こんにちは!中央大学4年の井上良太です。前回の記事では日本のホームレス問題に取り組むHomedoorをご紹介しました。
今回は、そもそも、なぜHomedoorのような組織が必要なのかについて考えてみたいと思います。「ホームレスは行政が支援すればいい。」「ホームレスは働く努力をしない怠け者。自業自得だ。」と思う方も少なくないと思います。果たして彼らは本当に自業自得なのでしょうか?
厚生労働省はホームレスを’’都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者’’と定義しています。すなわち野宿者に焦点を置いています。
下のグラフを見てください。 年々着実にホームレスの数が減っていることがわかります。
しかしながら、この調査に疑問を抱く人は少なくありません。
日本でホームレスが問題視されるようになってきたのはバブルがはじけた1992年以降と言われています。現在では、人との関わりを嫌う若者や奨学金の返済に苦しむ若者がネットカフェに寝泊まりするなど、ホームレスになる経路が複雑化しており、これまでの“ホームレス”という定義やイメージに合わないケースも出てきています。厚生労働省が昼間に目視で行う上のグラフの調査では、夜だけ路上で寝ている人やネットカフェなどで宿泊している人はカウントされず、ホームレスの人数が少なめに出ることも多いようです。Homedoorの職員の方は厚生労働省による調査結果の10倍のホームレスがいる可能性があるとおっしゃっていました。
ちなみにイギリスやドイツなどの先進ヨーロッパ諸国では、ホームレスである“状態”(homelessness)として包括的に捉えられ、住宅困難者全体(野宿者だけでなく、知人、友人宅に宿泊する者、一時的滞在施設に入居するもの)をホームレスとしています。
では、なぜ彼らはホームレスになってしまうのでしょうか?自業自得なのでしょうか?
ホームレスに陥る一般的なパターンは、以下のようになります。
リストラや会社の倒産による失業が家賃滞納で住居を追い出されて不安定な職に就き、しばらくは、安い宿やネットカフェ、知人の家に寝泊まりする。
→知人の家に長くはいることができず、手持ち金がなくなると、駅や公園、河川敷などで暮らすようになる。
→結婚している場合は、家族をも失うが、夫と別れた女性も実家に戻れない方の生活は厳しく、戻れたとしても親の介護と子育てをしながら仕事をしなければならない方もいる。
多くのホームレスの人々は段ボールやアルミ缶を集めることで生活費をかせぎ、求職情報を集めながら、その日の食事を探し求めます。しかし、段ボールはほとんどお金になりませんし、アルミ缶は10キロ(500ml缶を約500個)集めても約1000円程度にしかなりません。
食事はレストランやコンビニで廃棄されたものを探しますが、他にもホームレスの仲間がいたり、飲食店側に断られたりするので、獲得するのは難しいです。中には病気を持っている方がいたり、充分な栄養を取れず餓死してしまう方、冬には凍死してしまう方いたりするそうです。
追い打ちをかけるように貧困ビジネスと呼ばれるものも報告されています。「1日3食と寝床を保証する施設に来ないか」と声をかけられて施設に入ると、カップ麺などの粗末な食事が提供され、狭い部屋に複数人が詰め込まれるような状態になります。そのような施設であるにもかかわらず約11万円もの大金を要求されるのです。
「仕事を探せばいいんじゃないか」と思われる方もいるかもしれませんが、求職活動には住居や連絡先が必要であるため、それらを持たないホームレスの方々はハローワークでも職を見つけるのは困難です。
さらには、就労意欲はあるのに失業してからブランクがある、持病を抱えているなどの理由から仕事に対して不安を抱え、なかなか次の仕事に就くことができないことも多くあります。
このようなホームレス問題に対して支援がないわけではありません。日本政府が行う支援には次のようなものがあります。(Homedoor HP参照)
①自立支援センターに入所する。
②生活保護を申請する。
支援があるじゃないか!と思われるかもしれませんが、そう簡単にいくことばかりではないです。
①自立支援センターに入所すると、就職活動する際に住所がない、連絡先がないという問題は解消されるので少しは就職先がみつけやすくなります。しかし、自立支援センターの住所が書いてある履歴書を見て企業側が断るケースもあるそうです。
また、寮に入れる期間が3ヶ月から6ヶ月間と限られているため、その期間内で仕事を見つけられなかった場合はまた住所を失うことになり、すぐに以前の状態に逆戻りしてしまいます。
②生活保護を申請することで、多くの人が家に住むことができるようになりました。しかし生活保護を申請すると、負い目を感じ、生きがいや楽しみを見つけられない方もいます。ひきこもりがちになり、長期間誰とも会話しなかったりする方も多くいます。家で生活するようになっても、このような孤立感や罪悪感から再び路上生活に戻る人が約3割もいるのです。
また、そもそも生活保護を申請しても自治体に取り合ってもらえない場合もあるそうです。生活保護というと「不正受給」といった方に目が向けられがちですが、2006年度の調査では、実際に生活保護を不正に受け取っていた人が1万4669件であるのに対し、支援が必要なのに生活保護を受けることができない人が600万~850万人いたそうです。
このような背景から自立支援センターの入所や生活保護を申請することをためらわれているホームレスの人々が多いです。また、そもそも支援してくれる制度や施設を知らない人や知っていても自分には利用する資格がないと誤解している人もいます。身体・知的・精神の障害があり、自分で助けを求めることができない人もいます。
このようにホームレスは様々な要因が複雑に関係しながら生まれてしまうため、Homedoorのように包括的にホームレスの社会復帰を支援する組織が必要なのです。
日本が抱える様々な社会問題を解決していくためには、政府の支援だけに任せるのではなく、企業や市民が連携していく必要があります。しかし、その連携を実現する過程で一番ネックになるのが、やはり「ホームレスは自業自得。」という自己責任論のような考え方だと私は考えています。
自己責任論や日本の貧困については、’’湯浅誠 『反貧困―「すべり台社会」からの脱出』 岩波新書’’ がお勧めです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。次回は「ボランティア?」について書かせていただきます!
2017年に中央大学卒業。学生時代、言語や異文化交流、経営やソーシャルビジネスについて学ぶ。現在、株式会社パソナで働き、視野を広げている。好奇心旺盛で興味分野が広いため、将来、様々な分野を掛け合わせた面白いことがをしたいと考えている。