあるんでしょうか?

服部:まず大前提として、企業によって求める人材像は違うので、優秀さの基準は、企業ごとに異なります。ただ、複数企業から内定をもらい、その中から行く企業を選ぶ学生がいますよね。彼らのように、複数の企業で共通する採用要件を満たす学生を、世間では「優秀な学生」と呼ぶわけです。

新卒採用における採用基準は大きく3つあって、「学歴や地頭」「コミュニケーション能力」「主体性」です。この3つの基準をベン図にして、重なるところにいる学生や、自分を偽ってこの3つの基準に器用に寄せられる学生は、いろんな会社から内定をもらいやすいです。

とても曖昧で抽象的な基準なので、どの会社も採用基準が似てしまい、複数の会社から内定をもらう「優秀な学生」が生まれるわけです。

──どうして新卒採用において、その3つの基準が重視されているのでしょうか?

服部:新卒採用における「総合職採用」の問題です。多くの大企業は、「職種に対して人をつける」のではなく、「会社に対して人をつける」ような採用を行っています。

新卒の採用となると、学生に就業経験がないことのほうが多いですから、学生時代にしてきた経験が企業の業績に直結するかがわからない。

加えて、入社してから業務に必要なスキルを身につけるのであれば、「将来どのような職種についたとしても、他の候補者よりも相対的に早く、高いレベルで業務を身につけられる可能性」に注目することになります。

したがって、「地頭が良く、コミュニケーション能力があり、積極性のある子」という採用基準になりがちです。採用担当者は、候補者が業務に必要な能力を身につけるであろう可能性を「明確に判断」しているのではなく、「推測」することしかできません。

そこには、採用担当者の事情もあります。明確な採用基準を設けて採用して、いざその人が活躍しなかった時にその人事の責任が会社の中で問われるわけです。なので、どんな職種に配属しても潰しがきくような学生を採用してしまうわけです。

新卒一括採用はイノベーションだった


複数企業から内定を貰う「優秀な学生」になるにはどうすればいいですか? 『採用学』服部泰宏先生に聞いてみた。


──新卒一括採用のシステムが機能していた時代もあるということですよね。

服部:今の新卒一括採用による大量採用のシステムは、高度経済成長期やバブル期には時代にとてもマッチした採用システムでした。どの企業も右肩上がりで成長するという時代だったので、トップが打った施策を着実に実行していける人たちがほしかった。

しかも、大卒が希少だったので、ある程度の学力が担保されている彼らを採っておけば、ほぼ間違いなく「良い採用」と言えたんです。一定のコミュニケーション能力を持つ学生を採用して、彼らが営業職に就いて売り上げを上げ、最終的に海外へ進出していくという図式でした。

今も新卒一括採用のシステムは、未だに多くの企業と学生に対しては、非常にいいシステムだと思うんです。ある程度の資金力、採用人数がある企業さんと、ある程度の学歴と情報を持つ学生の出会いにおいて機能している。

ただ、画一的なシステムは限界を迎えていて、もっと多様な採用手法が生まれる必要があると思っています。大型求人媒体にお金を投じなくても自分たちで求職者を獲得できる企業もあれば、資金不足のなか何百万を投じても採用できない企業もあります。

──中間層以外では、大手求人媒体を使わない企業も増えつつあるのでしょうか?

服部:自社の力で候補者を獲得できる企業は、大手の求人媒体を使わずに新しい採用手法を作っていける時代になりつつあります。

「採用学」の中で紹介しているサイバーエージェントさんの「弟子入り採用」が最たる例です。選考に勝ち抜いた学生が、子会社社長・事業責任者といったエース級社員の元で2日ほどインターンをし、認められれば「弟子入り先」の部署配属や就業機会を得られるという採用手法です。大手求人媒体を利用せず、現場社員を採用におけるリソースにして優秀な学生の囲い込みを企図しています。

「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンが、現場社員まできちんと行き届いているサイバーエージェントだからこそ成せる採用です。このように、自分たちで新しい採用手法を生み出せる企業が増え、大手求人媒体の恩恵を受ける企業の幅がせまくなっている傾向はあるのでしょう。

自分たちとマッチする候補者を獲得するためには、企業は自分たちで「会社の掲げているビジョンやミッションは何か」「どんな人たちと一緒に働きたいか」を言語化し、発信していく必要があるんです。

──企業側が変わる一方で、学生側も変わってきていますよね。求人媒体をほとんど使わずに就活する友人もちらほらといます。

服部:たとえば、うち(横浜国立大学)は、就職活動に関して情報感度の高い学校ではないですが、ゼミ生10人のうち3人は求人媒体を使わない就職活動をします。3年の夏に有名企業のインターンに行って東京の私大の子たちと出会い、そこで初めて「求人媒体に載っていない情報」に気づき出すんです。そして、そのルートを使って、自分の優秀さを直接、企業にアピールしていく。

「できる子たち」が自分の優秀さを語り、自らをブランディングして、内定もらってしまう。このような学生は、全体の中でも上位層のトップ1%でしたが、徐々に増えていくのでしょう。

企業自身が自分で会社の良さを語る必要があるのと同様に、まったく同じことが学生にも求められている。そういう意味で問題は裏と表で、「ニワトリが先か、卵が先か」という話なんです。

「優秀さ」を語るボキャブラリーがあるか


複数企業から内定を貰う「優秀な学生」になるにはどうすればいいですか? 『採用学』服部泰宏先生に聞いてみた。


──自分自身の優秀さを語れる学生になるには、どうすれば良いのでしょうか?

服部:自分の優秀さを語るには、ボキャブラリーが大事だと思っています。これは単なる語彙力という意味ではなく、自分の経験を棚卸しして、自分の魅力がきちんと伝えられるような語彙を身につけることです。

あるテレビ番組で、F・J・マリノスの早野監督が、自分たちの選手の優秀さを巧みに言葉にしていたのを見たことがあります。スポーツをやっていたからわかるのですが、監督の多くは、選手が良いプレイをすると「ナイスプレイ!」と簡単に褒めてしまうんですよね。「なぜ良かったのか」を問うて、言語化しないんです。

早野監督は「選手のプレーのどこが良かったのか」を言語化するために、本を読んで徹底的にボキャブラリーを増やしたらしいんです。今までは選手のプレイに対して「ナイスプレイ!」と言っていたのを、たとえば「前半10分でシュートを打つ時に、パワーを70%くらいで打てていたので、体力温存になって良かった」と伝えるようにすると。

これは学生の就職活動にも言えることです。「自分はなぜ優秀な学生なのか」「これまで何をしてきたのか」を豊富なボキャブラリーできちんと表現できていると、就活は上手く行きやすい。

──ボキャブラリーを増やすために就活中にできることはあるのでしょうか?

服部:「なぜESで落ちたか」「なぜ面接で自分は失敗続きなのか」を自分に問いかけて、内省できている子たちは強いですよ。「今回の面接では我を強く出しすぎたから、次は控えめでいこう」と、自分の中でPDCAサイクルを回して学習していくから、選考に通る確度も高くなる。

その中でも、就職活動をゲーム化できている人は上手くいくことが多いです。ゲームデザイナーのジェイン・マクゴニガル氏は、ゲームを成立させる要素を「ゴール」「ルール」「フィードバックシステム」「自発的な参加」の4つで定義しています。良いフィードバックをもとにプレイを改善していくからこそ、ゲームは楽しんです。

就職活動の面接やグループディスカッションでも同じで、「フィードバック」をもとに、PDCAサイクルを回し、徐々に面接のステップを進み、内定という「ゴール」にたどり着く。このように就職活動をゲームのように楽しめている人は強いかもしれませんね。

面接で「自分の魅力を伝える」ために必要な3つのスキル


複数企業から内定を貰う「優秀な学生」になるにはどうすればいいですか? 『採用学』服部泰宏先生に聞いてみた。


──どんなにボキャブラリーが豊富でも、そもそも面接で話すネタがなければ、面接官に自分の「優秀さ」を伝えるのは難しいと思います。学生はどのような経験をするべきなのでしょうか?


服部:多くの学生は、学生起業や留学などのエピソード自体の魅力やスケールの大きさが大切だと思っています。しかし、どのような素材であっても、「言葉で自分の魅力を語る力」さえあれば、上手に料理できるんです。

少し前の時代には、「どんな経験をしたか」というエピソード自体に価値がありました。留学経験を話せば、グローバルに展開している日本企業が率先して採用してくれるという優遇もあったでしょう。

でも、今は留学も起業もエピソードとしてありふれていて、話自体には強さを持たない。よく企業さんも言うんですけど、ちょっとした起業よりもゼミの経験のほうがエピソードとして平凡でも、語り口によっては魅力的に聞こえることはあるわけです。

留学の話をするなら、単に留学したという事実や、英語力といった表面的な魅力ではなく、「他の人たちがしない中、あえて留学を選択をする積極性」や「留学で好成績を修めるほどの好奇心の強さ」といった「その人らしさ」を表すエピソードが必ず隠れているはずなんです。

だから、経験そのものよりも、経験から得た気づきや学びを言語化していくことのほうが大切なんです。

──言い換えれば、自分の経験を「抽象化する力」なのかもしれませんね。

服部:そう、「抽象化能力」が適切な表現だと思います。

昔、ハーバード大学のロバート・カッツ教授がマネージャーに求められるスキルは3つあると提唱しました。そのスキルは「社会人としてのベーススキル」とも言えるのではないかと思っています。

1つ目が、テクニカルスキルです。「TOEIC○○点」「プログラミングができる」という具体的なスキルのことを指します。もう1つはヒューマンスキル。人とコミュニケーションをとり、自分の考えを伝える能力です。

最後にコンセプチュアルスキルがあります。このスキルは、学んだ知識を構造・体系化することで、「本質を見抜く力」です。このスキルを身につける過程で「言語化する能力」が必要となります。

ただ、いきなりコンセプチュアルスキルを身につけることはできないんです。たとえば、ある企業のビジネスモデルを分析しようと思ったら、多少なりとも企業のお金の仕組みを知ってないとできません。つまり、「本質を見抜く力」を身につけるには、具体的なスキルが伴っている必要があります。

プログラミングでも、経営学でも、何でもいいので、まずはスキルを身につけて、特定の世界について深く知ることから始めます。そして、同じ興味や関心を持つ仲間を作り、一緒に議論することで人間力や社会性が身についていく。最終的に、学んだことを一つひとつ構造的に把握し、抽象化できるようになると3つのスキルが揃って「社会人としてのベーススキル」になっていくんですね。

就職活動においては、具体的なスキルを身につける経験を経て、コンセプチュアルスキルを身につけることが重要だと思っています。繰り返しになりますが、具体的なスキルを身につける際に経験のスケールの大きさは重要ではありません。どんなに小さいことでもきちんと真摯に取り組んでいれば、「言語化する習慣」が身についていくはずです。


服部泰宏先生:プロフィール

1980年神奈川県生まれ。滋賀大学経済学部情報管理学科専任講師、准教授を経て現職。組織コミットメントや心理的契約といった日本企業における組織と個人の関わりあいや、経営学的な知識の普及の研究等に従事。2010年に第26回組織学会高宮賞を受賞。2013年以降は、人材の「採用」に関する科学的アプローチである「採用学」の確立に向けて「採用学プロジェクト」を立ち上げ、主宰者として精力的に研究・活動に従事している。

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