平和構築を学ぶジレンマ~後編・教授と戦うの巻<フツーな私が国連職員になるために~英国大学院留学編Vol.5>

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こんにちは、英国ダラム大学で平和構築を専攻中のMisatoです。

イギリスで、今、何かうまく言葉にできないものと戦っている気がしています(笑)
そしてきっとそれは平和構築という学問のジレンマに通ずるモノだと感じています。

前編では、そもそも平和構築という学問について、平和構築のジレンマ、クラスメートとの価値観のギャップに対する悩みについてお話させてもらいました。

今回は、教授にそんな違和感を訴えに行ったときのことについてお伝えさせていただきたいと思います。

英国大学院留学編Vol.5 平和構築のジレンマ~後編・教授と戦うの巻


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教室にはびこるオリエンタリズムのかけら

*オリエンタリズムとは?
元々は西欧人による東洋への憧れ、異国趣味というような意味ですが、サイード(1977)は「オリエントを支配し再構成し威圧するため の西洋の様式」と定義しています。詳細は省きますが、西洋と東洋を二項対立的に捉え、その差異を誇張し、後者をエキゾティックで未開なものとしてとらえる風潮と解して以下読みすすめてください^^

前編でも述べたとおり、クラスのための課題図書やレクチャーでの教授の言葉、セミナーでの生徒の発言、そしてプログラム全体の根底にある前提、その端々に「西欧先進諸国」と「第三世界」という明確な区別、前者を平和構築の目指すべき普遍的な社会のあるべき姿として捉え、後者にはともすれば「破綻国家」というレッテルを張って国際平和の脅威の根源とみなすような、そんな言説が存在していました。

35人ほどのクラスには中南米からドミニカ人が一人、アフリカからナイジェリア人、南スーダン人が一人ずつ、アジアから私と中国人、パキスタン人、インド人、インドネシア人が一人ずついるだけで、あとは全員北アメリカまたはヨーロッパの出身です。

「アフリカは国際諸問題の根源である」という一文が堂々と課題図書に書いてあったり、セミナーの議論で当たり前になされる“先進国”と“破綻国家”という図式。

(ちなみに日本だって、開発援助の文脈を除けば、“辺境”の一部です。例えば日本はジェンダーギャップランキング2016にて、144カ国中堂々の111位にランクインしており、女性の権利に関して言えば発展途上国なわけです。)

とても簡単に言えば、

私たちの安全を守るために、私たち“進んだ社会”があなたたち“遅れた社会”を変革してあげないと!

そんな言説が、無意識下に、言葉にする必要もないほどの大前提として、クラスルームに存在しているような気がしました。

毎回の授業に、そんな言いようのない違和感を抱いていましたが、あまりにもそれが教室のなかで支配的な価値観であり、またヨーロッパ勢が圧倒的なクラスルームの中で、西欧のオリエンタリズムを指摘するような発言をする、恥ずかしながらそんな勇気がありませんでした。

セミナーのディスカッションで、授業で。
言ってやりたいことなんて山ほどあったのに、なんででしょう。

議論の前提としている価値観があまりにも違いすぎて、もはや分かり合えないんじゃないかと思ったり、国際社会の現実の縮図を目の当たりにしたようでショックだったり、いやきっと、結局自分に自信がなかったからでしょう。心でこんなに怒りながら、それでもずっと黙っていることしかできませんでした。

パキスタン人の友人と意気投合する

そんな悶々とした日々を送っていたある日、たまたま図書館のカフェでパキスタン出身のクラスメートと二人きりになったことがありました。

「授業どう?」
なんていうありきたりな問いに、

「悪くないけどね、ちょっと西欧中心的だよね」
と何気なく口にした私の言葉に、彼女は

「Exactly!! Thank you for saying that!!!」
と勢いよく私の手を取ったのでした。

パキスタンという国もイギリスによる植民地支配を経験し、現在はテロの頻発している国としていわゆる“破綻国家”という烙印を押されている国です。

「過去の植民地支配についてクラスで謝れなんて思っていない。でもせめて言及すべきだしその影響は授業で論ずるべき。授業のあらゆる発言だって racistみたいでしょう?途上国出身の学生がいるのに、もっと言葉選びに慎重になるべき。」

彼女と話したのは初めてでしたが、気づけば一時間も話しこんでいました。

「でもね、クラスでマイノリティだと思ったら、なかなか言えないんだ。個人的に教授に話しに行こうかなと、思ってる。」

ここ数日感、モヤモヤ一人で考えていたことをポロっと口に出すと、

「わかるよ、特に私とあなたのいるセミナーグループはアジア人が3人以外全員ヨーロッパ人で、あまりにも前提が違うからこんな話言ってみたって分かってもらえると思わない。だから私は何も言わないし、あと10ヶ月間みじめな気持ちで座って聴いてるしかないんだわ。」

とため息混じりの彼女。

私の中で、じわりと決意が固まった瞬間でした。

教授その1にことごとく論破される

英国大学院留学編Vol.5 平和構築のジレンマ~後編・教授と戦うの巻

というわけで数日後、プログラムの責任者であり、多くの授業を担当している張本人の教授と二人になる機会を狙って話に行きました。

とは言っても、普段から厳しさに定評にあるその教授に対して、あまりアグレッシプになる勇気はなく、

「聞きたいことがある。クラスルームでは聞きにくかったんだけれど…」

と切り出してから、控えめに尋ねました。得体の知れない緊張で、自分の言葉は心なしか少し震えているように思いました。

「あなたやヨーロッパの人は奴隷制や植民地主義についてはどう思っているのか。授業やセミナーでの発言の端々に、特に紛争の原因について話をしているときに少し違和感を覚える。植民地としての歴史も現代の紛争を生み出した原因の一つなのではないか。そもそも国民国家は西欧の仕組みを世界中に輸出したものでindigenousなものではないし…」と、ここくらいまでいったところで、教授は切り返し始めました。

「まずいくつか指摘したいところがあるわ。奴隷制は沿岸部の国々だけでアフリカ全土じゃない。植民地主義はもちろん紛争構造を作った理由だし、あなたが批判したいなら批判すればいいと思うけど、紛争の理由はそれだけではない。授業で扱ったみたいに、政治的・経済的・文化的な原因からくるものであって…」

「その文化的な原因ってどういうことでしょうか?」

これは、ずっと気になっていたことでした。

「例えば、ドイツは武器の流入量が多いけれど、それだけでは紛争にならない。紛争につながるかどうかは文化によるところがある。例えばソマリアでは長年氏族同士の争いが続いていて、それは植民地主義とはなんの関係もない。氏族間の軋轢という文化的要因によるものでしょう。」

そして畳み掛けるように続けました。

「そもそも、indigenousな仕組みとあなたいったけれど、indigenousって何かしら。国家なんて地球上あらゆるところでみられたもので、西欧に限った話じゃない。ドイツにとっても国民国家という制度は輸入したものであってindigenousなものじゃない。だいたいなにがindigenousで何がそうじゃないかという境界も曖昧。Indigenousなんていう概念は存在するのかしら…」

以下割愛させていただきますが、つまりボコボコに論破されて特に言い返すこともできず、言いようのない敗北感と無力感を胸に抱いて、その日はトボトボと寮に戻ったのでした。

灰色のイギリスの空が、いつもより更にどんよりして見えました。

それでも教授その2にいいに行く

確かに私の意見は、強固な客観的事実に基づいたものというよりは主観的な違和感に基づいたものなのかもしれません。

勉強不足の自分は教授を論破できるほどにはうまく論を組み立てられませんでしたが、それでも違和感が存在することは確かでした。

そしてそれを感じているのが私一人でないということも事実でした。

教授がそれを感じられないとしたら、それは根本的な価値観の違いで、それこそ私が生涯通して向き合うべき、国際社会の抱える平和構築の課題の縮図なのではないかと思います。

非常に大げさな表現で恐縮ですが、だからこそ“戦わなきゃいけない”ような気がしました。

先日は情けなくもうまく論戦することができず退却してきてしまったわけですが、ここで誰かにあと少しでも主張せねばイギリスまで来ている意味がないような、誰かに顔向けできないような、そんな気がしました。

というわけで数日後、オフィスアワーを利用して今度は別の教授の研究室を訪れました。

果たしてその教授は私の話をうなずきながら、よくきいてくれました。

「どこに差別的な表現を感じるのか?具体的にどの授業か?」という質問に対して、

「むしろ授業全体の根底にある価値観そのものに対してである」という私の返答も、うなずいて聞いてくれたのです。

一通り話を終え、

「私の言いたいことは伝わるでしょうか…?」と問いかけたところ、教授は

「うん、わかったわ。いえ、分かったと少なくとも私は思っているわ。」とうなずき、こう続けました。

「私自身、とてもじれったく思うことなの。どんなに分かったつもりになっても、自分自身は結局西欧人で、私にとってもその壁は越えられない。平和構築という学問に関する知識の98%は西欧社会で生成されていて、そこにこの学問の大きな限界がある。」

「もっとクラスに多様性が必要だと思います。あのクラスの学生の構成は、平和構築という学問が抱えるその限界を教室内で再生産していると思います。奨学金を出してまで、多様なバックグラウンドからの生徒を集めることは意味があると思います。」という私の提案については、

「結局、資金の問題なの。非西欧圏からは学生の応募がそもそも西欧圏と比べて少ない。EUからの学生とそれ以外で学費に大きな差があるせいよ。」

という返答で、あまり建設的な答えではありませんでした。

「ミサト、とても勇気がいったでしょう。話してくれて本当に感謝するわ。そして、こういったことをぜひクラスで話し続けてほしい!」

と教授その2。

「あまりにも無意識下での差別で、わかってもらえるかどうか・・・」

という私の言葉に対して、

「無意識だからこそ言う必要があるの!あなたのクラスメイトにもその気づきが必要なの。」

と励まされたのでした。

私が心の奥でちらりとでも期待していたのは、プログラムの抜本的な見直しであったり、奨学金の設定であったり、プログラムを作っている側からの具体的な動きでした。
それくらい、私の抱いている違和感は、プログラムの根本的な欠陥に通じるものだと感じていました。

結論は

「ミサトが頑張って意見を発信し続けて!!」

というもので期待していたそれとは違いましたが、1時間ほど話をする中で、長らく私の心を覆っていた怒りとモヤモヤは、少しずつ勇気に変わっていったように思います。

また、去り際に教授が

「そういえば、こないだNATOからきた講師に、NATOが軍事組織として平和構築に携わる限界を指摘するような、とても良いコメント飛ばしてたって、教授(その1)が褒めてたわよ。みんなが質問しかできない中でも批判できる、その視点が必要よ。」と一言。

普段から厳しくて近寄りがたい雰囲気のある、教授その1。
先日喧嘩をふっかけに行き、さらにことごとく論破され退却してきた日、なんだか「とてもアホなやつだ」と認識されたのではないかと、そんな落ち込みを感じていた私はとてもこの言葉に救われたのでした。

そして、ヨーロッパ人である教授に対して、
「分かってもらえないだろう」
「アホだと思われているに違いない」
という、そんな偏見はもしかしたら私の中にも存在していたのかもしれません。

戦いは続く

英国大学院留学編Vol.5 平和構築のジレンマ~後編・教授と戦うの巻

そんなわけで、以降私はオリエンタリズムに基づいた批判のような意見も臆さずに発信するようにしています。

ヨーロッパ・北アメリカ出身の学生がほとんどの教室で、そんな意見を言うことは、私にはまだ勇気がいります。

しかし、以前研究科長が

「君たちの選考プロセスには多大な時間と労力をかけている。ひとりひとりに、ここにいる意味がある。」とおっしゃっていたのを今まさに思い出し、こうやって非西欧圏出身だからこその視点を提供できることが私のクラスへの最も大きな貢献だと、そう感じています。

アメリカに交換留学していたとき、正規留学生が羨ましくてしょうがありませんでした。

21年間日本で育った自分と正規留学生や帰国子女の間に越えられない大きな壁を感じて、せっかく高校時代文字通り死ぬほど受験勉強してやっとの思いで入った大学だったのに、なぜ自分はそもそもアメリカの大学に学部時代から進学しなかったのかと、口に出したことはなくとも心の底ではやはり、後悔していたと思います。

でも今は、非西欧圏の大学に通っていたからこそ、西欧で当たり前とされている価値観に批判的な視点を持って平和構築という学問を勉強することが出来ていると思います。

なんだって結果論にすぎませんが、そう、これでよかった!

そして願わくば、せっかくのアドバンテージを活かして、異なる社会の異なる文化にセンシティブでいられる、広い視野をもって、平和構築という仕事に携われるようになりたいものです。

ということで、西欧社会、日本社会ともまた異なる多様な社会に少しでも身を置きたくて、冬休みはパレスチナに一ヶ月滞在しようと、決めたのもまたこの頃でした。

というわけでパレスチナからのレポートもお楽しみに^^

今回も長々とお付き合いいただきありがとうございました。

この記事を書いた学生ライター

Misato
Misato
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イギリスのダラム大学で平和構築の修士課程修了後、パレスチナで活動するNGOでインターンをしています。”フツーな私が国連職員になるために。ギャップイヤー編”連載中。 [email protected]<⁄a>

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